第157回 あっちの世界とこっちの世界を繋げるたった一つの物理法則①


ロボマインド・プロジェクト、第157弾
こんにちは、ロボマインドの田方です。

電磁波って、遠くまで届きますよね。
他の銀河系まで届きますしね。
とはいっても、電磁波が届くのは、この世界だけです。
あの世までは届きません。
もし、あの世まで届いたら、死んだおじいちゃんと電話できます。
残念ながら、あの世は、僕らが住んでるこっちの世界の物理法則は通じないようなんです。

さて、こっからが本題です。
今回の話は、こっちの世界と、あっちの世界を結び付ける物理法則の話です。
ただ、あっちの世界ってのは、あの世のことじゃないんです。
それが、どの世界かってのは、後で言いますね。
ただ、この、僕らが生きてる、この物理世界じゃないってことだけは言っておきます。

それから、その二つの世界を繋げる物理法則。
それは、先に言っておきます。
それは、「熱力学第二法則」です。
なんか、急に難しくなってきましたね。
でも、数式とか一切つかわずに、意外な世界が繋がってるってことを証明しますよ。
それでは、始めましょう!

エネルギー保存の法則ってありましたよね。
中学校で習ったはずですけど、覚えてますか?

たとえば、糸の先に重りをぶら下げて、上を釘に結びます。
重りをこうやって持ち上げて、手を離すと、釘を中心にブラーンブラーンって揺れます。
手を離したとこが一番高いです。
これを、位置エネルギーが最大って言います。
重りが一番下に行ったとき、一番速くなりますよね。
この時、運動エネルギーが最大になります。
高さは一番低いので、位置エネルギーは0になります。
そのまま、反対側まで触れて、一番上まで行ったとき、速度が0になるので、ここは運動エネルギーが0です。
その代わり、位置エネルギーが最大となります。
こうやって、振り子は、位置エネルギーと運動エネルギーを交換しながら動き続けます。
ほんで、重要なのは、位置エネルギーの大きさと運動エネルギーを足した合計は、常に同じになるんです。
これがエネルギー保存の法則です。

ただ、実際は、釘と糸の摩擦とか、空気抵抗とかがあるので、振れ幅がだんだん小さくなって、最後には一番下で止まります。

さて、次は、熱力学第一法則について説明します。
さっきのエネルギー保存の法則は、運動エネルギーとか、力学的エネルギーについての話でした。
熱力学第一法則は、これに熱力学も加えたもんなんです。
熱力学って、たとえば、ピストンがあって、その中の気体を熱してピストンを動かすとかって場合に使います。
この場合、熱エネルギーが、ピストンを動かす力学的エネルギーに変換されたわけです。
熱力学第一法則って言うのは、この熱エネルギーを、さっきのエネルギー保存の法則に加えたもんです。
つまり、力学的エネルギーと熱エネルギーを足した合計は、常に一定だって法則です。
熱エネルギーだろうと、力学的熱エネルギーだろうと、お互いに変換したとしても、その合計は変わらないって、まぁ、当たり前の話です。
ここまではいいですよね。

さて、次が、今回のテーマの熱力学第二法則です。
こっから、ちょっとずつ、話がおかしな方向に進むので、注意して聞いておいてくださいよ。

さっきの振り子の話も、ちゃんと熱力学第一法則がなりたってますよね。
つまり、振り子の振れ幅がだんだん小さくなるのは、摩擦や空気抵抗で熱エネルギーに変換されたわけで、エネルギー全体の総量は変わってないって言えるんです。
これを別の見方をすると、エネルギーが、摩擦とかの熱エネルギーで漏れ出てるわけです。
永久に振れる振り子を作ろうと思っても、どうしても、熱って形でエネルギーが漏れるんです。
これが熱力学第二法則です。
つまり、熱エネルギーによる漏れを0にできないってことです。

