第198回 なぜ、人には、物語が必要なのか


ロボマインド・プロジェクト、第198弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

たぶん、100回以上前のだったと思います。
次回は、いよいよ物語について語りますって終わりました。

ロボマインド・プロジェクトの目的は物語の自動生成です。
だから、次回は、いよいよ、物語について語ろうと思ったんです。

今もそうですけど、次に何を語るべきかって、何となく分かるんです。
分かると言うか、アイデアのしっぽが自然と降りてくるんです。
それさえつかんだら、あとは、手繰り寄せるだけです。

でも、その時は、いくら待っても降りてこなかったんです。
たぶん、物語への思いが強すぎて、アイデアのしっぽが見えた気がしたんです。
その時は、まだ機が熟してなかったんですよね。

僕が知りたいのは、物語を生み出す根本原理です。
物語理論って呼ばれるものは、世の中にはいっぱいあります。
ジョージ・ルーカスが、スターウォーズに取り入れたことで有名な神話学のジョーゼフ・キャンベルとか。
それから、ロシアのウラジミール・プロップの『昔話の形態学』は、昔話を31のパターンを分類しました。
これは、コンピュータで物語を作るって僕のアイデアの元になってます。

でも、僕が知りたかったのは、そういう事じゃないんです。
そんなのは、物語の表面に過ぎないんです。
僕が知りたいのは、もっと、根本の部分です。
人は、なぜ、物語を求めるのかってとこです。
これこそ、動物にはない、人間だけが持つ心の機能です。
それが、ようやく分かってきたんです。
今度こそ、しっぽを掴んだようです。
物語、これが、今回のテーマです。
それでは、始めましょう!

さて、どこから話そうと思ったんですけど、まず考えるべきは、全体です。
入口を間違うと、正しいゴールにたどり着けません。
入口ってなにかっていうと、ジャンルとか分野です。
僕が知りたいのは、物語を生み出す根本原因です。
なぜ、人間の心だけが、それを持つのかってことです。

そこで、入口の話です。
心って言うから、心理学から入ってしまうと、心理学の中を探します。
脳科学から入ると、脳科学の中を探します。
知りたい答えが、そこにあるのなら、それで問題ありません。
ただ、「心」なんて、全貌がみえないものが、心理学とか脳科学とかに収まっているでしょうか?
収まらないですよね。

そもそも、文系とか、理系とかって分け方って、教える側の都合で分けてるだけです。
そんな分け方を止めて、ゼロから考えると、どこから始めたらいいでしょう。

それは、心があるものと、ないものではなにが違うのかって比較から始めることです。
そのためには、心があるものから、心がないものまで含んだ大きな網を張るんです。
それが、全体です。
そこから、網を狭めていくわけです。
最終的には、文系とか理系とか、そんな壁をまたいだ、あらたなジャンルになると思います。

それじゃぁ、一番広い、最初の網を投げますよ。
それは、3つのジャンルを含んでいます。
物理、生物、人間の3つです。
これらの何を比べるかって言うと、世界がどうやって成り立ってるかです。
その世界が、どうやって動いてるかです。

まずは、物理世界です。
物理世界は、物理の法則で動いていますよね。
万有引力の法則とかエネルギー保存の法則とか。
これで、星の動きや、振り子の動きを説明できます。
これだけみると、完結してるので、何も疑問は生まれないですよね。

そこで、別のジャンルと比較するわけです。
生物です。
生き物は、食べ物を食べたり、子供を産んで育てたりしますよね。
つまり、自分が生き延びるようにと、それから、自分の種が繁栄するように行動してます。
これと、物理世界を比較するわけです。

物理世界と生き物の世界では、決定的な違いがあります。
何か分かりますか?
それは、目的があるかないかです。

生き物は、自分が生きたい、自分の種を残したいって目的で行動してます。
でも、星や振り子は、目的を持って動いてるわけじゃありません。
物理世界の法則に則って動いてるだけです。
物理エネルギーの相互作用の結果、そういう動きになってるわけです。

これが全体を見るってことです。
一つの世界だけ見てたら、見えてこないものが、二つの世界を見渡すことで、重要な違いが見えてくるんです。

違いだけでなく、共通点も考えてみましょう。
生き物も物理世界に存在してます。
鳥は、重力に打ち勝つ揚力を翼でつくり出しているから空を飛べるんです。
物理法則に則って生きてます。
つまり、生き物は、物理法則にプラスして、目的をもって行動するようになったわけです。
物理世界があって、その上に、生き物世界があるって感じです。
だから、生き物が死んだら、物理世界に落ちるわけです。
目的をもって行動することはなくなって、物理世界の法則に従って朽ち果てるわけです。

それでは、次は人間です。
人間も生き物なので、生き物世界の法則も持ってます。
長生きしたい、種を繁栄したいって目的で行動します。
さて、行動の原動力は何でした。

感情や感覚ですよね。
お腹が空いたって感覚があるから、食べ物を食べようって行動を取るわけです。
天敵が近づいてきたら、恐怖って感情が生まれて、安全な場所に逃げるわけです。
これが生き物世界の法則です。
物理世界では、物理的エネルギーによって物体が動くように、生き物世界では、感情がエネルギー源となって行動するわけです。

