第191回 むずむずするこの感覚 あぁ、もっと味わいたい 〜AIがついに楽しさを理解した


ロボマインド・プロジェクト、第191弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

まずは、これ見てください。

ボストン・ダイナミクスの最新ロボットです。
人型ロボットって、もう、ここまで出来るんですよね。
子ども達の遊び相手とか、すぐにでもできそうですよね。
例えば、鬼ごっこ。
鬼ごっこのルールを教えたら、今でもできそうです。

ルールを覚えて、一緒に遊んでるうちに、ロボットはさらに学習します。
どうやったらうまく逃げられるとか、鬼になったら、どうやったらうまく追いかけれるかとか。
ここ、今のAIが一番得意な分野です。

さて、そうやって、うまく鬼ごっこができるようになったとします。
さて、そのロボット、本当に鬼ごっこを理解したと言えるんでしょうか?
というか、何か、大事なもの、欠けてないですか?

もう少し考えてみますよ。
鬼ごっこ、するでしょ。
あとちょっとで、鬼に捕まりそうになって、キャーとか言って逃げたりします。
この「キャー」って、何でしょう?
鬼にタッチされて、「あぁ~」ってなります。
この「あぁ~」って何でしょう?

子ども達は、この「キャー」とか「あぁ~」とかを感じて、もっと鬼ごっこしたいって思うんですよね。
これが楽しいってことです。

はい、出てきました。
「楽しい」です。
ロボットは、「楽しい」を感じてないんです。
鬼ごっこで重要なのは、ルールじゃないんです。
鬼ごっこをしたいって思う気持ちです。
それが「楽しい」です。
ロボットは鬼ごっこはできても、鬼ごっこをしたいとは思わないんです。
ルール通り動けって、命令されて動くことはできます。
でも、それじゃぁ、本当に鬼ごっこを理解してるとは言えないんです。

じゃぁ、その「楽しい」とは、一体何なんでしょう?
前回、第190回「何、この変な感情?人類が最後に手に入れた感情とは」で、「楽しさ」の意味について考えました。
参考にした動画は、「ふくねの楽しい支援学校Labo」の「子供達が楽しめないのはどうして?」です。

支援学校の先生をしてる友達の福ちゃんの動画です。
入学したときは、「楽しい」がわからなかったこうちゃんに、楽しいってこういうことよって教える話でした。
それは、くすぐり遊びとかで、体を直接刺激して楽しさを目覚めさせるってことでした。
今回は、その続きの動画、「鬼ごっこができないの・・・そんな子供にある日、突然・・・」を読み解いています。

それでは、はじめましょう!

まず最初に、波の話からはじめます。
高校の物理で出てくる波の合成の話です。

赤と青の二つの波があったとします。0:56~1:00ぐらい
この二つの波が出会うと、波が合成されます。1:00~1:07ぐらい
合成された波が緑の波です。
合成されると、上下の振幅が倍になりますよね。
これをまとめると、こうなります。1:19~1:24ぐらい。
つまり、二つの波が、一つの大きな波になるわけです。

これ、何が言いたいか、分かりますか?
この波を、感情と考えるんですよ。
どういうことかって言うと、感情って、自分一人で感じるだけじゃなくて、ほかの人の感情も同時に感じるんです。
そして、それらの感情は合成されるんです。
相手と自分が同じ感情を感じてたするでしょ。
すると、二つの波が合成されるみたいに、一つの大きな感情になるんですよ。
相手の感情か、自分の感情か区別しないんですよ。
というか、自分の感情がより大きくなったって感じるんですよ。
楽しさだったら、2倍楽しく感じるんですよ。
これが人間の感情の最大の特徴だと思うんです。

何人かでチームを組んで、何かに挑戦するとするでしょ。
そうしたら、全員の感情が一致するんです。
喜んだり悔しがったり。
感情が調和して、一体感が生まれるんです。
仲間意識が生まれるんです。
人間社会を生み出す最大の特徴は、この、感情を調和させる機能だと思うんですよ。

鬼ごっこの楽しさも、ここにあると思うんです。
鬼が追いかけてきて、キャーとかいって二人で逃げたとするでしょ。
ほんで、安全なとこに逃げ込んで、「怖かったねぇ」って言い合うわけです。
一人より二人の方が、絶対楽しいですよね。

さて、ここで一つ疑問が出てきます。
自分の感情は、自分で分かります。
でも、他人の感情って、どうやって分かるんでしょう?

それをやってるのがミラーニューロンです。
ミラーニューロンについては、第145回「誰も分ってない!ミラーニューロンの本当の意味」で説明しました。

簡単に説明すると、サルがエサを掴むときに反応する脳細胞があったとします。
今度は、人間がエサを掴むとこをサルに見せます。
すると、さっきの脳細胞が反応するんです。
つまり、自分がエサを掴むときと同じところが反応するわけです。

おそらく、他人の感情も、この機能を使って認識してるんだと思います。
他人が楽しそうに笑ってたら、自分も楽しくなってくるんです。
一緒に遊んでて、自分も楽しい、同じことしてる相手も楽しそうにしてる。
そしたら、もっと楽しくなる。
そんな現象が起こるんですよ。

ここで重要なのは、まず最初に、自分が楽しいって感情を持ってないとダメだってことです。
相手がいくら楽しそうにしてても、自分の中に楽しいがなければ、反応のしようがないんです。
きょとんとするだけです。

