ロボマインド・プロジェクト、第141弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。
つい最近、面白い研究発表がありました。
脳の記憶の仕組みが分子レベルで明らかになったそうです。
今まで、そんなことも分からなかったのかって思いますけど、脳科学って、じつは、ほとんど何もわかってないのが実情なんですよ。
脳に電極を挿したりしてできるのは、ロボットハンドを動かすとかぐらいです。
これは、脳の最後の出力部分です。
「おばあちゃんの家で食べてリンゴ、美味しかったなぁ」なんて、心の中で考えてることは、ほとんどわからないんです。
今回、イギリスのケント大学のベンジャミン・グルト博士が発見したのは、記憶を保持するタリンていう分子です。
記憶の話なんで、心の中で考えることです。
面白いのは、その仕組みが、コンピュータの記憶の仕組みとそっくりだってことです。
今回の発表は、その具体的な仕組みだけなんですけど、じつは、これって、突き詰めると、ヤバい話になるんですよ。
どういう話かって言うと、今の脳科学のやり方じゃ、心のなかで何を考えてるか解明できないってことになるんですよ。
この話、コンピュータの基本原理がわかると、誰でも、納得できると思うんで、まずは、コンピュータの話から始めます。
それでは、はじめましょう!
コンピュータはデジタル回路で出来てますよね。
デジタル回路の最も基本的な要素はAND回路、OR回路、NOT回路です。
この回路を組み合わせれば、足し算とかできます。
これが足し算回路です。
こういった回路のことを組み合わせ回路っていいます。
デジタル回路には、組み合わせ回路ともう一つ、順序回路ってのがあります。
電子工学の授業って、こんな感じです。
こんな話、聞いてたら眠なりますよねぇ。
でも、大丈夫です。
僕は、もっと、本質的で分かりやすい話をしますから、安心してください。
今、話した足し算回路って、二つの数字を入力したら、それを足し算した答えを出力します。
つまりね、入力によって出力が決まるってことです。
ここは分かりますよね。
今度は、これを生物で考えてみましょう。
入力によって出力がきまるわけです。
つまり、生物で言えば、外部刺激だけで、行動が決まるってことです。
かなり原始的な生物ですよね。
ミミズとか、ミジンコとか。
じゃぁ、それより高度な知能って、どういうもんでしょう?
それは、学習できるってことですよね。
じゃぁ、学習ってどういうことでしょう?
それは、経験を活かして、つぎは、さらにうまく行動できるってことですよね。
前回の経験を覚えているってことです。
つまり、記憶です。
さっき、デジタル回路には、組み合わせ回路と順序回路があるって話しましたよね。
足し算回路が組み合わせ回路です。
入力によって出力が決まるタイプです。
もう一つの順序回路ってのは、入力だけで出力が決まらない回路です。
じゃぁ、入力以外の要素ってなにかっていうと、それは、過去の入力なんですよ。
つまり、過去の入力データを覚えているってことです。
コンピュータで言えばメモリのことです。
記憶するだけって思いますけど、記憶するのって、ある意味、計算するより、難しいんですよ。
ちょっと、回路を使って説明します。
これが記憶回路です。
あんまり複雑な話はしないです。
デジタル信号って、0と1だっていいますよね。
0が0Vの電圧だとすると、1は5Vの電圧とかです。
この回路ではSが入力で、Qが出力です。
Sに5Vを入力すると、Qが5Vになるってことです。
記憶するってどういうことかっていうと、Sに5Vを入力したあと、Sを0VにしてもQは5Vを維持するってことです。
最初にSに入力された値を保持してるってことです。
出力を0にするには、Rに5Vを入力します。
こうやって、データをクリアするわけです。
この回路のことをフリップフロップ回路っていいます。
フリップフロップって、日本語に訳すと、ギッコンバッタンです。
つまり、シーソーのことです。
シーソーって、どっちかに傾いたら、その状態を保持しますよね。
つまり、記憶してるってことです。
フリップフロップ回路の細かい説明は省略しますけど、入力に寄らず前回の値を保持するのって、意外と複雑だってのが分かると思います。
生物でも、経験を踏まえて学習することができるってのは、外部刺激だけで行動が決まる生物より高度だって言えるわけです。
さて、こっからが本題です。
今までの話は、これからは話す話の準備です。
冒頭でいいましたよね。
脳の中の記憶の仕組みが分かったって。
まずは、その話です。
ニューロンって聞いたことありますよね。
脳の神経細胞です。
これがニューロンです。
見たことありますよね。
ニューロンとニューロンは、シナプスを介して繋がってます。
シナプスっていうのは、ニューロン同士が繋がるわずかの隙間で、その隙間に神経伝達物質を放出して情報が伝達されるって話です。
このシナプスが記憶の回路を作ってたってとこまでは、今までも、分かっていました。
