第194回 なぜ、遊びが楽しいか あなたは、説明できますか?


ロボマインド・プロジェクト第194弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

前回の第193回「遊びが生まれる瞬間」で、人類が、遊びを獲得するまでを語りました。
さて、「遊び」といって、僕が、まず思い浮かべるのは、フランスの哲学者のロジェ・カイヨワです。
カイヨワは、遊びを4つの形態に分類しました。
まぁ、それほど有名でもないと思って調べてみたら、いろんなとこで取り上げられてました。

どうも、最近、カイヨワの遊びの4形態って、学校で習ってるみたいなんです。
学校っていっても、義務教育じゃないですよ。
ゲームの専門学校とかです。
ゲーム作りに、使ってるみたいなんですよ。

はい、これが、遊びの4形態です。

競争、偶然、模倣、めまいって四つにわかれてますよね。
それぞれ、簡単に説明しますね。

「競争」ってのは、勝ち負けを争う遊びです。
かけっことか、スポーツ、それから将棋とかのことですね。

「偶然」ってのは、ジャンケンとか、ギャンブルとか、偶然で勝敗が決まる遊びです。

「模倣」ってのは、ものまねのことです。ままごととか、演劇とかです。

「めまい」ってのは、ジェットコースターとか、ブランコとかです。

たしかに、上手く、まとめられてますよね。
あらゆる遊びが、4つのどれかに分類できそうです。

ゲームの専門学校では、こうやって分類した遊びをゲームに取り込みましょうって教えてるみたいなんです。
たとえばゲームにガチャってありますよね。
これは、偶然ですよね。
それから、戦闘機に乗って、敵の攻撃をかわしながら戦うゲームとか。これは、めまいですよね。
こんな風にして、ゲームをいくらでも作り出せるわけです。

カイヨワの遊びの4形態、60年以上前に発表されたものですけど、時代を超えて、普遍的に使えるようです。
これが遊びの基本形です。
おそらく、これ以上、分解できないと思います。

と思われていますけど、僕は、そうは思いません。
たとえば、遊びの根源にあるのは、「楽しい」って感情ですよね。
「楽しい」って感情が遊びを生み出してるのは間違いないですよね。
そんな一番重要な「楽しい」と遊びの関係について、カイヨワは考えもしてないんですよ。
だから、僕から見れば、遊びの4形態って、表面的な分類にしか見えないんですよ。

そこで、今回は、「遊び」を完全に解体してみます。
これ以上分解できない要素まで分解して、それを使って再構築するんです。
つまり、遊びを再定義するんです。
そしたら、人間の心が、いかに複雑かって見えてきました。
その心のシステムがないと、「遊び」を生み出せないってことが見えてきたんです。
人類が、文化や文明を持つことができるようになった、根本原因は、「遊び」の中にあるってことが分かったんです。
カイヨワの遊びの4形態じゃぁ、決して見えてこない、遊びの真の姿です。
これが今回のテーマです。
それでは、始めましょう!

人間の大脳は、ニューラルネットワークで出来てるので、いろんな経験を積むことで、似たパターンをまとめることができます。
前回、食欲、睡眠欲、性欲の三大欲求をディープラーニングで学習することで、楽しいって要素を取り出せるって話をしました。

同じように、似たような行動を学習することで、共通する要素を取り出すことができます。
たとえば、争いです。
食料を巡って争ったとします。
勝った方が食料を手に入れます。
負けた方は、食料にありつけません。
こういった争うって経験を積み重ねて、共通する要素を取り出すと、勝つとか負けるとかって要素がでてきます。

次は、この共通する要素を、プログラムならどうやって表現できるかについて考えてみます。
オブジェクト指向言語では、オブジェクトの元になる物をクラスっていいます。
クラスは、親子関係を定義できます。
親クラスとか子クラスとかって言います。

たとえば、車クラスってものを考えてみます。
クラスは、プロパティとメソッドを持ってます。
プロパティは、データのことで、メソッドは動作のことです。
車クラスだと、「残りの燃料」とか「走行距離」がプロパティです。
「走る」とか「ガソリンを入れる」ってのがメソッドです。

さて、車には、トラックとか、バスとかいろいろありますよね。
トラックもバスも、車クラスと同じプロパティとメソッドを持ってます。
ここで、車クラスを親クラスとして、トラックとバスを子クラスとします。

トラック固有の要素とか、バス固有の要素は、それぞれ、トラッククラス、バスクラスに持たせます。
共通の要素は、親クラスの車クラスに持たせます。
こうすれば、共通の要素をまとめることができますよね。

さて、話を元に戻します。
カイヨワの遊びの4形態の一つ、競争です。
いろんな競争がありますよね。
かけっこだったり、将棋だったり。
それをプログラムで作るとすると、親クラスとして競争クラスを作るわけです。
競争クラスには、どんなプロパティとメソッドがあるでしょうか?

たぶん、戦うのは誰と誰かって、プロパティがあるでしょう。
誰が勝ったかを記録するプロパティも必要ですよね。
それから、勝敗を判定するメソッドも必要です。

子クラスとしては、かけっこクラスとか、将棋クラスがあるわけです。
かけっこクラスの勝敗判定メソッドは、先にゴールしたほうが勝ちとなります。
将棋クラスの勝敗判定メソッドは、相手の王将を取った方が勝ちとなります。

たぶんねぇ、いろんな競争を経験することで、こんな風に整理されていくんだと思うんです。
そして、競争クラスの勝ちが「嬉しい」って感情と結びつくんです。
負けが「悔しい」って感情と結びつくんです。

「嬉しい」って感情は、もっとこの感情を味わいたいってなるので、もう一回、勝負しようって思います。
「悔しい」って感情は、今度こそ勝ちたいってなります。
これも、もう一回勝負したいって思いになります。
これが、競争です。

今、「遊び」の中で、最も重要な特徴が出てきました。
気付きましたか?

