第244回 脳を二つに切ったら、もう一つの世界が現れた!


ロボマインド・プロジェクト第244弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

分離脳って聞いたことありますか?
脳は左脳と右脳がありますよね。
左脳と右脳は脳梁って部分で繋がっていて、互いに通信しています。
重度のてんかんの治療の為に、この脳梁を切断する手術があるんですよ。

かなりの大きな手術ですけど、意外と普通の生活ができるそうです。
ただ、左脳と右脳、それぞれに質問すると、全然別の答えが返ってくるんですよ。
まず、どうやって、左脳と右脳、別々に質問するかから説明します。
よく、体の左右と脳の左右は交差してるって言いますよね。
右手は左脳で、左手は右脳とかって。
ただ、目の場合は、それぞれの眼球の内、右の視界が左脳に行って、左の視界が右脳に行くんです。

つまり、視界の中央で左脳と右脳に分かれるんです。
だから、スクリーンの左右に別の画像を表示することで、左脳、右脳のそれぞれに別の画像を見せることができるんですよ。

こっから分離脳患者の実験です。
被験者の左脳にはハンマー、右脳にはのこぎりを見せます。
ここで、「何が見えましたか?」って質問します。
すると、「ハンマーが見えます」って答えます。
これは、会話は左脳が担当なので、左脳が見えるものを答えたわけです。
次は、目を閉じて、今見た物を左手で絵で描いてもらいます。

左手で描くってのは、右脳で答えてもらってるわけです。
すると、なんと、のこぎりの絵を描くんです。
これには、描いた本人も驚くそうです。

面白いのは、こっからです。
右脳は、発話はできないですけど、文字を読むことはできます。
そこで、右脳に「歩きなさい」ってカードを見せます。
すると、席を立って部屋から出て行こうとします。
そこで、「なぜ、部屋から出て行くのですか?」って尋ねました。
そしたら、おかしなことを言うんですよ。
何て言ったかというと、「喉が渇いたので、コーラを取りに行こうと思って」って答えたそうです。
もちろん、本当の理由は「歩きなさい」ってカードを見たからなんですよね。
でも、左脳はその事を知らないので、勝手な理由を作り出したんですよね。

問題は、本人は、嘘をついてるとは思ってことです。
本当にコーラを飲みたいから席を立ったと思ってるんです。
この話、脳科学の本では、人格が二つに分かれたとかって説明してあります。
でも、僕は、そうじゃないと思うんですよ。
作り話をするのは、人格が分かれたとかじゃなくて、世界を維持しようとしたんじゃないかって思うんですよ。
ここで言う世界っていうのは、頭の中の世界です。
意識や主観が感じる世界です。
じゃぁ、その頭の中の世界って、いったいどういうものってなりますよね。
これが、今回のテーマです。
脳を二つに切ったら、もう一つの世界が現れた。
それじゃぁ、始めましょう!

さて、自分が席を立った理由を、「コーラを取りに行こうと思った」って話を作ったわけです。
さっきも言いましたけど、本人は、本当にコーラを飲もうと思って席を立ったと思ってます。
ということは、自分をだましてるわけです。
ここでいう自分って言うのは、意識のことです。
じゃあ、だましたのは誰?
それは、無意識です。
無意識が、意識に対して、コーラを飲みたいから席を立ったって思わせたわけです。
じゃぁ、なんで、そんな風に思わせないといけなかったんでしょう?
それ以前に、無意識が意識をだますって、そんなこと、あり得るんでしょうか?

