第221回 脳を120%解放した女② 〜魂は存在するか?


ロボマインド・プロジェクト、第221弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

ロボマインド・プロジェクトは、コンピュータで心を再現するプロジェクトです。
だから、このチャンネルでは、心や意識に関して、広く扱ってきました。
でも、一つだけ、避けてた物があります。
それは、なんというか、スピリチュアルな領域です。
たとえば魂とかです。
だって、魂なんて、科学じゃ扱えないじゃないですか。
そうやって逃げてきたんですけど、でも、ちょっと考えが変わってきました。

その事を気づかせてくれたのが、前回、第220回「脳を120%解放した女①」で紹介した脳科学者、ジル・ボルト・テイラーです。
彼女は、左脳に脳卒中を起こしました。
左脳が機能しなくなって、右脳だけで見る世界を体験しました。
それは、驚くべき体験です。

自分の体が溶け出して、自分の体の境界が分からなくなりました。
そして、世界と一体となって、大きなエネルギーを感じたそうです。
自分が一つのエネルギーとなって、世界に溶け出して、この上ない幸福を感じたそうです。

こんな話を聞くと、つい、「そのエネルギーって、魂のことじゃない?」って思ってしまいます。
ここで、「大いなる魂の導きでぇ」とかってなっちゃうと、フワフワしたスピリチュアルの世界になっちゃうので、そっちには行かないつもりです。
どこまでも理論的に、魂とは何かについて解明していきます。
これが、今回のテーマです。
120%、脳を解放した女
魂は存在するのか。
それでは、始めましょう!

彼女は、左脳が弱くなってきて、だんだん、右脳だけで世界を見るようになりました。
その時、何が起こったかと言うと、徐々に、世界が消えて行ったんです。
この話を聞いたとき、僕は、「へぇ、やっぱり、そうか」って、思いました。
なんでそう思ったかについて、順番に説明していきます。

僕が作ろうとしてるのは、人間と同じように世界を認識する心です。
コンピュータで人間の意識を再現しようとしてます。
その基となるのが、意識の仮想世界仮説です。

簡単に説明すると、人は目で見た世界を頭の中で仮想世界として構築します。
意識は、その仮想世界を介して現実世界を認識するわけです。
頭の中で作る仮想世界というのは、コンピュータなら、3DCGで作るわけです。
意識の仮想世界仮説に関しては、この本に詳しく書きましたので、良かったら読んでください。

ジルは、左脳に脳卒中を起こして、見る物、感じる世界が、徐々に変化してきました。
たとえば、最初、手を見ると、なんだか大きな怪物のような手にみえました。
自分の体を見ようとすると、どこか他の世界から、自分を見下ろしてるように感じたりしました。

なぜ、そんな風に感じたのか、順に解明していきます。
まずは、身体感覚です。

自分の体はどこからどこまでかって、はっきりわかってますよね。
でも、これって、結構簡単に変わるもんなんです。

たとえば、自動車を運転するとき、車体の大きさって、自分の身体感覚としてわかりますよね。
それから、スポーツとかでも、バットやラケットが、自分の体の延長のように感じられますよね。
こんな風に、身体感覚って、意外と簡単に変わるんですよ。
身体感覚って、その時の状況に合わせて、自分の体を合わせにいくって感じです。

これは、おそらく、頭の中に、自分の身体モデルってのを持ってるんだと思います。
頭の中に仮想世界を作って、その中に自分の身体モデルを作ってるわけです。
自分で作った身体モデルなので、状況に合わせて身体を変化させることができるわけです。
これが、身体感覚ってわけです。

今度は、過去を思い出してみましょう。
たとえば、中学校の卒業式とかです。
学校の体育館とか講堂で、みんなが座ってる光景とか思い出しますよね。
それじゃぁ、その時の視点に注目してください。
たぶん、卒業式全体を見下ろせるように、天井から俯瞰してますよね。
でも、よく考えたら、これっておかしいんですよ。
だって、体育館のそんな高い位置から卒業式見てなかったですよね。
実際に見てた光景を忠実に再現したら、たぶん、前に座ってる子の背中のどアップになるはずです。