分かりやすくするために、遊びじゃない争いと比較してみます。
食料をめぐって、二人が争う場合です。
勝った方が食料を獲得します。
勝敗が決着すると、それで終わりです。

でも、遊びの場合、違いましたよね。
勝っても負けても、もう一回、勝負しようって思うわけです。
勝っても負けても、もう一回、やりたいって思うんです。

この意味、わかりますか?
今、スゴイこと言ってるんですよ。

いいですか、競争なんで、どちらも勝ちたいって思ってますよね。
でも、勝った結果が楽しいんじゃないんです。
競争してる、それ自体が楽しいんです。
勝つか負けるか分からない、ハラハラドキドキしながら争ってるところが楽しいんです。
これが、遊びです。

もう少し、掘り下げていきますよ。
第188回「アルゴリズムじゃない! 意識が生まれる次元とは」で、意識の本質はOSだって話をしました。
そこで、行動はアルゴリズムだって言いました。
アルゴリズムってのは、決められたルールに従って行動することです。

そして、この行動を認識するのがOSです。
ルールに従って行動してるときも、感情が発生してます。
たとえば、鬼ごっこで、こっちに逃げようとか、この建物の裏に隠れようとかって思いますよね。
逃げるは、恐怖って感情が元になってます。
隠れるは、安全、安心って感情が元になってます。
恐怖とか安心って感情に突き動かされて行動してるわけです。
感情に従ったプログラムで行動してるとも言えます。

さて、お母さんが、「もうご飯よ。そろそろ終わりなさい」って言いに来ました。
これで、今日の鬼ごっこは終わりです。

鬼ごっこが終わると、制御は、鬼ごっこプログラムからOSに戻されます。
そして、今の鬼ごっこを思い出します。
鬼にギリギリつかまらなくて逃げたこととかです。
ほんで、「楽しかったねぇ」って言うわけです。
「また、明日も鬼ごっこしよね」って言うわけです。

「楽しい」って感情が、特殊だってこと、分かりましたか?
つまりね、「楽しい」って感情は、OSに戻った時に感じるんです。
それは、行動プログラムで感じてる感情とはちょっと違います。
行動プログラムで感じてる感情は、恐怖とか安全とかです。
これは、どんな動物でも持ってます。

「楽しい」って感情は、OSに戻ったときに感じる感情です。
自分の行動を客観的に見たり、思い返したりしたときに感じる感情です。

自分を客観的に見るってのは、人間だけが持つ特殊な機能です。
具体的にどうやって実現するかっていうと、目で見た現実世界を頭の中に仮想的に構築するわけです。
そして、意識は、その仮想世界を認識することで、自分を客観的に認識します。
この意識モデルのことを、僕は、意識の仮想世界仮説って呼んでます。
詳しくは、この本に書いてます。
説明欄にリンクを張ってますので、興味がある方は読んでください。

さて、仮想世界を使って、鬼から逃げたことを思い返すわけです。
ハラハラしながら逃げた自分を客観的に認識して、楽しかったねぇって言うわけです。
こう感じることができるのは、仮想世界を使った心のシステムがあるからです。
楽しいって感情を持つのは、人間だけだって言いましたよね。
これで、その理由がわかりましたよね。

つまり、自分が感じてるハラハラした感情を客観的に観察できる機能がないと、楽しいって感情は生まれないんです。
難しいことばを使うと、メタ認知と言ってもいいと思います。
自分をメタ認知する機能があって、初めて、「楽しい」って感情が生まれるんです。

感情について調べると、よく、こんなのとか、

こんなのとか、

こんなのとか見ます。

感情を分類した図です。
感情って、こんな風に、丸書いて、区切って終わりって、そんな単純なもんじゃないんです。

それじゃぁ、まとめますよ。
遊びの根本を理解するには、まず、「楽しい」って感情の特殊性を理解しないといけません。
必要なのは、自分の感情をメタ認知できるシステムです。
そのシステムがあって、はじめて、「楽しい」が生まれるわけです。
そして、そのシステムは、別の見方をすればOSです。
OSで動くアプリが行動プログラムです。
鬼ごっこプログラムだったり、将棋プログラムです。
こういったプログラムを実行したとき感じるハラハラとかドキドキを、OSがメタ認知して感じる感情が「楽しい」です。

だから、競争って遊びは、勝負が決まったら終わりじゃないんです。
動物も、どっちが強いかを争います。
でも、動物は、勝負が決まったら、それで終わりです。
それ以上、争いません。
これは、目的が、どっちが強いかを決めることだからです。

でも、遊びは違うんです。
遊ぶこと、それ自体が「楽しい」って感情なんです。
「楽しい」は、限りがありません。
もっと、遊びたいって思います。

人類は、これを獲得したんです。
終わりなく、もっと楽しみたいって機能です。
他の動物が持ってない機能です。
このおかげで、文化が花開き、文明を発展させたのです。
その原動力となる特殊な感情が「楽しい」なんです。

そして、この「楽しい」を感じさせる行動プログラムが、「遊び」なんです。
これが、最も根本的な「遊び」の定義と言えます。
カイヨワが定義した遊びの4形態は、その次に出てくる話です。

次回は、この4形態について、探っていこうと思います。
はい、今回の動画が面白ければ、チャンネル登録、それから高評価もお願いしますね。
それでは、次回も、お楽しみに!