第五世代コンピュータ
バブルの絶頂期、500億円を投じた、人工知能プロジェクト
目標は、言葉を理解するシステム。
驚くことに、どうやって言葉の意味を理解するかも分からないまま、見切り発車!
ロボマインド・プロジェクト、第18弾
ロボマインドの田方です。
さて、今まで心理パターンについて解説してきました。
心理パターンは、まだまだあるのですが、突然ですが、ロボマインド・プロジェクト、今回で終了したいと思います。
そこで、今回は、今までの議論で抜け落ちている話をしたいと思います。
まずは、第五世代コンピュータです。
ロボマインド・プロジェクトのやってること、第五世代コンピュータと同じじゃない?
って指摘をうけることがたまにあります。
第五世代コンピュータってのは、1980年代の約10年間、通産省主導で進められた人工知能プロジェクトです。
500億円以上の予算と、官民挙げて取り組んだにもかかわらず、ほとんど成果が出なかったということで、日本の科学技術の黒歴史として、今でも語り継がれています。
さて、この第五世代コンピュータ、何をやろうとしていたのでしょう?
この時代、第二次AIブームが起こっていました。
今は、第三次AIブームですが、今と同じように、人工知能で世の中が変わるって、かなり盛り上がりだったようです。
第二次AIブームといえば、何と言ってもエキスパートシステムです。
エキスパートシステムというのは、「もし、AならばB,そうでなければC」といったIF文を連ねて、人間の判断を支援するシステムです。
たとえば、「咳がでて、熱があるなら風邪です」といった医療診断システムとか。
冷蔵庫にある食材からメニューを考えるシステムとか。
「AならばB」って、これ、論理式です。
論理式を使って推論するマシン、これが第五世代コンピュータが目指したものでした。
(vol.14のサムネイルを入れる)
第14回の「ウィトゲンシュタイン 論理哲学論考 v.s. 松本人志」で取り上げた論理哲学論考も論理です。
人間は、論理を使って考えてるので、論理推論マシンを作れば、人間と同じ知能が持てるだろうってことです。
さらに、当時のコンピュータサイエンスの最先端の並列処理で実行できるようにしました。
何と言っても、人間の脳は並列処理ができますから。
これによって期待されたのが自然言語処理でした。
脳と同じ処理ができるなら、コンピュータに難しいといわれた言葉の意味理解もできるようになるだろうと思われていたようです。
当時、バブルに突入した日本は、お金が余りまくってました。
そこに出てきたのが、第五世代コンピュータです。
ここに多額の予算を投入して、科学技術の分野で、一気に世界のトップに躍り出ようと目論んだわけですが、残念ながら、上手くいきませんでした。
なぜでしょう?
僕なりの視点で考察したいと思います。
エキスパートシステム、論理推論マシン、並列システム。
どれも、当時の最先端の技術です。
今まで解決できなかった問題も、最先端の技術なら解決できそうって。
その気持ち、よくわかります。
でも、よく考えれば、それって、何の根拠もないですよね。
この原稿を書くために、当時出版された、この「わが志の第五世代コンピュータ」って本を読んでみたんですが、その雰囲気がよくわかりました。
この本、出版されたのが、1989年12月22日です。
12月29日が、日経平均が38957円の史上最高値を付けたバブルの頂点ですから、まさに、バブルの頂点のときに書かれた本なんです。
読んでみると、天才たちが集められて、これで世の中が変わるって、熱い雰囲気がよく伝わります。
その天才達の言葉があちこちに散りばめられているんですけど、「並列推論マシンさえできれば、今までできなかった言葉の意味理解も、きっとできるぞ」とか言っちゃってるんですよね。
「えっ、どうやって意味理解させるか、それも分からずにプロジェクト進めたの?」
って思いましたけど、これが当時の雰囲気だったんですよねぇ。
最終的には並列推論マシンはできました。
ですが、それでないと実行できないプログラムがあるわけじゃないんです。
並列推論マシンでなくてもプログラムは実行できるんです。
並列推論マシンだと、多少速く実行できるかもしれませんが、並列推論マシン以外のコンピュータが速くなれば、並列推論マシンを使う意味がないんです。
その結果、500億円かけて作られたマシンですけど、使う必要なくなって、今では誰も使っていません。
つまり、重要なのは、コンピュータじゃなくて、その上で動くプログラムなんです。
並列とか、論理マシンとか、そっちじゃないんです。
どうやって、言葉の意味を理解するか、その理論がわからないまま開発を進めても、意味理解できるようになるわけないんです。
当たり前のことです。
30年前の第二次AIブームのことだと笑ってるかもしれませんけども、今も同じですよ。
データさえ集めれば、勝手に意味理解できるようになるって、今でも、ほとんどのAI技術者が思ってるんですよ。
勝手にうまくいくのは超単純なモデルだけです。
その事は、第9回「えっ、まだ、AIで何でもできるって思ってるの?!」で散々語りましたので、興味ある方は、そっちを見てください。
さて、論理的に処理するってのは間違いないですが、重要なのは、何を目指して処理するかってことです。
それが見つからないと、いくら速いマシンを作っても、意味がありません。
そこで、僕が提案してるのが心理パターンです。
心理パターンに落とし込むことこそ、意味理解の本質というわけです。
心理パターンっていうのは、感情の一種です。
でも、感情を使った自然言語処理やAIロボットなんて、いくらでもありますよね。
それとの違いは何でしょう?
