第69回 赤ちゃんが獲得したもの② 〜どうして、私はあなたじゃないの?


ロボマインド・プロジェクト、第69弾
こんにちは、ロボマインドの田方です。

宇宙人って、いますよね。
昔の宇宙人って、地球の侵略ばっかりしてたでしょ。
たぶん、スピルバーグ以降やと思います。
「E.T.」とかから、友好的な宇宙人もでてきました.

あっ、これは映画の話ですけど、実際の宇宙人も同じですよね。
実際の宇宙人の話は、また、最後にしますけど、
とにかく、宇宙人って、侵略しようかとか、友達になりたいとかって、ホンマに、そんなこと考えてると思います?

たしかに、地球人も宇宙人も、同じ、この物理空間にいるでしょ。
何万光年離れてても、同じ、物理世界に生きてるわけです。

ぼくが、ずっと言い続けてるのは、全く同じ世界を見てても、同じように見えてるとは限らないってことです。
宇宙人の話をするとき、その視点が抜けてるんですよ。

たとえば、前回の話、覚えてますか?
赤ちゃんがする、指差し。
指差しができるってことは、頭の中に、新たなシステムが導入されたって話でした。

指差し、一つとっても、脳の中のシステムによってできたり、出来なかったりするんですよ。
指差しって、自分が注目してるものを、相手にも注目してもらうためのしぐさですよね。

指差しが理解できるってことは、まず、自分が心の中で注目してるものがあるわけです。
でも、それは、相手は注目してるわけじゃないんです。
まず、そこが分からないとだめなんです。

その上で、相手にも、自分の注目してるものに注目して欲しいと思うわけです。
それで、指差しして伝えるわけです。
つまり、コミュニケーションってことです。

これって、じつは、スゴイことなんですけど、そのスゴサが伝わりにくいんで、もうちょっと丁寧に解説します。

赤ちゃんは、不快なことがあると泣きます。
お腹がすいたとか、おむつが濡れたとか。
楽しいことがあれば笑います。
これは、世界を感じて、反応してるだけです。

たぶん、生まれたばかりの赤ちゃんは、世界と自分とが分かれてるとも認識してないと思います。
子宮の中にいるときと、同じ感覚です。
世界と自分が混とんとしてる感じです。

おそらく、魚やは虫類は、これに近い感覚で生きているんやと思います。
自由には動けますけど、ただ、世界の認識は、自分と世界とを区別してるわけじゃないんです。
お腹がすいたら食べて、天敵が近づいてきたら素早く逃げて、眠くなったら寝てって。
感じたまま、世界に反応してるだけなんです。

自分と世界の区別がなければ、指差しなんかできないですよね。

じゃぁ、指差しができるって、どうこうことでしょう?
まず、世界と自分が、はっきりと分かれてる必要があります。

そして、何かに注目するわけです。
外の世界に働きかけるんじゃなくて、心の中で感じるってことができるわけです。
つまり、心があるわけです。

さらに、その心があるのは、自分だけじゃなくて、相手も心を持ってるって知ってるわけです。
だから、相手の心でも、同じものに注目して欲しいと思うわけです。
これが指差しです。

指差しができるようになったからといって、何にでも指差しするわけじゃありません。
机を指差すことはありますけど、机に対して、指差すことはないです。
あれが君の椅子だよって、机に指差したりしませんよね。
つまり、心を持っている相手と、心を持ってない物があることを理解してるわけです。

それから、もう一つ重要なのが、共通の世界です。
犬を見つけて、指差して、「わんわん」って言うのは、「わぁ、犬だぁ」って注目したわけです。
世界から、犬を切り出して、注目したわけです。
相手に、その注目した犬に注目して欲しいわけです。

そして、お母さんが「あぁ、わんわんだね」って言ってくれるわけです。
そうやって、自分が見て、感じてるものを、相手も、見て、感じてるって確認するわけです。
そうやって、自分も他人も共通して見てる世界を学習して作り上げていくわけです。

もし、その子にしか見えない物があって、それを指差しても、お母さんは、「えっ、何言ってるの?」ってなりますよね。
そうなると、その子は、これは自分にしか見えないんだ。他人に言ってもわからないんだってなります。
幽霊か宇宙人かわからないですけど。
そういうのは、大人になるにつれて、だんだん、見えなくなるらしいです。
そんな話、時々、聞きますよね。

とにかく、そうやって、社会の中で経験しながら頭の中に、世界が作られるわけです。
その世界は、他の人と確認し合うことで、他の人も見てる共通の世界として確立されるわけです。

そして、その共通の世界を共有してる相手に対して、指差しができるんです。
指差しは、最もシンプルなコミュニケーションってわけです。
だから、赤ちゃんは、言葉を話し始めるころと、指差しし始めるころが同じなんです。

でも、犬も、「お手」とか「マテ」って言葉を理解しますよね。
それとは違うんでしょうか?