このことは、意識の仮想世界仮説から考えるとよく分かります。
人は、目で見た世界を頭の中で仮想世界として作り上げます。
意識は、この仮想世界を介して現実世界を認識します。
このことを、意識の仮想世界仮説って言います。
詳しくは、この本で語ってますので良かったら読んでください。

僕らが直接現実世界を見てない証拠として、今まで、いろいろ例をあげて説明してきました。
たとえば第239回「神の最初のプログラム」では、目の見える範囲と世界の関係を説明しました。
これを見てください。

右の写真の小さい白い丸が一度に見える範囲です。
眼球は常に細かく動いています。
だから、現実世界を直接見たとしたら、左のように見えるはずです。
でも、僕らは、こんな風に感じてないですよね。
右の写真のように全体を見てるって感じてますよね。
これって、どういうことかというと、左の小さい画像を繋ぎ合わせて右のような全体を作ってるわけです。
作られた全体を見てるわけです。
それが仮想世界です。
さっきの第239回でも説明しましたけど、意識が感じてる仮想世界は、直近約15秒の間の世界を繋ぎ合わせて作ってるそうです。

この仮想世界をつくってるのが無意識でしたよね。
じゃぁ、無意識は、何のために仮想世界をつくってるんでしょう?
それは、意識さんに、矛盾のない完璧な世界を提供するためです。
それが、無意識さんの使命です。

さて、それじゃぁ、無意識さんはどこまで作ってるんでしょう?
さっきの写真だと、見えた範囲を繋ぎ合わせて全体を作っていました。
これは、まぁ、分からんでもないです。
でも、今、問題にしてるのは、自分が席を立った理由です。
自分の行動の理由って、自分が一番、分かってることです。
それを、自分以外がつくるって、そんなこと、あるんでしょうか?

その事を説明するために、もう一つ別の例を紹介しましょう。
それは、リベットの実験です。
これは、第39回~41回「自由意志は存在するか」シリーズで語った自由意志の有名な実験です。

まず、被験者に、好きな時に指を動かしてくださいって言っておきます。
そして、指の筋肉の電位と、脳波と、指を動かそうと思ったタイミングを記録します。

指を動かそうと思ったタイミングをどうやって測定するかというと、高速で回転する時計を用意しておきます。
そして、指を動かそうと思ったとき時計の位置を覚えておいてもらいます。

この実験、とんでもない結果が出て、未だに解けない脳の最大の謎と言われてます。
まず、実際に筋肉が動いた時刻を0とします。
それから、「動かそう」って思いは、指が動く200ミリ秒前でした。
動かそうと思ってから、筋肉が動くのに200ミリ秒かかったわけです。
これは問題ありません。
問題は、脳波です。
筋肉が動く550ミリ秒前から脳波が出てるんです。
つまり、「動かそう」と思う350ミリ秒前から脳波が出てるんです。
これ、とんでもないことを意味してるんですけど、分かりますか?

動かそうと思うちょっと前に、何らかの脳波が出てたんですよ。
何らかの脳波が出て、それを受けて「動かそう」って意志が発生したことになるんです。
つまり、何らかの脳波が、意識に対して、「動かそう」って思えって指示してることになるんですよ。
もしそうなら、自由意志なんて、無いってことになりますよね。
僕らは、自分で動こうと決めてると思ってます。
でも、じつは、何物かにコントロールされてて、そう思わされてるだけなんですよ。
つまり、人間には自由意志などないってことです。

これに対する僕の解釈はこうです。
無意識さんの使命は、意識さんに完璧な世界を提供することです。

それでは、指を動かそうと思ったとき、被験者の頭の中で起こってることをゆっくり見て行きましょう。
まず、意識さんが「指を動かそ」って思いました。
その時、時計の位置も覚えようとします。
でも、その瞬間、時計はまだ完成していないんです。
さっきも説明しましたけど、今、この瞬間の世界って、無意識さんが、直近15秒に見た物で作られてるんです。
それじゃぁ、時計は古い時刻を指してるかもしれません。
意識さんが時計を見ようとしたのを察知した無意識さんは慌てます。

