ロボマインド・プロジェクト、第138弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。
前回、第137回「絶対ダメ!5歳まで、言葉に接しないとどなる?」で、
文を理解するには、前頭前野の機能が重要だって話をしました。
抽象的な認識は前頭前野で行うって話です。
抽象的な認識って、たとえば、上下関係とか、AにBを入れるとかって、単語と単語の関係とかです。
今回は、もう一段、複雑な話をしたいと思います。
それは、入れ子構造です。
入れ子ってわかります?
ロシアのマトリョーシカってありますよね。
お人形の中にお人形が入ってて、その中にもお人形が入っててって、ずっと続くやつです。
これが入れ子構造です。
再帰構造とも言います。
文も入れ子にできます。
文の中に文が入ってるタイプの文です。
たとえば、「母が作ったカレーを食べたい」
これが一つ目の文とします。
これに対して、
母が作ったカレーを食べたいと、父が、死に際につぶやいた。
これが入れ子の文です。
「母が作ったカレーを食べたい」という文が、父のつぶやいた内容になってます。
入れ子になるっていうのは、こういうことです。
これ、まだ入れ子にすることができます。
母が作ったカレーを食べたいと、父が死に際につぶやいた、というのは母がついた嘘だった。
なんか、ちょっと、切な~い気持ちになってきましたよね。
まっ、それはともかく、こうやって、文って、何段にも入れ子にすることができるんですよ。
さて、こっからです。
第134回「意味とは、こういうことだったのか!」は、覚えてますか?
そこで、「鉛筆を筆箱に入れる」って文を例に挙げて説明しました。
この文を解釈して、3次元世界で実行して、その結果を、「リンダの思考」で筆箱に鉛筆が入った状態を管理するって話です。
この「リンダの思考」で管理してるのが、「AにBを入れる」って抽象的な表現です。
この抽象的な表現に、鉛筆とか筆箱を当てはめたわけです。
AとBの関係を理解するって、こういうことです。
さて、入れ子の文の話です。
「母が作ったカレー」です。
これを、3次元世界で表現することはできそうです。
お母さんがカレーを作ってるとこを表現して、そのカレーを指差すとかです。
これが、「母が作ったカレー」です。
問題は、その次です。
「母が作ったカレーを食べたい」と父がつぶやいたわけです。
こうなると、ちょっと、現実世界で表現できないです。
現実世界で、今、見えてるカレーには、それを作ってる光景は見えないからです。
現実世界に存在しないけど、でも、何を表現してるかはわかりますよね。
「母が作ったカレー」です。
単なるカレーじゃななくて、「母が作ったカレー」です。
母が作ったってことが重要なんです。
映像で表現するとすれば、母が台所でカレーを煮てる光景とかです。
一種の世界といってもいいです。
ここ、意識の仮想世界仮説で考えてみましょう。
意識の仮想世界仮説っていうのは、ロボマインド・プロジェクトの根幹となる仮説です。
簡単に説明すると、目で見た世界を頭の中に仮想世界として作って、意識はそれを認識してるって心のモデルです。
詳しくは、第21回「意識の仮想世界仮説」や、書籍「ドラえもんの心のつくり方1」を見てください。
現実世界のカレーは、頭の中の仮想世界のカレーオブジェクトのことです。
「このカレー」といったときの「これ」は、カレーオブジェクトを指してるわけです。
次は、「これは、母の作ったカレー」を考えてみます。
この場合の「これ」は、単なるカレーオブジェクトじゃありません。
背景にある出来事、世界を指してるわけです。
指示代名詞が、世界そのものを指してるわけです。
これって、どういうことかわかりますか?
前回、「緑の箱に青い箱を入れる」って文がわからない子供の話をしました。
これは、「AにBを入れる」って関係を理解できないってことでしたよね、。
関係を理解できないっていうのは、関係って抽象表現を持ってないってことです。
関係って抽象表現に、当てはめることができないってことです。
それと同じです。
「母の作ったカレー」ってのは、一種の世界です。
これが理解できるには、世界を抽象表現として持っている必要があるわけです。
世界っていうのは、誰がどこで何をしたかっていうことです。
それを抽象的にもっているから、具体的な世界を当てはめることができるんです。
「母の作ったカレー」って、具体的に当てはめることができるんです。
世界そのものを、自由に作って、それを一時的に保持する仕組み。
それがあるから、入れ子になった文を理解できるんですよ。
2段でも3段でも、入れ子になった文を理解できるわけです。
この入れ子の文を考えるとき、いっつも、映画インセプションを思い出すんですよ。
インセプションって映画、見ました?
