第114回 意識の仮想世界仮説 とことん解説 〜意識のハードプロブレム編


ロボマインド・プロジェクト、第114弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

最近、増えてきましたよね。
VRシステム。
ヴァーチャル・リアリティです。
プレステとかのゲームでも登場してきましたよね。

こんなVRグラスとヘッドフォンで、視覚と聴覚が完全に奪われるんで、没入感がハンパないそうです。
最近では、触覚を再現できるVRグローブってのもあるらしいんですよ。
なんでも、振動を使って、物に触れた感覚を再現できるらしいんですよ。

目に見える世界は、CGで作られます。
宇宙船の中とか、コックピットとか、もう、自由に再現できます。
ほんで、目の前に見える操縦桿に触れると、何かに触れたような感覚を感じるんです。

さて、このVRシステムを、ちょっと改造してみます。
このVRグラスに、こうカメラを付けます。
このカメラで、目の前の光景を撮影するんです。
そして、それをリアルタイムでCGに変換してVRゴーグルで見せるんですよ。
ヘッドフォンにはマイクを付けて、外の音をリアルタイムで取り込んで再生するんですよ。
VRグローブには、触覚センサを付けて、何かに触れると、それと同じ感覚をリアルタイムで再現するんです。

これで、部屋を見渡してみます。
今まで見えてた世界がCGで見えますよね。
ホワイトボードに触ってみましょう。
硬くて冷たい感覚があります。
この感覚も、実際の感覚じゃなくて、作り出したヴァーチャルな感覚です。

こうやって、目の前の普通の現実世界をVRで体験できるんです。
まぁ、あんまり面白くはないですけどね。
たぶん、全然売れへんVRゲームになると思います。

これ、何に使うかと言うと、じつは、これ、意識の仮想世界仮説、その物なんですよ。
「意識の仮想世界仮説」っていうのは、ロボマインド・プロジェクトの根幹をなす意識理論です。
簡単に言えば、僕らが見てる世界は、頭の中に創った仮想世界だって理論です。
作られる3DCGが、頭の中の仮想世界ってわけです。
今回は、このVRシステムを使って、意識の謎について探って行こうと思います。

このVRシステム、今は、人間が装着しています。
それを、人間そっくりのロボットに装着します。
装着っていうか、ロボットに組み込むんです。
ロボットの頭には、コンピュータがあって、
カメラからのデータは、頭のコンピュータに入力するんです。
耳に取り付けたマイクや、触覚センサからのデータも、コンピュータに送られます。
コンピュータは、これらのデータを基に、リアルタイムで3DCGを作成します。

さ、こっからです。
こうやって作られたCGは、何が感じるんでしょう。
それは、ロボットの意識です。

注意して欲しいんは、意識は、作られた3DCGを見るんじゃないんです。
見るんじゃなくて、感じるんです。

僕らが、こうやって世界を見てるって表現、これ、正確じゃないんですよ。
ここにホワイトボードが見えますよね。
このぐらいの位置に、このぐらいの大きさのがあるってわかってますよね。
これって、空間や位置のデータを把握してるってことです。
つまり、ホワイトボードの位置データを読みだしてるってことなんですよ。
見るっていうのは、頭の中に3DCGの仮想世界を創って、意識は、その3DCGにアクセスしてるってことなんです。

これ、どういうことか分かりますか?
意識は、仮想世界側に属してるってことです。

ロボットの場合で考えてみます。
3DCGの仮想世界側ってことは、プログラム側ってことです。
つまり、意識は、プログラムってことなんですよ。

意識は、心の一部といえますよね。
ロボットの身体があるのは現実の物理世界ですよね。
ということは、身体と心は別の次元にあるんでしょうか?
デカルトが500年前に言ってた心身二元論が正しいんでしょうか?
心って、霊とか魂とか、科学で証明できないものでできてるんでしょうか?

これ、現代では、「意識のハードプロブレム」っていわれる問題です。
意識のハードプロブレムというのは、ウィキペディアによると、物質および電気的、化学的反応の集合体である脳から、どのようにして主観的な意識体験が生まれるかって問題です。

この意識のハードプロブレムを、今回は、徹底的に解明していきますよ。
このロボットが、人間と同じように動いて、会話できるようになったとしましょ。
完全に人間社会に溶け込んでるんですよ。

さて、そのロボットが目の前の机を見たとします。
そのとき、頭の中のコンピュータの中で、3DCGで机が作られるわけです。
ロボットの意識は、「あっ、机だ」って思うわけです。

現実世界の机と、主観的な意識が感じる、頭の中の机。
この境目を探っていこうと思います。
カメラに内蔵されるCCDセンサは、赤、青、緑の3色の光を検出します。
そんな点が、何十万、何百万って集まって1枚の写真となるわけです。
検出した光は、光電効果っていう現象で電圧に変換されます。
たとえば、一番濃い赤が10Vで、一番薄い赤が0Vとかってなるんです。
で、それをコンピュータに送るわけです。

コンピュータでは最初にAD変換をします。
AD変換っていうのは、アナログ信号をデジタル信号に変換することです。
コンピュータは01の2進数だっていいますよね。
だから、たとえば、0Vの信号は00、5Vは10、10Vは11とかって2進数に変換するわけです。

