第4回 こんなAIは嫌だ! 〜ディープラーニングの構造的な限界をチューリング・テストから読み解く


ロボマインド・プロジェクト、第4弾
今日は、チューリング・テストの中身についてお話しましょう。

アラン・チューリングは、考えました。

コンピュータが発展して、そのうち、人間と同じ知性を持つようになるだろう。

そうなったとき、どうすれば、人間と同じ知性を持てたと判定できるのか。
それがチューリング・テストです。

おそらく、最も有名なチューリング・テストは、これでしょう。
映画「ブレードランナー」です。(ブレードランナーのポスター写真)

追加:最も有名なチューリングテスト、それは、映画「ブレードランナー」

それでは、そのシーンを見てみましょう。

(映画のシーン挿入 1:48~2:19)

はい、これがチューリング・テストです。

女の人がAIです。
見た目ではAIか人間かわからないので、ハリソン・フォード扮する刑事がテストするのですが、それがチューリング・テストです。

質問で、宴会で生ガキが出て、そのあと、ゆでた犬が出たとありましたが、英語ではボイルド・ドッグです。ゆでた犬=boiled dog
ゆで卵のボイルドエッグとかけてるわけです。ゆで卵=boiled egg

宴会で、ゆで卵がでても驚かないけど、ゆでた犬が出たらぞっとしますよね。
その、ぞっとするって反応があるかないかで、人間かどうかを判定しようとしたわけですね。

なるほどですね。
上手いこと、考えましたよねぇ。

実際のチューリングが提案したテストは、見た目では判断できないように、LINEのようなチャットを使って判定するものですが、中身は同じです。

でも、人間と同じ知能を持っているのかと判断するなら、もっと他に方法はないのでしょうか?

なぜ、チューリングは、こんなテストを思いついたのでしょうか。

それを理解するために、チューリングの業績を振り返ってみましょう。

科学の分野で、チューリングの名が冠されているものが3つあります。
チューリング・マシン
チューリング・テスト
チューリング・パターン

スゴイですねぇ。
どれも、教科書に載るレベルですよ。

名前が付いてるからと言って、
「チューリング式肩もみ機」みたいなレベルとちゃいますよ。(チューリング式肩もみ機.jpgに「チューリング式肩もみ機?!」の文字入れて表示)

科学の歴史に残るレベルでっせ。

それでは、順にみていきましょう。
まずは、チューリング・マシンです。
これは、コンピュータの理論の証明に使われた仮想的な計算機ですが、重要な定理の証明にも使われました。

それは、ゲーデルの不完全性定理です。

今から100年ほど前の話です。
そのころ、数学そのものを扱う数学基礎論ってのがでてきたんです。
それに挑んだのが、アルフレッド・ノース・ホワイトヘッドとバートランド・ラッセルです。

当代きっての哲学者、数学者です。
ラッセルって、ラッセル=アインシュタイン宣言のラッセルです。
ノーベル賞も取ってます。
この二人の共著、「プリンキピア・マテマティカ」で、数学の真理の全てを論理的記述しようとしたんです。

この本、第三巻まで順調に進んだんですが、最後の段階になって、難問にぶち当たったんです。
それは、数学の定理を全て矛盾なく証明し尽くすことができるかっていう矛盾性の問題と、証明も反証もされない定理が存在するかって完全性の問題だったんです。

それができれば、数学は完全だと証明されるわけです。
最後に残された、この問題が解けず、第4巻は未刊となってしまったんです。

この難問を解いたのが、若き天才数学者、クルド・ゲーデルです。

当時、まだ、若干24歳です。

結果はどうだったかというと、数学体系は完全ではないって証明してしまったんです。
これを、ゲーデルの不完全性定理っていうんです。
もしかして、どっかでこの定理の名前ぐらい、聞いたこと、あるんじゃないですか?

