ロボマインド・プロジェクト、第250弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。
問題を解決するには、正しい「問い」を立てなければいけません。
間違った「問い」からは、決して正しい答えに辿り着きません。
何の話をしてるかというと、前回の続きです。
前回、ディープラーニングから、心や意識は生まれるかについて検討しました。
これ、まさに、問いの立て方が間違ってるんです。
どういうことかというと、最初に立てた「問い」は、「どうやって自然な文章を生成するか」でした。
ここから出発すると、どの順に単語を並べれば、自然な文章が生成できるかになります。
それを忠実に実行したのが、ディープラーニングです。
膨大な量の文書を学習することで、文法的な間違いはなく、自然につながる文章なら、いくらでも生成できるようになりました。
ただ、残念ながら、意味が通った文章にはなっていません。
何が言いたいのか、よく分からない文章しか作れません。
自然に単語が並んだ文章にはなってますけど、強い思いとか、感情は含まれてないんです。
人が誰かに話そうって思うのは、こんな嬉しいことがあったとか、悔しいことがあったって感情を感じたからですよね。
感情を感じるのは、自分です。
自分の意識です。
ディープラーニングには、それがないんです。
必要なのは、単語の並び順じゃなくて、自分とか、意識とかです。
自然な会話や、意味のある文章を生成しようとするなら、まず問うべきは、意識とは何か、意識はどんな処理をしてるのかです。
これが、正しい「問い」なんです。
これが、今回のテーマです。
意識とは何か。
それでは、始めましょう!
さて、皆さんの目には、今、何が見えますか?
部屋ですか?
机とか、椅子が見えますか?
何が見えるてるかは人それぞれですけど、今見えてるのが、現実世界ですよね。
世界があるって感じますよね。
まず、これが普通じゃないってことを分かって欲しいんですよ。
目の前に机があるって思えること、これ、よく考えたら不思議なんですよ。
たとえば、カエルは、目の前にハエが来たら、捕まえて食べます。
天敵の鳥の影をみたら、池に飛び込んで逃げます。
つまり、世界を認識することと行動が結びついてます。
でも、机があるって思うのは、行動に結びついていません。
ただ、あるって思うだけです。
じゃぁ、机があるって思ったとき、頭の中で、いったい、何が起こってるんでしょう?
ここ、もう少し、分かりやすい例で説明します。
盲視って脳障害があります。
盲目の盲に、視力の視と書いて「もうし」って読みます。
これは、目は問題ないですけど、目からの情報を処理する脳の一部が損傷して目が見えなくなる障害です。
盲視の人に、何か物を見せて、「これが何かわかりますか?」って聞いても「見えないのでわかりません」って答えます。
次は、レーザーポインターて黒板の一点を示して、「どこに光の点がありますか?」って聞きます。
当然、「見えないので分かりません」って答えます。
そこで、「当てずっぽうでもいいので、指で指してください」っていって、無理やり指差しさせます。
すると、ちゃんと指で指せるんです。
本人に、「なんでわかったんですか?」って聞いても、「わからない」って答えます。
自分でも、なんでできたのか分からないみたいなんです。
指差ししてるのに、自分では、何でできたかわかってないんですよ。
今、「自分では」って言いましたけど、この「自分」っていうのが、意識です。
「何か見える」ってことを感じてるのが意識です。
光の点は、指差しできましたよね。
でも、意識では感じてなかったですよね。
どうも、指差しって行動は、意識がなくてもできるみたいなんです。
この実験、続きがあります。
レーザーポインターで示した後、光を消します。
そして、「今、光の点はどこにありましたか?」って聞きます。
すると、今度は、途端にでたらめなとこを指差しするようになるんです。
これ、どういうことか、わかりますか?
