第115回 現代科学が意識を扱えないたった一つの理由


ロボマインド・プロジェクト、第115弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

こうやって手の甲をつねったら、「痛!」って感じますよね。
誰かほかの人の手をつねったら、「痛!」といって、手を引っ込めたとします。
さて、その人は、本当に「痛い」って感じてるんでしょうか?

前回、第114回「とことん解説 意識の仮想世界仮説1 意識のハードプロブレム編」で、人間そっくりのロボットを作ってみました。
触覚センサーがあって、人間と全く同じ皮膚感覚を持ってます。
手をつねられたら「痛!」といって、手を引っ込めます。
このロボットも、本当に痛いって感じてるっていえるんですかねぇ。

これが、「哲学的ゾンビ」っていう思考実験です。
「哲学的ゾンビ」は、見た目が人間そっくりで、人間そっくりに振る舞うけど、人間のような内面的経験がない人です。
内面的経験っていうのが、今だと、「痛い」って感覚です。
それ以外に、嬉しいとかって感情から、目の前に机があるって認識することも内面的経験です。
要するに、人の意識が感じることは全て内面的経験です。
この内面的経験がロボットにも本当にあるのか、それを証明することってできないんですよ。
それが「哲学的ゾンビ」の思考実験で言いたいことです。

僕は、「哲学的ゾンビ」のことを考えているうちに、ようやくわかったことがあるんです。
それは、なんといったらいいか、新しい科学です。
意識を扱う新しい学問です。
何が、今までとちがうのか、
今回は、そのことについて説明したいと思います。
それでは、始めますよ。

「痛み」ってなんであるのかってことをずっと考えてたんですよ。
第55回「中学生でもわかる意識のしくみ」で、進化の過程で、意識を獲得したって話をしました。
意識を獲得したから、痛みとかって「感覚」を感じるようになったって話です。
だから、痛そうにしてても、魚は傷みを感じてないんです。
魚は内面的経験を持ってないんです。

生物の目的は、長生きすることと、種を繁栄させることです。
だから、身の危険を感じると逃げるわけです。

魚は、釣り針が刺さると、暴れて逃げようとします。
上手く行けば、釣り針が外れて逃げることができます。
これは、体に違和感を感じると、体をくねらせるって行動を取るようになってわけです。
特定の知覚と、行動が関連付けられたプログラムがあるって言えます。

つまり、・・・痛みを感じて暴れてるわけじゃないんですよ。
痛みで動いてるんじゃなくて、自動で反応してるだけなんです。
痛みって内面的経験をもってなくても、生物として生きて行くことができるってことなんです。

ここで、いろんな動物の脳を見てみましょう。

濃い青が脊髄で、ピンクが脳幹、小脳です。
魚類や両棲類は、脊髄、脳幹、小脳が占める割合が多いですよね。
脊髄といえば、脊髄反射を行うとこです。
ひざ下をハンマーでたたいたら、足が勝手に上がるやつです。
刺激を知覚すると、それが神経を伝わって筋肉を収縮させてるわけです。
知覚から筋肉収縮までの神経の流れは、観察できますよね。
これだと、前回取り上げた、意識のハードプロブレムは生じません。
つまり、意識がないってことです。
魚やカエルの行動はこれと一緒なんです。

それでは、人間の場合はどうでしょう?
人間には意識があります。
感覚器からの情報を基に、頭の中に仮想世界をつくります。
意識は、仮想世界を介して行動を決定するわけです。
これが、「意識の仮想世界仮説」です。

カエルや魚は感覚器からの情報に反応して行動しています。
それじゃぁ、人間は、何に反応して行動してるんでしょう?
ここ、詳しく見て行きます。
手の甲をつねられたとき、「痛い!」って手を引っ込めましたよね。
痛いと感じたのは意識ですよね。
ほんで、痛みから逃れるために手を引っ込めたんですよね。
じゃぁ、魚との違いは何でしょう?

まず、意識がありますよね。
どのように行動するかは意識が決めましたよね。
じゃぁ、意識は、何に基づいて行動を決めましたか?

痛みです。
つまり、魚にはなくて、人間がもってるのは、意識と痛みです。
仕組みが複雑になりましたよね。
じゃぁ、なぜ、わざわざ、こんな複雑な仕組みをつくったんでしょう?
メリットはなんでしょう?

それは、意識を持つことで、行動するか、しないかを決めることができるようになったんです。
痛くても、我慢することができるんです。
でも、そんなことして、何の得があるんでしょう?

たとえば、運動会で勝てるように、かけっこの練習をするとしましょ。
でも、練習は辛いですよね。
苦痛を感じるわけです。
苦痛を感じたからといって、すぐに練習を止めたら、運動会で一位になれません。
だから、辛くても我慢して練習するわけです。

こんなことができるのは、意識があるからです。
目先の苦痛より、次の運動会を目指して練習しようと決めたわけです。

だからと言って、無限に練習するわけにも行きません。
ご飯も食べず、寝ることもなく、練習を続けたら死んでしまいます。

そうならないように、行動を制限する必要がありますよね。
そのためにあるのが、苦痛なんですよ。
感覚や感情は、意識が行動を決定する材料です。
かけっこで一位になったら嬉しいって感情。
感情は、行動の原動力、一種のエネルギーといえます。
でも、練習するのは苦痛が伴います。
苦痛は練習を止めさせようとします。
行動を止めさせようとするのもエネルギーです。

さぁ、こっからです。
これが意識が感じる世界です。
この世界、何かに似ていませんか?

