第216回 意識は、脳のどこで、何をしてるのか。


ロボマインド・プロジェクト、第216弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

この10年程、コンピュータで脳をシミュレーションしたり、脳を作ろうって研究が、世界中で行われています。
たとえばヨーロッパのヒューマン・ブレイン・プロジェクトとか、アメリカのブレイン・イニシアチブ、それから、日本だと、全脳アーキテクチャとかです。

さて、ロボマインドがつくってるのは、マインド・エンジンです。
じゃぁ、マインド・エンジンと、コンピュータで脳を作るのと、どこが一緒で、どこが違うんでしょう?

これ、どちらも目指すものは同じです。
コンピュータで脳を作るって、目的は脳の再現だけじゃないです。
脳を再現して、人間の知能や心を解明するのが目的です。
つまり、最終的には、人間と同じ心を作ろうとしているわけです。
その意味では、マインド・エンジンと同じです。

じゃぁ、何が違うんでしょう?
それは、アプローチの仕方です。

コンピュータで脳を作る場合は、ニューロン単位で組み立てていきます。
小脳とか大脳とかのニューロンを調べて、それをコンピュータシミュレーションして再現します。
そして、最後に、それらを組み合わせて、脳全体を再現しようとしています。
つまり、一番下から脳を組み立てようとしているわけです。
これをボトムアップアプローチと呼びます。

それに対して、マインド・エンジンは、逆のアプローチを取っています。
つまり、先に実現したい機能を考えて、それをプログラムに落としこんでいきます。
これを、トップダウンアプローチって言います。

実現したい機能っていうのが、人間と同じ心です。
考えたり、悩んだりする心です。
心の機能を実現するために、複数のモジュールに分割します。
たとえば、これが、今のマインド・エンジンです。

MindEngineコンソール、無意識、意識、仮想世界の4つのモジュールで出来てます。
モジュール間は、通信でデータのやり取りが行われます。

まだ、最低限の構成しか出来てませんが、今後、もっとモジュールを追加していきます。
そうなってくると、だんだん、脳に近づいてくるんですよ。
たとえば、このモジュールが大脳で、このモジュールが小脳とかって整理できるようになります。
そうやって、心の機能が、脳のどこで実現されるかって分かるようになります。
それじゃぁ、最終的に一番知りたいのは、何でしょう?
それは、意識です。
意識は、脳のどこにあって、どうやって動いているか。
これが、今回のテーマです。
意識は、脳のどこで、何をしてるのか。
それでは、始めましょう!

まずは、マインド・エンジンの仮想世界から始めます。
仮想世界ってのは、意識モジュールが認識する世界です。
たとえば、今のマインド・エンジンの仮想世界はこんな風になってます。

これ、何を示してるかって言うと、出来事です。

ここでは、太郎がコンビニでコーラを買ったって出来事を示してます。
つまり、物や人がいて、何が起こったって形式で、意識は世界を認識するわけです。

これ、言ってみれば、今、現在の状況と言えます。
脳の機能でいえば、これは、短期記憶です。
でも、これだけじゃ、今しか理解できません。

人は、過去の出来事も思い出すことができますよね。
「昨日、こんなことがあったよ」って。
これができるのは、起った出来事を覚えているからです。
出来事を覚えるには、その仕組みを作る必要がありますよね。

起った出来事を、そのまま保存する仕組みです。
そこで、出来事を保管する格納庫を、マインド・エンジンに追加します。
格納庫には、起こった順番に出来事を格納していきます。

思い出すときは、格納庫から取り出して仮想世界に展開します。
意識は、それを認識して、「あぁ、昨日、コンビニでコーラを買ったよなぁ」って、思い出すわけです。
出来事は、前後の出来事にも結びついていて、「たしか、野球をしてて、喉が渇いたんだったよなぁ」とかって、その前の出来事も思い出すことができます。
これは、起った順に格納してるからできるわけです。