何が言いたいか、わかりますか?
実際に見た光景を記憶してるわけじゃないってことです。
記憶してるのは、卒業式の3次元モデルなんです。
「卒業式を思い出してください」と言われたら、卒業式の3次元モデルを取り出して、全体を見渡せる位置にカメラを置くんです。
だから、天井から見下ろした光景になったんです。
これが人の世界の認識の仕方です。

それから、たとえば3Dゲームには、一人称視点モードと三人称視点モードってのがあります。
一人称視点モードだと、キャラクターが見た光景が表示されて、三人称視点モードだと、キャラクターの斜め後ろから、キャラクターを見下ろすような光景が表示されます。
一人称視点は、その人が見てる光景なので、これが自然なのは分かります。
でも、三人称視点でも、違和感なく、ゲームをプレイできますし、むしろ、こっちの方がプレイし易かったりします。
これって、自分を含んだ世界を認識するときって、自分を斜め後ろから見下ろしてるって言えそうですよね。

今回、ジルは左脳に脳卒中を起こしました。
すると、手が大きく感じたり、自分を見下ろしてるように感じました。
おそらく、これは身体モデルを管理してるのが左脳にあったんでしょう。
通常なら、自分が見てる手と、身体モデルの手が一致するように制御してるはずが、左脳がバグって、見えてる手より、身体モデルの手が大きくなったみたいです。

それから、普段は、物を見るとき、一人称視点で認識するのが、左脳がバグって、3人称視点に切り替わったんでしょうね。
だから、自分の体を見るのに、自分を上から見下ろしてるような感覚になったんでしょう。

こうして見てみると、人の認識の仕方って、意識の仮想世界仮説、その物だって思いますよね。
意識は、頭の中につくった現実世界そっくりの仮想世界を介して世界を認識するってわけです。
ジルは、この世界認識システムが、少しずつ機能しなくなってきたようです。

その後、彼女は、シャワーを浴びました。
この時、自分の体の境目が分からなくなったそうです。
自分の腕の分子原子と、壁の分子原子が溶け合うような感覚を感じたそうです。

これなんか、3DCGを生成するところがバグったようです。
おそらく、脳の処理速度が低下して、仮想世界の生成が追い付かなかったんでしょう。
スペックが低いコンピュータでゲームすると、3Dのポリゴンが見えたり、動きがガクガクになったりするのと同じです。
世界認識システムが無ければ、僕らは、自分の身体がどこからどこまでなのかすら、分からなくなるってことです。

いいですか。
世界というものがあって、その中で僕らが生きてるってイメージ。
それって、完全に外からの視点です。
僕らは、内側から世界を見て、認識してます。
重要なのは、内側から、世界をどう認識してるかです。

世界を認識するってのは、世界を頭の中に創ってるってことです。
自分が創った世界の中に、自分のモデルを配置してるわけです。
外の世界で体を動かすと、それに合うように仮想世界の自分の体も動くわけでです。
僕らの意識が見て、感じてるのは、仮想世界の方です。
これが、内側から見た世界ってことです。

じゃぁ、この世界認識システムが壊れてたら、どうなるでしょう?
それは、文字通り、世界が壊れるってことです。
世界が消滅してしまいます。

いや、でも、実際に世界が消えたわけじゃないって思いますよね。
じゃぁ、聞きますよ。

何光年も離れた宇宙の果てで、星が一つ消えたとしましょ。
そんなニュースを聞いても、たいていの人は、ふぅ~んって思うだけです。
それは、自分には直接関係のないからです。

これと同じことです。
現実の世界が本当に消えたかどうかは、どうでもいいんです。
大事なのは、あなたか直接感じてる世界、今、あなたが見てる、この世界が、消えるってことです。

その時、初めて、気付くんですよ。
今まで、見て、感じてた、この世界は、自分がつくり出した世界だったんだって。
たとえ、目や耳や、皮膚感覚が正常に動いてたとしても、世界認識システムが機能しなくなると、世界は消滅してしまうんだって。