それは、物理学です。
たとえば、力学です。

バネは縮まることでエネルギーが溜まります。
手を離すと、バネの先に置いたボールが飛び出します。
バネに溜まったエネルギーが、ボールを飛ばせたわけです。

去年、運動会で負けて、悔しい思いをしたわけです。
次の運動会は、絶対に一位になってやるって思うわけです。
悔しい思いがエネルギーとなって練習するわけです。
物理学に似てますよね。

物理世界を構成するのは、物質と、それに作用する重力や、電磁力ってエネルギーです。
それらが相互作用するわけです。
それによって、太陽の周りを地球が回る理屈を説明できるんです。

もう一度言いますよ。
物理世界を構成するのは、物質と、それに作用する力です。
世界というのは、その世界を構成する構成要素でできてます。

意識の世界も見てみましょう。
意識の世界の構成要素は、意識と、感覚や感情と、行動する人間です。
人間は意識を持ってます。
意識は痛いとか、悔しいとかを感じます。
痛いとか悔しいって感情が、人間の行動のエネルギーとなります。

バネのエネルギーの大きさは、縮んだ量に比例します。
バネが作用する方向は、縮んだ方向と逆方向です。

頑張ってかけっこの練習しようとするエネルギーの大きさは、運動会で負けたって悔しい思いに比例します。
悔しいって思いが作用する方向は、悔しい思いをした経験と逆の経験をしようとすることです。
つまり、運動会で勝つことです。

やっぱり似てますよね。
物理の世界と意識の世界。

意識の世界も、物理の世界みたいに、何らかの法則に従って動いているようです。
たとえば、第112回「プログラムで心をつくったら、すぐに泣きだして困りました」では、ストレスを式で表しました。
書いてみます。

目標と現状のギャップ × コスト = ストレス

例に挙げたのは、イソップ童話の「酸っぱいブドウ」です。
ブドウを取りたいのが目標です。
ブドウを取れないのが現状です。
ジャンプして取ろうとしたことがコストです。

この式は、苦労しても目標が達成できないと、どんどん、ストレスがたまるってことを意味してます。
ストレスが限界を超えると、泣き出してしまいます。
そこで、ストレスを下げるのに編み出したのが、ブドウは、じつは、酸っぱくて食べれないって論法です。
酸っぱくて食べれないなら、目標にならないわけです。
それなら、目標と現状のギャップが0となって、ストレスが0になるわけです。
この論法のことを「負け惜しみ」って言うわけです。

こうやって、人間の行動を式であらわせそうです。
意識の世界も、一種の学問体系として整理できそうですよね。

僕が、意識のハードプロブレムが解決したって言うと、すぐに、反論が飛んできます。
そんなんじゃ、解決したことにならないとか、意識のハードプロブレムを理解してないとか。
意識のハードプロブレムが提唱されてから、25年以上経ちます。
その間、ハードプロブレムとは何か、それはハードプロブレムじゃない、イージープロブレムだといったことを、ずっと論争してます。

僕が言いたいのは、そろそろ、そんなのは終わりにしませんかってことです。
人は空を飛べるか、飛べないかとか、そんなこと議論してても、空を飛べるようになりません。
ライト兄弟が飛行機を作ろうとしてるのを見て、そんなので空を飛べるわけないって批判して、何か役に立ちますかってことです。
飛べるか飛べないか分からないけど、とにかく、一歩ずつ、進んで行こうってのが僕が言いたいことです。

ハードプロブレムが何かとかって議論じゃなくて、仮説を立てて、その次の段階に進まなければ意味がないと思うんです。
その仮説の一つが、「意識の仮想世界仮説」です。

僕らの意識が感じてる世界は、物理世界とは別の仮想世界なわけです。
その仮想世界を認識するのが意識です。
意識の世界のエネルギーは、痛みとか喜びといった感覚、感情です。
これらで意識の世界は構成されてるわけです。
物理世界とは別の体系の世界です。
だから、物理世界で意識世界を説明するのは無理があります。

生物の遺伝は、遺伝子によって解明できます。
遺伝子自体は、DNAという高分子です。
分子なので物理世界に存在するものです。
でも、DNAで重要なのは、たんぱく質の設計図となってることです。
重要なのは、設計図の中身なんです。
中身を読み解くのが重要なんです。
それが、現代の生物学です。
分子生物学です。
新しい生物学が生まれたわけです。

意識世界をつくってるのは脳です。
脳も分子で作られてるのは間違いないです。
でも、重要なのは、脳で動いてるプログラムです。
次の段階というのは、そのプログラムの中身を読み解くということです。
そのプログラムが、意識の世界に沿ってつくられてるわけです。

いや、逆です。
意識の世界のプログラムがあるから、僕らは、こうやって世界を感じるんです。
内面的経験をもてるんです。
こうして、目の前に部屋があるって認識したり、嬉しいとか、痛いって感じるのは、意識のプログラムがあるからです。
僕らは、物理世界に生きてると同時に、意識の世界にも生きてるわけです。
物理世界と同じように、意識の世界もなんらかの法則、理論で動いているんです。

次の段階というのは、これら法則や理論を解明していく段階のことです。
遺伝子の発見で新しい生物学が生まれたように、新しい心の科学を生み出さないといけない段階にきてると思っています。

それをやろうとしてるのがロボマインド・プロジェクトです。
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それでは、次回もお楽しみに!