それは、これは、数学だけでなく、科学、哲学も巻き込んで、大問題となったんです。
だって、数学ですら、完全でないなら、この世に完全なんてもの、あり得るのかって話ですから。

さて、話をチューリングに戻します。
チューリング・マシンです。

チューリング・マシンっていうのは、あらゆる計算を模倣できる仮想的なコンピュータなんです。

(チューリング・マシン.png挿入)
プログラムを書いたテープに沿って走行して、最終的に答えが出たら停止するってコンピュータなんです。
そのチューリング・マシンでも、どうしても停止しない問題があることをチューリングは証明して、それが、結果的に、ゲーデルの不完全性定理と同じ証明をしてたわけなんです。

よく分からなくても、すごいことを証明をしたってことは、分かるでしょ。

次は、チューリング・パターンについて説明します。

(チューリング・パターン.jpg挿入)

これ、チーターやキリンの模様ですけど、これがチューリング・パターンです。
今度は、生物学ですわ。

チューリングは、生き物の表面に現れる模様を数式で現わせると解明したんです。

これ、長年、生物界からは無視されてたんですけど、1995年に、初めて実験で確認されて、近年になって、ようやく評価されたらしんですわ。
時代が追い付くのに50年もかかったってことです。

さて、チューリング・マシン、チューリング・パターン。
共通点があります。

どちらも、その系、系っていうのは、太陽系の系ですが、系とか、システムを見ようとしている点です。

数学体系とか、生物の発生の過程とか。
物事を、システム全体から捉えようとするのが、チューリングの特徴です。

そんな、チューリングが取り組んだのが人工知能です。
人間の知性の全体を漏らさず、把握するにはどうすればいいのかって、
そういうことを考えていたはずです。

別の例で考えてみます。

たとえば、画像認識です。
ディープラーニングを使えば、人間よりうまく画像認識ができるようになりました。
写真に猫が写ってるかどうかとか、判定できるようになりました。

さて、猫の画像を認識できるようになったからといって、そのAIは、猫を理解しているのでしょうか?

わかってないですよね。

猫がニャーって鳴くことも、猫のもふもふ感も、そのAIは理解してないですよね。
そもそも、猫っていうのは、2次元画像でなく、3次元に存在するということすら、理解できてないです。

大事なことが、いっぱい抜け落ちています。
なぜ、こんなことになったんでしょう。

それは、現実世界を、2次元画像やディープラーニングってアルゴリズムに無理やり落とし込んだからです。

現実世界にあるものを、計算しやすいデータに加工したもんだから、その段階で、大事なものが、ごっそり抜け落ちたわけです。

大事な物って、髪の毛のことじゃないですよ。

それも大事ですけど、もっと大事なものですよ。

チューリングも、人間の本質とか、人間を成り立たせているものは何かとか、そう考えたはずです。
ただ、人間特有のアルゴリズムがあるはずだとか、コア部分を切り出そうとかは考えなかったんです。

そうじゃなくて、人間を成り立たせているものからできたシステムが、人間社会だと考えたんです。

秩序だって保たれた人間社会の中に、人間の本質があると考えたわけなんです。

つまり、人間社会を考えて、それを構成する人間を、AIに置き換えたとしても、社会が維持できれば、そのAIは、人間と同じ知能を持っているといえるわけです。

これが、人間の知能を漏らさず把握する方法なんです。

そして、それを実現したのがチューリング・テストなんです。

チューリング・テストの秀逸なところは、テストの中に、人間が組み込まれているところです。

画像を正しく認識できるかといった、問題を解く形式だと、それで判断できる知能は、問題に依存してしまいます。

画像認識の問題で判断できるのは画像だけです。

テストの中に、人間を組み込むとは、人間を含んだ社会システムを設定しているわけです。
そのシステムが、矛盾なく維持できれば、それは、人間と同じ知性を持っているといえるわけです。

別の見方をすれば、人間の知性は、人間にしか判断できないということです。
この問題が解ければ、人間と同じ知性があるといったテストは不可能なんです。

汎用人工知能を考えるとき、人間を含むシステム、
この視点が、最も重要になってくるんです。

次に、疑問なのは、それでは、なぜ、チューリング・テストは、
会話で判断しようとしたのでしょうか?

次回は、言葉、言語について考えてみましょう。

それでは、次回も、お楽しみに!