第159回 発表!心のAIコンテスト


ロボマインド・プロジェクト、第159弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

最近、思うんですけどね、会話AIっていうか、自然言語処理って、チューリングテストに引っ張られ過ぎてると思うんですよ。
まぁ、僕も含めてですけどね。
チューリングテストってのは、人間とどれだけ会話が続くかってのを競うテストです。
人間と普通に会話ができるAIができれば、それは、もう、人間の心を持ったAIって言ってもいいってことです。
それを目指した会話AIとかチャットボットのコンテストが、あちこちで行われてます。

チャットボットって、相手がこう言ったら、こう返すってシナリオでつくられてるんですよ。
たいていのチャットボットは、ピザ注文システムとか、ジャンルが決まってるから、シナリオを作れるんです。

でも人間は、ジャンルなんか決めなくても、何気ない雑談ができますよね。
会話AIのコンテストは、そんな雑談を想定してるんです。
そうなると、シナリオを作れないから、急に難しくなるんですよ。
そこで、いろんなテクニックが生み出されてるたんですよ。

たとえば、「好きな芸能人は誰ですか?」とかって質問するんですよ。
相手は、何を答えるかは分からないですけど、おそらく、誰か答えますよね。
そしたら、「うっそー、僕もおんなじです!」とか答えとくわけです。
そしたら、会話が成立しますよね。

他の出場者は、そんなテクニックを盗んで、もっと改良して自分のAIに実装するわけです。
コンテストを開催するたびに、こうやってテクニックが磨かれて行って、だんだん、人間と上手くしゃべれるAIができてくるわけです。
この辺りのことは、第149回「正統?反則?最新チャットボットAI」でも語ってますので、参考にしてください。

でも、よく考えてみてください。
これで、人間と普通に会話できるようになると思いますか?
ていうか、人間の心に近づいていきますか?
近づいてないですよね。

人間と同じ心を持ったAIを目指してるのに、心ができる気がしないんです。
チューリングテストに引っ張られ過ぎてるっていうのは、こういう事です。

じゃぁ、他に方法はないんでしょうか?
開催するたびに、人間の心に近づくAIコンテストってできないんでしょうか?
もし、そんなのができて、世界中の研究者がそのコンテストに参加したら、面白いと思いません?
毎年、開催するたびに、ちょっとずつ、心が完成していくんです。
「今年の優勝チームのAIは、ついに、『愛』って感情を手に入れたぞ!」とか。
どうやったら、そんなAIコンテストができるか、今回は、その事について考えてみようと思います。
それでは、始めましょう!

まずは、人の心について考えてみます。
たとえば、小説があったとします。
何人かが同じ小説を読んだら、たいてい、同じ場面でドキドキしたり、同じ場面で泣いたりしますよね。
ドキドキしたり、泣いたりするのは、心があるからですよね。

これを使うんですよ。
つまり、AIにも同じ小説を読ますわけですよ。
ほんで、同じ場面でドキドキしたり、泣いたりすれば、人間と同じ心を持ってるって言えますよね。
そんなコンテストをするんですよ。
つまり、AIに、物語を読ませて、感想を語ってもらうんですよ。
もちろん、どんな物語かは、その時まで分からないです。
ほんで、AIの感想を審査するんです。
どの感想が、もっとも人間らしいか。
人間なら、普通言わないような感想をいったら減点です。

このコンテストなら、こう言う単語がでてきたら、こう答えるってテクニックじゃ対応できないです。
参加者は、人間と同じように感じるには、どんな心を作ったらいいかって考えないわけにはいかないんです。

心を作ろうと思ったら、まず、どんな時に心は動くのかとか、考えますよね。
それ以前に、そもそも、どうやって物語を認識してるのかとかも、考えないといけません。

そこまで心を作り込んだ人が優勝するわけです。
ほんで、優勝者は、自分の心のモデルは、時間と空間をこうやって認識してます。
それをこうやって記憶してます、とかって技術を公開するわけです。
そしたら、他の参加者はそれをさらに改良するわけです。
「そうや、忘れるって機能を追加しよ」とか。

「えーと、名前は忘れたけど、あの、喧嘩別れした親友が、最後の最後に駆けつけてくれたとこ、感動したよなぁ」とかって感想言うんです。
どんどん、人間の心に近づいて行きますよね。

こんなコンテストができたら、すぐに参加するんですけどね。
でも、残念ながら、そんなコンテストはないです。
そこで、もし、こんなコンテストが開催されるとしたら、僕なら、どうやって開発するかについて考えてみます。

まずは、物語で心が動かされる場面を抽出しないといけませんよね。
心が動かされるってことは、何らかの感情が発生したってことですよね。

さて、次は、これをさらに細かく分解していきます。
それじゃぁ、感情は、どうやって生まれたんでしょう?

