第266回 マインド・エンジンは、なぜ、失敗したのか。


ロボマインド・プロジェクト第266弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

着々と開発が進んでるマインド・エンジン。
ここにきて、致命的な欠陥が見つかりました。
それは、マインド・エンジンには、自由意志がないってことが分かったんです。
今まで語って来た理論、全て間違いだったかもしれません。
これは、マジでヤバいです。
そらじゃぁ、いったい、どこで間違えたんでしょう。
これが今回のテーマです。
マインド・エンジンは、なぜ、失敗したのか。
それでは、始めましょう!

まずは、マインド・エンジンのおさらいから始めます。

マインド・エンジンは、コンソール、視覚入力、仮想世界、無意識、意識から構成されます。
カメラで捉えた映像は視覚入力に表示されます。
それを、3Dオブジェクトに変換します。
そして、3Dオブジェクトの形状から、それが何かを判断します。
つまり、物体認識です。
認識した物は、ワーキングメモリに入ります。

それじゃぁ、本当に認識してるのかマインド・エンジンに質問してみましょう。
質問は、このコンソールに入力します。
「何がありますか?」

はい、答えがでました。
「お皿と手とスポンジと水と人間があります」

ちゃんと答えれましたよね。

今度は、マインド・エンジンはどうやって答えたか、思考の中身を見て行きます。
人間は、言葉で考えますよね。
口に出さなくても、「ああして、こうして」って頭の中で考えますよね。

マインド・エンジンも同じです。
マインド・エンジンが考えるとき使うのが、専用のスクリプト言語です。

まず、「何をしていますか?」って文は疑問文ですよね。
疑問文というのは、マインド・エンジンが知ってることを聞き出そうとしてるわけです。

ここで聞き出そうとしてるのは、マインド・エンジンは、何を認識してるかってことです。
マインド・エンジンが認識してる物って、ワーキングメモリの中にありますよね。
つまり、聞き出そうとしてるのは、ワーキングメモリの中身です。

マインド・エンジンって、いろんな処理をして、いろんなデータを持ってます。
でも、意識は、常に何か一つの物にしか注意を向けれません。
これを意識の志向性といって、人間も同じです。
だから、マインド・エンジンの意識に対して、答えのある場所を注目するように指示する必要があるんです。

これらの指示を、マインド・エンジンが理解できるスクリプト言語で指示するわけです。
それは、無意識ウィンドウのスクリプトタブに書かれています。

これが、「何をしていますか?」のスクリプト言語です。
それでは、順番に見て行きます。

QuestionType.Memoryってのが、質問のタイプが、ワーキングメモリの中身を聞くタイプの質問ですよってことです。

2行目のMemory.Allってのが、ワーキングメモリの中身全部ってことです。
Me.Focusってのが、それに注意を向けるって指示です。

次は、意識ウィンドウのスクリプトを見ます。

Me.Answer();
ってなってますよね。
これは、今、注目してるものを答えろってことです。
つまり、ワーキングメモリの中身を答えるわけです。
つまり、「お皿と手とスポンジと水と人間があります」って答えるわけです。

以上が、マインド・エンジンの処理の流れです。
よくできてますよね。
質問にちゃんと答えれてます。
何も問題ないように思いますよね。

でも、最初に言いましたよね。
マインド・エンジンには、自由意志がないことがわかったって。
それ、どこの事かわかりましたか?
それでは、説明しますよ。

それは、ここです。

意識です。
Me.Answer();
ってスクリプト、何を意味してました?
注目してるものを答えろって意味でしたよね。

これは、どこから渡されましたか?
無意識からでしたよね。

分かりましたか?
つまりね、意識は何をしてるかってことです。
意識は、無意識から指示されたことをしてるだけなんです。
「今、注目してるものを答えろ」って言われて、それを答えてるだけなんです。
自由意志なんかないんです。
もっと言えば、意識なんかなくてもいいんです。
無意識だけで、十分なんです。

たしかに、無意識は、複雑な処理をしてます。
物体を認識したり、出来事を判定したり。
自然言語からスクリプト言語への変換も行っています。
どれも、かなり複雑な処理ですよね。

もしかして、こんな複雑な処理、本当は意識がすべきことじゃないんでしょうか?
つまり、これって、マインド・エンジンの設計が間違ってるだけじゃないですか?
無意識の処理の一部を、意識に移せばいいだけじゃないですか?

