第103回 そうじゃない! チューリングテスト


ロボマインド・プロジェクト、第103弾
こんにちは、ロボマインドの田方です。

みなさん、チューリングテストって、知ってますか?
AIが人間と同じ知能、心を持ってるか、それを試すテストです。
その方法は、Lineみたいなチャットを使って、AIと人間が会話するんですよ。
ほんで、相手がAIか人間か区別がつかなくなったら、そのAIは人間と同じ知能、心を持ってるって言えるわけです。

これ、考えられたのは1950年なんですけど、今でも、世界中でチューリングテストに似たコンテストは行われてます。
最近では、AIスピーカーやチャットボットの開発環境が整ってきたので、昔より、もっと盛んになってます。

チューリングテストに合格するには、いかに、実際の人間らしさを出すかが重要になってくるんですよ。
そこで、よくやるのが、細かいキャラクターを設定するとかです。
たとえば、大阪に住む13歳のアニメ好きの男の子とか。

それで、関西弁をしゃべらしたりとか。
アニメの知識だけは異常にあるとか。
そんなチャットボットをみんな、がんばって作ったりしてるんですよ。

でもね、それってね、ちょっと違うと思うんですよ。
たぶん、みんなね、チューリングテストのことを、根本的に勘違いしてるんです。
今回は、その話をしようと思います。

チューリングテストって、AIに人間と同じ知性があるかどうかを判断するテストですよ。
でも、普通、テストって、問題を解かせたりしますよね。
ほんで、何点以上なら合格ってなるでしょ。
でも、チューリングテストは、そんな風になってないんですよ。

チューリングテストの何がおかしいかっていうと、テストといいながら、人間と会話するんですよ。
というか、テストその物に、人間が組み込まれてるんですよ。
ここに、ものすごい深い意味があるんですよ。
これを読み解いていきます。

チューリングテストを考えたのはアラン・チューリングです。
コンピュータの生みの親、天才数学者、アラン・チューリングです。

アラン・チューリングと言えば、もう一つ有名なのがチューリングマシンです。
チューリングマシンって、仮想的なコンピュータです。
コンピュータの原理にもなったんですけど、もう一つ、重要な役割があります。
それは、ゲーデルの不完全性定理を証明したんです。
これの詳しい話は、今年のノーベル物理学賞を取ったロジャー・ペンローズが、この本「皇帝の新しい心」で説明してますので、興味がある人は読んでみてください。

ここでは、めちゃくちゃ簡単に説明しときます。
不完全性定理って、自己言及のパラドックスとか、うそつきのパラドクスとかいわれるのと同じなんです。

たとえば、「『クレタ人は、皆、嘘つきだ』とクレタ人がいった」って文があります。
嘘つきのクレタ人が言ったんやから、「クレタ人は、皆、嘘つきだ」は「クレタ人は嘘をつかない」となるはずです。
そうなると、元の文の「クレタ人は、皆、嘘つき」と矛盾してしまいます。

これは、自分のことを自分で証明することができないって話なんです。
もし、これを矛盾なく説明するなら、自分を、同じレベルの自分を説明してちゃだめなんですよ。
つまり、自分を超えた、メタ自分から自分を説明しないといけないんですよ。

ここで、チューリングテストの話に戻りますよ。
チューリングテストって、AIに人間と同じ知性があるかって判断するテストでしたよね。
もし、それを判断できるとすれば、人間の知性を超えたメタ知性でないと無理ってことになるんですよ。
それって、いってみれば神ですよ。
神を出すのは反則でしょう。

ここで、チューリングマシンが出てくるんです。
チューリングマシンって、どういうものかって言うと、こんな、なが~いテープがあって、それに沿って動くマシンなんです。
ほんで、そのテープには、0101って書いてあるんです。
この0101ってのが、コンピュータプログラムに相当するんです。

ここで、チューリングは、とんでもないことに気づいたんですよ。
それは何かって言うと、不完全性定理って、チューリングマシンが停止するかって問題と同じだってことなんです。
それで、チューリングマシンを使って、不完全性定理を証明したんです。
同じことは、同じ時期、ゲーデルも証明しました。
それが、20世紀最大の学術的発見ともいわれるゲーデルの不完全性定理です。
チューリングって、ホント、凄い人でしょ。

さて、また、チューリングテストに戻ります。
チューリングテストって、AIが人間と同じ知性を持つかどうかって証明するものです。
おそらく、このとき、チューリングが最初に思い描いたのは、チューリングマシンやと思うんです。
不完全性定理をチューリングマシンで証明したみたいに、AIが人間と同じ知性を持つかってのも、チューリングマシンを使って証明できないかって、そう思ったと思うんですよ。

