第251回 物質としての脳から、どうやって意識が生まれるのか。


ロボマインド・プロジェクト、第251弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

20世紀も終わりの頃になって、ようやく、意識というものが、学際的に取り上げられるようになりました。
意識に関する第一回の国際会議は、1994年、アリゾナ大学で行われたツーソン会議です。
そこには、神経科学や哲学、物理学、心理学、人工知能から、宗教家、スピリチュアリストまで、もう、ありとあらゆる人が集まりました。

まぁ、当然、予想がつくと思いますが、人によって、言ってることがバラバラで、最初は、何を議論していいのか分からない状態でした。
そこに、さっそうと現れたのが、オーストラリアの若き哲学者、デイヴィッド・チャーマーズです。

当時、若干27歳だったのチャーマーズは、意識の問題はハードプロブレムだって言い切りました。
彼の発言で、その後の会議の方向性が決まりました。

僕らは、今、こうして世界を見てますよね。
目の前に机があるとか、部屋があるとかって認識しますよね。
嬉しいとか、悲しいとかって感じますよね。
意識が感じてるのは、こういった主観的経験です。
一番の問題は、物質としての脳から、どうやって、主観とか意識が発生するかってことです。
これが、ハードプロブレムです。

起きてるとき、意識がありますよね。
眠ってるときは、意識はありませんよね。
でも、寝てる間も、肺や心臓は、ずっと動いてます。
心臓や肺をどうやって動かしてるのかは、たぶん、神経細胞を追っていけば分かると思うんですよ。
これが、イージープロブレムです。
でも、同じように神経細胞を追っても、主観的経験が、どうやって生まれるかは、分からないんですよ。
これがハードプロブレムです。
イージープロブレムが扱うものと、ハードプロブレムが扱うものは、次元が違うというか、もはや、世界が違うんですよ。
これが今回のテーマです。

物質としての脳から、どうやって意識が生まれるのか。
それでは、始めましょう!

意識とは、脳内の量子力学的現象じゃないかって説があります。
でも、僕は、それはちょっと違うじゃないかって思います。
たしかに、量子は、マクロ世界の物質とは、全く、異なる振る舞いをします。
でも、物理現象には違いないです。
意識って、物理現象とは、根本的に違う世界にあると思うんですよ。

たとえて言えば、映画です。
映画って、映写機でスクリーンに映しますよね。
スクリーンの中でストーリーが展開しますよね。
宇宙人が地球に攻めてきたとか。
脳と意識の関係って、スクリーンとストーリーの関係と同じやと思うんですよ。
スクリーンの素材をいくら解析しても、ストーリーの中身は分からないですよね。
ストーリーは、スクリーンの素材がある物理世界とは、全く違う世界にあるってことです。

そして、意識は、ストーリーの側にあるんです。
だから、僕らは、ストーリーを理解できるんです。
これが、物理世界と違う世界って、こういうことです。

別の例でも考えてみます。
たとえば、手描きの数式を認識して計算するコンピュータ・システムです。
紙に「1+1=」って書くと、「2」って答えを出してくれるシステムです。
まず、カメラで捉えて画像認識します。
紙に書いた縦棒を数字の1に変換するわけです。
縦棒って形のままじゃ、計算できないですよね。

数字に変換した途端、それは別の世界で動き始めます。
足したり引いたりできる世界です。
しいて言えば、計算世界です。

人間の意識も、同じことができますよね。
紙に書かれた数字を読めます。
数字を読めるってことは、頭の中で、数字に変換したわけです。
計算世界を扱えるわけです。

紙に書かれた縦棒は、現実世界です。
現実世界から別の世界への変換作業。
これが意識がやってることのようです。

前回の話、覚えていますか?
左脳が脳卒中になったジル・ボルト・テイラーの話です。
ジルは、脳卒中になったとき、名刺に書いてある文字が読めなくなりました。
背景の白い紙と、文字とを切り分けることができなくなったんです。
目は、はっきりと見えてますよ。
でも、目に見えてても、図と地の関係が分からなくなったんです。
背景の「地」から、文字である「図」を切り出すことができなくなったんです。
どこを切り出していいか分かって、初めて、縦棒を数字の「1」に変換できるんです。

重要なのは、ここです。
世界から必要な情報を切り出すってことです。
別の世界で必要な情報を、現実世界から抜き出すってことです。

つまり、別の世界で扱うのは、情報だけなんです。
意識が認識する世界は、情報の世界って言えそうです。
現実世界と全く違う世界、それは、情報の世界です。
まず、これを覚えておいてください。

次は、情報の世界って、どういう物かについて考えて行きましょう。
人もコンピュータも「1+1」って計算できますよね。
じゃぁ、なぜできるんでしょう?
それは、「1」って数字の意味と、「+」って演算子の意味を知ってるからですよね。
「+」って演算子は、数字を足すって意味ですよね。

どうやら、計算世界には、数字と演算子ってものがあるようです。
おそらく、これが情報世界の基本だと思います。
その世界を構成する要素と、その要素を変化させる演算子があるわけです。
たとえば、コンピュータのCPUの中には、足し算回路があります。
これがあるから、「+」の意味を理解できてるってことです。

それじゃぁ、今度は、映画のストーリーで考えてみましょう。
映画のストーリーを理解するには、何が必要でしょう?
まず、スクリーンの映像から登場人物や物などを切り出すことですよね。
主人公とか、宇宙人とか、UFOとか。
それから、それらがどうなったかってことです。
UFOが地球を攻撃したとか、UFOが墜落したとか。
それを見て、僕らは宇宙人が怖いとかって思うわけですよね。

これが、僕らの意識、主観が感じてる世界です。
主観世界には、まず、人や物って要素があるわけです。
それから、要素を変化させる演算子があるわけです。
「攻撃する」とか「墜落する」とかです。