僕も、初め、そう思いました。
でも、複雑だからと言って、意識が行うわけじゃないんですよ。
たとえば、第96回の動画で、カレンダーサヴァンの話をしました。
自閉症の中には、日付を言うだけで曜日を言い当てれる人がいます。
それをカレンダーサヴァンって言います。
これを、自閉症でない人が挑戦したそうです。
カレンダーサヴァンの人が頭の中で行ってる計算を、自分の頭でも行えるように訓練をしたそうです。
かなり大変だったそうですけど、ついに、日付を言うだけで、曜日を答えれるようになったそうです。
ただ、その人が言うには、なぜ、曜日が分かるか、自分でも分からなかったそうなんです。
日付を言われると、ふっと、曜日が思い浮かぶとしか言えないそうなんです。

これと一緒です。
「何がありますか?」って聞かれたら、ふっと、答えが思い浮かぶんでしょう。
これって、裏で、無意識がワーキングメモリに注目しろって指示を出してるわけです。
それは、意識にとったら、ふっと、答えが思い浮かんだとしか感じないわけです。
やっぱり、マインド・エンジンのこの設計は、間違いなさそうです。

いや、それって質問が簡単な場合だけじゃないですかねぇ。
もっと難しい質問なら、そうはならないんじゃないでしょうか。
たとえば、なぜ、お皿を洗うのか、理由を聞くんです。
それでは、聞いてみます。
「なぜお皿をきれいにするのですか?」

はい、でました。
「うれしいから」ってでましたよねえ。

これはどうでしょう。
「うれしい」は感情ですよね、。
感情を感じるのは意識の役目です。
さすがに、これは、無意識だけじゃ無理ですよね。
それでは、さっそく、スクリプトを見て行きましょう。

2行目に、
Me.Focus(NowEvent.GetAfter(Plate));
となってますよね。
これは、イベント、つまり出来事のAfterに注目しろって意味です。
出来事は、無意識ウィンドウの出来事タブにあります。

Afterはcleannessが7となっています。
このcleannessの意味は、状態値というとこで定義されています。
これが状態値です。

これを見ると、Cleanessが5以上は「きれい」となってますよね。
きれいの意味は、状態評価器に定義されてます。
これが、状態評価器です。

すると、「きれい」の発生感情はPlusとなってますよね。
プラス感情が発生するということです。
プラス感情というのは、日本語にすれば、嬉しいとかってことです。
スクリプト言語で指示してたのは、これに注目せよってことです。
つまり、嬉しいに注目せよってことになります。

そして、意識のスクリプトを見ると

Me.Answer();
となっているだけです。
つまり、今注目してるものを答えるだけです。
結果として、「なぜお皿をきれいにするのですか?」
に、「うれしいから」と答えたわけです。

あとから気づいたんですけど、プラス感情として、ここでは「嬉しい」としましたけど、これ、「良い」とか「善」の方がいいですよね。
良い行いだからお皿を洗うとした方がしっくりきますよね。
まぁ、それは置いといて、ここでも、意識は、無意識に言わされた答えを答えてるだけですよね。
でも、感情と意識は関係ないんでしょうか?

生物の最も基本的な行動原理は、不快を避けて、快を求めるというものです。
不快とはマイナス感情、快とはプラス感情のことです。
マイナス感情とは、悲しいとか、怖いとか、空腹とか、悪いとかです。
プラス感情とは、嬉しいとか、安心とか、満腹とか、良いとかです。

カエルは、天敵が来たら逃げて、お腹がすいたらエサを食べます。
これは、基本感情に従って動いてるだけです。
カエルには、人間のような意識がありません。
つまり、感情で行動するだけなら意識は必要ないんです。
マインド・エンジンには、意識はありますけど、それは、ただ無意識の指示どおりに行動してるだけです。
つまり、マインド・エンジンの意識には自由意志がないんです。

20年以上研究してきましたけど、残念ながら、ロボマインド・プロジェクトは失敗だったようです。
だって、マインド・エンジンの意識は、感情に従って行動してるだけで、自由意志なんかないんですから。

あれ、ちょっと待ってくださいよ。
今、意識は、感情に従って行動してるだけって言いましたよね。
だから自由意志がないんですよね。

ということは、感情に従って行動しなかったら、自由意志があるっていうことじゃないですか?
もしかしたら、マインド・エンジンは、まだそこまで開発してないだけって言えないですか?