ジルは、シャワー室の中で、完全に世界認識システムが停止しました。
そのとき、完璧な静寂を感じたそうです。
今まで続いていた頭の中のおしゃべるが、一切、消えました。

頭の中のおしゃべりって言うのは、次は、こうしなければいけない、ああしないといけないって思考のことです。
現実世界で、適切に生きて行くために、常に考えてることです。
その思考ができるのは、世界認識システムがあるからです。
こうしたらどうだろうって、自分が創った世界でシミュレーションしてるわけです。
世界認識システムが機能しなくなると、そんな思考も全て停止してしまいます。

意識は、そんな世界認識システムの上で動いていました。
世界認識システムを介して、今の状況を把握し、今後、どうなるか予測し、次の行動を決定してたわけです。

じゃぁ、その世界認識システムが停止したら、一体、どうなるでしょう?
次に、意識が感じるのは何でしょう?

世界認識システムは、左脳にあって、理論的な思考を司っています。
一方、右脳が司ってるのは、イメージとか直観とか、なんかフワフワした物です。
それを、左脳の世界認識システムで押さえつけて、現実を認識してたわけです。
その押さえがなくなって、ジルは、右脳で世界を認識するようになりました。

ジルが感じたのは、大きなエネルギーでした。
世界認識システムは、目や耳や皮膚感覚といった物理世界のデータから世界を創り出していました。
それが停止して、完全な静寂の中で感じたエネルギーというのは、物理世界のエネルギーとは異なるものでしょう。
そして、彼女は、体が、どんどん大きくなって、世界と一体となる感覚を感じます。

世界認識システムというのは、世界と、その中の自分というものを創り出してるわけです。
これ、言い換えたら、自分と世界とを分離してるってことです。
自分のモデルを世界に配置することで、こっからここまでが自分で、その先が世界だって。
自分と世界とを明確に分けること、これが世界認識システムの重要な役割の一つです。
それが機能しなくなると、自分と世界とを区別することができません。

えっ、ちょっと待ってくださいよ。

自分と世界とを区別してるのって、世界認識システムがしてるってことですよね。
世界認識システムができて、初めて、自分と世界は分離したってことですよね。
ということは、自分と世界って、本来、分離してないってことですか?

この時、ジルはこの上ない幸福感を感じたそうです。
天国があるとするなら、これこそが、天国だって思ったそうです。

人は、この世に生まれてから、世界認識システムを頭の中につくり上げました。
それは、この現実世界で最適な行動を決定するために必要なシステムです。
世界認識システムが考える最適な行動って、どうしたら効率よくお金を稼げるかとか、安くて美味し物が手に入るかって行動ですよね。
求めてるのは、一言で言えば、幸せですよね。

でも、ジルは、世界認識システムが停止して、自分と世界との分離がなくなったとき、この上ない幸せを感じたんです。
もしかして、自分と世界とを分離して、理屈で行動してるかぎり、幸せには到達しないってことですか?

この時、ジルは、かなり危険な状態にありました。
そりゃそうです。
かなり重い脳卒中を起こしていたのですから。
このままなら、確実に死んでいたでしょう。

その時、一瞬、左脳が戻ってきました。
左脳の声が聞こえました。
「危険だ、だれか助けを呼べ!」って。

この後、ジルは左脳と右脳を交互に体験することになります。
世界認識システムが、何をしてるのか、より明確になってきます。
その話は、次回にしたいと思います。

ただ、今回の話の締めとして、考えないといけないことがあります。
それは、ジルがあの時感じたエネルギーって、なんなんでしょう?
もしかして、それが、魂っていうものでしょうか?

人は生まれて、世界認識システムを使って、この世界で幸せになろうと行動します。
肉体が死ぬとき、世界認識システムも停止します。
世界認識システムが停止すると、魂が解放されます。
そのときになって、初めて、本当の幸せが訪れるんでしょうか?

生きるって、どういう事なんでしょうねぇ。
皆さんも、一度、考えてみてください。

今回の動画が面白かったら、チャンネル登録、高評価お願いしますね。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!