そこで、急いで時計を最新の時刻に書き直すんです。
それには、ちょっと時間がかかるんで、その間、待ってもらうんです。
何を待ってもらうかって言うと、「思い」です。
「今、動かそ」って思いを待ってもらうんです。
そして、時計が完成したとき、「動かそ」って思いを解き放ちます。
すると、意識さんは、その瞬間、時計を見て、正しい「今」を確認できるわけです。

どうです?
よくできてるでしょ。
完璧な世界なんて、土台無理なんです。
最重要課題は、意識さんが世界を見た時、完璧な世界が出来てることです。
意識さんに、完璧な世界と思わせるには、何かを犠牲にしないといけないんですよ。
何を犠牲にしたかというと、それは、現実世界の「今」と、仮想世界の「今」のタイミングです。
多少、現実世界から遅れても、頭の中の世界さえ、矛盾のない完璧な世界で完結していれば、それでよしとしたわけです。

これを踏まえて、本題に入りますよ。
席を立った理由を、「コーラを飲もうと思った」って作り話をでっちあげたって話です。

さて、この場合も、無意識さんは、矛盾のない完璧な世界を、意識さんに提供しようとしたわけです。
じゃぁ、この場合の完璧な世界って、どういうものでしょう。
それは、「人が行動するには、何らかの理由がある」って世界です。
まして、それが自分なら、自分で説明できないといけません。
だから、席を立つには、ちゃんとした理由があるはずです。
本当の理由は、右脳に見せられた「歩きなさい」って指示でした。

ここで、「なぜ、席を立ったのですか?」と質問されました。
質問の受け答えをすのは左脳です。
でも、分離脳患者なので、右脳が受けた指示のことは知りません。
意識さんは焦りました。
なんとかして、完璧な世界を作り上げないとって。
そこで、意識さんが納得するようなもっともな理由を作り上げたんです。
それが「喉が渇いたので、コーラでも飲もうと思って」です。

どうでしょう?
これ、一見すると、やっぱり自由意志なんかないんじゃないかって思えます。
だって、意識が決めた行動の理由自体を無意識が書き換えてるんですから。
または、右脳と左脳に別の人格が宿ってるようにも見えます。

僕が思うに、それは、見方というか、問の立て方が間違ってるんですよ。
たぶん、今までの見方の一番の間違いは、世界は一つだってところです。
現実世界があって、意識は、それをそのまま見てるってとこ。
その考えが間違いなんです。
それを前提に、いろんな実験を解釈するから、おかしな結論になって来るんです。

今回見た実験って、どれも脳を直接操作してます。
左脳と右脳を分断したり、脳波を測定したり。
これって、意識が見てる世界に介入してるってことです。
こんなことが起こるなんて、脳は想定していないわけです。
今、新しい時代に入ったんですよ。
それは、科学が主観に介入する時代です。

そのために、まずやるべきは、意識は現実世界をそのまま見てるって大前提を外すべきなんですよ。
意識が感じてる世界と、現実世界は違うってところから出発すべきなんですよ。
それじゃぁ、正しい問いの立て方って何でしょう?
それは、「意識が感じてる世界は、どうやって作られてるのか」です。

この問いから出発すれば、リベットの実験の本当の意味が見えてくるんですよ。
それは、自由意志があるとか無いとかじゃなくて、意識が完璧な世界を感じれるように、無意識が完璧な世界を作り上げてたって真実です。

分離脳の実験で分かるのは、あらゆる行動には理由がないといけないという世界観です。
その世界観を維持するために、無意識が、苦し紛れの理由を作り出したりしてたってことです。
全ては、意識に完璧な世界を提供するためです。
僕らが、今、見て、感じてる、この世界。
何にも矛盾もなく、不完全なところなんか、全く感じないですよね。
まず、それが不思議だってことに気付くべきなんです。
完璧なんてありえません。
もし、完璧だと感じたら、何かトリックがあるはずだ。
そう思うべきなんです。

はい、今回の動画が面白かったらチャンネル登録、高評価お願いしますね。
そらじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!