第197回 発表 ロボマインド 新感情理論


ロボマインド・プロジェクト、第197弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

ここんとこ、ずっと感情について考えてます。
そこで気づいたんですけど、感情は大きく二つに分けられるんですよ。
いままでも、プラス感情とマイナス感情って内容で分けてましたけど、そういうことじゃないです。
そうじゃなくて、感情発生のメカニズムの違いで二つに分けられるんです。
一つは「正感情」で、もう一つを「仮想感情」って呼んでいます。

この仮想感情を使うと、今まで分からなかったことが全て解決するんです。
分からなかったことって言うのは、人間の特殊性です。
具体的に言うと、人間だけ、なぜ、文化を発展させることができたのか、その根本原因です。
その鍵が、人間しか持ち得ない仮想感情にあったんですよ。
これが、今回のテーマです。
全く新しい感情理論。
仮想感情。
それでは、始めましょう!

ここ最近、取り上げてるのがロジェ・カイヨワの遊びの4形態です。

遊びの4形態っていうのは、遊びを4つのパターンに分類したものです。
第194回~196回で、競争、模倣、偶然を取り上げてきました。
今回、最後に残った「めまい」について考えていたんですよ。

カイヨワのいう「めまい」って遊びは、ジェットコースターとか、ブランコのことです。
これ、言ってみれば、恐怖ですよね。
怖いとか、危険って感情を楽しんでるんですよね。
ここが、人間の感情のスゴイとこなんですよ。

何がスゴイかっていうのを、順を追って説明しますよ。
第193回「ニューラルネットワークから遊びが生まれる瞬間」で、ディープラーニングで3大欲求を学習させたら、「楽しい」って感情だけ抽出できたって話をしました。

これ、どういうことか、わかりますか?
この意味を理解するには、まず、感情の役割について分かってないといけません。
僕の理論だと、進化の過程で、大脳が発達して意識が生まれました。
意識を使って、世界を認識するシステムが生まれたわけです。

もう少し説明すると、目で見た現実世界を、頭の中に仮想的に作り上げて、意識は、この仮想世界を認識します。
つまり、意識は、仮想世界を通して現実世界を認識するわけです。
詳しくは、この本に書いてあります。
説明欄にリンクを張ってますので、良かったら読んでください。

さて、意識が生まれる前の生物は、世界の認識と行動が結びついていました。
カエルは、虫っぽい動きを認識すると、自動で捕まえて食べます。
天敵の鳥の影を認識すると、すぐに池に飛び込んで逃げます。
世界の認識と行動が直接つながってるわけです。
世界に反応する自動プログラムが動いてるといってもいいです。

意識が生まれると、仮想世界を介して間接的に世界を認識できるようになりました。
そのおかげで、世界に自動で反応するんじゃなくて、意識は、考えることができるようになりました。
これは本当に食べれるのかとか、今まで、食べたことないけど、これは食べたら美味しいかもとか。
そんなことは、世界に直接反応する自動プログラムじゃ不可能なんです。
世界の認識と行動とが分離したからできることです。
ただ、完全に分離しては困ります。
天敵が来てたら逃げるって行動を取らないと死んでしまいますからね。
そこで、意識に適切な行動を取らせるのが感情なんです。
天敵を認識したら、怖いって感情を生み出します。
意識は、恐怖を感じて、逃げるわけです。
これが、心のシステムです。
感情の役割が分かりましたよね。

さて、楽しいって感情の話に戻ります。
楽しいって感情は、学習によって分離したっていいましたよね。
これが特殊なんです。
何が特殊かって言うと、まずは、特定の行動に結びついてないんです。
食欲とか、恐怖って感情は、食べるとか、逃げるとかって行動と結びついてます。
楽しいには、それがないんです。

それから、もっと重要なのは、客観的に感じる感情ってことです。
第194回「なぜ、遊びが楽しいか」で、鬼ごっこの楽しさについて語りました。
鬼ごっこで、鬼に捕まりそうになって逃げたりしたことを思い出して、楽しかったって言うわけです。
こうやって自分を客観的に認識できるのは、意識は、自分を含む世界を仮想世界として認識してるからです。

子どものとき、僕は、お化けとか幽霊とかが、異常に怖かったんです。
当時は、テレビで心霊番組とか、よくやってて、それが怖くて仕方なかったんです。

恐怖って感情は、死に結びつくものだと思います。
高い所が怖いのは、落ちたら死ぬって思うからです。
ジェットコースターが怖いのも、高い所から落ちる恐怖ですよね。
幽霊が怖いのは、死に結びついてるからです。

死を避けるといった、本能に結びついた強い感情です。
僕が、子供の頃、心霊番組が死ぬほど怖かったのは、あの時、死そのものの恐怖を、直接感じてたからだと思います。

でも、あれだけ怖かった心霊番組も、だんだん、面白がって見れるようになってきました。
ジェットコースターなんかも、怖かったですけど、これも、楽しめるようになってきました。

これって、どういうことでしょう?
おそらく、恐怖って感情を、客観的に感じれるようになったんだと思います。
心霊番組を見ても、これはテレビの話だとか、幽霊なんか本当はいないとか、そんな風に思うことができるようになったんだと思います。