これ、点の位置を覚えれないってことです。
どうも、意識がないと、記憶ができないみたいなんです。
次は、この現象を脳で説明します。
目で見た情報は、後頭部にある視覚野に送られます。
そして、そこから二つの経路に分かれます。
一つは、腹側視覚路です。
これは、「何の経路」とも呼ばれて、色や形を分析する経路です。
もう一つは、背側視覚路です。
これは、「どこの経路」とも呼ばれて、位置や動きを分析する経路です。
それで、盲視の場合、何の経路が損傷してるんですよ。
だから、何か見ても、それが「何か」を答えれないんです。
でも、「どこの経路」は生きてます。
だから、光の点を指差したりできるんです。
どうも、意識は何の経路の先にあるようなんです。
だから、何の経路を損傷すると、意識では、何が見えるか分からなくなるみたいなんです。
でも、どこの経路は生きてるので、指差しとか、動きはできるんです。
僕らは、机があるって認識しますよね。
どうやら、物があるとか、見えるとかって、意識があるから、そう思えるようです。
意識につながる経路が損傷すると、物があるって感じれなくなるようです。
盲視の人は、意識に上らなくても行動できてましたよね。
これって、意識がなくても、行動はできるってことです。
どんな行動かというと、それは、指差しとか、外界への反応です。
カエルは、ハエとか鳥とか、外界に反応して動いていました。
もしかしたら、カエルの行動は、盲視の場合でいうと、指差しと同じじゃないかって思うんですよ。
つまり、カエルは、意識がないんじゃないかって思うんです。
カエルは、「あっ、ハエがいる」って思うわけじゃないんですよ。
「鳥が近づいてきた」って思って、逃げるんじゃないんですよ。
何も考えずに、気が付いたら動いてるって感じです。
カエルは、目の前に物があるとか、世界があるとかって風には感じてないんです。
そう感じるのは、意識があるからです。
意識は、どうも、人が進化して手に入れた物のようです。
これらを踏まえて、「意識の根本的な仕組み」について考えて行きます。
まず、目で外の世界を見ます。
目からの情報に応答して動いたら、カエルと同じです。
そうじゃなくて、意識は、目の前に何かが「ある」って思うわけです。
じゃぁ、「ある」って思えるには、何が必要でしょう?
それは、何もない空間と、そこに配置される物です。
物があるって感じるには、まず、何もない空間、つまり、背景が必要なんです。
その背景との関係で、物を定義するわけです。
この仕組みがあるから、意識は、物を、一つ一つ区別できるんです。
じゃぁ、その仕組みがなければ、物と物を区別できないんでしょうか?
はい、そうです。
じつは、それを体験した人がいます。
それは、今まで、何度も紹介した「120%脳を解放した女」の主人公、ジル・ボルト・テイラーです。
ジルは、左脳が脳卒中になって、右脳で見る世界を体験しました。
ジルは言います。
その時、だんだん、自分の体の境界がわからなくなってきたって。
自分の手と、壁との境目がわからなくなってきたって。
自分の体が世界に溶け出すのを感じたそうです。
だんだん、自分の体が大きくなって、やがて、世界と一体となるのを感じたそうです。
ジルは、さらにこんなことも言ってます。
病院に電話を掛けようと名刺を見た時です。
文字が読めないんです。
読めないというか、どれが文字かわからなかったそうです。
どういうことかというと、模様みたいに見えるそうなんですよ。
たとえば、これはイスラム教の寺院に描かれた模様ですけど、ここには、アラビヤ文字が書かれてます。
でも、僕らは、これ、文字じゃなくて、模様としか見えないですよね。
たぶん、ジルは、こんな風に感じたんじゃないかと思います。
認知心理学で、図と地の関係って言葉があります。
「地」というのは、背景のことで、「図」というのは、背景の中で、一つのまとまりとして認識されるものです。
名刺に書かれた文字は、白い紙が背景となる「地」で、文字が「図」です。
人の意識は、背景となる「地」と、そこに配置される「図」という形で世界を認識するわけです。
今、皆さんが見てる、この現実世界でいえば、背景となる「地」は、この三次元空間です。
その中に配置される机とか椅子が「図」です。
分かってきましたか?