たとえば、ソフトバンクのロボット、ペッパー君です。
これが、ペッパー君の持つ感情らしいです。
スゴイですよねぇ。
ここまで詳しく感情を分類してるとは、恐れ入ります。
でも、これだけ複雑な感情があるのに、なんで、ペッパー君は、まともに会話ができないんでしょう。
実は、この感情の図、ロボマインド・プロジェクトの心理パターンと大きく違う点があるんです。
何かわかります?
それは、相手の存在なんです。
心理パターンの説明で、まず、最も基本的な感情としてプラスマイナス感情を説明しましたよね。
プラスマイナス感情は、その人単独で発生する感情で、一番分かりやすいのが本能だって説明しました。
その次に、社会的感情として、相手が存在して初めて成り立つ心理パターンの説明をしました。
感謝や怒り、それから善悪、恥といったものです。
人と自然なコミュニケーションするには、相手とのかかわりによって発生する心理パターンが重要になってくるんです。
もう一度、ペッパー君の感情を見てみましょう。
いくら複雑に感情を分類しても、それだけじゃダメなんです。
単独で発生する感情だけじゃ、動物と同じです。
複雑な人間関係は、これじゃ、再現できないんです。
この図、よく見ると、「恥」とかって感情も、ちゃんとあるんです。
でも、分類しただけじゃ、意味ないんですよね。
「恥ずかしい」の本当の意味を理解しないと、人間社会に受け入れられません。
「恥」の本当の意味については、ロボマインド・プロジェクト第17回「AIに必要なのは羞恥心だ!」
(サムネイル表示)
で詳しく解説してるので、よかったらそちらをみてください。
人間らしいAIを作るために、もっと、他のやり方をしてるとこはないでしょうか?
大学の研究室レベルではあります。
たとえば、言葉を直接教えるんじゃなくて、赤ちゃんロボットを作って、成長させることで言葉を認識させようって研究をしてるとことがあります。
たとえば、人を指さして、「太郎」と言って名前を覚えさせるやり方です。カメラで認識するとこから学習させていくわけです。
単なる記号としての名前でなくて、現実の世界の中にいる人物に名前を割り当てるわけですから、赤ちゃんがパパやママと覚えるのと同じです。
これはこれで楽しみですが、会話できるには、まだまだかかるようです。
そのまま成長させれば、いろんな単語は言えるようになるでしょう。
チンパンジーに言葉を学習させて、1000以上の単語を言えるようになったって研究もあります。
「太郎を呼んできて」といった簡単な文の意味は理解できるようになると思います。
でも、「もし、太郎がいなくなれば、寂しいよね」といった複雑な文の意味は理解できるようにはなりません。
物を認識して、単語をおぼえるようになっただけじゃ、複雑な会話はできるようにならないんです。
つまり、人間と同じように会話できるAIを作るには、チンパンジーは持ってなくて、人間のみが持っている機能を解明しないといけないのです。
その機能がどこにあるかと言うと、それは、脳の中です。
それは間違いないです。
それなら、人間の脳の機能を、そのままコンピュータに再現すればいいですよね。
実は、それは世界中で行われています。
ヨーロッパのヒューマン・ブレイン・プロジェクトや、日本の全脳アーキテクチャが有名です。
脳の機能を解明する方法、これが一番の近道のようです。
でも、残念ながら、そううまくはいきません。
なぜ、上手くいかないかは、第一回の「決着!谷村ノート 物理学vs哲学」(サムネイル表示)
で詳しく説明しましたが、簡単に説明しておきます。
第一回で指摘したのは、人間の意識は、脳というコンピュータで実行されるプログラムだって話です。
PCで何か、アプリケーションが実行されてるとしましょう。
CPUを観察して、PCで実行されてるアプリケーションが何か分かるでしょうか?
実行されてるのは、WORDかもしれませんし、エクセルかもしれません、もしかしたらスーパーマリオブラザーズかも知れません。
でも、そんなの、CPUを分解したり、入出力される電気信号を観察しても、わからないですよね。
CTやMRIで脳を観察する手法は、これと同じだということです。
コンピュータである脳をいくら観察しても、肝心のプログラムは見えてこないってことです。
重要なのはプログラムです。
そこで、人間にとって、最も重要な機能は何かを見つけて、それをコンピュータ・プログラムに落とし込む。
それが一番の近道なんです。
そして、それをやろうとしてるのがロボマインド・プロジェクトなんです。
人間にとって最も重要な機能というのが、「心理パターン」なんです。
それでは、次に問題となってくるのは、この「心理パターン」、どうやって実行されているのでしょう?
人間の脳の中に心理パターンがあるとします。
一方、人間は、目で見たり、耳で聞いたりして現実世界を認識しています。
口から言葉を発したり、手足を動かしたりして、現実世界に働きかけます。
世界を認識することと、心理パターン、その結果、何を発言し、どう行動するか。
これらは、どうやって実行されているのでしょう?
それを実行してるのが、人間の「意識」です。
「心理パターン」は、まだまだ、いっぱいありますが、心理パターンを解明するロボマインド・プロジェクトは、一旦、今回で終了します。
次回から、いよいよ、ロボマインド・プロジェクト「意識編」が始まります。
では、次回もお楽しみに!