だから、そんな子には、まず、楽しさって、どういうものかを教えないといけないんです。
一番簡単なのが直接刺激です。
くすぐり遊びとかシーツブランコとかです。
こちょこちょこちょっって、くすぐって、笑うって経験をさせるんです。
シーツブランコってのは、先生2人でシーツの両端を持って、シーツの中に子供を入れてブランコするんです。

そりゃ、子供達は喜びますよね。

こんなとき、先生は、テンション高いですよね。
先生も思いっきり笑顔で遊びます。
無表情で、こちょこちょこちょっって、来ても怖いです。
たぶん、子供は泣きだします。

何で思いっきりの笑顔でするか、分かりますよね。
子どもは、先生が楽しんでる顔を見ると、自分の中の楽しいって感情が刺激されるんです。
相手と同じ感情になるって機能が活性化するんです。
そうやって、表情が硬かった子が、だんだん笑顔になってくるんです。

さて、ここで、ほかの動物と人間の違いについて考えてみます。
これは、僕が考えた仮説ですけどね。
毛、体毛に注目します。
ほとんどの哺乳類って、全身、毛におおわれてるでしょ。
犬とか猫とか熊とか、何でもいいです。
でも、サルになると、顔に毛がないですよね。
人間になると、全身、ほとんど毛が無くなってます。
この意味、分かりますか?

これ、まだ誰も指摘してないことですけど、ここに、ものすごく重要な意味があると思うんですよ。
それは、表情です。
顔全部、毛で覆われれてたら細かい表情がわからないですよね。
つまり、顔の毛が無くなることで、相手の微妙な表情まで読み取れるようになんです。

さっき出てきたミラーニューロンって、サルと人間にしか、まだ見つかってないんですよ。
そう考えると、ミラーニューロンと、顔に毛が生えてないことって、密接な関係にありそうですよね。

初めて会った相手の顔の表情を読み取るわけです。
相手が笑顔になれば、なんか安心します。
そうやって、親しくなるわけです。

つまり、人間社会って、他人の感情を正確に読み取れることで作られてるんです。
ほんで、そのために絶対に必要なのが、顔に毛が生えてないことなんです。
これが僕の新仮説です。
どう思います?

ま、僕の仮説は置いといて、元の話に戻ります。
支援学校の先生をしてる福ちゃんの話です。
こうちゃんが1年生に入学してきました。
入学したばかりのこうちゃんは、遊び時間は、いっつも教室の隅に一人で座ってたそうです。
「みんなと一緒に遊ぼ」って言っても、こうして、嫌って拒絶してたそうです。
あまり表情もなかったそうです。
機嫌がいいわけでも悪いわけでもないそうです。
一見、穏やかにも見えます。

たぶん、楽しいって感情が、まだ芽生えてなかったんでしょうね。
そこで、くすぐり遊びとかして、楽しいとか笑うとかって経験させるわけです。
そうしてると、友達が遊んでるのを見るようになったそうなんです。
そのときは、顔の表情も、少し緩んで、ちょっと笑顔になってきたみたいなんです。

友達が楽しそうに遊んでるのを見て笑顔になったんですよね。
はい、これって、ミラーニューロンですよね。
無表情で感情が乏しかったところに、まず、自分が楽しいって感情が芽生えました。
そしたら、ほかの人が楽しそうに遊んでるのを見て、自分も楽しくなってきたわけです。
順番通りに成長してますよね。

そのこうちゃんは、1年の終わりぐらいになると、みんなが遊んでるまわりを、ふわぁ~っと歩くようになったんです。
少しずつ、変化してたんですね。
支援学校の先生って、こんな、細かい変化を見てるんですよね。

ほんで、こうちゃんは2年生になりました。
その頃になると、こうちゃんは、明らかに、鬼ごっこをしてる子の近くを歩いてるんです。
「あれ、もしかしたら、鬼ごっこしたいんかな?」
そう思った先生は、こうちゃんに近づいて行って、「こうちゃん」って言いながら追いかけるそぶりをします。
そしたら、ケタケタケタって笑いながら、ほんの少しだけ逃げるようになったそうです。

こうちゃん、ついに、鬼ごっこができるようになったんです。
1年以上かかって、ようやく、鬼ごっこができるようになったんです。

でも、考えたら、最初は、楽しいの意味すら分からなかったんですよ。
それが、友達が遊んでるのに興味を持つようになって。
次に、その近くを歩くようになって。
最後には、自分も鬼ごっこができるようになったんです。
1年以上かかりましたけど、楽しいの種が着々と育って行ったんですよね。

僕がいっつも言ってますけど、当たり前こそ、一番難しいんです。
楽しいとか鬼ごっことか、そんなの出来て当たり前じゃないですか。
難しいことができないなら、優しいことから少しずつ教えることができます。
でも、誰でもできる当たり前のことができないとなると、どうしていいか分かりません。
そうなると、つい、この子はそういう子だ。
知的障害があるから仕方ないとかって思ってしまいます。
でも、そうじゃないんです。
楽しいって感情すら、ちゃんと育つんです。
1年以上かかるかもしれないですけど、鬼ごっこができるようになるんです。
いやぁ、支援学校の先生って、ほんと、スゴイですよね。

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今回紹介した「ふくねのお楽しい支援教育Labo」と動画は、説明欄にリンク張ってあるので、よかったら見てください。
それでは、次回もお楽しみに!