「+」って演算子は、CPUの足し算回路で処理してましたよね。
それと同じように、脳の中には、「攻撃する」とか、「落ちる」って演算を実行する回路があるんです。

だんだん、見えてきましたよね。
これを、前回紹介した意識の仮想世界仮説に当てはめてみます。
人は、目で見た現実世界を、頭の中で仮想世界として構築します。
意識は、この仮想世界を介して現実世界を認識します。
仮想世界は、コンピュータなら、三次元空間に3Dオブジェクトを配置して、3DCGで作ります。
3Dオブジェクトが要素です。
三次元空間に重力を設定すれば、落ちるといった動きが再現できますよね。
これが演算子です。
3DCGなので、現実の物理世界をそっくりシミュレートすることができます。

そして、重要なのは、これは、情報世界だってことです。
情報なので、自由に作り上げることができるんです。
だから、物理世界にないものも追加できるんです。
それは、たとえば恐怖って感情です。
宇宙人に攻撃されて、怖いって思う、その感情も、作り出すことができるんです。

仮想世界は3DCGで作れます。
つまり、コンピュータ・プログラムです。
仮想世界を認識するのが意識でしたよね。
ということは、意識もプログラムと言えますよね。
つまり、意識は、情報世界にあるプログラムなんです。

ここ、重要なんで、もう一回いいますよ。
僕らが、今、感じてるこの意識はプログラムなんです。
どんなプログラムかというと、今、見てる、この世界を感じるプログラムです。
この世界っていうのは、現実世界じゃないですよ。
頭の中につくった仮想世界ですよ。
何が言いたいかっていうと、意識は、現実世界、物理世界の側に属してないってことです。
情報世界の側に属してるってことです。

前回の盲視の話、覚えてますか?
脳の中の「何の経路」が損傷すると、物が見えなくなりました。

見えないのに、レーザーポインターで示した光の点を指差すことができました。
つまり、見えなくても、適切な行動がとれるんです。

見えるって感じるのは意識です。
見えなくても行動してるのは、無意識です。
これ、どういうことか分かりますか?
目で見て、適切に行動するってだけだったら、意識はなくてもいいんですよ。

じゃぁ、意識は、何のためにあるんでしょう。
それは、現実世界をありのままに見るためです。

いや、現実世界をありのままに見たいなら、直接、現実世界を見たらいいんじゃないかって思いますよね。
じゃぁ、これを見てください。

右の写真の小さい白い丸が一度に見える範囲です。
眼球は常に細かく動いています。
だから、現実世界を直接見たとしたら、左のように見えるはずです。
でも、僕らは、こんな風に感じてないですよね。
右の写真のように全体を見てるって感じてますよね。
これって、どういうことか、分かりますか?
これは、左の小さい画像を繋ぎ合わせて右のような全体を作ってるわけです。
作られた全体を見てるんですよ。
それが仮想世界です。
物が見えるって感じるのは、仮想的に作ったからです。

物だけじゃないですよ。
前回、カエルは意識がないって話をしましたよね。
天敵の鳥を認識したら、逃げます。
鳥に掴まると食べられるから怖くて逃げるわけです。
でも、恐怖って感情を感じて逃げてるわけじゃないんですよ。
だって、恐怖って感情を感じるのは、意識ですから。
意識がないなら、恐怖も感じれないじゃないですか。
そうじゃなくて、恐怖って感情をトリガーにして、逃げるって行動が発動しただけです。
意識的に恐怖を感じて、行動してるわけじゃないんです。
これが、無意識の処理です。

意識が見る物は、仮想です。
ヴァーチャルです。
物だけじゃなくて、恐怖とかって感情も、じつは、ヴァーチャルなんです。
意識が見たり、感じたりできるのは、全てヴァーチャルなんです。

無意識は、現実世界に直接反応してます。
でも、意識は、現実世界を直接、見ることはできません。
意識が直接見るのは、仮想世界です。
そして、仮想世界は情報です。
つまり、意識は、現実世界でなくて、情報世界に属してるんです。
分かってきましたか?

意識は、情報世界の中で動くプログラムです。
そして、そのプログラムを実行してるのが、脳というコンピュータです。
プログラムは、コンピュータのCPUで実行されますよね。
でも、CPUの中の電気信号を全部観察できたとしても、どんなプログラムが動いてるのか、よく分かりません。
つまり、物質としての脳の神経細胞をいくら追っても、意識が見て、感じてる、この主観世界は見えてこないってことです。
これが、意識のハードプロブレムです。

じゃぁ、どうすれば意識が見て、感じてる主観世界が見えるんでしょう。
それは、脳の側からじゃなくて、意識の側から世界を観察するんです。
仮想世界は、何で出来てました?
要素と演算子でしたよね。
つまり、僕らの意識が感じてる世界の要素と演算子を探し出すんですよ。
それなら、できそうですよね。

要素は、さっきも言いましたけど、人とか物です。
そして、演算子としては、人が持つ感情とかでしたよね。
ただ、これは、今までの科学が扱ってこなかったものです。

だから、主観や意識を科学として扱うには、科学が扱う世界を広げる必要があるんです。
言ってみれば、それは、主観の科学です。
物理世界は、重力や作用反作用の法則で物体の動きを説明できます。
それと同じように、主観世界は、好きとか嫌いとか恐怖って感情で、人々の行動の説明がつきます。
僕は、そろそろ、感情を含んだモデルを扱える主観の科学を構築すべきだと思っています。

今回紹介した意識の仮想世界仮説は、詳しくは、この本に書いてありますので、良かったら読んでください。
はい、今回の動画が面白かったらチャンネル登録、高評価お願いしますね。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!