第192回 心が震える・・・ それは、感情システムのバグです


ロボマインド・プロジェクト、第192弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

前回、第191回「AIがついに楽しさを理解した」で、楽しいって感情を解説しました。
楽しいって、人間だけが持つ、特殊な感情なんです。
ここ、意外と気づいてない人が多いんですよ。
というか、人間のもつ感情を甘く見過ぎてるんですよ。

いや、じつは、僕も気付いてなかったんですよ。
感情って、何種類あるかって、そんな単純なもんじゃないんですよ。
みんなが思ってる感情は、それは、単に、表面に表れてるものだけです。

重要なのはそこじゃなくて、その奥で動く仕組みです。
システマティックに動く複雑な機械があって、その機械が変形した形の一つ一つが何らかの感情となるんです。
だから、解明しないといけないのは、システムとしての感情なんです。

たぶん、何を言ってるか、分からないですよね。
それじゃぁ、今回は、システムとしての感情を丁寧に解説していきます。
それでは、始めましょう!

まずは、前提となる心のシステムからおさらいしておきます。
僕は、脳や心の進化をずっと考えてます。
昔は、意識のない動物から、意識のある動物に進化したって、結構、単純に考えてました。
でも、最近は、もう少し細かく考えるようになりました。
ポコって、一気に、人間の意識が生まれたってことじゃないみたいです。

僕の考えでは、意識がないっていうのは、入力情報に応答して自動で動くシステムです。
センサーに応答して動きをを決定する、お掃除ロボットルンバとかです。
意識がないシステムの特徴は、行動は環境が決定してることです。
環境と一体となっているといってもいいです。

逆に、意識がある動物というのは、行動が環境と切り離されています。
環境の変化に反応して動くわけじゃないんです。
環境は、参考にするだけです。
様々なことを考えて行動を決定します。

外部環境を参考にして考えるにはどうすればいいでしょう?
それは、環境を直接見るんじゃなくて、外部環境を頭の中に仮想世界としてつくり上げるんです。
そうすれば、変化する外部環境を一時停止したり、繰り返し再生したりすることもできます。
つまり、「ちょっと待てよ」って思ったり、思い返したりできるってことです。
仮想世界を認識して、一時停止したり、繰り返し再生するのが意識です。
これを、僕は、意識の仮想世界仮説と呼んでます。
詳しくは、この本に書いてあります。
説明欄にリンクを張ってあるので、良かったら読んでください。

さて、ここで、一つ、疑問がでてきました。
意識がないときは、外部環境と行動が繋がってました。
意識を持ったシステムは、外部環境と行動が分離しました。
行動を決定するのは意識です。

意識のある動物は、意識のない動物から進化しました。
意識があってもなくても、動物であることには変わりありません。
でも、意識のある動物は、環境と行動が切り離されてます。
疑問と言うのは、じゃぁ、意識は、どうやって行動を決定するかってことです。

ここで出てくるのが感情です。
意識に対して、どう行動すべきか、その指針を示すのが感情とか感覚です。
危険が近づいてきて、すぐに逃げろって行動を促すのは怖いって感情です。
お腹がすいて、何か食べたいって意識が思うのは、空腹感って感覚を感じるからです。

感情があるから、意識がある動物も、意識がない動物と同じ行動を取れるわけです。
言い換えれば、感情に従って行動すればするほど、動物に近いと言えます。
感情と行動の距離が離れて、感情を切り離して行動できれば、人間に近いと言えます。

つまりね、動物と人間の違いっていうのは、じつは、そんなにはっきりと分かれるもんじゃないんですよ。
ゼロイチで区切れるもんじゃなくて、もっと連続的なんです。
同じ一人の人間であっても、動物的になったり、人間的になったりするもんなんです。
それは何が違うかって言うと、感情と行動の結びつきの強さだと思うんです。
これが、僕が、最近、分かってきたことです。
改めて、感情って重要やなぁって思ってるんですよ。

さて、本題はこっからです。
システムとしての感情の話です。
ややこしい話なので、ゆっくり解説しますよ。

前回、前々回と、特別支援学校の先生をしてる友達の福ちゃんのYouTubeを見ました。
特別支援学校っていうのは、知的障害がある子の学校です。
入学当初、感情があまりなかった子が、楽しいって感情を少しずつ育てると、鬼ごっこができるようになったって話を前回取り上げました。

ここで出てきた楽しいって感情は、仲間と一緒に遊ぶ楽しさです。
それができるには、自分が楽しいだけじゃなくて、他人の感情も再現する必要があるんです。
というか、他人の感情を再現する仕組みが必要ってことです。
自分も楽しい、相手も楽しい。
それが合わさって、楽しいって感情がより増幅される。
システムとしての感情って、こういうことです。