みなさん、当たり前のように、世界があるって思ってるでしょ。
そうじゃないんですよ。
脳障害の場所によっては、世界があるとか、自分がいるとかって、感じれなくなるんですよ。
当たり前に感じてる、この世界があるって、感覚。
これは、作り出されたもんなんです。
その作り出された世界を認識してるのが意識です。
今、大事なことを言いましたけど、気付きましたか。
もう一回いいますよ。
世界は、作り出されたもんなんです。
世界って、あるんじゃなくて、自分で作ってるんですよ。
じゃぁ、どこに作ってるんでしょう?
それは、ここです。
脳の中です。
意識は、脳内に作られた世界を認識してるんです。
じつは、これで、すべて、きれいに説明がつくんです。
行きますよ。
コンピュータで考えてみます。
まず、目の前の部屋をカメラで捉えます。
カメラからの情報を基に、部屋を3DCGで再現します。
3DCGってのは、ベースとして三次元空間があります。
そこに、机や椅子の3Dオブジェクトを配置します。
ベースとなる三次元空間が背景です。
図と地でいえば「地」です。
配置される3Dオブジェクトが「図」です。
これで、世界に物があるって表現されましたよね。
さらに、その中には、自分の身体の3Dオブジェクトも配置します。
こうやって、世界の中に自分がいるってのが再現されましたよね。
この3DCGで作られた世界の事を、僕は、仮想世界と呼んでいます。
仮想世界を介して、現実世界を認識する仕組みとなってるわけです。
もし、この仕組みがないとどうなります。
自分と壁、自分と世界の区別がつかなくなりますよね。
それを経験したのがジルです。
たぶん、脳の中の、この機能が損傷してたんでしょう。
この仕組みがあるから、物があるって感じれるわけです。
仮想世界に配置される3Dオブジェクトは、形とか、色の情報を持ってますよね。
最初に、盲視の話をしましたよね。
意識につながるのは「何の経路」だって話です。
何の経路では、色や形を分析してましたよね。
3Dオブジェクトは、色や形の情報をもってますよね。
ほら、仮想世界と「何の経路」がつながったでしょ。
もうひとつの「どこの経路」は、目からの情報に反応して動く場合に使います。
たとえば、光の点を指差すとかです。
この、「どこの経路」は、仮想世界じゃなくて、直接、現実世界を指差してるんです。
仮想世界を使わない行動だから、意識に上がらないんです。
ほら、これもつながったでしょ。
それから、もう一つありましたよね。
レーザーポインターを消して、今、どこに光の点がありましたかって質問には答えれないって。
「どこの経路」は、現実世界に直接反応するんでしたよね。
でも、レーザーポインターを消すと、現実世界から光の点が消えるので、指差しできないわけです。
仮想世界は、自分で作りだしたものです。
だから、仮想世界を保持しておけば、現実世界から消えたとしても、簡単に指差しできるんです。
これも、説明がつきましたよね。
さて、ここ、じつは、もう一つ、重要なことを示してるんです。
それは、「どこの経路」には、今、この瞬間しか存在しないって示してるんですよ。
つまり、過去とか未来は存在しないんです。
もっと言えば、「どこの経路」には、時間が存在しないんです。
時間ってのは、仮想世界に存在するんです。
これは、ジルも言ってました。
世界と一体となった時、時間の感覚が消えたって。
そのとき感じたのは、今、この瞬間だけだって。
ねぇ、仮想世界で、すべてきれいに説明がついたでしょ。
意識は、仮想世界を介して、現実世界を認識してるんです。
これを、僕は、意識の仮想世界仮説と名付けています。
詳しいことは、この本に書いてますので、興味ある人は読んでください。
はい、今回の動画が面白かったら、チャンネル登録、高評価お願いしますね。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!