第104回 リアル・マトリックス


ロボマインド・プロジェクト、第104弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

ロボマインド・プロジェクトがやろうとしてるのは、人と、自然な会話ができるAIです。
そのために、絶対、出来ないといけないのが言葉の意味理解です。
そして、言葉の意味を定義するために提唱したのが、「意識の仮想世界仮説」です。

意識の仮想世界仮説っていうのは、人は、現実世界そのものを見てるんじゃない。
人が見てるのは、頭の中に創った仮想世界だって、そういう話です。

つまり、先に、頭の中に3次元空間を創っておくわけです。
そして、目からみえる光景と同じになるように、頭の中の3次元空間に世界を創るわけです。
つまり、頭の中に、仮想的に世界を創り上げるわけです。
そして、意識は、その仮想世界を見てるわけです。

外の世界を直接見てるわけじゃないって、こういうことです。
詳しくは、第21回「意識の仮想世界仮説」も参考にしてください。

でも、この理論、なかなか理解されないんです。
目の前に机があったとします。
どうみても、現実世界の机を、直接見てるとしか思えないんです。
これが、頭の中に創りだした机だって、どう考えても、思えないんです。

その気持ちはわかります。
物心ついたときから、ずっと、そういう風に世界を見てましたからね。
それ以外の方法で、物を見たことないですもんねぇ。

もしですよ、現実世界を、直接見るって経験ができれば、僕の言ってる意味が分かると思うんですよ。
つまり、頭の中の仮想世界を認識するんじゃなくて、本当に、眼球が捉えた映像をそのまま見るって経験ができたとしましょ。
そしたら、たぶん、
「あぁ、これが現実世界、そのものを見るってことか」
「たしかに、普段、見てるってのと、全然違うわ」
って感じれると思うんですよ。

でも、そんなこと、簡単にできないんですよ。
だって、脳の中の処理を変更するってことですからね。
そんなの絶対、無理です。

ところがね、じつはね、僕は、今まで一度だけ、それを経験したことがあるんですよ。
現実世界を直接見たことがあるんですよ。

いや、現実世界を直接見たというより、頭の中の仮想世界を通さずに見たって感じです。
とにかく、普段の見るってのと、違う方法で見たって経験をしたんですよ。
今回は、その時の話をしようと思います。

それは、サラリーマン時代の出来事なので、20年以上前のことです。
ロボマインド・プロジェクトの構想すら、なかった頃のことです。

僕は、昔から、人は、どうやって物を認識するのかってことに、ずっと興味があったんですよ。
脳科学の本とか、高校時代からよく読んでたんですけど、イマイチ、納得できてなかったんですよ。

で、その日は、ソファに座ってテレビを見てたんですよ。
まだ、当時はブラウン管のテレビでね。
こんなラックを組んで、その真ん中の、ちょうど目線の位置に、24インチのテレビを置いてたんですよ。
テレビの下の棚には、ビデオデッキがあって、その下は何もない空間で、床があるだけです。
テレビを見ながら、ふと、その空間が気になったんですよ。
何か置いてあるなぁって思って。

ほんで、そこを見たら、木の板が立てかけてあったんですよ。
それだけなら、特に問題ないんですけど、問題は、そんなとこに木の板なんか、あるはずないってことなんです。

独り暮らしをしてたし、誰かが、勝手に家の中に板を置くなんてこと、絶対ないです。
そんな木の板、見たこともないです。
もし、ずっとそこにあったとしたら、そんな目立つとこにあれば、とっくに気づいているはずです。

でも、あるんですよ。
見たことのない木の板が。

でね、僕にはね、ホンマは、分かってたんですよ。
それは、木の板に見えるだけで、本当は、何か、別の物やって。

たまたま、その角度から見たとき、木の板に見えてるだけやって。
たぶん、1cmでも頭を動かしたら、「なぁ~んや」ってなるんです。
普通やったら、無意識に動いてたと思います。

でも、当時の僕は、「物を見る」って、どういうことかって、ずっと知りたかったんです。
だから、この瞬間、これはチャンスやって思ったんですよ。
動きたいって衝動を必死でこらえて、今見えてる、不思議な現象をずっと眺めてたんですよ。

何が不思議かって言うと、そこだけ、次元が歪んでるような、そんな、不思議な感覚だったんですよ。
木の板ってのも、無理やり、思わされてるような感じがしてたんですよ。

物を見るって行為は、たぶん、無意識が判断して、意識に提示してるんやと思うんです。
これはテレビ、これはソファって、無意識が何かを判断して、形と一緒に意識に提示するんですよ。

ところが、そのときは、無意識も、いったい、これは何やってなったんやと思います。
ちょっとこの角度からじゃ分からんから、ちょっと動いてみてって、意識に指令を出してたんやと思うんです。
そこを、僕が無理やり拒否してたんです。
そしたら、無意識は、仕方ないから、データベースの中から、なんとか見えてる物に似た物を探し出して、おそるおそる意識に提示したんやと思います。
木の板ちゃいまっかって。

でも、意識は理性で判断するでしょ。
この部屋に、そんな木の板なんかあるわけないって。
じゃぁ、あれはなんやろって必死に考えたんですけど、どうしても分からなかったんです。

木の板じゃないと思って見てると、木の板でないようにも思えてきました。
茶色い板で、黒い木目があるって見えてたのが、単なる平坦な画像に見えてきたんです。
茶色い四角に、黒い線があるだけの画像です。
何でもない、ただ、そう見えるだけの画像です。

周りは、普通の部屋です。
3次元の立体で、全て意味のある物で埋め尽くされてます。
テレビとか、棚とか、壁とか、床とか。
その中に、3次元だとか、何だとか、そんな意味が消えた物があるんです。
ただ、見えるだけ、それだけの物があるんです。