これだけじゃ、動物と人間の違いがありませんよね。
でも、人間は、他の生き物と明らかに違いますよね。
言葉を話したり、道具を発明したり、全く違う世界で生きてます。
じゃぁ、その違いの元になってるのは何でしょう?
物理世界と生き物世界の法則の違いのように、明らかに、違う法則があるはずです。
人間は、その法則に従って生きてるから、他の動物と全然違う生活をしてるんです。

この1年、それについて、ずっと、考えてたんですよ。
ようやく、それが何か見えて来ました。

まず、前提とするのは人間の心のシステムです。
人は、目で見た世界を頭の中で仮想世界として構築します。
意識は、その仮想世界を介して現実世界を認識します。
これを、意識の仮想世界仮説と呼んでいます。
詳しくは、この本に書いてあります。
説明欄にリンクをはってますので、良かったら読んでください。

さて、仮想世界を介して現実世界を認識するメリットは何でしょう。
それは、仮想世界は自分が作りだしたものなので、物理世界に存在しないデータも追加することができます。
たとえば、お金の価値とかです。
目で見たり、さわれる部分は、物理的なお金です。
でも、お金で重要なのは、その価値ですよね。
1万円札には、1万円の価値があります。
それは、物理世界には存在しません。
でも、意識は、1万円札を見て、1万円の価値を感じれます。
感じれるということは、認識した1万円札には、1万円の価値が追加されてるわけです。
それが追加されてるのが、仮想世界の1万円札です。
これが、今、僕らの意識が見て、感じてる世界ってわけです。

問題は、こっからです。
じゃぁ、人間だけが持っていて、動物が持ってないものは何かってことです。
感情や感覚は、何らかの行動を駆り立てます。
感情や感覚があるから、意識は、行動しようって思うわけです。
人間だけ、他の動物と違う行動するってことは、人間だけ感じる、感情や感覚があるはずです。
それが何かってことです。

それは、一言で言えば世界を完成させたいって欲求です。
または、意味への欲求です。
これじゃ、よく分からないですよね。

ここ、丁寧に説明しますよ。
たとえば、子どもは何でも質問する時期があります。
なぜなぜ期って言われます。

「どうしてお父さんは仕事に行くの?」とか。
「どうして学校に行かないといけないの?」とか。
これって、どうしてでしょう?

行動の原動力は感情っていいましたよね。
ということは、なぜなぜって知りたがるにも、その原動力があるはずなんですよ。

それが世界を完成させたいって欲求なんですよ。
好奇心といってもいいです。

ここでいう世界ってのは、頭の中につくった仮想世界です。
おそらく、世界は、何らかの法則に則って動いてないといけないって思いがあるんだと思うんです。
おそらく、それは、動物が持ってない新たな欲求だと思います。

そこで知りたいものは、別の言い方をすれば、原因、結果と言ってもいいと思います。
この世で起こることは、何らかの原因があるって思いです。
それを知りたいって欲求です。
もっと言えば、「この世で起こることは、全て説明できるはず」って信念です。
それを知りたいって思ってるわけです。

そういうふうに思って生きていたら、どうなるでしょう?
目に映る物、聞いた話、全てについて、なんでって聞きたくなりますよね。
「なんで、お父さんは仕事に行くの?」って。
これがなぜなぜ期です。

そうやって、教えてもらった原因結果の法則を、頭の中の仮想世界に当てはめるわけです。
人が働くのは、お金を稼ぐためだとか。
お金がないと、生きて行けないとか。
これが、人間の世界を支える法則です。
その法則を、お父さんに当てはめると、お父さんが、なぜ、毎朝、仕事に行くのか分かるわけです。
これが、納得です。

こうやって、頭の中の仮想世界が、少しずつ、完成するわけです。
物事は意味もなく起こってるわけじゃなくて、何らかの法則に従って動いてるって。
原因があって、その結果、こう動いてるんだなって納得するわけです。

たぶん、その欲求はパズルみたいなもんなんです。
クロスワードパズルとか、空欄があったら埋めたくなるでしょ。
それと同じです。

「どうして、子どもは学校に行かないといけないの?」って質問に、ちゃんと答えてもらえないと、不満に感じますよね。
それは、クロスワードパズルのマス目がぴったり埋まらないのと同じなんです。
なんか、気持ち悪いんです。
これが、納得できないってことです。

これが、人間が新たに獲得した欲求です。
動物が持ってる欲求は、生き延びたい、種を繁栄させたいって本能です。

人間が、新たに獲得した欲求は、生物の持つ本能とはちょっと違います。
生き抜くための欲求と違って、一段高い欲求です。
それは、世界が動くさまを正しく理解したいって欲求です。
宇宙の心理を知り尽くしたいって欲求です。
生存本能とか、種の保存の本能とかとレベルが違うってのがわかりますよね。

これが人間が獲得した欲求なんです。
知的好奇心と言ってもいいと思います。
こっから、宗教も科学も生まれるってことは、何となく分かりますよね。
入口を間違うと見えてこない重要なことって、こういう事です。
理系とか文系とか、そんな風に考えてたんじゃ、見えてこない真実です。

ようやく準備が整いました。
なぜ、人は、物語を生み出すのか。
いや、人は、なぜ、物語を生み出さざるを得なかったのか。
今度こそ、物語について語りたいともいます。
この続きは、次回、お話します。

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それじゃぁ、次回も、お楽しみに!