つまりね、人間の会話は言葉をやり取りするでしょ。
これをチューリングマシンのテープと読み替えるんですよ。

そのテープを読み取るマシンが2台あるわけです。
ほんで、1台のマシンがテープに書き込んだら、もう一台のマシンが、そのテープを読み込むわけです。
ほんで、その内容を解釈して、テープを書き換えるわけです。
そしたら、もう一台が、またそのテープを読むわけです。

こうやって、2台のマシンが交互にテープを書き込むわけです。
これって、会話ですよね。

さて、こっからです。
その内、1台のマシンを人間が代わるわけです。
これって、まさに、チューリングテストですよね。

あとは、この会話が停止しなければ、そのマシンは、人間と同じ知性を持っているといえるじゃないですか。
これが、チューリングテストなんです。
チューリングテストの本質は、チューリングマシンなんですよ。

!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

この話、これで終わりじゃないですよ。

チューリングが、考えたのは、どうなれば、人間と同じ知性と言えるかのテストまでです。
それだけでも、画期的なことなんですけど、それだけじゃ、まだ足りないですよね。
次に、必要なのは、その中身のプログラムです。
完全に解明しなくても、その方向性だけでも、考えたいと思います。

さて、会話って、コミュニケーションですよね。
一種の通信です。
ここで、インターネットを考えると、もう少し見通しがよくなるんですよ。

インターネットって、LANケーブルの中の信号は01の数字の羅列じゃないですか。
でも、仕組みとしては、7階層にわかれてるんですよ。

一番下の第一層では、LANケーブルのコネクタの形とかピンの数を決めてるわけです。
その上の方の層では、データの塊をパケットに分解して送ったり、エラーをどうやって検出するとかってルールをきめてるんです。
このルールのことを、通信プロトコルって言います。

そうやって、第6層では、文字コードを何を使うかとか決めてます。
第7層では、アプリケーションは何かってことを決めてます。
たとえばメールソフトなのか、ブラウザなのかとか。

こうやって、各層で、それぞれのプロトコルに従ってるかってチェックが行われるわけです。
重要なのは、同じ層のことは、同じ層でないと判断できないってことです。
それより上の層でやり取りされてることが、正しいのか、間違ってるのか、下の層じゃ、判断できないってことです。

たとえば、第6層では、文字が日本語かアルファベットかわかります。
でも、それが、メールで使われるのか、WEBサイトで使われるのかはわからないんです。
それがわかるのは、第7層なんです。

さて、ここで、最上層の第7層の上の第8層を考えてみます。
それは、メールを読んで、内容を理解したり、間違ってないか判断する層です。
それが何かというと、それは、ずばり、人間の心です。

メール本文の内容を理解したり、間違いを指摘できるのは、人間と同じ心のプロトコルを持っているからですよね。

たとえば、インターネットからメールを抜き取って、内容を判断するとしますよ。

なになに、
「愛しい、愛しい、麗子様」
古くさい、ラブレターやなぁ。

えーと、それから。
「いつも、麗子様とすれ違うたびに、そっと、後ろから髪の臭いをかいでいます。
とてもいい匂いがします」
アカン、アカン、絶対アカンって。
これ、ドン引きされるって。

こんな風に内容を判断できるってことは、相手と同じプロトコルをもってるからできるんです。
同じ階層にいるわけです。

チューリングテストに戻りますよ。
会話が行われるのは、第8層です。

第8層のプロトコルに沿ってやり取りするのは、人間の心です。
つまり、チューリングテストに合格するには、どういったプロトコルが必要かって視点で考えるべきなんです。

そう考えると、たとえば、人間の心は、文章を読んで、喜んだり、悲しんだりといった感情を出力できる機能を持ってるわけです。
ほんで、つぎは、その感情を元に、返事を生成するわけです。
こういう機能を作る必要があるんです。

そして、第8層で正しくやり取りできるとしたら、それは、人間の心と同じ機能を持ってるといえるんです。

これで、チューリングテストの意味がわかりましたよね。
なぜ、チューリングテストは、人間を組み込んだテストになってるのか。
それは、人間と同じ知性や心をもってるか判断できるのは、人間だけだからです。
テストに人間を組み込むことでしか、AIが人間と同じ心をもってると判断できないからですよ。

だから、大阪弁を喋らそとか、趣味はアニメだとか、そんな細かい設定にばっかり、力を注ぐのは間違いなんです。
そんなことばっかり考えてるから、いつまで経っても、シナリオベースのチャットボットから抜け出せないんですよ。

そうじゃなくて、第8層のプロトコル。
心と同じ仕組み。
そういった視点でチューリングテストの意義を考えれば、AIの開発の方法が全然違ってきます。

心の仕組みを解明するのが先決だってなるわけです。
そして、それをやってるのが、ロボマインド・プロジェクトです。
ロボマインド・プロジェクト、応援してもらえると嬉しいです。

それでは、次回も、お楽しみに!