第176回 見るとは、こういうことだったのか!


ロボマインド・プロジェクト、第176弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

みなさん、「目で見る」ってどういうことかわかりますか?
そんなこと言われても、説明のしようがないですよね。
「見る」は「見る」としかいいようがないですよね。

でもね、こういう当たり前の事が一番重要なんですよ。
当たり前のことって、つい、何もしてないと思ってしまうんですよ。
じゃぁ、改めて聞きますよ。
皆さん、何の解釈もせず、ただただ、目の前にある物を見た経験ってありますか?

たとえばね、目の前に机があるとするでしょ。
それを見るわけです。
あぁ、机があるって。
でも、それは、もう、既に解釈してるんですよ。
机って、意味を解釈してしまってるんですよ。

ビデオカメラで机を撮影したとするでしょ。
そのとき、ビデオカメラは、あぁ、机があるなぁって思ったりしてないですよね。
ただ見るって、こういうことなんです。

そう考えたら、ただ「見る」だけの経験なんて、ほとんどの人はしたことがないと思います。
でもね、僕は、じつは、一回だけあるんですよ。
前にも話したことがありますけど、この話、ホント、重要なんで、もう一回、その話をしますね。

今から20年以上前のことです。
ソファに座ってテレビを見ていた時のことです。
テレビの下に、木の板が見えたんですよ。
「あれ、あんなとこに、木の板なんかあったかなぁ」って不思議に思ったんですよ。
あるはずのないものが、目の前にあるんですよ。

でも、わかってたんです。
その角度から見たら、たまたま木の板に見えてるだけだって。
ちょっとでも違う角度からみたら、それが何かすぐに分かるってこと。

その頃から、「物が見える」ってどういう事って、ずっと考えてたんですよ。
だから、こんなチャンス、めったにないと思いました。
顔を動かしたいって衝動を必死に抑えながら、今の状況を観察してたんですよ。

顔を動かさないで、それが何かじっと見てたら、どんどん、わからなくなってきたんですよ。
見える物自体は変わらないんですよ。
でも、ずっと見てたら、平らな板って感じもなくなってきたんですよ。
2次元の平面とか、3次元の立体とかってことも分からなくなってきたんですよ。
穴が開いてると思ったら、そうとも見えるし。
その四角い部分だけ、周りと違う、異次元のような感覚に感じるんですよ。
それでも、いくら見てても、それ以上変わらないので、ちょっとだけ、動いてみようって思ったんです。
ちょっとずつ動いて、それが徐々に変化する様子を観察しようと思ったんです。
それで、ほんのちょっとだけ顔を動かしたんです。
そしたら、一瞬でした。
それが何かすぐに分かったんです。
ゴミ箱でした。
ツルツルの表面で、金属の銅の色をしてる筒形のゴミ箱です。
周りの黒い家具が映って、それが木目みたいな模様にみえて、それで木の板に見えてただけでした。
それが分かった途端、さっきまで感じてた異次元みたいな感覚は消えたんですよ。
奇妙な四角い領域が、現実の世界にすっと溶け込んでいったんですよ。

その後、今、起こったことを、じっくり考えたんですよ。
もしかして、逆じゃないかって。
あの、奇妙な四角い領域の方が現実じゃないかって。
何の解釈もしない、見たままの世界って、さっきの、四角い領域の方なんですよ。

見えてるものが、板か、円筒か、穴かじゃ、まったく違いますよね。
何が違うかって言うと、その物の扱い方というか、触ったら、どんな感じかってことです。
これが意味が分かるってことなんですよ。
平らな板なら、こう表面をなでるとか。
筒型なら、こうやって持つとか。
穴やったら、その中に手をいれて、何もないって確認するとか。
その物を、身体を通してどう関わるかってことです。
つまり、「見る」って行為は、見た物と、どう関わったらいいのか分かるってことです。
これが意味が分かるってことです。
物が見えるってことは、すでに意味を解釈した後なんです。
見た時点で、それは見たその物じゃないんです。

いいですか。
僕が見えてたもの。
板か筒か穴かわからない妙な感じ。
そっちが、現実の世界なんですよ。
本来は、目に見えるもの全て、そんな風に感じるはずなんですよ。

でも、そうは見えないですよね。
床の上に机がある。
机の奥に壁がある。
机の上に天井がある。
そうやって、世界は、隙間なく埋め尽くされてますよね。
それが当たり前やと思ったらアカンのですよ。
机とか壁って分かるってことは、それは、解釈した後の物を見てるってことです。
解釈できるってことは、それは、頭の中にあるんです。
目で見える机は、頭の中の机を、現実世界に当てはめてるんですよ。

じゃぁ、誰が当てはめてるんでしょう?
それは、無意識です。
これは机だ、これは壁だって無意識が判断して、意味を持たない現実世界に当てはめてるんですよ。
ゴミ箱やったら、上にゴミを入れる穴があって、そこからゴミを入れるって分かりますよね。
ゴミを手で持って、あの筒の上から入れるんやって知ってますよね。
ゴミ箱に対して、どういう行動を取ったらいいのか知ってるわけです。
これが、ゴミ箱の意味を理解してるってことです。

