ロボマインド・プロジェクト、第261弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。
前回、半側空間無視の話をしました。
脳障害などで、右脳が損傷した場合、左側を無視するって症状が出ることがあります。
左側が見えないんじゃなくて、無視するんです。
どういうことかと言うと、たとえば、ある女性は、頭の右側だけ髪をきれいにとかして、顔の右半分は、完璧に化粧するけど、左側の頭はぼさぼさで、顔はすっぴんのままだったりします。
半側空間無視は、有名な脳障害で、脳科学の本に、よく出てきます。
今回、この、「脳の中の幽霊」を、読み返してみたんですけど、いやぁ、やっぱりラマチャンドラン博士の考察は鋭いです。
なんといっても実験が秀逸なんですよ。
体の左側を無視するなら、その人の右側に鏡を置いたらどうなるかって実験をするんです。
右を向いたら、自分の左側が見えます。
それでも左側を無視するんでしょうか?
これ、想像もしなかったことが起こったんですよ。
何が起こったかは、後程、お話しますけど、この実験のおかげで、脳の中でどんな処理が行われてるのか、かなり具体的に分かってきました。
これが、今回のテーマです。
左側に世界が存在しないって、どういうこと?
それでは、始めましょう!
半側空間無視は、右脳のてっぺん、頭頂葉が損傷して起こります。
これで思い出すのが、今まで何度も取り上げた盲視です。
盲視というのは、脳が損傷して見えなくなる脳障害です。
たとえば、リンゴを見せて、「何が見えますか?」って聞いても、「見えないのでわかりません」って答えます。
でも、黒板をレーザーポインタで示して、「光ってるところを指差してください」っていうと、ちゃんと指差しできるんです。
でも、なぜ指差しできたのか、自分でも分からないんです。
どういうことかって言うと、目からの情報は、後頭部の視覚野に送られるたあと、二つに分かれます。
一つは、側頭葉の腹側視覚路で、これは「何の経路」と呼ばれます。
もう一つは頭頂葉の背側視覚路で、これは「どこの経路」と呼ばれます。
盲視の場合は、何の経路が損傷して、どこの経路が生きています。
つまり、何の経路が損傷すると、物を見えなくなるんです。
正確に言うと、意識が「何かを見た」って感じくなるってことです。
一方、どこの経路というのは、空間的な位置に反応する経路です。
指差したり、物が飛んできて、よけたりできるのは、どこの経路のおかげです。
これは、無意識でできる行動です。
さて、半側空間無視というのは、右脳の頭頂葉、「どこの経路」が損傷したときに起こるようです。
つまり、盲視の逆じゃないかってことです。
左側を無視するというか、左側に注意を向けれないんです。
ここで、意識と無意識について整理しておきます。
指差したりといった空間的な位置の特定をするのが「どこの経路」です。
これは、意識に上らないので無意識です。
「何の経路」が損傷すると、意識では見えなくなるので、「何の経路」は、意識につながってるようです。
僕の提唱する意識の仮想世界仮説では、人は、目で見た世界を頭の中で仮想世界として構築します。
意識は、この仮想世界を介して世界を認識します。
ということは、「何の経路」でつくられるのは、仮想世界と言えそうです。
そして、この仮想世界を認識して、「ものが見えた」って意識が感じるわけです。
厳密に言うと、仮想世界に作られるのはオブジェクトです。
リンゴを見たというのは、仮想世界につくられたリンゴオブジェクトを見たわけです。
次は、速度について考えます。
物が飛んできたとき、さっとよけないといけませんよね。
だから、「どこの経路」、つまり無意識の応答は速いんです。
一方、意識が「見える」って感じるには、仮想世界をつくらないといけません。
ひと手間かかるので、意識が感じる世界は、ちょっと時間がかかるんです。
無意識に比べて、一瞬遅れるんです。
じゃぁ、意識のメリットって何なんでしょう?
