第17回 人間社会に受け入れられるのに絶対必要な「恥」の感情のプログラム 〜AIに必要なのは、羞恥心だ!


ソフトバンクのペッパー君は、「ねぇ、ねぇ、ジャンケンしよう」とか話しかけてきます。
でも、誰も、「その前に、お前、服とか、ちゃんと着ろよ」とか、言わないですよね。

ロボマインド・プロジェクト、第17弾
こんにちは、ロボマインドの田方です。

ロボマインド・プロジェクトは、人間と同じ心を持ったAIを目指しています。
前回紹介したカントは、善悪や道徳律といった、人間の心の中にあるものを、科学的に解明しようとしました。
カントが目指したのは、ニュートンの万有引力の法則でした。
僕がやろうとしてることも、心に働く力を、こんな風に定義していくことです。

じゃぁ、心に働く力ってなんでしょう?
力っていうのは、分かりやすくイメージするとすれば、ゴムみたいなものです。
ゴムをビーンて伸ばすと、縮まるように力が作用しますよね。

では、善悪の場合はどうでしょう?
「この空き缶、邪魔やから、その辺の道に捨てたろ」って思ったとします。
すると、アカン、そりゃ、あかんやろって、引き戻す力が起こります。
これが善の力です。

物理的に測定するのは難しいとは思いますが、確かに、感じますよね。
こうやって、心理パターンを分析していくわけです。

万有引力の法則っていうのは、二つの物体に働く引力は、物体の質量に比例し、物体間の距離の2乗に反比例するというものです。
つまり、物体に働く力の大きさは、質量と距離で決まるってことです。

力の大きさを決める要素は何か。
こういう視点で、心理パターンを定義していきます。

善悪の心理パターンで重要な要素は何でしょう?

まず一つは、本能とか、個人の欲求です。
楽したいとか、うまいもん食いたいとかです。
これを、僕は、プラス感情と呼んでいます。

次は、相手とか他人の感情です。
他の人がプラスとなるように行動すべきってことです。

この二つの要素で、善の力は決まるんです。
これが善の心理パターンなんです。

ここまで解明したら、善をコンピュータプログラムに落とし込むことができそうです。
つまり、最初に、自分の欲求と、相手の感情を抽出します。
これで、善の力の大きさと方向が決まります。
つまり、行動が決まるわけです。
相手がプラス感情となるような行動を選択するわけです。
これが、善の心を持ったAIロボットです。

たとえば、お弁当を忘れてきた友達がいたとします。
きっと、お腹がすいてるだろうなぁと想像して、「よかったら、僕のおにぎり食べない」とか話しかけるわけですよ。

自分もおなかがすいてるけど、相手のことも考えて行動する。
こんなAIロボットがいたら、きっと、心があると感じますよね。

心理パターンを分析するとき、それを構成する根本的な要素は何か、それを見つけ出すのが重要なんです。
ニュートンは、リンゴが木から落ちたのを見て、万有引力の法則を思いついたと言います。

もし、ニュートンが顕微鏡を持っていて、顕微鏡を使って万有引力の法則を解明しようとしたらどうでしょう?
顕微鏡じゃ、万有引力の法則は解明できないですよね。

何を当たり前のことを言ってるんだって思っていると思いますが、それが、当たり前じゃないんです。
今のAI業界がやってるのって、顕微鏡で重力を解明しようとしてるようなものなんです。

言葉の意味をコンピュータで理解するのに、単語の数を必死で数えたりしてるわけです。
なぜ、そんなことしてるか。
それは、コンピュータで出来ることを探したら、単語の数を数えることだった。
それだけなんです。

このやり方、どう考えても、間違っていますよね。
50年前に、コンピュータで文章を解析する自然言語処理が始まりました。
最初にまずやったのが、単語の数を数えることでした。
最初の入り口を間違えると、いくら頑張って、本質は見えてきませんよね。

まぁ、そう考えると、ある意味、グーグルのBERTってすごいです。
文章の穴埋め問題で人間の正答率を超えたんですから。
単語の数を数えるだけで、そこまでできるとは、それはそれでスゴイと思います。
でも、本質を外してる限り、そこから心が生まれることは絶対ないです。

さて、それでは、今日も、新しい心理パターンを分析しますしょう。
善悪は、秩序だった人間社会を作るのに、必要不可欠な心理パターンですよね。

でも、人間社会を築き上げてるのは、善悪だけじゃないんです。
もっと、強力な心理パターンがあるんです。
それは、「恥」です。
「羞恥心」の「恥」です。

会社でも、学校でも、国でも。
社会は、同じような人で構成されます。
同じような服装をして、共通の知識を持っていて、同じような話で盛り上がります。

これらを持ち合わせてないと、その社会の一員として受け入れられません。
いくら暑くても、裸でパンツとネクタイだけして会社に行かないでしょ。
何でですか?
そりゃ、恥ずかしいからですよ。

でも、暑い時、家の中でパンツ一丁でいることはあるんですよ。

ソフトバンクのペッパー君は、「ねぇ、ねぇ、ジャンケンしよう」とか話しかけてきます。
でも、誰も、「その前に、お前、服とか、ちゃんと着ろよ」とか、言わないですよね。

