第267回 受動意識仮説 VS. 意識の仮想世界仮説


ロボマインド・プロジェクト、第267弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

ついに、この時が来ました。
いつか、来ると思ってた、頂上決戦です。
何の頂上決戦かと言うと、意識仮説です。

このチャンネルを見てる人は、僕が提唱する「意識の仮想世界仮説」のことは良く知ってると思います。
でも、これは、どちらかと言うとマイナーな仮説なんです。
メジャーなのは、何と言っても受動意識仮説です。
提唱してるのは、慶応義塾大学の前野隆司教授です。
何と言ってもこの動画、「意識は幻想か?―『私』の謎を解く受動意識仮説」の再生回数は1100万回を超えてます。
対する僕の動画、第21回「意識の仮想世界仮説」の再生回数は、5600回です。
ボロ負けです。
でも、肝心なのは中身です。
これが、今回のテーマです。
受動意識仮説 VS. 意識の仮想世界仮説
それでは、始めましょう!

まずは、受動意識仮説です。
受動意識仮説って、その名の通り、意識は受動的だって仮説です。
僕らが思ったり考えたりすること、全部、無意識が行ってるらしいんですよ。
意識は、ただ単に、それを受けとって、そう感じてるだけだそうです。
これが受動意識仮説です。

前野先生は、無意識をたくさんの小人にたとえています。
たとえばリンゴを見たとします。
すると、色を担当する小人は、「赤だ」って言います。
形を担当する小人は「丸い」って言います。
意識は、ただ、それを受け取ってるだけです。
だから、リンゴを見たら、赤いとか、丸いとかって思うわけです。

なるほど。
そういわれたら、そうかもしれないですねぇ。
でもですよ。
たとえば、今、パッと手を上げました。
これ、自分の意識で決めて、手を上げました。
無意識の小人が決めて、意識はそれに従ってるだけってことはないですよね。

じつは、そうでもないんです。
それも、実験によって明らかになってるんです。
その実験のことを、リベットの実験って言います。
リベットの実験は、自由意志が、いつ発生したかを測定する実験です。

被験者には、自分の好きな時に指を動かしてもらいます。
指がいつ動いたかは、指の筋肉の電位、筋電位を測定して判定します。
指を動かす指令を出すのは脳です。
体を動かすとき、脳の運動野に運動準備電位という脳波が発生します。
そこで、運動準備電位も測定します。
これで、いつ、脳から指令が出たかが分かります。

難しいのは、いつ、動かそうと思ったかです。
「指を動かそ!」って思った瞬間を、どうやって測定するかです。

リベットが考えたのは、高速で回転するタイマーです。
丸印が3秒で一回回転するタイマーを用意します。
それで、「今、動かそ!」って思ったとき、タイマーの位置を覚えておいてもらいます。
これで、指を動かす意志が発生した瞬間を測定できます。
さて、これが、その結果です。

0の位置が、指の筋肉が動き始めた位置です。
それでは、「動かそ!」って意志が発生したのはどこでしょう。
それは、ここです。

筋肉が動く200ミリ秒前でした。
これは、まぁ、分かりますよね。
動かそうと思ってから、実際に指が動くまで、0.2秒かかったってわけです。
問題は、その次です。
みなさん、おかしなことに気付きませんでしたか。
それは、運動準備電位の脳波です。
おかしいというのは、ここです。

筋肉が動く550ミリ秒前から立ち上がってますよね。
つまり、「動かしたい!」って意志が発生する350ミリ秒前から立ち上がってるんですよ。
これ、どういうことか、分かりますか?

運動準備電位の脳波が発生して、それを受けて、「動かしたい!」って思ったわけですよ。
そのまま解釈すると、この脳波が、「動かしたい」と思えって意識に指令を出してるわけです。
それを受けて、「あっ、今、指を動かしたい」って意識が思ったわけです。
ねぇ、意識は受動的なんですよ。
これが受動意識仮説です。

さて、次は、意識の仮想世界仮説です。
人は、目で見た世界を頭の中で仮想世界として構築します。
意識は、この仮想世界を介して、現実世界を認識します。
これが、意識の仮想世界仮説です。
それじゃぁ、意識の仮想世界仮説を使ってリベットの実験を読み解いていきますよ。

