第119回 時間を持たない人たち


ロボマインド・プロジェクト、第119弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

昔ね、面白い話を聞いたんですよ。
ODAってあるでしょ。
政府開発援助っていうやつです。
この話は、20年以上前に聞いた話ですけど、当時は、日本はぶっちぎりでODA世界一やったんです。

世界中の発展途上国に、日本からいろんな支援をしてました。
ほんで、アフリカに農業を教えに行ったときの話なんです。

アフリカの狩猟民族に、農業を教えようとしたんらしいんですよ。
あの、狩りって、大変でしょ。
獲物なんて、毎回、ちゃんと獲れるか分からへんし。
それより、農業したほうが、安定した生活ができますよね。
食料が安定して確保できると、人口も増えて、文明も発達するってわけです。

それで、農業の素晴らしさを伝えようとしたんですよ。
でも、相手は、今まで狩りをして生活してた人です。
農業なんて、見たこともないわけです。
そこで、まずは、農業って、何かってことを分かりやすく伝えないといけないです。
それを、どうやって伝えようかって悩んだんです。
言葉で説明しようとしても、見たこともないものは言葉で説明しても伝わらないんですよ。
そこで、「そうや、映像で見せたらええやん」ってなったんです。
サバンナを耕して、種を植えて、収穫するまでを映画にしたんです。
映画なら、一目瞭然ですよね。

ほんで、アフリカの狩猟民族の男を集めて上映会を開いたそうです。
頑張って育てれば、1年後に作物が実るってストーリーです。
不安定な狩猟生活とは大違いです。
農業って素晴らしい!
俺たちは、今まで、何をしてたんだ!

そんな声が聴けるのを期待してたんですよ。
そしたらね、思ってたのと全然違う感想が出てきたそうなんです。
何て言ったと思います?

その前に、ちょっとお知らせがあります。
じつはね、YouTubeの内容を、キンドルで、電子書籍で出すことにしたんですよ。
タイトルは、「普通に会話ができる ドラえもんの心のつくり方」です。
第一巻のサブタイトルは「コンピュータに意識が発生するまで」です。
意識の仮想世界仮説までの話です。
内容は、大幅に加筆修正してます。
この動画の説明欄にリンクを貼っとくので、良かったら、読んでください。

はい、それじゃぁ、元に戻ります。
何て行ったと思います?

なんかねぇ、
「キリンが2頭いた」とか。
「シマウマが3頭とゾウ1頭いた」とか。
そんなことばっかり言うんですよ。

いやいや、そんなの写ってへんし。
何言ってるんやろ?
最初が、種をまく映像があって、その後、芽が出たり、雨が降ったりして、最後に収穫する。
そんな映画ですよ。
どこに、キリンやシマウマがいるんやって言ったら、いや、確かにいたって言い張るんです。

それじゃぁ、もう一回見直そうってなったんです。
ほんで、サバンナを、みんなが耕してるシーンが映ったんですよ。
そしたら、画面の奥の方の点を指さして、ゾウがいる、キリンがいるって、男たちがに叫ぶんですよ。

えっ、どこって、よく見たら、たしかに、はるか遠くにゾウやキリンが映ってるんですよ。
そんな遠くは見なくていいから、画面の真ん中を見てくださいって注意したそうなんですよ。
それでも、何か隅に動物が映るたび、シマウマだ、ライオンだって言って叫んで、肝心の農作業には、全く、興味がないみたいなんです。

さて、これって、どういうことなんでしょうね?
今回は、このことについて考えてみたいと思います。

まず、思ったのは、この人たちは、映画というものを見たことがないんやと思います。
映画やテレビって、僕らは普通に見て、普通に理解してます。
でも、それって、普通じゃないみたいなんです。
僕が、よくいいますよね。
あまりにも当たり前すぎることって、一番、理解するのが難しいんです。
当たり前のことって、それが理解できないってのが想像できないんです。

今の場合なら、映画の見方を知らないってことなんですよ。
僕らは、映画やドラマが始まると、当たり前のように、ストーリーを追いますよね。
ほんで、おもろいなぁとか、おもろないなぁとか思いますよね。

農業の映画が、面白いかどうかは、今は、置いときます。
ただ、土地を耕して、種植えたら、1年後には作物を収穫できるってストーリーは理解できるはずです。
じゃぁ、そう言う見方ができないって、どういう事でしょう?
生まれて初めて映画を見た人は、その映像に何をみたんでしょう?

