第203回  言語より先に生まれたプログラム


ロボマインド・プロジェクト、第203弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

生物の特徴は、進化することです。
世代交代することで、両親の遺伝子を受け継いで、たまに突然変異が起こって、少しずつ進化します。
進化は体だけじゃなくて、脳でも起こってるはずです。
さらに、脳で動いてるプログラムも進化してるはずです。
脳で動いてるプログラムって、心の事です。

前回、第202回「もし、僕が、国語の授業をしたら・・・」で、心のプログラムがどのように進化したかって話をしました。

心のプログラムで一番重要な機能は、世界を認識し、観察するプログラムと、自分の体を動かすプログラムです。
前回、お話したのは、世界を観察するプログラムと、体を動かすプログラムが、進化の過程で二つに分かれたってことです。

でも、観察プログラムと行動プログラムが分かれたのって、そんなに凄いことなんでしょうか?
その後に起ったことを考えたら、これ、とんでもないことなんですよ。
前回、観察プログラムから自我と言語が生まれたって話をしました。
いやぁ、とんでもないものを生み出したでしょ。

ただ、前回、話を急ぎ過ぎました。
ここ、もっと丁寧に説明すべきなんですよ。
ここが分かると、プログラムで心を作るって、どういうことかが分かると思うんですよ。
たぶん、今回の動画をみれば、ロボマインド・プロジェクトが、今、何を作ろうとしてるのか、プログラムの中身が理解できると思うんですよ。
これが、今回のテーマです。
言語より先に生まれたプログラム。
それでは、始めましょう!

まずは、言葉を持ってない動物の世界を考えてみます。
たとえば、ライオンが肉を食べていたとします。
それを見ていたハイエナが、その肉を横取りしようとします。
当然、ライオンを怒って、あっちへ行けって吠えますよね。
ハイエナはビビッて逃げます。
でも、ライオンが、ちょっと離れたら、また、ハイエナが肉をかじりに来ます。
そしたら、また、ライオンがガオって吠えて、怒ります。

こんなシーン、テレビとかで見たことありますよね。
アフリカのサバンナでは、普通にある光景だと思います。
でも、人間社会じゃ、見ることないですよね。

たとえば、ファミレスで美味しそうにハンバーグ食べてるオッサンがいて。
そのオッサンが、トイレに行ってる隙に、隣のテーブルのオッサンが、そのハンバーグを盗み食いするとか。
そんな光景、見たことないでしょ。

じゃぁ、動物と人間って、何が違うかわかりますか?
これ、ちゃんと説明しようと思ったら、結構難しいんですよ。

それじゃぁ、ちゃんと説明するために、人が世界を認識する仕組みから説明します。
人は、目で見た世界を、頭の中で仮想世界としてつくり上げます。
そして、意識は、この仮想世界を介して現実世界を認識します。
これを、僕は、意識の仮想世界仮説って呼んでます。
詳しくは、この本に書いてます。
説明欄にリンク張ってますので、よかったら読んでください。

さて、ここで出てきた仮想世界、これ、ちょっと誤解があるんですよ。
僕は、よく、これを3次元の物理世界って説明します。
物理シミュレーターを使って再現できるとかって。
そう言うと、仮想世界イコール3次元の物理世界って思う人が多いんですよ。
でも、そうじゃないんですよ。
3次元の物理世界も仮想世界の一つではあるんですけど、仮想世界は、それ以外にもいっぱいあるんです。

動物の話に戻ります。
ライオンやハイエナが持ってなくて、人間が持ってるものです。

ライオンの食べてる肉は、ライオンが捕まえた獲物です。
だから、ライオンの物ですよね。
たとえ、ライオンがその場から離れたとしても、ライオンの物には違いないですよね。

でも、それが、ハイエナもライオンも分からないんですよ。
つまり、誰々の物って概念を動物は持ってないんですよ。
目の前に自分の欲しいものがあれば、それを取るだけです。
取らないとすれば、それを取るよりリスクが高いことがある場合です。
たとえば、ライオンに噛みつかれるとかです。
これが動物の世界です。

これは分かりますよね。
身体的に痛い思いをするから、それを避けるわけです。
つまり、物理世界で説明がつくわけです。

じゃぁ、人間が感じる、これは誰々の物ってどこにあるんでしょう?
これ、物理世界にはないんですよ。
じゃぁ、どこにあるのかってことです。
そこで、物理世界とは別の世界があるって考えます。
世界と言っても、異次元の世界とか、そういうんじゃないですよ。
物理世界とは違うルールが働く概念的な世界です。
ここでは、誰々の物って概念がある世界です。
僕は、それを所有権世界って呼んでます。

3次元の物理世界には、位置とか、高さとかってデータと、落ちるとか投げるとかって、動きが定義されます。
これらは、3次元の物理シミュレーターで再現できますよね。

それと同じように、所有権世界には、これは、誰の所有物かってデータと、交換するとか、買うとかって、所有権の動きが定義されてるわけです。
人は、3次元世界を感じると同時に、必要に応じて、所有権世界も感じるわけです。
そんなこと、普段、意識することはないと思いますけど、人が、頭で考えるときって、いろんな世界を瞬時に切り替えてるんです。
だから、どんなに美味そうでも、隣のオッサンのハンバーグを、勝手に取って食べたりしないわけです。

さて、こっからが本題です。
今の話を、プログラムで考えて行きます。

プログラム言語の種類に、オブジェクト指向言語ってのがあります。
オブジェクト指向言語では、オブジェクトはプロパティとメソッドを持ちます。
オブジェクトってのは、物とか人のことです。
プロパティってのは、オブジェクトが持つデータの事です。
メソッドってのは、オブジェクトが行う動作とか、行動のことです。