その後は、コンピュータ内で2進数の値として処理されるんです。
足したり、かけたりって計算も、2進数で行われるわけです。
こうやって、コンピュータ内で画像信号が処理され、3Dオブジェクトの机が作られるわけです。
ほんで、意識は、その3Dオブジェクトを認識して、机がどの位置にあるかって把握できるわけです。
ほんで、「ここに、机があります」とか言うわけです。
「ほぉ、これは、ケヤキの一枚板ですなぁ」とか言うわけです。

さて、ここで科学者が、いろんな装置を使って、このロボットを分析するとします。
このカメラで捉えら光は、ここで電圧に変換してるんだなとか、分かるわけです。
電圧の信号は、このケーブルを伝って頭のコンピュータに送られてるな、とか。
どうやら、コンピュータのCPUでデータを処理してるようだ。
CPUの中で机と認識して、音声を出力するらしい。

たぶん、こんな風になるでしょう。
今の説明で、気づきましたか?
現実世界と意識の境目。

科学者が理解できたのはどこまででした?
カメラからの信号がコンピュータに入力されるまででしたよね。
その後、CPUの中の処理は、よく分らなかったですよね。
ここなんですよ。
電気や光といった物理世界と、主観といった意識の境目は、ここなんですよ。

もっといえば、それはAD変換です。
アナログ信号をデジタル信号に変換したとこが境目なんです。
アナログ信号の世界は、光が強くなれば電圧が上がるって世界です。
よく観察すれば理屈が分かる世界です。

コンピュータのAD変換は、2進数への変換です。
コンピュータは2進数の世界です。
すべての処理が2進数で行われます。
でも、これは、たまたま2進数にしただけです。
4進数とか、16進数でもよかったわけです。
何々進数じゃなくて、全然違う体形でもあり得るわけです。
たまたま、2進数にして、それをみんなが使ったわけです。
それ専用の回路を作って、それを長い年月かけて進化させて、今の、超複雑なCPUができたわけです。

アナログ信号をデジタル信号に変換することを符号化ともいいます。
その逆を復号化といいます。
これって、暗号と同じなんです。
どう符号に変換するかって、設計した人しか分からないんですよ。
単純に符号化して、復号化しただけなら、大量の入力データと、大量の出力データがあれば解析できるかもしれません。
でも、出力するまで、いろんな処理をしていて、どんな処理をしてるかもわからなければ、データがいくらあっても、解析するのはほとんど不可能です。

さて、脳の場合です。
眼球からの視神経のデータまでは分かるとします。
それが、脳内で符号化されていたとしたらどうでしょう。
符号化されて、さらに様々な処理を経て、意識が机と認識するわけです。
そして、さらに処理されて、出力されるのは、「ほぉ、これはケヤキの一枚板ですなぁ」とかなんです。

どうです?
たとえ、脳内の信号を完全に解析できたとしても、意識がどうやって生まれて、どんな言葉を発するかなんて、わかりっこないですよね。
その原因は、何でした?
符号化です。
データを符号化したからです。

でも、符号化したとしても、脳の神経細胞を伝わる信号は、電気や化学反応なんです。
科学で完全に解明できるものです。
霊とか魂とか、科学で解明できないものを取り入れる必要はありません。

符号化されたデータを処理するのが意識です。
意識が属するのは符号化された世界です。
符号化された世界とは、仮想世界のことです。
仮想世界は、物理世界と切り離されているので、自由にルールを作ることもできます。
物理世界のルールと同じルールも作れるし、別のルールも作れます。
物理世界は物が下に落ちるってルールがありますけど、同じルールをつくれば、仮想世界でも再現することができます。

お金の価値ってルールも作れます。
物質的な違いはほとんどなくても、一万円札は千円札の10倍の価値があるってルールも作れます。
意識が主観的に感じるのは、これら符号化された世界です。

こうやって、物質および電気的、化学的反応の集合体である脳に、主観的な意識体験が生まれてるわけです。
意識のハードプロブレムが、きれいに解決してますよね。

でも、脳を観察しても、意識が解明できないんじゃ、結局、意識は謎のままです。
だから、観察して解明するんじゃなくて、つくるんですよ。
意識と同じように動くプログラムをつくるしかないんですよ。
つくって、人間と同じように会話できれば、人間と同じ意識ができたといえるんです。
この方法しか、意識の謎を解明する方法はないんです。
そして、それをしてるのが、ロボマインド・プロジェクトです。

ただね、意識を実際につくりはじめたら、もっと厄介な問題が出てきたんですよ。
意識のハードプロブレムよろも、もっと、根本的で、解決できない問題です。

たとえばね、ロボットの手を、こうつねって、「痛い!」って言ったとするでしょ。
さて、このロボット、本当に痛いって感じてるのかって問題です。
この問題を、哲学的ゾンビっていいます。

じつはね、こっちの問題は、そんなにすっきり解決しないんですよ。
でも、ギリギリまでは追い詰めました。

次回は、哲学的ゾンビについて追及していきたいと思います。
よかったら、チャンネル登録、それから高評価してもらえると嬉しいです。
それでは、次回も、お楽しみに!