それは、不思議な感覚でした。
そのとき、ようやく分かったんです。
現実世界を直接見るって、こういう事かって。

僕らは、物を見てるだけやと思ってますけど、それは、既に解釈した後なんですよ。
目の前に机が見える、椅子が見えるって。
その時点で、もう、ただ、見てるってことになってないんですよ。
机って、この上に物を載せるとか、椅子ってこうやって座るとか。
見て認識したときには、既に意味も理解してるんですよ。
もう、いろんな情報が追加されてるんですよ。

じゃぁ、情報が追加されない、解釈されない、素のままってあるのかって話です。
ホンマに見たままの物ってどうなってるのって。

それが、その時見てたものです。
ただただ、見えるでけの物があったんです。
もうね、3次元とかって、それすらないんですよ。

そっから先は、それ以上見続けても、何も変わらなかったんです。
ただ、見えてる物が見えてるだけだったんです。

そこで、頭をちょっとだけ動かしてみようとしたんですよ。
ちょっとずつ動かして、徐々に変わる光景をみようとしたんです。

そしたら、一瞬でした。
一瞬で、一気に変わったんです。
見えてるものは、なにも変わらないですよ。
そうじゃなくて、いろんなものが、一瞬で繋がったんです。

それは、板じゃなくて、丸い筒だったんです。
丸いゴミ箱だったんですよ。
ほんで、「あぁっ、そうや」って、思い出したんですよ。

ちょうど、数日前に、東急ハンズで買ってきたゴミ箱だったんです。
銅で出来てて、表面が鏡面仕上げで、ぴかぴかしてて、おっしゃれ~って思って、一目ぼれして買ったんです。
そのツルツルの表面に周りの黒い家具が反射して、茶色に黒で木目があるように見えたんです。
それで、木の板に見えたんです。
あ~、そうや、この前買った、ゴミ箱やって。

そう分った途端、いままでの違和感はすっかりなくなったんです。
なんの不自然さも感じなくて、ゴミ箱が景色に溶け込んでいきました。
一瞬の出来事でした。

このとき、いったい、何が起こったんでしょう。
もう一度、整理しましょ。

まず、何でもない平坦な画像が、3次元の立体、筒形のゴミ箱として立ち現れましたよね。
意識は、目の前に見える世界は3次元世界だって理解してるわけです。
理解してるってのは、3次元空間を頭の中に持っていて、目の前に見えるものは、その中に組み込んでいってるんですよ。

そこに組み込まれず、宙ぶらりんになってたのが板に見えたゴミ箱です。
それが、ぴたって、3次元世界にはまり込んだわけです。
それで、違和感がなくなって、落ち着いたわけです。

それから、もう一つの違和感は、そんなとこにあるはずがないって木の板です。
あるはずのないものがあるって、これも強烈な違和感です。
それが、この前、東急ハンズで買ってきたゴミ箱やって分かった瞬間、その違和感が消えました。
すべて、理屈にあったわけです。

さて、どういうことかわかりましたか?
僕らが、普段、普通に見てるって世界。
これ、裏で、ものすごい処理が行われてるんですよ。

3次元世界とかってレベルの話から、そこにそれがある理由まで、矛盾なく繋がるように世界が作られてるわけです。
僕らが見てる世界は、そうやって作られた完璧な世界なんです。
これ、どう考えても、ただ、見るだけってのとは全然ちがいますよね。

ただ見るってのは、僕が見てた、何の意味も持たない画像のことです。
あの時は、テレビの下のその空間だけ、現実世界とは別の、異次元の世界のように感じてました。

でも、それは逆なんです。
現実世界と思ってるその周りの部屋こそ、現実世界じゃなかったんです。
テレビがあって、壁があってって見えてる世界こそ、自分が頭の中で創り出した世界なんです。
本当の現実世界って、違和感を感じてた、テレビの下の一部の空間の方なんです。
もし、僕らが、本当に現実世界、その物だけを見たとすれば、見えるもの全てが、そんな風に感じるはずなんです。

それは、3次元世界って奥行きすらない世界なわけです。
ただ、色がついたもので覆い尽くされてるだけです。
意味が全く失われた世界です。

見るって行為がどういうものかわかりましたよね。
見るって時点で、すでに、世界は意味で溢れてるんですよ。
意味で埋め尽くされてるんですよ。

椅子は、座るって意味を行為を呼び起こします。
それが椅子の意味です。
テレビは見るって行為を呼び起こします。
それがテレビの意味です。

さて、僕が創ろうとしてるのは、人と自然な会話ができるAIです。
会話するには、言葉の意味を理解しないといけません。

でも、今までの自然言語処理では、言葉の意味とは何か。
意味の定義すら、できていませんでした。

でも、これで、意味とは何かわかりましたよね。
物が見えてるってことは、それは、すでに意味を理解してるってことなんです。

机が3次元にみえるってことは、机は3次元だって意味を示してるわけです。
そうやって、人は意味を理解してるわけです。

だから、コンピュータに言葉の意味を理解させるには、それと同じことをしないとダメなんです。
机が3次元の物体だって意味は、3次元空間を創って、そこに3Dオブジェクトの机を配置することなんです。
それがコンピュータが、言葉の意味を理解したってことなんです。
それと同じことを、人間もしてるわけですから。

言葉の意味を理解して、会話ができるAIを作るには、どうすればいいのか、その道筋がみえてきましたよね。

それを、そのままやってるのがロボマインド・プロジェクトってわけです。
これをやってるのは、世界で、ロボマインド・プロジェクトだけです。
ロボマインド・プロジェクト、応援してもらえると嬉しいです。

それでは、次回も、お楽しみに!