さて、所有権世界には人オブジェクトと物オブジェクトがあります。
人オブジェクトの所有物プロパティに物が設定されるわけです。

たとえば、太郎君は、喉が渇いたので、コンビニでコーラを買って飲むとします。
これを、プログラムで作ってみましょう。

人オブジェクトは「買う」メソッドを持っています。
太郎君が「買う」メソッドを実行すると、コンビニの所有物プロパティにあったコーラオブジェクトが、太郎君の所有物プロパティに移動するわけです。
その時、太郎君の所有物プロパティにあったお金の一部が、代金としてコンビニに移ります。

こんなプログラムなら、すぐに書けます。
それじゃぁ、このプログラムをつかって、思考について考えてみます。

まず、所有権世界があるわけです。
誰が何を持つって状態は、所有権世界のプロパティで表現できます。
所有物は移動します。
物理的な移動でなくて、所有権の移動です。
これは、「買う」とか「あげる」ってメソッドで実現できます。
世界の変化は、オブジェクトとメソッドで表現できるんです。
世界で起こる出来事は、プログラムで忠実に再現できるってことです。
これ、どういうことか分かりますか?

これが、意味を理解するってことなんです。
つまり、意味を理解するってのは、言い換えればその世界のオブジェクトとメソッドを当てはめることなんですよ。

ここ、ものすごい重要なとこです。
いいですか。
考えるには、まず、どの世界で考えるのか決めないといけないんですよ。
世界が決まると、その世界の持つプロパティやメソッドが使えるようになるわけです。

これが、世界を間違うと、意味が通じないんです。
ライオンがよそ見してる隙に、肉を奪おうって、これ、3次元世界で考えて行動してるんです。
動物は、所有権世界で考えてないというか、所有権世界ってものを持ってないんです。
意味が通じるってのは、同じ世界を共有してるからできることなんです。
所有権世界を共有してるから、ちょっと席を外した隙に、ハンバーグを盗られるなんてことが起こらないんです。

それから、もう一つ、重要な話があります。
太郎君は、なんでコーラを買いましたか?
喉が渇いたからですよね。
それで、コンビニでコーラを買おうって考えたわけですよね。

重要な話ってのは、思考のきっかけの話です。
きっかけは、喉が渇いたですよね。
これは、身体感覚です。

何が言いたいかと言うと、思考の始まりは、感覚や感情なんです。
これは、今までの世界とは、ちょっと違うんです。

世界には、3次元物理世界とか、所有権世界とかいっぱいあります。
ほんで、その上に、感情や感覚の世界があると考えるわけです。
これを心理世界と呼ぶことにします。
考えや行動は、上位の心理世界から始まるわけです。

喉が渇いたって感じたら、どうしたらいいか考えてコーラを買おうってなるわけです。
運動会で一番になりたいって思ったら、走る練習をしようってなるわけです。
思考や行動の一番最初のきっかけは、心理世界なんです。
心理世界で、最初に目的が設定されるわけです。
そして、目的を達成するための方法を探索するのが思考です。

じゃぁ、思考とは何でしょう。
それは、目的を達成するための行動を決定することです。
そのとき、最初に決めないといけないのが世界ってわけです。
3次元物理世界か、所有権世界かって話です。

次は、思考の終了です。
考えがまとまって、コンビニでコーラを買うって行動が決まったとします。
最後は、それで問題ないか検証しないといけません。
つまり、目的が達成されるかどうかです。
ここで、また、心理世界に戻ります。
コーラを飲んでるところを想像します。
そしたら、喉の渇きが癒されたって感じて、目的が達成されると判断できます。
これを、間違って醤油を買おうって結論が出たらどうです?
醤油を飲んでるとこを想像して、「あっ、これ、余計に喉が渇くわ」ってなるわけです。
最後に、ちゃんと心理世界で確認しないといけなんですよ。

こうやって、どう行動するかが決まりました。
あとは、決めた通りに行動するわけです。
行動プログラムに移行するわけです。

最初の話に戻ります。
人は、進化の過程で、観察プログラムと行動プログラムに分かれました。
思考の部分は、観察プログラムになります。
ただ、こんだけ処理をするとしたら、観察とは言えないですよね。

喉が渇いたと感じて、どうしたらいいのか考えるプログラムです。
ここまでくると、これは、自我と呼んでもいいと思います。
これこそが自分なんです。
今、何を感じて、どうすべきかって悩み、考える自我です。

世界に反応するだけの動物にはないものです。
それが、行動プログラムから分離することでうまれたわけです。
それが、自我とか、意識です。
これからは、これを意識プログラムと呼ぶことにします。

さて、最後です。
意識プログラムは、何をしましたか。
思考ですよね。
思考っていうのは、世界を決定して、その世界のプロパティとかメソッドを使って、目的を達成するように世界を変化させましたよね。

これは、プログラムで一行ずつ、書くことができます。
コーラ、買う、とか。
コーラ、飲む、とか。

プログラムで一行ずつ書くこと、これが思考です。
そして、それを外に表現したものが言葉です。
言語です。

はい、ようやく、言語に辿り着きましたね。
注意して欲しいのは、言語は最後ってことです。
その前に、頭で考える仕組みがあるわけです。
それが何かと言うと、プログラムです。
もっと言えば、オブジェクト指向プログラムです。
言葉の意味を理解するのに、オブジェクト指向プログラムが必要って、わかりましたよね。
そして、これをやってるのが、ロボマインド・プロジェクトってわけです。

はい、今回の動画が面白かったら、チャンネル登録、高評価お願いしますね。
それじゃぁ、次回も、お楽しみに!