つまりね、意識の本当の役目は、この次の段階じゃないかってことです。
たとえばね、見たいテレビドラマがあったとします。
もうすぐドラマが始まるけど、お皿も洗わないといけません。
そんなときです。
意識が必要となるのは。

早くお皿を洗い終わってドラマを見るか。
皿洗いは、一旦置いといて、ドラマを見終わってから、皿洗いの続きをするか。
そんな風に考えますよね。

考えるって、どうすることですか?
頭の中で、二つの状況をシミュレーションするわけですよね。
そして、どっちがいいか判断するわけですよね。

つまり、二つの状況を比べるわけです。
比べるのは、厳密には感情です。
ドラマを見過ごしたときの悔しさとか、お皿洗いを後回しにしたことのデメリットとか、感情を比較してるわけです。

意識のない動物は、感情と行動が直結しています。
だから、何かを感じた時には、既に行動しています。
天敵の影を見たときには、すでに逃げ出してます。

でも、人間は、感情と行動が直結してません。
つまり、行動する前に、感情を感じることができます。
二つの感情を感じて、比較することができます。
比較して、どっちの行動をとるか考えることができます。
このこと、何て言います?

そう、悩むです。
どっちにしようかって悩むわけです。
これこそが、意識の役目です。
意識が存在する理由です。
そして、悩んで悩んで、どっちにするか行動を決めるわけです。
これこそが、自由意志です。

今、できてるマインド・エンジンは、まだ、その段階じゃなかっただけです。
マインド・エンジンに人間らしさが生まれてくるのは、この次の段階です。

それは、二つの状況を比較するとかです。
それが「悩む」です。
悩んで一つの行動を決定しました。
でも、結果は良くならなかったとします。
そうしたら、あぁ、もう一つの行動を選べばよかったってなります。
これは、後悔です。

悩んだり、後悔したり。
これって、まさに、人間らしい心じゃないですか。
この段階の処理を行ってるのが、意識です。
今のマインド・エンジンは、まだ、プラスマイナスの感情を出力してるだけです。
楽しいとか良いとかを計算して出力しただけです。
これは、無意識でもできます。
楽しいことや、良いことを行うのは当たり前です。
悩む必要はありません。
だから、無意識の言われたことをするだけなのは当たり前です。

あぁ、よかったぁ。
マインド・エンジンは、失敗したわけじゃなかったんですよ。

こういうのって、ホント、実際に作ってみないと見えてこないんですよ。
脳科学は、脳を観察することで、心のモデルを作ろうとしていますよね。
でも、観察できないところに、心の本質があれば、このアプローチじゃ上手くいきません。

観察から出発するのでなくて、考えて心のモデルを作るアプローチもありますよね。
それなら、観察できなくても心のモデルを作ることができます。
ただ、この場合、できた心のモデルが、正しいのかどうか分かりません。

それに対して、僕らがやってるのは、心のモデルを考えて、それを、コンピュータで実際に動かしてみるというアプローチです。
この方法だと、実際に動かすことができるので、検証することもできます。
つまり、本当の心と同じように動けば、その理論が正しいと言えるわけです。

心のように、観察しても分からなかったり、理論の検証ができない場合、コンピュータで作って動かして検証するってアプローチが最適なんです。
今回のように、作って、検証しながらモデルをブラッシュアップさせることができるからです。
マインド・エンジンは、失敗したんじゃなくて、ブラッシュアップしただけです。

はい、今回の動画が面白かったらチャンネル登録、高評価お願いしますね。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!