それは、なにかが起ったからですよね。
悲しい出来事とか、悔しい出来事とかです。
出来事が起こるのは、現実世界です。
ここで言う現実世界っていうのは、僕らが生きている、この現実世界でもあるし、物語の中の世界でもあります。

それじゃぁ、感情はいつ生まれるでしょう。
それは、その出来事の意味を解釈した時です。
出来事を頭の中で認識し、それを解釈したとき、「やったぁ!」とか「あの野郎!」とかって感情が生まれるわけです。

つまり、出来事が、外の世界と、心の中とを繋げるキーとなります。
それじゃぁ、その出来事って、どうやって表現したらいいんでしょう。

ここで、改めて言葉の意味について、考えてみます。
ロボマインド・プロジェクトでは、単語を概念ツリーとHas-aツリーで管理しています。
たとえば、犬の上位概念は、陸の哺乳類で、その上位概念は陸の生物で、さらにその上は生物とかって、概念ツリーで管理します。
Has-aツリーは、部屋は天井、壁、床を持っているって管理します。

こうやって言葉を管理する方法をオントロジーって言います。
これは、自然言語処理で昔からやられていた方法です。
ただ、この方法だと位置関係が上手く表現できません。
部屋は天井と床を持ってるって言うけど、天井と床、どっちが上か下か分かりません。
そもそも、上とか下って、どう意味もわかりませんよね。

そこで、ロボマインド・プロジェクトでは、仮想世界を使います。
仮想世界ってのは、3Dの物理シミュレーターのようなものです。
重力も再現できるので、上とか下って方向も表現できるんです。
つまり、天井が上にあって、床が下にあるって位置関係も理解できるわけです。

仮想世界を使うことで、より、人の認識に近い形で認識できるようになったわけです。
このことを、もう少し考えてみましょ。

物語は、言葉で表現されてますよね。
言葉を耳で聞いたり、目で見て読んだりして、頭の中で理解するわけです。
言葉が、頭の外の世界と、頭の中の世界の境界面にあるわけです。
言ってみれば、物語を理解するとき、一番表面にあるのが言葉です。

その奥に、心があるわけです。
心は、嬉しいとか悲しいって感情を感じるところです。
ここが、心の一番奥とします。

さっきの仮想世界は、表面の言葉と、奥にある心の間にあるって感じです。
言葉で表現されたものを、仮想世界に再構築することが、一種の意味理解です。
上に天井があるとか、下に床があるとかって意味がここで理解できるわけです。

こうやって、部屋があるとかって状況を認識できます。
でも、部屋があるっていうのは、静止した世界です。
今、知りたいのは出来事です。
出来事って、何かが起こるわけですよね。
ダイナミックな動きです。
変化起こるわけです。

変化って何でしょう。
動きがあるわけですよね。
動きって、どういうものでしょう。
それは、時間の経過とともに変わって行くものですよね。

はい、ようやく出てきました。
出来事の重要な要素。
それは、時間です。

時間に関しては、このチャンネルでも、何度も議論してきましたよね。
時間は存在しないとか、時間を持ってるのは人間だけだとか。
でも、今回の時間は、それらとはちょっと違います。

今まで議論してきた時間の元になるのは、エピソード記憶です。
修学旅行の思い出とか、卒業式の思い出とかです。
思い出の中の世界と、現在の世界の間に横たわるのが時間です。
エピソード記憶っていうのは、長期記憶の一種です。

でも、今議論してるのは、それとは違います。
目の前で起こってる出来事で流れてる時間です。
頭で考えるタイプの時間じゃないです。
体で感じるタイプの時間です。
これは、短期記憶で扱うものです。

短期記憶は、数秒~数分程度の間、保持する記憶です。
その間に、世界で展開される変化が出来事です。
出来事を表現するには、このタイプの時間が必要なんです。

長期記憶が扱う時間は、抽象的な概念です。
一方、短期記憶が扱うのは、目の前で展開されてて、リアルに感じる時間です。
同じ時間といっても、長期記憶が扱う時間と、短期記憶が扱う時間とは、全然別物なんです。

出来事って、この短期記憶で扱う時間を使って展開されるようです。
意識は、その出来事を解釈して、感情を発生するわけです。

ここでまとめておきます。
こうやって表面に言葉で表現された物語があるとします。
その奥に、それを解釈した仮想世界があるわけです。

この仮想世界で出来事が展開されるわけです。
意識は、その出来事を解釈して感情を発生するわけです。
これが、心の一番奥にあるわけです。

意識は、発生した感情を言葉に変換します。
「あの場面は怖かったぁ」とかって。
これが物語の感想です。

これが、心のモデルの全体像です。
これなら、物語の感想を競うAIコンテストに出れそうですよね。
それから、この心のモデル。
今のAIの課題がどこにあるかも浮き彫りにしてます。

今のAIが扱ってるのは、この表面だけなんですよ。
文字で表された言葉の関係だけなんですよ。
「こんにちは」って言ったら、「こんにちは」って返すとか。
この単語の次にこの単語が出現する確率は何%とかってデータを集めるとか。
今の自然言語処理が扱ってるのは、すべて、この表面だけなんですよ。
でも、どう考えても、重要なのは、その奥にあるものですよね。
奥にある心ですよね。

心が感情を発生するには、出来事を解釈しないといけません。
短期記憶を持った出来事です。
次回は、どうやってこの出来事を表現するかについて考えます。

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それから、このチャンネルが本になりました。
説明欄にリンクを張っているので、よかったら読んでください。
それでは、次回もお楽しみに!