第151回 【クララとお日さま②】なぜ、メディアは沈黙するのか? グローバル化と格差社会と、今、アメリカで起こっていること ノーベル賞作家、カズオ・イシグロが描くAI 解説編1


ロボマインド・プロジェクト、第151弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

さて、前回、第150回「クララとお日さま 全ストーリーを15分で解説」の続きです。
今回は、その解説になります。
ストーリー自体は難解じゃないので、解説することはないと思うので、AIの技術的可能性について解説していこうと思います。

って思ってたんですけど、やっぱりこのことについて触れないわけにはいかないです。
それは、政治です。
政治の話題は、扱いが難しいので、このチャンネルでは触れないようにしていました。

今回、この本を読んで、一番感じたのはカズオ・イシグロの政治感覚です。
なんといってもノーベル賞作家です。
知識層です。
リベラルの頂点にいる人です。
僕は、カズオ・イシグロの本を読んだのは初めてですけど、この本読んで感じたのは、意外と、リベラルに批判的な人だなぁってことです。
あれッと思って、カズオ・イシグロのインタビューなんかを読んでみたら、確かに、鋭いことを言ってるんです。

たとえば、「東洋経済」のインタビューでこう語っています。

『俗に言うリベラルアーツ系、あるいはインテリ系の人々は、実はとても狭い世界の中で暮らしています。東京からパリ、ロサンゼルスなどを飛び回ってあたかも国際的に暮らしていると思いがちですが、実はどこへ行っても自分と似たような人たちとしか会っていないのです。

私は最近妻とよく、地域を超える「横の旅行」ではなく、同じ通りに住んでいる人がどういう人かをもっと深く知る「縦の旅行」が私たちには必要なのではないか、と話しています。自分の近くに住んでいる人でさえ、私とはまったく違う世界に住んでいることがあり、そういう人たちのことこそ知るべきなのです』

よく言ってくれたって思います。
そうか、この視点で書かれたんだなと思って、改めて読み返してみると、カズオ・イシグロの鳴らす警鐘が聞こえてきます。

その前に、実際に、今、世の中で何が起こってるのか事実を確認しときたいと思います。
そこで、まず、取り上げるのがピケティです。
世界中でベストセラーになったトマ・ピケティの『21世紀の資本』は覚えていますか。
2014年に日本でも出版された経済学の専門書です。
ページ数が700ページ以上もあって、定価が5500円もする本が、日本でも13万部以上売れました。
それもすごいんですけど、驚くべきは、その中身です。

この本で言ってるのは、この不等式だけです。

r大なりg

これだけじゃぁ、意味が分からないと思うので、噛み砕いて説明します。
rは資本収益率です。
資本成長率っていうのは、株とか土地とかの資産が生み出すお金です。
株の配当とか、マンションの家賃収入とかです。
一言で言えば、金持ちが働かなくても手に入れてるお金ってことです。
gは経済成長率です。
経済成長率ってのは、労働から生み出されるお金のことです。
汗水たらして働いて得られるお金ってことです。

つまり、r>gってことは、貧乏人がいくらがんばって働いても、金持ちが働かずに手に入れてるお金には届かないってことです。
これが何を意味するかって言うと、貧富の差は、どんどん開いていくってことです。

でも、そんなこともないんじゃないのって思いますよね。
たしかに、頑張って一代で大金持ちになったって話とか、聞いたことありますよね。
じつは、この不等式が逆転したことがあるです。
それは、戦後の経済成長の時です。

ここで、この本のどこがすごいのかって話をしときます。
経済学って統計を使うでしょ。
統計って、データが少ないと、いくらでお自分の都合のいいように読み解けるんですよ。
ピケティのすごいのは、18世紀から現代までの3世紀にわたって調べたんですよ。
それも、20か国以上のデータです。
何のデータかって言うと、富と貧困に関するデータです。
じつに、15年以上、かけて集めてたそうです。
データに対する思い入れがハンパないです。
ここまでデータを集めて、初めて、真実が見えてきます。
これは、そのデータを基に、紀元0年から2100年まで拡張したグラフです。

