第143回 なぜ人間には、フレーム問題が起らないのか?


ロボマインド・プロジェクト、第143弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

コンピュータって、計算、めちゃ速いですよね。
そろばん1級の人より、よっぽど速いですよね。
計算だけみたら、コンピューターができた当初から、人間に勝ってたわけです。

でも、計算で勝っても、チェスで人間に勝つのは絶対無理やろって60年前は言われてました。
それが、1996年にチェスのチャンピオンにAIが勝ちました。
でも、チェスには勝てても、囲碁や将棋は無理やろとも言われてましたけど、これもあっさり、AIが勝ってしまいました。

さて、AIの目的は、ゲームで人間に勝つことでしたかねぇ?
違いますよね。
人間と同じような知能を持たせて、人間と同じような仕事をしたり、会話ができるようになることですよね。
特定のジャンルに特化した人工知能のことを特化型人工知能っていいます。
チェスや将棋専用のAIとかです。
人間のように何でもできる人工知能のことを汎用人工知能っていいます。

AIが目指してるのは、汎用人工知能です。
でも、いっこうに、そんなAIは出て来てないです。
できたのは、特化型人工知能ばかりです。
なんででしょう?
たぶんね、今までのAIのやり方、それが間違ってるんですよ。
そろそろ、気づいて欲しんですよ。
根本的な間違いを犯してるってことに。

じゃぁ、その根本的な間違いって何でしょう。
それが、今回のテーマです。
それでは、始めましょう!

まず、今までのAIのやり方です。
それは、人間に勝てるかどうかって課題を出すタイプのやり方ってことです。
チェスや将棋で人間で勝てるかって課題です。

ある特定の課題を競わせた場合、当たり前ですけど、一番重要なのは、勝つことですよね。
つまり、どんなやり方をしたかは関係なく、最終的に、勝てばいいわけです。

最近だと、文章の穴埋め問題を、人間とAIに競わせるってことをやってました。
ほんで、AIが人間のスコアを超えたからって、AI業界では、ついに、文章の意味理解でも人間を超えたって言ってます。

でも、そのAIがどうやってるか、知ってます?
単語Aの次に、単語Bが来る確率が何%とかってのを、膨大な文書データから計算してるわけです。
「おじいさん」って単語の次に「おばあさん」って単語が来る確率は0.何%とかってデータを集めて、それを使って解いてるだけです。
そんなやり方で人間に勝ったとして、それって、文の意味を理解してるって言えます?
言えないですよね。

そんなこと、中学生でも分かりますよね。
でも、これで、読解力でも、AIが人間に勝ったって、大学の教授とかが言ってるんですよ。
おかしいと思うでしょ。

じゃぁ、どこが間違ってたかってことです。
それは、スコアの勝ち負けで競わせてたことです。
そんなことしたら、そりゃ、開発者は、ゲームに勝つことにフォーカスします。
そのゲームに勝つだけのAIになります。
その課題しか解けない、特化型人工知能しかできないわけです。

じゃぁ、どうすればいいんでしょう?
それは、その逆をすればいいんです。
つまり、結果にフォーカスするんじゃなくて、方法にフォーカスするんです。
いかに人間に勝つかってことにフォーカスするんじゃなくて、いかに人間と同じように考えるかってことにフォーカスするんです。
人間と同じ思考ができれば、人間と同じような知能をもてるはずです。
つまり、何にでもできる汎用人工知能ができるってことです。

それじゃぁ、コンピュータと人間の思考の違いを考えていきましょう。

たとえば、こんな問題があったとします。
(ホワイトボード)

▢+3=10

小学生の算数の問題です。
中学生なら、▢をxとして一次方程式として解きますよね。
そしたら、式変形して解けますよね。
こんな感じです。
(ホワイトボード)

x=10-3=7
って感じです。

でも、小学校ではこう習いません。
▢+3=10
この式に、1から順番に数字を入れていきます。
1+3=4 これは違う
2+3=5 これも違う
こうやって、7+3=10
あっ、これが正解やってことで、7が答えってわかります。

これ、効率わるいですよね。
式変形すれば一発で解けるから、式変形の方が優れてますよね。

中学になると、二次方程式の解の公式ってのを学びます。
覚えてますか?(ホワイトボード)
ax^2+bx+c=0の解は、
x=-b±√b^2-4ac/2a
ってなります。
だんだん、難しくなってきましたねぇ。

こうやって、答えを求める式が分かれば、方程式を簡単に解けるわけです。
でも、これって、2次方程式しか解けないですよね。
3次方程式は、これじゃ、解けません。
つまり、このやり方が、特化型人工知能ってわけです。