ものすごい複雑な話なんですよ。
ディカプリオが、他人の夢の中に潜り込んで、他人にアイデアを植え付けるって話なんです。
現実世界で、他人の夢に潜り込んで、ほんで、その夢の中の登場人物の夢にさらに入っていくんですよ。
その、夢の中の夢の中にいるのが渡辺謙なんですけどね。
そこで任務を果たしたら、また、1段、2段と戻って元の現実世界に戻って来るわけです。
こんな複雑なストーリーを理解できるのも、世界そのものを作ったり、保存したりできる脳の仕組みがあるからです。
その仕組みがあるから、入れ子構造の文を理解できるんです。
この仕組みが、人間の持つ言語能力の本質ってわけです。
僕は、脳とか言語の本をよく読むんですけどね。
脳や言語の研究内容も面白いんですけど、その背景の話も、どれも興味深いんですよ。
興味深いというか、悲しい物語がいっぱいでてくるんですよ。
たとえば、前回、5歳までに言葉に接しないと、言葉を理解できるようにならないって話をしましたよね。
これなんか、インドで見つかったオオカミに育てられた姉妹の話が出てきます。
保護されたとき、妹は推定1歳半、お姉ちゃんは推定8歳だったそうです。
その後、どちにも、何年もかけて言葉を教えたそうですけど、ついに、お姉ちゃんは、言葉を習得することができなかったそうなんですよ。
それから、子供達が、自ら言語を発明して、入れ子構造の文を獲得するまでの物語ってのもあるんです。
それは、1970~80年代にかけてのニカラグアの話です。
内戦に明け暮れていたニカラグアに最初の聴覚障害の学校ができたのは1977年だそうです。
それまで、耳の聞こえない子は、各家庭で、手まねで最低限のコミュニケーションをとっていただけでした。
それが、初めて聴覚障害教育が導入されたそうなんですけど、最初教えられた指文字は、現地の文法と合わなくて、全く浸透しなかったらしいんです。
ところが、聴覚障害者の子供同士が集まると、自然と手話が作られていったんです。
でも、それは当事者同士しかわからなかったので、困った先生は、アメリカから手話言語学者を呼んだそうなんです。
こうやって、言語が生まれる瞬間を言語学者が目の当たりにするって、世界でも非常にまれなことが観察されたんです。
これがニカラグア手話です。
このニカラグア手話、手まねから、自然発生的に、文法らしきものを生み出していったそうなんですよ。
そして、数世代を経て、最後には入れ子構造の文も獲得したそうなんですよ。
これ、どういうことかわかりますか?
ヒトは、5歳までに言語に触れないと言語能力を獲得できないって言いましたよね。
でも、言語に触れてさえいれば、その言語が、たとえ不完全であっても、その言語がもってない言語機能まで生み出すことができるってことなんです。
おそらく、前頭前野には、潜在的に、世界を抽象的に保持する仕組みがあるんやと思います。
つまり、目の前の現実世界だけじゃなくて、目の前にない世界を想像したり、保存したりする機能を潜在的にもってるわけです。
でも、それを使わなければ、その機能は退化して、消滅するんだと思います。
ニカラグアの子供達も、頭の中に、想像したり、思い出したりした光景があったんだと思います。
でも、それを文の中に組み込む方法がわからなかったんです。
もどかしい思いをしてたんやと思います。
そのもどかしい思いを、何とか解消しようとして、ついに、入れ子構造の文を発明したわけです。
子どもの前頭前野って、そんな複雑な構造を自ら生み出せるぐらいの柔軟性を持っているんですよね。
考えたら、ものすごい能力ですよね。
入れ子構造とか、物の関係とか、それを理解するのが前頭前野です。
理解するとは、抽象的な構造として持っているわけです。
逆に言えば、AIで言葉を理解するって、こういった抽象的な構造をを作る必要があるってことです。
今のAIがやってることって、単語の出現率を計算したり、それらしい文を生成したりとか、そんなことばっかりです。
でも、僕が思うに、単語とか文って、それは最後の最後の話やと思うんですよ。
それより、根本的な言語の構造は何かとか、そういったことを解明する方が重要やと思うんですよ。
それをやってるのがロボマインド・プロジェクトってわけです。
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それから、さっき紹介した「ドラえもんの心のつくり方」は、説明欄にリンクを貼っておくので、よかったらそちらも読んでください。
それでは、次回も、お楽しみに!