どうでしょう。
人類の歴史において、ほとんどの時代はr>gが成り立ってますよね。
でも、20世紀の戦後、一時的にrとgが逆転してます。
でも、それも21世紀で終わりです。
再び大きく開いてきています。
努力すれば報われるっていうのは、僕らの世代が若いころのことだけなんですよ。

歴史の大きな流れとして、まず、これを押さえておきましょう。
こっから、ようやく「クララとお日さま」の世界に入って行きます。

この小説の背景を簡単に説明しときますと、近未来のアメリカ社会です。
クララというのはAIロボットです。
ジョジーという14歳の女の子の人工フレンドです。
本ではAFと呼ばれています。

その社会では、格差があります。
詳しくは、前回説明しましたけど、向上処置という遺伝子編集の手術を受けた人と、受けなかった人で社会が分断されています。
大学に行けるのは、向上処置を受けた人だけで、その人達が社会を動かしているようです。
おそらく、向上処置を受けるのには大金がかかるでしょう。
つまり、お金さえあれば、向上処置を受ければ頭が良くなって大学に行けるけど、お金がないと、いくら勉強しても、大学に行けないってことです。
貧富の格差を逆転するチャンスがほとんどない社会とも言えそうです。
だから、AFを持てるのも、お金持ちだけというわけです。

今回注目するのは、ジョジーのお父さんです。
ジョジーのお父さんは、ジョジーのお母さんと離婚して、今はクララと離れて暮らしていますが、優秀な技術者です。
お父さんは、かつては大企業で働いていたようですけど、何かがあって、その会社を辞めさせられたようです。

そのお父さんの現在について、語られる場面があります。
どうも、アメリカには多くのコミュニティがあって、その一つにお父さんは属しているようです。

ジョジーに「パパは仕事をなくしてよかったの?」と聞かれて、こう答えてます。
「ほんとうの意味で仕事を失ったわけじゃない」
「パパはあそこが好きだ」
「とても素晴らしい人々と生活している。ほとんどはパパと同じ道をたどった人々だ」
さらに、コミュニティは武装した自警団をもっているようです。
軍隊まで持った小さい国が、アメリカの中に、いくつもあるわけです。

さて、ここでグローバル化について、整理しておきましょう。
国境の壁を無くして、誰もが自由に行き来できる世界をつくろうとするのがグローバル化です。
素晴らしいですよね。
さて、これで得するのは誰でしょう。
それは、大企業や多国籍企業です。
なぜなら、国境の壁が無くなれば、安い労働力を得られるからです。
安い賃金で物を生産できます。

それじゃぁ、逆に、グローバル化で困る人は誰でしょう?
それは、自国の労働者です。
海外から来た低賃金の労働者に仕事を奪われるからです。
結果として、どうなるかと言うと、大企業や多国籍起業の経営者は、ますます富み、労働者はますます貧しくなります。
格差の拡大です。

じゃぁ、自国の労働者を救うにはどうすればいいでしょう?
それは、外国の労働者でなく、自国の労働者を雇うことです。
つまり、外国からの労働者の流入を防いで、企業は、自国の人を雇い、自国だけで完結するようにします。
ただし、こうすると、企業は多国籍企業のような莫大な利益は生み出せません。
ほどほどの利益あげて、地元に還元するといったローカル経済となります。
このような政策を推し進めたのがトランプ大統領です。
逆に、グローバル化を進めてるのがバイデン大統領ってわけです。

現在、世界を動かしてる多国籍起業といえばGAFAです。

最初で説明しましたけど、21世紀になってrとgが逆転しましたよね。
貧富の差が一気に拡大したわけです。
この原因は、ITです。
情報は国境を簡単に超えるので、一気にグローバル化したわけです。
GAFAの台頭もこの頃です。
GAFAやシリコンバレー、ウォール街がバイデンを支持するのも理解できますよね。

さて、本に戻ります。
クララの時代は、現代のアメリカを推し進めた社会というのが見えてきました。
格差が進んで、上層と下層とは、ほとんど交流がありません。
世界は上層の人だけでコントロールしています。
上層の人は、世界中と繋がっています。
これがグローバル社会です。
一方、下層の人は、あちこちにコミュニティを作って生きています。
ジョジーはお父さんに質問します。
「パパもそこから出てきたら?ギャングだとか銃だとか、そんな場所になぜ住み続けるの?」