この熱力学第二法則、別の呼び方があります。
それは、エントロピーの法則です。
エントロピーって言葉、聞いたことある人もいますよね。

(青追加、赤削除)
エントロピーってのは、エネルギーの流れやすさっていうか、起りやすいことと起こりにくいことがあるって自然の法則ってことです。
振り子の例で言うと、位置エネルギーや運動エネルギーなんかの力学的エネルギーより、熱エネルギーの方が変換しやすいというか、流れやすいってこと。
振り子の力学的エネルギーは熱エネルギーになって、空中に放出されたわけですよね。
これが、逆に、空中から熱を奪って振り子の振れ幅がドンドン大きくなるってこと、絶対起こらないですよね。
自然に起りやすいって、こういう事です。
自然に起りやすいことが起こることを、エントロピーが増大するって言います。
このエントロピーで熱力学第二法則を言い換えると、外部からエネルギーを加えない限り、エントロピーは増大するってなります。

たとえば、風呂を沸かしたとします。
その後、火を止めて放っておくと、どうなります?
風呂の温度は下がって行って、最後には、部屋の温度と同じ温度になりますよね。
厳密には、お風呂の温度で部屋の温度も上がるので、風呂と部屋の平均の温度になります。
これがエントロピー最大の状態です。
ようするに、放っておいたら、平均になるってことです。
これがエントロピーの法則です。

このエントロピーの法則、じつは、物理法則の中でも、ものすごく特殊なんです。
何が特殊化って言うと、物理の法則の中で、唯一、時間の向きを含んでるんですよ。
どういうことかって言うと、たとえば、最初に説明した振り子の話。
摩擦とか考えないと、永久に振り続けますよね。
摩擦を考えないってことは、エントロピーの法則を考慮しない場合です。
これをビデオで撮ったとします。
そのビデオを逆回転で再生したとします。
そのとき、どっちが普通の再生で、どっちが逆回転の再生か分かりますか?
分からないですよね。
これが、時間の向きがないってことです。

それじゃあ、今度は、摩擦があって、だんだんふり幅が小さくなる場合を考えてみます。
つまり、エントロピーの法則を考慮した場合です。
同じようにビデオで撮影して逆回転に再生したら、すぐに分かりますよね。
何もしないのに、振り子の振れ幅が、だんだん大きくなるなんて、そんなこと、ありえないですよね。
これが、エントロピーの法則には、時間の向きが存在するってことなんです。

この時間の向きの有る無しのこと、別の言い方もします。
時間の向きがないのを可逆変化っていいます。
逆再生しても違和感ないタイプです。
時間の向きがあるのが不可逆変化です。
逆再生したらおかしいって気づくタイプです。

さて、ようやく準備が整いました。
こっからが本題です。
二つの世界がエントロピーの法則で繋がるって話です。
今回の話、物理の有名な思考実験から始まります。
その思考実験は、「マックスウェルの悪魔」って呼ばれています。
物理学者ジェームズ・マクスウェル(1831-1879)が1867年に提唱した思考実験です。
なんと、この問題が解けたのは、それから100年以上も経った1980年代に入ってからなんですよ。

「マクスウェルの悪魔」の問題、僕も、学生時代から何度も理解しようとしたんですけど、イマイチ、何が問題かよくわからなくて、断念してたんですよ。
それが、最近、量子コンピュータについて調べてたら、あぁ、そういう言ことやったんかって、ようやく理解できたんですよ。
そのぐらい、やっかいな問題なんですけど、なるべく分かりやすく説明しますね。

まず、AB二つの部屋があります。
二つの部屋には気体がはいっていて、同じ温度とします。
それから、この部屋は、壁からは温度が伝わらないとします。
気体ってのは、分子が空中をランダムに飛びまわってる状態のことですよね。
温度が高い分子は速く飛んで、温度が低い分子は遅く飛んでます。
この図だと、赤い球が温度が高い分子で、青い球が温度が低い分子ってことです。