進化の過程で、意識が生まれたって話をしましたよね。
意識と一緒にできたのが、仮想世界です。
現実世界を仮想的に構築した世界です。

意識は、脳が作り出した仮想世界を通じて、現実世界を認識するようになりました。
おそらく、仮想的に作られたのは、現実世界だけじゃないと思うんですよ。
感情も仮想化したんだと思うんです。

稲川淳二の怪談話とか、本当に怖いですよね。
あれは、怪談話を聞いて、頭の中で想像してるわけでしょ。
つまり、仮想世界を作り上げてるわけです。
そこで、怖いって感じるのは、恐怖って感情も仮想的に作られてるわけです。
これが仮想感情です。

これは、ただの物語だ、ジェットコースターは、絶対安全だ。
そう、認識したわけです。
でも、怖いことは怖いですよね。
それは変わりないです。

ただ、同じ怖いでも、本物の恐怖とはちょっと違います。
何かが変わりました。
何が変わったかと言うと、仮想的な恐怖に変わったんですよ。
一歩引いて、恐怖を客観的に見れるようになったんですよ。

おお、リアルな幽霊話やなぁとか。
おお、このジェットコースター、ほとんど垂直落下するなぁとかって。
他人事みたいに感じれるわけです。

これが、ホンマに自動車で崖から落ちそうになったら、絶対、楽しむなんてできないでしょ。
そっちは本物の恐怖です。
他人事じゃなくて、まさに、自分に迫った死の恐怖です。
この本物の感情を、正感情と呼ぶことにします。

人は、恐怖すら、バーチャルで楽しめる仕組みを獲得したわけです。
これが、カイヨワの遊びの4形態の一つ、「めまい」です。

さて、話は、こっからさらに進みます。
意識が認識するのは仮想世界です。
頭の中につくった仮想世界です。
逆に言えば、仮想世界しか意識は認識できません。

その仮想世界に、感情も含まれます。
それが、仮想感情です。

感情は、内面から湧き上がって、特定の行動に結びついています。
恐怖なら、恐怖の対象から離れようって行動です。
これが正感情です。

でも、仮想感情は、必ずしも特定の行動に結びついているわけじゃありません。
恐怖を仮想化すると、逃げずに、それを楽しんだりできます。
むしろ、積極的にその感情を味わいたいって、何度もジェットコースターに乗ったりします。
仮想感情は、行動との結びつきが希薄です。

ただ、確実に言えるのは、内面から湧き上がるってことです。
そして、意識が、それを感じるわけです。
それともう一つ重要なのは、意識が直接、感情を生み出すことはできないってことです。
感情は、仮想世界から自然に湧き上がるものです。
意識は、仮想世界を自由に想像できても、感情は自由に作りだすことはできません。
感情は、仮想世界をつくり出して、それが、ある特定のパターンに一致したとき、自然と発生するものです。

そのパターンにぴったり合えば、大きな感情が発生します。
仮想感情の中には、大きく発生すれば身体反応として現れるものもあります。
その一つが、「笑い」です。
笑うって反応を引き起こす状況が「可笑しい」ってわけです。

もう一つの身体反応として、「泣く」があります。
「泣く」って現象を引き起こす状況が「悲しい」です。
これらが、人間だけが手に入れた新たな感情です。
だから、動物は笑ったり泣いたりしないわけです。

仮想感情は、仮想世界で再現される何らかのパターンです。
特定のパターンに反応する感情です。
仮想感情は、何種類もあると思いますが、その一つに、美しいってのもあると思います。

美しいって感情を引き起こす仮想世界のパターンがあるわけです。
たとえば規則的なものとか、純粋なものは美しいって感じます。
左右対称であったり、交じりっ気のない色とか。
反対に、乱雑だったり、いろんな物が混じったものは醜いと感じます。
たぶん、ここからアートが生まれたんだと思います。

「美しい」は、目に見えるものだけじゃなく、音でもあります。
音の変化のパターンです。
メロディやリズムです。
つまり、音楽です。

こうやって、人間は、仮想世界で再現される現象に対して、特定にパターンに反応する仮想感情を持つようになったんだと思います。

ここまでは分かります。
分からないのは、「可笑しい」や「美しい」を引き起こすパターンです。
人は、自由に表現することができます。
漫才とか、美術作品とか、音楽とか。
表現したものが、爆笑できるか、感動できる音楽か、それは、表現してみないと分かりません。
表現された作品を、意識がうけとったとき、初めて分かります。

もし、「笑い」や「美しさ」を引き起こすパターンがわかれば、めちゃくちゃおもろい漫才や、感動させる美しいメロディを、コンピュータで無限に生み出すことができるはずです。

じつは、ロボマインド・プロジェクトの目的はこれなんです。
笑いのパターンを使って、無限におもろい話をつくり出すことです。
この目的は、今も変わっていません。

コンピュータで心を作るってのは、その準備にしか過ぎないです。
作ったおもろい話を自動で判定するシステムとして、心が必要だから、心を作ろうとしてるんです。

その準備段階で、20年以上かかっていまいました。
でも、そろそろ、準備段階は終わりに近づいています。
その話は、いずれ、近いうちにしたいと思います。

はい、今回の動画がおもしろかったらチャンネル登録、高評価お願いしますね。
それじゃぁ、次回も、お楽しみに!