これって、小説の中の話だけじゃないですよ。
去年起こったジョージ・フロイド事件って覚えていますか?
白人警官が黒人を殺した事件です。
問題は、その後に起こった抗議デモです。

日本では、あまり報道されなかったですけど、あの時、シアトルの街が、デモ集団にのっとられました。

文字通り、乗っ取られたんです。
なんと、街からは、警察も撤去したんです。
街の入口は、ライフルを持った自警団が守っています。

この状態が、約1ヶ月続きました。
これが、2020年の6月にアメリカのシアトルで、実際に起こったことなんですよ。

この小説には、アメリカには、こんなコミュニティがいくつもあると書いてありました。
これがグローバル社会の現実です。

アメリカ大統領選挙が終わった後、日本でも、トランプ支持者のことをこんな風に言う知識層をよく見かけました。
「トランプ大統領は不正投票で負けたって本気で思ってるらしい」とか。
「ちゃんとした高等教育を受けてる人が、どうしてしまったんだろう」って。

これのどこがおかしいか分かりますか?
この人の中では、自分が正しいって確信してるんですよ。
これって、トランプ支持者と同じなんですよ。
まさか、自分の方が間違ってるなんて、これっぽっちも思ってないわけです。

じゃぁ、なんで、そこまで疑ってないんでしょう。
それは、日本のメディアの偏った報道を見てるからです。
じゃぁ、なぜ、日本のメディアが偏った報道をしてるかというと、アメリカのメインストリームメディアの偏った報道を垂れ流してるからです。
じつは、アメリカでは、選挙を公平に報道しないといけないという法律がないんです。
だから偏った報道をしてるんです。
じゃぁ、なぜ、アメリカのメインストリームメディアがバイデンを支持するかというと、多国籍企業が広告主だからです。
一言で言えば、自分にメリットがあるからです。
いってみれば、日本の新聞が消費税10%増税に反対しなかったのは、新聞社は10%増税を逃れてたからってのと同じ理屈です。
そんな背景も分からずに、メディがが伝えることだから正しいって本気で思ってる人が多すぎますよねぇ。

でも、ネットは、そんなの関係ないとでも思ってませんか?
ネットをコントロールしてるのはGAFAですよ。
都合の悪い意見は、広がらないようにコントロールされてます。
大統領のツイッターアカウントが凍結される時代ですからね。

グローバル企業にとって都合のいい情報だけ見せられて、結果として、格差がどんどん開いてるのが現状なんです。
でも、日本は関係ないと思ってませんか?

その国の貧困の度合いを測る相対的貧困って数値があります。

これは、貧富の格差がどれだけ開いてるかを示す数値です。

日本は、アメリカについて世界第4位です。

日本は、いまや、7人に一人の子供が貧困に苦しむ国なんですよ。
毎日、ちゃんとご飯を食べれない子供がクラスに4人もいるんです。
僕が、子供の頃とは考えられないぐらい貧富の格差が進んでいます。

これが、グローバル化の影響で、起こっている現実です。
冒頭のカズオ・イシグロのインタビュー覚えていますか?
世界に行く横の旅より、同じ通りに住んでる人を深く知る縦の旅をしようって話です。
リベラルの中では珍しく、カズオ・イシグロは、グローバル社会が隠そうとしてることに、ちゃんと目を向けようとしてるんです。

最後に、ジョジーのボーイフレンド、リックのその後について触れておきます。
向上処置を受けてないリックは、大学に行くことは諦めて、仲間を見つけて、自分らで技術を磨いています。
上層の人たちが作った社会に乗ることが、自分に合った生き方じゃないんです。
生き方なんか、いくらでもあるわけです。
それは、もしかしたら上層の人が一番、隠したい情報なのかもしれません。
カズオ・イシグロは、そんなことを言いたかったんじゃないでしょうか。

今回は、AIの話ができなかったので、次回は、クララの実現可能性について、AIと心の観点から語ってみたいと思います。
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それでは、次回も、お楽しみに!