さて、AB二つの部屋の仕切り壁には、分子一個が通れるぐらいの小っちゃいドアがあるとします。
ここで、マックスウェルの悪魔が登場します。
この悪魔は、この小っちゃいドアを開け閉めするんですよ。
ただし、ドアの開け閉めに必要なエネルギーは0とします。
どんなときにドアを開けるかって言うと、Aの部屋の温度が高い赤い分子がドアに向かって飛んで来たら、その瞬間、ドアを開けるんです。
そしたら、温度が高い分子がBの部屋に行きますよね。
逆に、Bの部屋の温度が低い青い分子がドアに向かって飛んで来たら、その瞬間、ドアを開けて、温度の低い分子をAの部屋に移動させるんですよ。
これを繰り返したら、Aの部屋の温度が低くなって、Bの部屋の温度が高くなりますよね。

これがマクスウェルの悪魔の思考実験です。
これだけじゃ、何を言いたいのか、よく分からないですよね。
それを、これから、詳しく説明していきますよ。

まず、ここで起こってることは、エントロピーの法則に反してるってことです。
最初、同じ温度だった二つの部屋が、時間が経過したらAは低く、Bが高くなりましたよね。
こんなこと、普通、絶対におこらないですよね。
お風呂をそのままにして放っておいたら、勝手に湯が沸いたってのと同じことですから。

エントロピーの法則って何でしたか?
外部からエネルギーを加えることなく、エントロピーが減少することはないってことでしたよね。
何もしないのに、勝手に温度差が開くことはないってことです。
つまり、この思考実験では、エネルギーを使わずに、エントロピーが減少してるんです。
物理法則に反することが起こってるんです。
逆に言えば、エントロピーの減少させるのに、どっかでエネルギーが使われてるはずなんです。
それが分からないんです。
ここが問題なんです。

たぶん、真っ先に思うのは、ドアを開け閉めですよね。
ドアの開け閉めのエネルギーが0って仮定してますけど、そこに無理があるんちゃうん?
って思いますよね。

でも、これは、物理の思考実験では、よくやることです。
無視できる小っちゃい値は無視するんです。
なんせ、分子一個が通るだけのドアの開閉です。
部屋全体のエネルギーの大きさから考えたら、分子一個分のドアの開閉のエネルギーなんて、無視していいぐらい小っちゃいんです。
ここは問題ないんです。

じゃあ、他に、どこで、エネルギーが使われてるんでしょう?
それを探る前に、もう一つ、理解しておかないといけないことがあるんです。
それは、この問題が、なぜ、それほど重要かってことです。
だって、100年以上もかけて、理論物理学者たちが考え続けるんですよ。
マクスウェルの悪魔のどこに、そんな魅力があるんでしょう?
分かりますか?

最後、撮り直し(赤削除、青追加)

たぶん、僕が何度読んでもよく理解できなかったのは、その問題意識を共有してなかったからだと思うんですよ。
理論物理学者が、マクスウェルの悪魔から、何を探そうとしてるのか、それを分かっていないと、この問題の本当の意味が分からないと思うんです。
だから、それを先にハッキリさせときますよ。
ようするに、部屋のエントロピーが減少してるわけですよね。
ということは、どっかで、エントロピーが増加してないと、全体のバランスが取れないですよね。
これ、どういうことか分かりますか?
ハッキリ言いますよ。
誰も知らない所で、エントロピーが増加してるかもしれないってことです。
もっと言いますよ。
20世紀になって、相対性理論、量子力学と登場して、物理世界で起る事は、ほぼほぼ解明されました。
増加したエントロピーが物理世界に見つからないってことは、物理世界以外でエントロピーが増加してるってことです。
未知の世界があるかもしれないってことです。
しかも、その世界とは、エントロピーの法則を使って繋がっているんです。
その未知の世界が、最初に言った、あっちの世界です。

おっと、もう、こんな時間になってしまいましたね。
この続きは、次回にさせてください。

でも、まぁ、ここで終わるのは、さすがに、僕も心苦しいので、ヒントだけ、出しておきます。
このマクスウェルの悪魔の思考実験。
エントロピーが増加してた意外な場所ってどこか。
それは、悪魔の頭の中なんです。

えっ、どういうこと?

はい、今回は、ここまでにしときます。
続きは、次回お伝えしますね。
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説明欄にリンクを張っていますので、よかったら読んでください。
それでは、次回も、お楽しみに!