ゴミをゴミ箱に入れるって行動、これは意識がしますよね。
意識がやることって、まだ、分かりやすいんですよ。
意味を定義する時、難しいのは、無意識がやってる部分なんです。
人間と同じように考えるAIを作ろうとする場合、無意識がやってる部分も作らないといけないんですよ。

さて、ようやくマインド・エンジンの話です。
第172回「意味がわかるってこういうことだったのか?!」の続きです。
あの動画で「洗う」の話をしましたよね。
キッチンで、お皿をスポンジで洗ってるとこを見たとします。
左手でお皿を持って、洗剤を付けたスポンジを右手に持って、蛇口から水を流しながらお皿をごしごし洗ってるとこです。
それを見たら、「あぁ、お皿を洗ってるんだな」って思いますよね。
それを見て、今日は、何を食べたのかなとか、洗剤は何を使ってるのかなとか、考えたとします。
こう考えるのは意識です。
無意識がやってるのは、その前の部分です。
お皿を洗ってるって分かってるってこと。
ここが、無意識が処理してる部分です。

おそらく、機械学習を使えば、映像から、お皿とスポンジを抽出できると思います。
お皿の上で、スポンジが左右に動いてるって理解することもできると思います。
でも、それだけじゃ、スポンジをお皿に押し付けてこすってるってとこは分かってないですよね。
見ただけじゃ、そこまでわからないです。
でも、僕らは、スポンジをお皿に押し付けてるって分かってますよね。
何でわかるんでしょう?

それは、「こする」のモデルを当てはめてるからです。
「こする」のモデルは、ブロックにボールを押し付けて左右に動かしてましたよね。
「こする」のモデルには、強い力で押し付けるってデータも持たせてあるんですよ。
だから、洗ってるとこを見ただけで、押し付けてるって理解してるんですよ。

それでは、「洗う」の意味理解について、もう少し探っていきましょう。
目からのデータを基に、お皿を洗ってる光景だって判断します。
頭の中には、「洗う」の定義が先にあるわけです。
「洗う」の定義を見てみると、「水を掛けながら、洗う道具で対象物をこする」とかって意味が書かれてるわけです。
この意味の中に、「こする」があるから、「こする」のモデルを、今見えてる、お皿とスポンジに当てはめるわけです。
そうすると、スポンジをお皿に押し付けて左右に移動させてるって理解できるんです。
この処理をやってるのが無意識です。
意識は、目からのデータそのものを見てるんじゃなくて、無意識が当てはめた「こする」のモデルを通して皿を洗ってる光景を見てるんです。
これが、「見る」って行為なんです。

こっから先は、意識の出番です。
「洗う」の目的は、きれいにすることです。
さて、お皿を洗ったけど、まだ、油汚れが落ちてなかったとします。
そんな場合、どうするでしょう?

心理パターンに、比例の法則と言うのがあります。
最も単純な心の推論です。
物体は、大きければ大きいほど重くなるとかって推論するときに使う法則です。
この比例の法則を「洗う」に当てはめてみます。

汚れが落ちてないということは、もっと洗わないといけないってことです。
もっと洗うって、どういう事でしょう?
「洗う」は「こする」で定義されています。
比例の法則から、もっとこすれば、もっときれいになるって推論します。
「こする」は、力をかけて左右に往復移動させることです。
これを、もっとするわけです。
つまり、もっと力を入れたり、もっと、何度も往復させるわけです。
こうやって、目的を達成するために、どう行動したらいいのか分かりましたよね。

意味を理解してるってことは、どう行動すればいいか分かるってことです。
お皿をさらにキレイにするのに、どう行動すればいいか分かりましたよね。
これが、「洗う」の意味を理解してるってことなんです。

まとめますよ。
洗うの意味は、「こする」から定義されます。
だから、もっときれいにするには、どうすればいいのか分かりました。
この推論は、意識がすることです。
意識が推論できるのは、お皿をこすって洗ってるって理解してるからです。
お皿を洗ってるって意識が理解できるのは、無意識が、お皿を洗ってるって解釈して、それを意識に見せてるからです。
つまり、意識が見てる世界は、無意識が解釈して作り出してる世界ってことです。

近い将来、レストランでは、厨房ロボットってのが働くことになると思います。
厨房ロボットに、「まだ、皿が汚れてるなぁ。もうちょっと、洗ってくれるかなぁ」とかって指示したとします。
そう言われて、どうすればいいのか、厨房ロボットが分かるには、これだけの機能が必要なんです。
ロボットに、言葉の意味を理解させるには、意識と無意識の機能を持たせないといけないんです。
このことに気づいてるロボットメーカーは、まだいません。
気づいてるのは、今のところ、ロボマインドだけです。

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それから、このチャンネルが本になりました。
説明欄にリンクを張ってるので、良かったら読んでください。
それでは、次回も、お楽しみに!