第128回 僕が、まだ、犬語を話してた頃


ロボマインド・プロジェクト、第128弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

僕が、どんな風にして研究してきたかってことは、以前、第79回「好きなことだけして生きて行く」で、いろいろ語りました。
その中で、一番聞かれたのが、犬語の話です。
一時、犬語で暮らしてたことがあったって話なんですけどね。

いろんな人から犬語ってどういうこと?って聞かれたんですけど、ちょっと説明しにくいので、今までちゃんと話してこなかったんですよ。
でもこの話ね、結構重要なんで、今回は、そのことについて語ろうと思います。

その頃、僕が知りたかったのは、人間以外の動物って、どんな風に世界を認識してるかってことやったんですよ。
知識としてじゃなくて、どう感じてるかってことです。
動物が見てる世界を、動物になって感じたかったんです。
それがわかれば、それをそのままプログラムにできると考えたんです。

前提とするのは、脳の進化です。
これが脳の進化の図です。

上が進化的に古くて、下に行けば行くほど新しい脳です。
これ見たら分かると思いますけど、古い脳の上に、新しい脳が追加されていってますよね。
新しく追加された脳で、新しい認識の仕方を獲得してるわけです。
追加されたってことは、古い脳も残ってます。
つまり、古い認識の仕方も残ってるわけです。

だから、人間は、動物がもっていた古い認識の仕方と、新しく獲得した認識の仕方の両方をもってるわけです。
だから、上手くやれば、動物がどうやって世界を認識してるのか感じることができるはずです。
僕がやろうとしてたのは、これなんです。

たとえば、動物が、好きな食べ物をどうやって認識するかって考えます。
同時に、これをプログラムでどう作るかも考えるんです。

食べ物を認識するとは、その食べ物のオブジェクトを生成するわけです。
意識の仮想世界仮説では、目からの情報を基にオブジェクトで生成して、意識は、そのオブジェクトを認識します。
オブジェクトは、プロパティって属性と、メソッドっていう動きを持ってます。

そして、ある食べ物を食べて、おいしかったら、その食べ物オブジェクトのプロパティに美味しいって設定するわけです。

すると、つぎに、その食べ物を見たとき、プロパティには、美味しいって設定されてます。
だから、その食べ物をみただけで、それが美味しいってわかるんです。

ここから二つの重要なことがわかります。
まず一つは、記憶です。
食べ物を見て、美味しいとわかるということは、それを記憶してるわけです。
オブジェクトのプロパティを設定することは、記憶してるってことです。
学習といってもいいです。

もう一つは、行動です。
感覚と行動が結びついてるってことです。
その食べ物を見て、美味しいって記憶を思い出すと、それを食べたいって思います。
美味しいって感覚と、食べたいって行動が結びついているわけです。

これが、動物が認識して、生きてる世界です。
それ以上、複雑な認識は、人間しかもってないと思うんですよ。
僕がやってみたのは、この動物でも持ってる部分だけで暮らしてみることでした。

コンビニに入って、ポテチを見つけたら、「あれ食いてぇ」って感じたら、ポテチにむかってワンワンって吠えるんですよ。
もちろん、小声で、誰にも聞こえないようにですよ。

嫌なことが会ったら、「ウー、ウー」って唸るんですよ。
こうやって、人間以前の動物は、どんな感覚で生きてるのかってのを探ってたんですよ。
そうしたら、いろいろわかってきました。

まず、犬は、あんまり複雑なことは考えれないってことです。
一番単純な認識は、あれが好きだとか、これは嫌だってことです。

もう少し複雑な認識だと、仲間との関係とかです。
犬は社会行動をするので、上下関係とかは理解できます。

たとえば、ボス犬が、美味しそうな肉を食べていたとします。
意識は肉を認識すると、食べたいって感じるわけです。

それと同時に、ボス犬も認識してます。
ボス犬の肉を取ると、ウーって怒られるって知ってます。
こらが、食べようって行動を抑える気持ちとなります。

犬が感じてる世界って、このぐらいのシンプルな世界です。
これ、何を意味するかわかりますか?
複雑な言語を必要としないってことです。
犬語は、ワンワンとウーウーぐらいで、事足りるんです。

たとえば、人間の場合なら、「ポテチ食べたら太るからやめとこうかな」って意識で考えたりしますよね。
「もし、~したら、どうなるだろう」って考えです。
「もし、~したら」って仮定法です。
つまり、文法です。
文法が必要になってくるんです。
こうやって、複雑な言語が生まれてくるんです。

でも、よく考えると、犬も考えてましたよね。
「もし、ボス犬の肉を取ったら、怒られるだろうなぁ」って。
これも「もし、~したら」ですよね。
ということは、犬の意識も、仮定法って文法を理解してるんじゃないでしょうか?