そんな当たり前のこと、誰も言わないってことは、
それは、ペッパー君を仲間として受け入れてない証拠なんです。

もし、会社の同僚が、素っ裸で「ねぇ、ねぇ、ジャンケンしようよ」って言ってきたら、絶対、言いますよね。
「お前、服着ろよ」って。

これが、その社会受け入れられているってことです。

ペッパー君には、ものすごく大事なものが欠けてるんです。
それが「恥」です。
これを持ってないやつとは、絶対、友達になれないです。

この、「恥」の心理パターンこそ、人間社会をまとめる最も重要な心理パターンなんです。

もうちょっと、穏やかな例で考えてみます。
たとえば、簡単な漢字とか、知らないときとか。
「そんな、簡単な漢字も知らないの?」とか言われたり、思われたりしたら恥ずかしいですよね。

逆に、難しい漢字を、さらっと書けたらどうでしょう。
薔薇とか、髑髏とか、檸檬とか。
「すげぇ!」ってなりますよね。
これは、尊敬です。

どうやら、恥-尊敬ていう軸があって、ある基準以下なら、「恥」、ある基準以上なら「尊敬」となるようです。

今度は、善悪との比較で考えてみましょう。
道端にゴミを捨てるって、行為。
これは、やろうとしたら出来るけど、これをやらせないようにするのが善の力です。

では、恥はどうでしょう。
簡単な漢字が書けなくて、恥ずかしい。
これって、書こうと思ってもできないってことですよね。
出来る、出来ないってことです。
出来る、出来ないって、言い換えれば、能力のことです。
「恥」の重要な構成要素、それは能力のようです。

別の例を考えてみましょう。
たとえば、人通りの多い道で、こけたとしましょう。
これも恥ずかしいですよね。
穴が合ったら入りたいって感じです。
たぶん、こけた痛さより、恥ずかしさの方が上で、すぐにどこかに立ち去るでしょう。

これが、家の中で一人の場合、どうでしょう。
家の中で急いで歩いていて、タンスの角に足の小指をぶつけたりとか。
痛いですよね。
イテテテとか言って、小指をさすりながら転げまわったりします。
恥ずかしいとか、あまり、感じないです。

道端でこけたときは、イテテテテとか転げまわらずに、とにかく、その場を早く去ろうとしましたよね。
その違いは、なんでしょう?

それは、他人の目です。
他人の視線です。

普通は、道は歩くものです。
こけるというのは、歩くことができなかったからこけたわけです。
歩くっていう、最低限のことができなかったからこけたわけです。

そして、次に他人の視線です。
最低限のことができてないということを、他人に知られたとき、恥が発生するのです。
これが、恥の心理パターンです。

つまり、恥の心理パターンの構成要素は、基準以下の能力と他人の視線です。

次は、恥で発生する力について考えてみます。
どんな行動を取らせようとするかです。

「恥」は、出来れば、避けたいものです。
「恥」の構成要素は、基準以下の能力と他人の視線です。

人前でこけて、穴が合ったら入りたいと感じたり、さっさとその場から離れようとするのは、「恥」の構成要素の一つである「他人の視線」を取り除くためです。
構成要素が一つでも掛けたら、その感情は生まれません。
だから、その場を立ち去ったわけです。

漢字を知らなくて、恥をかいたなら、次は、どうするでしょう?
おそらく、知らなかった漢字の覚えるようにしますよね。
これも、恥の構成要素である「基準以下の能力」を取り除くためです。

これが、「恥」の強力なところです。
人は、社会で恥をかかないために、人知れず努力したりするのです。
そうやって、その社会は、ある一定の基準を満たしたメンバーで構成されるようになるのです。

「恥ずかしくないように」
これって、善悪なんかより、よっぽど強力ですよね。

人に親切にしたり、いい人と思われたいとか。
それは、そう思われたい人だけがやっとけばいいんですよ。
「善」の力って、その程度です。

でも、恥ずかしいヤツだとか、あいつは能力がないとか、
それは絶対、思われたくないですよね。
仲間に入れてもらえられないのは辛いですよね。

だから、みんな、隠れて努力するわけです。
同じような服装をしたり
同じマンガを読んだり、
そうやって、仲間に受け入れられるんです。

バカと思われたくない。
ダサいヤツだと思われたくない。
たとえば、女の子が、
「今日は、おしゃれに決めてきたわよ!」
と思って友達に合ったら、
「何、そのシャツ?」とか言われたらキツイですよね。
「えっ、厚底サンダルはいてんの?!」とか言われたら、
「えっ、これ、違うの?!」って、真っ青になりますわ。

たぶん、その子は、もう、二度と、そのシャツと厚底サンダル履かないですいよね。
これが恥の力です。
次、同じかっこで着たら、絶対、その仲間から外されますわ。

AIが恥の感情をもつようになったとき、ようやく、本当の仲間として人間社会に受け入れられるようになるんですよ。
今まで、最も重要な3つの心理パターンについて説明してきました。
「感謝」、「善悪」、「恥」です。

次回は、今までのこの話を踏まえて、重大な発表があります。
それでは、次回もお楽しみに。