それは、意識は仮想世界を使って考えることができるってことです。
リンゴを見たら、手を伸ばして掴もうとか、食べようとか、いろいろ考えることができるんです。
これが、意識の最大の特徴です。
さて、話を半側空間無視に戻します。
ラマチャンドラン博士は、半側空間無視の女性、エレンに、いろんな実験をしました。
まずは、目を動かさないようにしてもらって、彼女の左目の下に人差し指を立てます。
そして、小刻みに動かして「何か見えますか?」って質問します。
すると、「指が動いてます」って答えます。
次に、その指を引っ込めたあと、同じように目を動かさないようにしてもらって、そぉ~っと、同じ場所に人差し指を立てて「何か見えますか?」って質問しました。
そしたら、困った顔をして、答えれなかったそうです。
どうも、小刻みに動かすとか、強い刺激を与えれば、そこに注意が向けられて左側に何があるか分かるようです。
でも、刺激がないと、注意を向けれなくて、見えなくなるようです。
これは、頭頂葉の「どこの経路」の機能が弱まってるからだと思います。
どこの経路は、常にあちこちに注意を払っているんです。
それが、その機能が弱くなって、強い刺激を与えないと、左側に注意を向けれなくなったんだと思われます。
でも、注意さえ向ければ、そこに何があるか分かるわけです。
つまり、意識で見えるわけです。
次は、意識が、世界を認識する仕組みについて考えてみます。
今までの話から、まず、注意を向けて、次に、見えるって順番になってるっていえますよね。
注意を向けるっていうのは、たとえて言えば、サーチライトで照らすようなものです。
それを行うのが「どこの経路」です。
ただ、サーチライトで照らすには、照らす部分に世界がないといけません。
半側空間無視の人は、左側に、サーチライトで照らす世界がないんです。
左側に世界、そのものが存在しないんです。
だから、左側を照らそうなんて思いつきもしないんです。
注意を向けれないって、こういう事だと思うんですよ。
ただ、この「世界が存在しない」って感じが、うまくイメージできないですよね。
これって、たとえて言えば、こんな感じじゃないかって思うんですよ。
子供が、「ピーマン嫌い」とかいって食べないときに、親は、「アフリカには、飢餓で苦しんでる子供がいっぱいいるのよ」とかって言うじゃないですか。
そう言われたら、頭の中で、アフリカの子ども達を想像しますよね。
想像するときに使うのも仮想世界です。
頭の中の仮想世界に、飢餓で苦しむアフリカの子ども達をつくり出して、サーチライトを当てるわけです。
すると、意識は、アフリカの子ども達のことに気付くわけです。
それまで、思ってもみなかったけど、言われた瞬間、アフリカの子ども達が出現するんです。
半側空間無視の人にとっての左側って、こんな感じじゃないかって思うんですよ。
指を動かしたり、無理やり左側に注意を向けさせて、初めて、左側の世界がつくられるんです。
普通の人の場合、そんなことしなくても、常に左側の世界がつくられてるわけです。
さて、さっきのエレンの話に戻ります。
ラマチャンドラン博士は、「今度は、このペンを目で追ってみてください」って言って、ペンを右耳から左耳にかけてゆっくり弧を描いて動かしました。
すると、中央までは目で追ってましたけど、中央に来たところで目が止まって、「見えなくなった」って言ったそうです。
これが、半側空間無視でなくて、左の視界が見えない人の場合だと、そうはならないそうです。
見えなくても、目は左側まで動くそうです。
見えなくても、左側に世界があることは知ってます。
だから、左側にペンがあるに違いないと思って、左側まで目が動くんです。
これが、見えないと、注意を向けれないの違いです。
今度は、直線を見せます。
この直線の真ん中に印をつけてもらいます。
すると、こうなりました。
かなり右に寄ってますよね。
ここがエレンにとっての中央ということは、エレンにとっては、こう見えてるってことです。
つまり、左側の世界が存在しないってことです。
次は、花の絵を描いてもらいます。
すると、こうなりました。
左側が存在しませんよね。
そこで、今度は、目をつむって花を描いてもらいます。
さて、どうなったでしょう。
この場合も、同じく、右側だけの花を描いたそうです。
仮想世界仮説から考えると、これは、理解できますよね。
なぜなら、意識が見てるのは、頭の中の仮想世界です。
目を開けても、目をつむっても、頭の中の仮想世界は変わりません。
右側しか存在しない世界に花の絵を描くので、そりゃ、花びらは右側だけにしか描かれませんよね。
さて、こっからが、今回のメインテーマです。
エレンの右に、鏡を持ってきたら、エレンは自分の左に気付くかって実験です。
ラマチャンドラン博士は、エレンの斜め右前に姿見を持って立ちました。
これで、エレンは右を見ると、自分の全身が見えます。
鏡には、自分の左側も映ってます。
さっそく、質問します。
「鏡に自分が映ってるのがわかりますか?」
「はい、分かりますよ」
エレンは答えます。
博士は、助手に協力してもらって、エレンの左目の下あたりにペンを差し出してもらいます。
「助手が、何を持ってるかわかりますか?」
「ペンです」
ここまでは問題ないですよね。
そこで、次に、こう言いました。
「それじゃぁ、そのペンを取ってみてくれますか?」
さて、この後、エレンは、どう行動したと思います?