これ、どういうことかわかります?
これって、時間の流れを理解してるってことです。
出来事を順に格納する構造、これがあるから、時間の流れを感じれるんです。
つまり、出来事ってデータを保存する構造があるから、時間って概念を理解できるってことです。

これは、時間に限らないことですけど、最も基本的な概念って、データの構造なんですよ。
どういう形でデータを持ってるか。
それが、意味なんです。
世界を、どう認識するかって、どういうデータ構造を使って認識するかってことなんです。
だから、データ構造とか、それを処理する仕組みとかを作る必要があるんです。
それを、一つ一つ作ろうとしてるのが、マインド・エンジンです。

じゃぁ、出来事を保存する格納庫は、脳のどこにあるんでしょう?
思い出とかの記憶をエピソード記憶っていいます。
エピソードを記憶するのは脳の海馬です。

脳科学の分野で、海馬といって、まず思い出すのが、HM氏です。
HM氏は、てんかんの治療のため、海馬を切除したことで、記憶することができなくなりました。
過去の記憶はあるそうですけど、新しいことが覚えられないそうです。
だから、毎朝、会う看護師さんに、「初めまして」って挨拶していたそうです。

これって、今しか、感じれないとも言えますよね。
昨日から今日に流れる時間を理解できないってことです。
海馬が機能しないと、時間の流れも感じれなくなるわけです。
出来事を順番に格納するデータ構造を持ってないということは、時間の流れを感じれないってことです。

さて、長期記憶はエピソード記憶だけでなくて、手続き記憶ってのもあります。
手続記憶っていうのは、体で覚えるタイプの記憶です。
自転車の運転とか、楽器の演奏とかです。
HM氏は、手続き記憶は、新たに覚えることができたそうです。
つまり、同じ長期記憶でも、エピソード記憶と手続き記憶では、保存する場所が違うようです。

それじゃ、つぎは、手続き記憶について考えてみます。
僕は、よく、意識と無意識の違いを、自転車の運転を例に挙げて説明します。
初めて自転車に乗る時、ペダルを漕ぎながらバランスを取ってって頭で考えても、上手く運転できませんよね。
それが、慣れてくると、何も考えなくてもペダルを漕ぎながらバランスを取って運転できるようになります。
これが、手続き記憶です。
手続記憶は、意識で考えるタイプの記憶じゃありません。
意識でなくて、無意識で勝手に処理するタイプの記憶です。
意識で認識する記憶と、無意識で体が覚える記憶とは、違うってこと、わかりますよね。

それじゃぁ、手続記憶をロボットで再現するとしましょ。
自転車に乗るロボットです。
ロボットの手足はモーターで制御されてます。
手足は、自転車を運転したりと現実世界で動きます。
現実世界でバランスを取ったりするには、センサーに反応して制御する必要があります。
何度も失敗を繰り返しながら、センサー入力に対する最適なモーター出力を学習するわけです。

さて、バランスを取ったりといった運動の調節をおこなってるのは、脳だと、小脳になります。
これは、脳の進化をあらわした系統図です。

ピンクのところが小脳です。
小脳は、進化的に古い動物でも持ってる機能ってわかりますよね。
いっぽう、海馬は、大脳側頭葉の内側にあります。
青いのが大脳です。
つまり、大脳とか、海馬は、進化的に新しい機能といえます。

おなじ長期記憶でも、エピソード記憶と手続き記憶では、保存する場所が違うってことがわかりますよね。
さらに、場所が違うってことは、進化的に古い機能か、新しい機能かって違いとも言えるんです。
ここでは、進化的に古い機能を低次機能モジュール、進化的に新しい機能を高次機能モジュールと呼ぶことにします。

もう少し考えます。
さて、行動の原動力はなんでしょう?
それは、感情です。
たとえば、恐怖といった不快を避けて、安心といった快を求める行動をとります。
感情は、心にとって、ものすごく重要な要素です。