仲間とチームを組んで、一緒に楽しんだり、悔しがったり。
仲間と心を一つにして何かを成し遂げる。
それこそ、いかにも人間らしいですよね。

さて、今回は、福ちゃんの別の動画を紹介します。
それは、「あのおもちゃの中毒になってない?」です。

ここでは、これは止めた方がいいっておもちゃを紹介してます。

それは、メロディー絵本です。
絵本を開いて、ボタンを押したら好きな曲が流れるって絵本です。
音楽が好きな子は、こうやって耳に当てて、ずっと聞いてるそうです。

お母さんは、子供がおとなしくしてくれるし、子供は、大好きな音楽に没頭できるし、悪くないおもちゃだと思いますよね。
でも、没頭するってことは、自分だけの世界に閉じこもってるんです。
世界が開かれてないんです。

好きな曲を何度も聞くってことは、その子の頭の中は、その好きな曲に最適化されてるって言えます。
今まで何度も聞いた曲を、頭の中の仮想世界の中で完璧に再生するわけです。
頭の中で再生される曲と、同じ曲が耳から聞こえてくるわけです。
現実世界と、自分の中の心地よい世界とが一体となるわけです。
これが、没頭するってことです。

その世界は、その子が何十回、何百回と同じ曲を聞くことで作り上げられました。
そんな世界を持ってるのは、その子だけです。
つまり、ほかの人と共有できないんです。
だから、先生が一緒に歌ったりすると、止めてって、拒絶するそうです。
私の世界をけがさないでって感じなんやと思います。

同じ遊びでも、鬼ごっことは全然違いますよね。
何が違うかって言うと、どこと共鳴してるかってとこです。
鬼ごっこは、自分の楽しいと、一緒に遊んでる友達の楽しいが共鳴して、楽しさが倍になるわけです。
一緒に遊べば遊ぶほど、最適化が起こって、みんなとの感情が共鳴しやすくなります。
仲間との一体感を、より感じるわけです。
社会性が身につくといってもいいですよね。

一方、メロディー絵本は、違います。
没頭すればするほど、自分の中の世界が、より強固になります。
どんどん、他人と共有できない世界となるわけです。
社会性とは反対ですよね。

これがシステムとして、感情を捉えるってことです。
同じ楽しいって感情でも、システムとしてみると、全然違うってことがわかりますよね。

もう少し、福ちゃんの動画を紹介したいと思います。
「叱られてないのに、つらいんです」

これは、叱られるのが苦手な子Aちゃんの話です。
叱られるのが苦手って、Aちゃんが叱られるわけじゃないんです。
叱られるのはC君です。
「C君、ちゃんと歩きなさい」とかC君が叱られてるのを見ると、Aちゃんは、耳を塞いで、こころのなかで「ごめんなさい、ごめんなさい」ってなるそうです。
もちろん、Aちゃんは、自分が叱られてるわけじゃないってことは分かってます。
それでも、他の子が叱られてるのを見ると、自分が叱られてるように感じてしまうそうなんです。

これ、前回もでてきましたよね。
他人の感情を感じる機能。
ミラーニューロンです。
他人の気持ちを感じる機能って、社会性を身に着けるうえで絶対必要な機能です。
これがあるから、鬼ごっこを一緒にして、楽しいって感じるんです。
優しいって気持ちも、相手の気持ちが理解できるから生まれるんです。

でも、これがあまりにも強すぎると、生きづらいと思います。
Aちゃんは、たぶん、そうなんだと思います。
最近ではHSPとか繊細さんとか言われたりします。

この動画には、もう一人、B君も出てきます。
B君は、C君が叱られてるのを見ると、やーい、やーいってはやし立てます。
「やーい、また、怒られてやんの」って。

一見、B君は悪い子のように思えますけど、B君は自分とC君に起こってることを別問題ととらえてます。
Aちゃんは、叱られてるB君と自分とが、区別出来てないんです。
自分が叱られてるかのように、立ちすくんでしまうんです。
そんな場合、先生は、Aちゃんに声をかけるそうです。
「Aちゃん、行こか。C君は、D先生とお話してるから大丈夫。それより、Aちゃん、ブランコ行こ」とかって。
声をかけて、C君の心になりきってるAちゃんの心を、引っ張り出すんです。
C君とAちゃんの心を分けるわけです。

人の心は、自分の感情だけでなく、他人の感情も再現できます。
それらを上手く切り替えて、味わうことで人間らしい豊かな生き方ができるんです。
自分の感情だけに没頭すると、他人と分かち合う世界が小さくなってしまいます。
他人の感情にすぐに飲み込まれると、自分を見失ってしまいます。
それらを上手くコントロールするのが、社会で上手く生きて行くコツなんだと思います。

わかってきましたか。
これが、感情をシステムとして捉えるってことです。
今回の動画が面白かったら、チャンネル登録、高評価お願いしますね。
今回紹介した福ちゃんの動画は、説明欄にリンクをはってますので、よかったら見てください。
それでは、次回もお楽しみに!