そうなんですよ。
「お手」とか「マテ」とかは、言ってみれば、見せかけの言葉なんです。
「言葉」に対応した行動を覚えただけなんです。
言語の本質は備えてないんです。

じゃぁ、言語の本質って何?ってなりますよね。
それが、共通の世界なんです。
お互いに、共通の世界を持っているから、会話が成立するわけです。
「昨日、あんなことがあって、こんなことになった」って話。
これは、共有できる基盤となる世界に、昨日あった出来事を作り上げる作業です。
犬の「お手」や「マテ」とは、全然、違うってわかりますよね。

この指差し、自閉症の子はできないそうです。
それから、チンパンジーもできないそうです。
そう考えると、頭の中に持つ世界の構造が違うのかもしれません。

もう少し進めます。
自閉症の子は、「あなた」と言われても、何を指すのかわからないそうです。
「あなたの名前は?」と聞かれると、普通は、「僕の名前は○○です」って答えますよね。
それが、自閉症の子は、「あなたの名前は?」と聞かれても、「あなたの名前は?」と繰り返すそうなんです。

これって、どういうことなんでしょう?
相手がいう「あなた」というのが、「自分」を指すってことがわかってないようなんです。

まず、相手と自分がいるわけですよね。
どちらも心を持っているわけです。
心を持ってるってことは、自分の世界をもってるわけです。

今、この場にいるのは、自分と相手です。
こんな場合、相手のことを知ろうとします。
お互いに、共通の世界を作り上げようとするわけです。

そう言う風に思えるってことは、少なくとも、自分の心、相手の心、共通の世界って仕組みが、ないと思えないんです。
「あなたの名前は?」って、僕らにとって、当たり前の質問ですよね。
でも、その質問ができるってことは、これだけの仕組みが頭の中に出来てないといけないんです。

たいていの動物は、相手が自分に危害を加えるか、エサになるかぐらいしか興味がありません。
相手の事、もっと知りたいなぁとか、仲良くなりたいなぁとか、そんなこと、脳の構造上、思う事すらできないんですよ。

生物が進化して、脳も進化しました。
サルからヒトの段階で、脳も大きく進化しました。
ヒトの脳で得られたのが、自分の心、相手の心、共通の世界ていう心の仕組みです。
お互いにこの仕組みを持ってないと、コミュニケーションが成立しないわけです。

よく考えてみてください。
同じような脳を持っている地球上の生き物ですら、ここまで共通した仕組みを持たないと、コミュニケーションが成立しないんですよ。
そう考えると、地球以外の宇宙人が、同じ仕組みを持ってるって、どうして思えるんでしょう?
宇宙人も、地球人と仲良くなりたいと思ってるとかって、言いきれないですよね。

宇宙人も、最後は、愛の力で仲良くなれるとかって幻想なんです。
愛に関しては、第67回「ヘレン・ケラー⑤ 言語を獲得したら、愛がうまれた」で説明しましたけど、「愛」って概念も、脳が創り出したものです。
重力とか電磁波みたいに、物理世界に普遍的に存在するわけじゃないんです。

映画の話だけじゃなくて、現実の宇宙人も同じです。
現実の宇宙人って、UFOに乗ってきて地球人を誘拐したり、アメリカ政府を陰で操ってる宇宙人のことじゃないです。

そっちじゃなくて、地球外知的生命体の探査計画のことです。
SETIって言われています。

SETI計画の大前提は、もし、地球以外に高度に知能の発達した生命体がいたとしたら、電磁波を使って通信してるってことなんです。
SETIが提案された60年前なら仕方がないですけど、量子通信の実用化が検討されてる今となっては、まず、電磁波なんて効率の悪い通信を宇宙人が使ってるって考えが間違ってますよね。

仮に、宇宙人が何らかの方法でコミュニケーションを取っていたとしても、コミュニケーションするのに必要なのは、自分の心、相手の心、共通の世界って仕組みです。
共通の世界ってのは、同じ感覚器を持った人間同士が作り上げた世界です。

この人間が作り上げた共通の世界、どうして宇宙人と共有できると思うんでしょう。
同じ地球に棲む生物でも、深海にすむ生物とか、夜行性の生物とか、人間と全く違う感覚器をもってます。
宇宙人の感覚器がどんなのかなんか、想像もつかないですよね。

まだ、あります。
1972年にNASAが打ち上げたパイオニア探査機には、こんな金属板をのせています。
これは、宇宙人へのメッセージです。

当たり前のように、図を描いてますけど、宇宙人も図で理解するって、どうして思ったんでしょう。
英語で書いても通じないってことは想像できたみたいですけど、宇宙人は目があって、物を見てるってとこは、疑わなかったようです。
コウモリみたいに超音波で会話してるかもしれないですしね。

下にかいてあるのは、太陽系を進むパイオニアの軌道です。
当たり前のように、矢印で軌道をかいてますけど、矢印って、指差しと同じです。
指差しが理解できるのは、人間の特殊な脳だけです。

指差したり、絵を描いたり。
知性があれば、当たり前にできるって、NASAの科学者ですら、当然のように思ってるようですけど、それは当たり前じゃないんです。
指差しとか、コミュニケーションするには、それができる心の仕組みが必要なんです。
それを作り出さないと、人間とコミュニケーションできるAIなんて、絶対に出来ないんです。

その心の仕組みを解明するために、赤ちゃんからの脳の発達を読み解こうとしてるんですけど、今回も、指差しと、私とあなたの理解で終わってしまいました。
次は、もう少し先に進める予定です。

それでは、次回もお楽しみに!