おそらく、狩猟民族がサバンナを見るとき、まず注意するのは、危険な動物がいないかだと思うんです。
ライオンがいないかとか。
だから、サバンナを耕してる映像を映しても、まず注意するのは、遠くに動物がいないかなんです。

映画を見て、ストーリーを追うって、そんな、当たり前すぎることって、誰でもできると思いますよね。
これができない人がいるってことは、どういうことでしょう?
それは、物語を理解するって、持って生まれた機能じゃないってことです。
生まれてから、学習した機能ってことです。

もう少し考えてみますよ。
物語って、出来事が時系列で並んでますよね。
ある出来事が起こって、次にこんな出来事が起こってって。
つまり、物語の一番重要な構成要素は時間です。
時間軸に沿って、ものごとが展開していくわけです。

僕らの頭の中の世界には、時間軸があって、映画を見たとき、起こった出来事を時間軸にそって配置していくわけです。
これが物語を理解するって意味です。

それじゃぁ、アフリカの狩猟民族の頭はどうなっているんでしょう?
おそらく、世界は空間の広がりとして捉えるんだと思います。
そして、空間のどこに、どんな動物がいて、それに対して、どんな行動を取るかが重要なんだと思います。
重要と言うか、一番の関心事なんだと思います。

もっと考えてみます。
僕らの生活、人生って時間にそって進みますよね。
入学式があって、夏休みがあって、運動会や遠足があってとか。
小学校の次は、中学。
中学の次は高校とか。
就職して、定年したら、年金で暮らすとか。

基本、何か出来事があると、その後、どうなるかとか、なぜ、そうなったのかとか。
そう言う風に時系列で考えると思うんですよ。
たぶん、そうやって考えるのが、この社会で生きて行くのに必要なことなんやと思います。
この社会で上手く生きて行くには、先に何が起るかを予測しながら、今の行動を決めるのが重要なんです。

それじゃぁ、狩猟民族の生活って、どんなものでしょう?
それは、男は狩りの仕方を覚えたら、それを一生するだけです。
どこの学校に行こうかとか、どこの会社に就職しようかとかありません。
将来、年金をいくらもらえるかとか、絶対考えてないです。

狩猟民族の生きてる世界は、今は、狩りをするときか、狩りをしないときか。
狩りをするなら、周りにどんな動物がいるか。
その動物に向かって、どうやって近づいていくか、いつ、弓を放つか。
そんな世界です。

一番の関心ごとは、今、目に見えてる世界です。
見えてる世界で、どう行動するかです。
別の言い方をすれば、短期記憶が扱う範囲の世界です。
将来のこととか過去のことには、そんなに関心がありません。

一方、僕らの関心事項は、自分の将来がどうなるかです。
過去から学んで、将来を考えます。
時間の流れを常に意識します。

だから、何かしてないと、なんか、時間を無駄にしてるように感じます。
せっかくの時間があるのに、仕事も遊びもせず、ただぼぉーと過ごすなんて、何て無駄なんだって思います。
でも、そんな風に考えるのは、この現代社会を生きてるだけだからなんですよね。

アフリカの狩猟民族は、何もしないで、ぼぉーとしてる時間が結構あります。
そんなのを見ると、つい、もったいないって思ってしまいます。

文明批判とか、幸せとは何かとか、まぁ、そんな話は他の人に任せときます。
僕が注目するのは、頭の中の世界です。

僕らが持ってる世界は、時間軸にそって出来事が展開する世界です。
アフリカの狩猟民族がもってるのは、今見えてる世界です。

人は、頭の中に、どんな世界をもってるかで、同じものを見ても全然違うものを認識するんです。
農業の映画を見て、それを時間軸に沿って並べて理解するのは、それは、僕らの頭の世界がそうなってるからなんです。
同じ映画を見ても、空間としてとらえて、どう反応するかが最大の関心事の世界で生きてる狩猟民族がみたら、どこに、どんな動物がいるかって視点でしか理解できないわけです。

重要なのは、その人の持ってる頭の中の世界観っていうわけです。
頭の中の世界が同じでないと、相手の言いたいことは伝わらないってことなんです。

だから、人と普通にコミュニケーションがとれるAIを作るには、頭の中の世界をつくる必要があるんです。
それをやろうとしてるのが、ロボマインド・プロジェクトです。

チャンネル登録、高評価してくれると嬉しいです。
それでは、次回も、お楽しみに!