今回発見されたのは、このシナプスで、どうやってデータを保持してるかって、その仕組みです。
これがその拡大図です。
シナプス間の隙間って、約20ナノメートルです。
1ナノメートルって、原子3個分ぐらいです。
今回は、記憶の仕組みを、最も基本的な分子レベルで解明したんです。
遺伝でいえば、DNAの分子構造を解明したことに匹敵する話です。
そう考えたら、スゴイ話なんですよ。
で、その記憶の分子のことをタリン分子っていいます。
これが、タリン分子です。
グシャグシャってかたまってる部分と、伸びてる部分がありますよね。
さらに拡大してみてみましょう。
ソーセージみたいな棒が、細いひもで繋がってますよね。
ほんで、それがグシャグシャグシャってまとまった状態と、びよーんって伸びた2種類の状態がありますよね。
タリン分子は、この二種類の状態で安定するわけです。
何か刺激を受けると、どちらかの状態となって、次に刺激を受けるまで、その状態を維持するそうです。
これって、さっき説明したフリップフロップ回路とよく似てますよね。
0Vか5Vの信号が入力されると、それを保持して、次に入力されるまでその状態を維持する回路です。
ほんで、タリン分子のグシャっとまとまった状態を0,びよーんと伸びた状態を1ってすると、0と1のデジタル情報を表現できるんです。
たとえば、こんな風に、
000と010ってデジタル情報を表現できるわけです。
これが存在するのが、シナプスの隙間に面してるとこです。
シナプス間で、神経伝達物質を受け取ると、タリン分子の形が変わります。
つまり、000が010になったりするわけです。
この状態は、次に神経伝達物質を受け取るまで維持されます。
つまり、記憶されるわけです。
これが情報の記憶の仕組みです。
グルト博士が言ってるのは、ここまでです。
こっから先は、僕の考えです。
今の話、もうちょっと先まで考えてみようと思います。
ニューロンでは、0101ってデジタル信号で情報が記憶されるわけです。
これは符号化といってもいいです。
または、記号です。
さて、このYouTubeの第一回「決着!谷村ノート 物理学 vs. 哲学」で僕が言ったのは、心はソフトウェアって話でした。
脳というコンピュータの上で動くソフトウェアってことです。
この話をさらに突き詰めたのが、第114回「意識の仮想世界仮説とことん解説 意識のハードプロブレム編」です。
ここでは、ハードウェアとしてのコンピュータと、ソフトウェアの境目はどこかってことを厳密に定義しました。
それは、外部からの入力をAD変換、つまりアナログ信号をデジタル信号に変換したときです。
01のデジタル信号に変換すれば、その後は、あらゆる情報をデジタルで処理します。
たとえば、リンゴは、0011とかって表現するわけです。
その後は、プログラムで、0011として処理します。
これ、何を意味するかわかりますか。
CPUを観察すれば、01の信号が出入りしてることは分かると思います。
でも、たとえ信号の流れを100%解明できたとしても、0011がリンゴを表すってことを解明するのは、かなり難しいですよね。
わかってきましたか?
ニューロンには、01のデジタル信号が記憶されてましたよね。
頑張れば、ニューロンに保持される01の信号を全て解読できるかもしれません。
でも、それが分かることと、その意味がわかることは別だってことです。
プログラムの中身がわかるのとは、全然、別だってことです。
もしかしたら、0011がリンゴだってことぐらいは分かるかもしれません。
でも、主観で思ってるのは、「おばあちゃんの家で食べたリンゴ、美味しかったよなぁ」ってこととかです。
「おばあちゃん」とか「リンゴ」って名詞だけじゃなくて、「食べる」とか、「美味しい」とかって動詞や、過去か未来かって時制も01で表現されるわけです。
さらには、リンゴは赤いとか、楽しい思い出か、悲しい思い出かって感情も01で表現されます。
次々に流れてくる01の信号を全て読み出せても、この01はリンゴの赤だ、この01は、悲しみを表現してるとかって解明するのは、ほとんど不可能なんです。
じゃぁ、どうすればいいんでしょう。
脳がどうやって考えてるか解明する方法はないんでしょうか?
一つだけ、方法があります。
それは、脳を観察するんじゃなくて、脳で動いてるソフトウェアを作ることです。
心のモデルを考えて、それと同じ動きをするプログラムをつくるわけです。
そして、それが人間の心と同じように動けば、そのプログラムは、脳と同じ動きをしてると言えるわけです。
心をつくりながら解明するわけです。
そのアプローチでしか、心を解明することはできないと思います。
そして、それをやってるのがロボマインド・プロジェクトってわけです。
このロボマインド・プロジェクトに興味がある人は、チャンネル登録、高評価お願いします。
それから、このチャンネルが本になりました。
説明欄にリンクを張っておきますので、よかったら、読んでみてください。
それでは、次回も、お楽しみに!