じゃぁ、小学生のやり方はどうでしょう。
1、2とか、適当に数字を入れて解く方法です。
これって、2次方程式でも3次方程式でも使えます。
正確な答えがすぐに出ないですけど、だいたいの答えならわかります。
だいたい、このぐらいとかって。
たぶん、これが人間の考え方なんですよ。
人間の思考方法って、こんな感じでなんですよ。
正確な答えはわからないかもしれないですけど、たいていの問題に利用できる考え方です。
つまり、汎用人工知能はこっちなんですよ。

もう少し考えていきますよ。
▢に1,2って入れるやり方、これ言ってみれば、シミュレーションとも言えます。
少しずつ動かしながら、答えを模索するってやり方です。
これが人間の推論っていうわけです。

もっと一般的な場合で考えてみましょう。
たとえば、太郎君は、朝寝坊して、学校に遅刻しそうでした。
そんな場合、太郎君は、どんな行動を取るでしょう?

これを人間に近い推論をするAIで考えるとします。
まず理解しないといけないのは、「遅刻」の意味です。
そのために、まず、A地点からB地点まで移動を表示するシミュレーションを作ります。
そこに、現在時刻と、何時に着かないといけないかの指定時刻も表示します。
そして、A地点からスタートして、速度Vで移動して、B地点に到着するシミュレーションを実行します。
到着したときの現在時刻が、指定時刻より遅ければ遅刻と定義できます。
逆に、早ければ間に合うです。
こうやって、シミュレーションを使って、遅刻、間に合うの意味を定義できるわけです。

人は、ものごとを抽象化したり一般化したりすることができます。
抽象的なモデルの例として、第137回「絶対ダメ! 5歳まで、言葉に接しないとどうなる?」で、人間は、前頭前野に抽象化する機能を持っているって話をしました。
抽象化の例として、筆箱に鉛筆を入れるときの「入れる」とかで説明しました。

今回も、その抽象化の話です。
このシミュレーションは、遅刻とか間に合うを抽象化したってわけです。
だから、学校に遅刻するも、会社に遅刻するも、待ち合わせに遅刻するも理解できます。
汎用的に使えるわけです。

さて、課題は遅刻しそうなとき、どんな行動を取るかでしたよね。
このアニメに登場する要素は、出発時刻、到着時刻、指定時刻、速度Vです。
遅刻しそうってことは、到着時刻が指定時刻より遅くなりそうってことです。
だから、到着時刻を、もっと早くしたいわけです。

つまり、どんな行動を取るべきかって課題は、到着時刻を早くするには、どの要素をどう変更したらいいのかって課題に置き換えることができます。
それを確認するには、どうすればいいでしょう?
はい、そうですね。
シミュレーションしてみるわけです。

たとえば、出発時刻をさらに遅らしてみます。
そしたら、到着時刻がもっと遅くなります。
これはダメです。

次は、速度Vを少し大きくしてみます。
すると、到着時刻が速くなりました。
間に合うかどうかまでは決められないですけど、少なくとも、速度Vを上げると、間に合う可能性が高くなるとは言えそうです。

そこまで分かれば、次は、速く移動する方法を考えます。
たとえば、走って学校に行くとか、自転車で学校に行くとかです。
こうやって、推論できそうですよね。

どうでしょう?
シミュレーションで上手く推論できましたよね。
抽象化したモデルを作って、シミュレーションすることで、人間のように推論できました。

たぶん、そんなの当たり前って思ってますよね。
それが、これって、全然、当たり前じゃないんですよ。
当たり前って思うのは、人間だからなんですよ。

コンピュータの世界じゃ、普通、こんな風に考えないです。
どうやるかって言うと、太郎君の取り得る行動を、順番に考えていくんです。
でも、そんなもの、無限にあるんですよ。
顔を洗うとか、お風呂に入るとか、腕立て伏せをするとか。
そんなこと、全部考えてたら、いつになっても正解に辿り着けないですよね。
これが、人工知能の最大の課題、「フレーム問題」です。

「フレーム問題」って、AIの本とか読んだら、必ず、出てきます。
ベストセラーになった、松尾豊教授のこの本「人工知能は人間を超えるか」にも、フレーム問題のことを、「人工知能の最大の難問」として紹介してあります。
このチャンネルでも、第37回、38回の「フレーム問題 完全解決!!」前編、後編で語ってますので、興味ある方は、そちらも見てください。

そんな人工知能最大の難問「フレーム問題」も、言葉の意味をモデル化して、シミュレーションすることで、どんな行動を取れば、解に近づくかってことが分かります。
それは、人間の思考方法でもあるんです。
だから、人間だと、フレーム問題は起こらないんです。

人間のように何でもできる汎用人工知能を作るには、人間と同じように考える仕組みをつくらないといけないんです。
そして、それを作ってるのが、ロボマインド・プロジェクトってわけです。
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それから、このチャンネルが本になりました。
説明欄にリンクを張っているので、よかったら、見てください。
それでは、次回も、お楽しみに!