じつは、そうじゃないんですよ。
犬の場合、「もし、~したら」って考えてるわけじゃないんですよ。
そうじゃなくて、犬の意識が扱うのは、言ってみれば、1次元なんですよ。

一方が食べたいで、反対側が食べたらダメって1次元の軸があるわけです。
意識は、食べたいと食べたらダメだの間を揺れ動くわけです。
行動としたら、食べようとして肉に近づいたり、ボス犬に怒られて引っ込んだりとかになるわけです。
1次元の軸の中で行動が揺れ動くわけです。

人間の考える「もし~したら」は、そうじゃないです。
もし、ポテチを食べたら太るだろうって想像するわけです。
でも、その後、運動したら痩せるだろうなぁって想像することもできます。
ポテチの代わりに、野菜を食べようとかって考えることもできます。

かなり複雑な思考ができますよね。
これって、根本的に、何が違うかわかりますか?

それは、意識の処理内容が違うんです。
ていねいに説明しますよ。
行動を決定するのが意識ですよね。
何らかのデータが意識に渡されて、それに基づいて意識は行動を決定するわけです。

犬の場合、渡されるのは食べたいって思いと、食べたらダメだって思いです。
その二つの値から行動を決めるわけです。
どっちの値が大きいかで行動がきまるだけです。
単純ですよね。

それでは、人間の場合はどうでしょう?
人間の場合も、食べたいって思いが入力されます。
違うのは、意識がオブジェクトを扱えるってことです。

たとえば、人オブジェクトは、食べるとか運動するとかってメソッドを持っています。
意識は、この人オブジェクトを操作して考えることができるんです。
食べるメソッドを実行すると、体重プロパティが変化したりします。
何を食べるかによっても、太ったり、太らなかったりするわけです。
運動メソッドを実行すると、体重プロパティが減少します。

意識は、人オブジェクトのメソッドを自由に操作して、行動を決定するわけです。
美味しいからと言ってポテチばっかり食べてたら太るよなぁ。
後で、運動したらいいかなぁ。
今日は、野菜サラダにしとこかな。
こんなことを考えることができるんです。
こうやって、「AしたらBになるからCしよう」とかって複雑な思考ができるわけです。
そして、それを表現しようとして、複雑な言語が生み出されたんです。
仮定法とか、文法を発明して言語が進化していったんです。

犬みたいに、考える範囲が、食べたいか、食べたらダメかの1次元だけなら、言葉も、ワンワンとウーだけで表現可能なんです。
それ以上、言語が進化することはないってことです。

この話は、言語で終わりませんよ。
つぎは、自由意志です。

現代の最先端の科学では、人間は自由意志を持ってないって言われてるんですよ。
自由意志がないって話、正直、僕は、よく、意味がわからないんですよ。

僕が、ずっと違和感を感じてるのは、自由意志って、あるか無いかって、そんな単純な話なのってことです。
自由意志を持つのは、意識ですよね。
意識って、めちゃくちゃ複雑なシステムじゃないですか。
その意識が関わる自由意志が、0か1かって、そんな単純なのって思いますよね。

今回の話を自由意志に当てはめてみますよ。
自由意志があるってことは、選択の範囲があるわけですよね。
その範囲内で、意識は行動を選択するわけですよね。

犬の場合なら、食べたいって思いと、食べたらダメって思いの間で行動を決めるわけです。
自由意志の選べる範囲は、1次元の中となるわけです。

人間の場合、もっと複雑です。
行動は、人オブジェクトのメソッドの中から選びます。
さらに、それを何個も組み合わせることで、無限の選択肢がでてきます。
これが、人間の自由意志の選べる範囲となるわけです。

つまり、自由意志って、あるか無いかって単純な話じゃないと思うんですよ。
僕が思うに、脳が進化して、複雑なことを認識できればできるほど、自由意志の範囲も広くなるってイメージなんですよ。

だから、進化的にもっと古い動物、ハ虫類とか魚類は、自由意志が選択できる範囲がほとんど無いと思うんですよ。
条件が決まれば、みんな同じ動きしかしないわけです。

カエルは、お腹がすいてて、目の前に黒い点が動いてるのを認識すると、それが食べ物だと思って捕まえて食べます。
どのカエルも同じ行動を取ると思います。
あまり、個性とか、性格とかなさそうです。
つまり、自由意志がほとんどないってことです。

それが、進化して、選択の範囲が増えてくると、個体によって、行動が変わってきます。
ボス犬の食べてる肉を横取りしようとして怒られる犬とか、じっと我慢して耐える犬とかいるわけです。
性格の違い出てくるわけです。

それがさらに進化すると、全く同じ条件であっても、真逆の行動を取ったりします。
好きな食べ物を貰ったとき、ある人は喜んで食べて、別の人は我慢して食べなかったりとか。
本当は食べたいけど、ダイエットのために食べるのを我慢してるのかもしれません。
どういう理由かはわかりませんが、複雑な思考を経て、行動を決定してるわけです。
行動を自由に選択できるわけです。
これって、自由意志ですよね。

こんな風に、自由意志って、0か1の2種類があるわけじゃなくて、脳の仕組みによって、自由度の範囲が広くなったり狭くなったりするんだと思うんですよ。
どう思います?

ロボマインド・プロジェクトでは、もちろん、自由意志をもったAIを作ろうとしてます。
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説明欄にリンクを貼っておくので、興味がある人は、ぜひ、読んでみてください。

それでは、次回もお楽しみに!