第137回 絶対ダメ!5歳まで、言葉に接しないとどうなる?


ロボマインド・プロジェクト、第137弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

今回は、言葉と世界の関係についての話です。
世界っていうのは、今、見えてる目の前の世界です。
どうもね、全く同じ光景を見てても、言葉を使えるかどうかで、見てる光景が違うようなんですよ。
いや、見てる光景は同じなんですけど、感じ方というか、どういう風に認識してるかが違うみたいなんですよ。

ポイントは、脳の前頭前野です。
ボストン大学の神経学者アンドレイ・ヴィシェドスキー博士(写真なし)によると、外側前頭前野に損傷がある場合、人は、物と物の「関係」を表す文が理解できなくなるみたいなんです。

たとえば「犬は賢い」という文は理解できても、「犬は猫より賢い」となると、どっちが賢いのかわからなくなるらしいんですよ。
「円の上に三角形を描く」とか、「春は夏の前に来る」とか、上下関係や前後関係の理解もなくなってしまうみたいなんです。
複数の単語を頭の中で意味のある形に合成することを、「全頭前野統合」とか「メンタル統合」って言います。

このメンタル統合の機能、5歳までに獲得する必要があるんです。
ヴィシェドスキー博士は、何らかの原因で、幼少期に一切言語に触れることのなかった特異な子供たち10人を調査したそうです。
有名なのは、オオカミに育てられた少女とかです。

10人全員に、何年もの言語トレーニングをしても、英語の「in」とか「on」、「at」といった空間的前置詞。
それから、過去か未来といった動詞の時制といった文の意味を完全に理解することができなかったそうです。

理解できないって、どういうことかと言うと、たとえば先生が、「緑の箱を、青い箱に入れてください」って指示を出したとします。
子供たちは、緑の箱と、青い箱を取り上げるとこまではできるそうです。
その後が、できないそうです。
先生の顔色をうかがいながら、どっちにどっちを入れるか試すみたいなんです。

つまり、緑の箱、青い箱、それから「入れる」って動詞の意味は分かるみたいです。
でも、どっちにどっちを入れるかが分からないみたいなんですよ。
「に」とか「を」の意味がわからないみたいなんですよ。

ここです。
今回のテーマは。
「文」とは何かです。
文の構造を理解するとはどういうことかってことです。
単語の意味を理解できても、文を理解できるわけじゃないんです。
もう少し、詳しく見ていきましょう。

第134回「意味とは、こういうことだったのか!」でマインド・エンジン第4弾のデモをお見せしました。
「鉛筆を筆箱に入れる」って文の意味解析をするデモです。(デモ動画)
マインド・エンジン本体は、文を入力されると、3次元空間で、鉛筆を移動して、その結果を受け取ります。
そして、筆箱に鉛筆が入ったっていう状態を保持します。
それが、マインド・エンジン本体の上の「リンダの思考」の部分です。

「りんだ」ってのは、マインド・エンジンの心が実装された女の子のことです。

マインド・エンジンのデモでは、この「リンダの思考」については、それほど詳しく触れなかったんですけど、じつは、ここ、ものすごく重要なんですよ。

さっきの子ども達は、「緑の箱を、青い箱に入れる」って文を聞いて、
緑の箱と青い箱を取り上げるとこまではできましたよね。
それから、「入れる」の動作も知ってます。
単語はわかるわけです。

マインド・エンジンで言えば、3次元世界に3Dオブジェクトを生成したり、オブジェクトに動作を持たせることはできるみたいです。
できないのは、「リンダの思考」で表示したみたいに、筆箱に鉛筆が入ってるって状態に変換することです。

「リンダの思考」を見てみましょう。
L字で示してるのがオブジェクトの関係です。
上が入れ物で、下が入ってる物です。
これで、どちらにどちらが入ってるって関係を示してるわけです。

じゃぁ、関係がわからないってことって、どういうことでしょう?
たぶん、「筆箱」とか「鉛筆」とか「入れる」って単語がバラバラに宙に浮いてるって感じだと思うんですよ。
「AにBを入れる」って形式で、認識する機能をもってないってことです。

じゃぁ、「AにBを入れる」って形式で認識できたら、何がいいんでしょう?
それは、頭で認識したものを、逆に、3次元世界で表現することもできます。
3次元世界で表現するっていうのは、3DCGで表現するだけじゃなくて、ロボットなら、筆箱を開けて、その中に鉛筆を入れるって動作を実際にするってこととかです。
つまり、頭の中で考えたり、想像したものを、現実世界で表現するってことです。