たぶん、これ、正解した人はいないじゃないかと思います。
なんと、エレンは、鏡に向かって手を伸ばしたんです。
そして、鏡に手が当たると、「鏡が邪魔で、手が届きません」って言うんです。
しばらくそうやって、鏡を触っていたら、ようやく、何かに気付いたみたいでした。
「そうか、鏡の向こうにあるのね」
そう言って、鏡の向こうに手をまわして、ペンを取ろうとしたそうです。
いや、これには、驚きますよね。
だって、エレンは知性のある立派な女性ですよ。
鏡の中にあるものが、本物でないなんて、当然、分かってるはずです。
それが、鏡の中のペンを取ろうとするなんて、これって、どういうことでしょう?
残念ながら、ラマチャンドラン博士の話は、ここで終わりです。
なんで、こうなるのかまでは、博士にもわからなかったようです。
でも、意識の仮想世界仮説を使えば、エレンの行動の謎が解けるんですよ。
それでは、やってみましょう。
まず、普通の人の場合で考えます。
鏡の中にペンが見えたとします。
そう見えるってことは、まず、鏡の中にペンがあるって仮想世界をつくったわけです。
そして、意識が、その仮想世界を見たってことです。
意識は考えることができますよね。
右側の鏡の中にペンがあるってことは、実際には、ペンは左にあるって考えます。
そう考えて、左側の仮想世界にペンをつくり出すわけです。
最終的に、左にあるペンが鏡に映ってて、自分は、鏡の中のペンを見てるって世界をつくり出します。
だから、意識は、本当のペンは左にあるって感じるんです。
さて、エレンの場合はどうでしょう?
右の鏡の中にペンが見えます。
見えるってことは、鏡の中にペンがある仮想世界をつくったわけです。
ここまでは一緒です。
つぎは、左にあるものが鏡に映ってるって考えるとします。
でも、そう考えれるには、左側に世界が存在しないといけませんよね。
でも、エレンの左側には、世界は存在しません。
左側に世界がないなら、無意識は、左のペンが鏡に映ったって世界をつくれませんよね。
それじゃぁ、どうなるでしょう?
それは、鏡の中に実際のペンが存在するって世界を維持するしかないんです。
でも、普通、そんなの、おかしいって分かりますよね。
でも、おかしいと考えるのは、意識です。
理屈を考えることができるのが、意識の最大の特徴ですから。
でもですよ。
意識が考えれるのは、仮想世界の範囲の中に限られるんです。
左側に世界が存在するなら、鏡に映ったペンは、実際には左側に存在するって考えれます。
でも、エレンの仮想世界は、左側が存在しないんです。
そうなったら、左側にあるペンが鏡に映ってるなんて、考えることもできないんですよ。
いいですか。
意識が、仮想世界そのものを変更するなんて、できないんです。
だって、無意識が作り出した仮想世界が、意識にとっては現実世界そのものなんですから。
現実を変更するなんて、できっこないじゃないですか。
つまり、無意識が、鏡の中に実際にペンがあるって仮想世界を作り出したら、意識は、そう感じるしかないんです。
そう感じて、ペンを取るとしたら、そりゃ、鏡の中のペンに手を伸ばしますよね。
鏡に手が当たって取れないのは、鏡が邪魔だから取れないって考えますよね。
だから、鏡の向こうに手を回すんです。
どうです?
エレンの行動がきれいに説明できましたよね。
意識の仮想世界仮説を使えば、半側空間無視の行動が、すべて解明できました。
この、意識の仮想世界仮説については、この本に詳しく書いてあります。
興味ある方は、よかったら読んでください。
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それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!