マインド・エンジンでも、今後、感情を実装する予定です。
たとえば、「ヘビがいる」って入力文があれば、恐怖って感情を生成するモジュールです。
感情を発生するのは、脳だと、偏桃体にあたります。
偏桃体は、動物でも持ってる低次機能モジュールです。

それでは、人間特有の機能について考えていきます。
人間は、目先の快、不快だけで行動を決めてるわけじゃありません。
たとえば、太郎君は、運動会のかけっこで一位になりたいと思いました。
そこで、しんどくても一生懸命練習します。
これは、目先の辛さより、運動会で一位になるって未来の自分を想像して頑張ってるわけです。

意識が認識するのは仮想世界です。
仮想世界には、現実の世界を認識する現実仮想世界と、想像するときに使う想像仮想世界があります。
未来を想像するには、想像仮想世界を使います。

想像仮想世界で、運動会で一位になってるシーンを想像するわけです。
女子に、すごーい!って言われてるとこを想像して、ニヤニヤするわけです。
そんな場面を想像して、太郎君は、かけっこの練習をするわけです。

そして、運動会当日です。
残念ながら、太郎君は、かけっこで一位になれませんでした。
転校生のマイケル君に負けてしまいました。

太郎君は悔しがります。
もっと、練習すればよかったって、後悔します。
ゲームなんかしてないで、練習すればよかったとかって。

さて、この後悔の感情、どうやって実現してるでしょう。
まず、思い通りにならなかった現実を認識して、意識は、マイナス感情を感じますよね。
それから、過去を思い出す機能も必要です。
さらに、過去の出来事を、「もし、こうしていれば」って、想像する機能も必要です。
「もし、こうなら」って、条件を変えてシミュレーションすることです。
さらに、もっと練習すれば一位になれるって思えるのは、原因と結果って概念を理解してるからです。

そして、過去の出来事は、変えれないってことも知っています。
これだけをわかったうえで、思い通りにならなかったって現実の辛さを味わうわけです。
その時感じる感情が、後悔です。

どうです?
後悔って、かなり複雑な感情ってわかりますよね。
単に、快とか不快って単純な感情とは違います。

後悔を感じるには、仮想世界モジュールとか、出来事の格納庫とかって、いろんな高次機能モジュールを使う必要があります。
これらの高次機能モジュールを使って、条件を変更してシミュレーションするわけです。
そして、そのシミュレーション結果と、現実を比較して、結果の組み合わせから後悔って感情を発生するわけです。
これだけの制御をしてるモジュールはどこか、わかりますか?
それは、意識モジュールです。

さて、脳の中で、全ての高次機能と繋がって、コントロールしてるところはどこでしょう。
それは、大脳の前の部分、前頭葉です。
だから、人間は、他の動物とくらべて、前頭葉が異常に発達してるわけです。

(前頭葉を赤枠で囲む)

意識が、どこにあるか、これでわかりましたよね。
トップダウンアプローチだから、分かったわけです。
トップダウンアプローチで作ったマインド・エンジンは、最終的に、人間の脳と、同じ構造となります。
そして、なにより、人間と同じ心も再現できます。
運動会で、負けたら悔しがります。
もっと練習しとけばよかったのにって悔し涙を流します。

世界中で行われてる脳プロジェクトは、ボトムアップアプローチです。
何百、何千万ってニューロンのプログラムを、実際の脳と同じように繋げて脳を再現しようとしています。
そんな風に、見よう見まねでニューロンを繋いでいって、本当に心が生まれるんでしょうか?
時間って概念を理解したり、「もし、あの時、こうしていれば」なんて思考ができるようになるんでしょうか?
皆さんは、どう思います?

さて、今回説明した、心や意識の仕組みについては、この本で語ってます。
よかったら読んでください。
はい、今回の動画が面白かったらチャンネル登録、高評価、お願いしますね。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!