だんだん、分かってきましたか?
「リンダの思考」で表現してるのって、現実世界から必要な構造だけを取り出して、抽象的に表現したわけです。
ごちゃごちゃした具体的なデータをそぎ落として、シンプルに抽象的に表現したわけです。
そして、逆に、その抽象表現から具体、つまり、現実世界に反映させることもできるわけです。

抽象表現って、「AにBを入れる」とかってことですよね。
ここで、一番重要なことを言いますよ。
AやBは、他の単語に変更できるんです。
つまり、操作できるんです。
考えるってことです。
これは、知能とも言えますよね。
現実世界を抽象表現に変換できるってことは、知能の始まりなんですよ。

もっと行きますよ。
抽象表現を、外に見える形で表現したのが言語です。
ほんで、相手も、同じ抽象表現を理解できれば、それが、言葉が伝わるってことです。
「緑の箱を、青い箱に入れる」が理解できないってことは、この抽象表現に変換できないってことなんですよ。

マインド・エンジンの「リンダの思考」では、「入る」って関係しか表現していませんが、それ以外に、上下関係とか、時系列とか、そんな関係があるはずです。

重要なのは、認識した現実世界から、オブジェクト間の抽象的な関係を抽出して、関係を通じて現実世界を認識してるってことです。
現実世界は何も変わらなくても、「緑の箱の中に青い箱が入っている」といった関係性を使って現実世界を把握してるってことです。

これは、注目といってもいいです。
あらゆる情報が混沌とある現実世界のなかから、抽象的な関係性を通して見るってことは、何かに注目したわけです。
位置関係とか時間的前後関係とかに注目したわけです。
そして、その注目した関係性を使って考えたり、想像したりできるわけです。

この抽象的な関係性を扱うのが前頭前野なんです。
ここからは、前頭前野の話です。
人間の前頭前野、じつは、他の動物に比べてかなり特殊なんです。

まずは、大きさです。
ヒトとチンパンジーでは、前頭前野の大きさが全然ちがいますよね。
大きさだけじゃありません。
成長するまでの時間も全然違います。

人の前頭前野は、20代半ばから30歳ぐらいまで発達し続けるそうです。
一方、チンパンジーは3歳までには前頭前野の発達は終えてるようです。
前頭前野の発達を遅れるって、これ、じつは、危険なことなんです。

どういうことかと言うと、4歳未満の子供の死因で多いのは溺死だそうです。
3歳児の子供は、水場とか、危険な場所に簡単に近づくので、常に大人が見ておかないといけないんです。
でも、3歳児のチンパンジーの子供も、お母さんから離れて冒険します。
でも、水場に近づくことは、めったにないそうです。
水は危険だということを理解してるからです。
つまり、何が危険かということを幼いうちに獲得してるわけです。
前頭前野の成長が3歳で完了してるってことは、こういう事なんです。

ヒトは、前頭前野の発達を遅らせるることで、より危険にさらされることとなったわけです。
ヒトは、なぜ、そんな危険な方向に進化したんでしょう?
その代わりに、何を手に入れたんでしょう?

それは、柔軟な思考です。
水場が危険と理解してるってことは、言い換えれば、認識と感情が固定されてるとも言えます。
感情は行動の原動力です。
水場が怖いと認識すれば、水場に近づきません。
つまり、認識した物に対する行動が決まっているわけです。
これは、行動の自由度が少ないとも言えます。

人は、前頭前野を使って、世界を抽象的なレベルで認識できるようになりました。
抽象的なレベルで世界を認識することで、考えて行動できるようになりました。
認識と感情が直接つながっていません。
水場が危険とわかっても、危険を避ける方法を考えることができます。
認識と行動が固定されるわけじゃないんです。
自分の頭で考えて、自由に行動できるようになったんです。

抽象的に世界を把握する機能、これが人間と他の動物の違いを生む根本なんです。
たとえ、同じ世界を見てたとしても、決まった行動しか取れないか、自分の頭で考えて、自分の行動を決めることができるか。
これって、全然違う世界を見てるってなりますよね。
そして、この抽象的に世界を把握する機能、これこそが、言語の根本を支える機能となります。

だから、言葉を話せるAIを作るには、世界を抽象レベルで認識する機能を作るのが先決なんです。
ロボマインド・プロジェクトが、他のAIと根本的に違うのは、この部分から作ろうとしていることです。
これが、ロボマインド・プロジェクトです。

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それでは、次回も、お楽しみに!