意識の仮想世界仮説の最大の特徴は、意識は、現実世界を直接見てるわけじゃないってことです。
意識が見てるのは、無意識が作った仮想世界だってことです。

一度に目が見える範囲って、じつは、ものすごく小さいんです。
これを見てください。

右の写真の小さい白い丸が一度に見える範囲です。
眼球は常に細かく動いています。
だから、意識が現実世界を直接見たとしたら、左みたいに見えるはずです。
でも、そんな風に見えてないですよね。
僕らは、右の写真のように全体を見てるって感じますよね。
つまり、左の小さい画像を繋ぎ合わせて仮想世界をつくって、意識は、それを見てるんですよ。
仮想世界をつくってるのが無意識です。
無意識の使命は、意識に、世界を正しく見せることです。
一度に目に入るのは小っちゃい部分かもしれないですけど、本当にあるのは全体です。
だから、意識さんにそう思わすように、無意識さんは、小っちゃい部分を張り合わせて、必死に世界をつくってるんです。

僕らは、今見えてる世界が、そのまま存在すると思ってますけど、じつは、今、この瞬間、こんな世界が存在するわけじゃないんですよ。
見てるのは、過去に見えた小っちゃい部分の集合体なんです。
今見てるこの世界、古いものだと、なんと、15秒も前に見たもので作られてるそうです。
でも、そんなこと、気付いたことないでしょ。
それぐらい、無意識さんの仕事は完璧なんですよ。

それじゃ、リベットの実験を見て行きますよ。
今、意識は、指を動かそうと思いました。
指を動かそうと思った瞬間、タイマーを見ろって言われてましたよね。
ただ、意識が見る世界をつくってるのは無意識さんです。
さっきも言いましたけど、意識が見てる世界は、最大15秒も前の世界なんですよ。
「今、動かそ」って思った瞬間、タイマーを見ても、15秒前のタイマーかもしれないんですよ。
そうなったら、もう、何もかもムチャクチャですわ。

無意識さんの使命は完璧な世界をつくることです。
完璧な世界っていうのは、指を動かそうと思った瞬間、その瞬間の時刻を、ちゃんとタイマーが指し示してる世界です。
「このままじゃ、間に合わない!」
そう思った無意識さんは、何をしたと思います?
「今動かそ!」って思いを、ちょっと待ってもらうんです。

-550ミリ秒、これが、「今、動かそ」思いが生まれたときですよね。
運動準備電位が、わずかに上がり始めた段階です。
じつは、この時は、「動かそ」の思いは、まだ、はっきりと意識に上がってるわけじゃないんです。
でも、無意識さんは気づきました。
そして、その思いが、意識に上がらないように抑えとくんです。

その間に、今の瞬間を指し示すタイマーを作るんです。
そして、タイマーが完成した瞬間、抑えていた「今、動かそ!」って思いを解き放つんです。
「今、動かそ」って思いが意識に上がりました。
それを受けて意識はタイマーを見ました。
これが、-200ミリ秒です。

どうです?
きれいに説明がつきましたよね。
意識の仮想世界仮説を使えば、リベットの実験が矛盾なく、全て説明できました。
意識は、無意識の指示で行動してるんじゃなくて、ちゃんと、自分の意志で指を動かしてたんです。

さて、受動意識仮説、もう一つ、分からないところがあります。 
それは、意識が、無意識の指示通り動くだけなら、意識が存在する理由はなに?ってことです。

これに対して、前野先生はこう答えます。
意識の存在する理由、それは、エピソード記憶のためだと。
エピソード記憶っていうのは、簡単に言えば、「昨日、どこに行った」とか、「何を食べた」といった思い出のことです。

無意識は、常に膨大な処理をしてるので、それを全部覚えてたらすぐに記憶容量がオーバーしてしまいます。
それを、必要なことだけを覚えて、整理するのに意識が必要だというんです。

毎日、何時に起きて、何を食べたとかって、全部覚えてませんよね。
でも、「このラーメンは、めちゃ美味い!」ってなったら覚えてますよね。
だから、「今日、何を食べようかな?」ってなった時、「そうや、この前のラーメンにしよ」って思えるんです。

えっ、ちょっと待って。
それって、意識が決めてるんちゃいますの?

いやいや、それも、無意識が決めてるんですよ。
無意識は、この前食べたラーメンが美味しいって知ってるから、「この前のラーメンにしよ」って決めたんです。
意識は、後から、自分が決めたって思ってるだけです。

意識の役目は、「このラーメン美味しい」って感情を感じるってとこです。
いつもと違うことがあると、何らかの感情が発生します。
そしたら、その時の状況をエピソード記憶として記憶するわけです。

無意識の小人は、いっぱいいて、常に、膨大な処理をしてます。
無意識の小人が、いつもと違うことを発見すると、感情を発生させるわけです。
その感情を受けて、その時の状況を記憶する特別な小人がいるんです。
その小人が、意識なんです。
意識の役割は、あくまでもエピソード記憶を記憶することです。
エピソード記憶を基に、行動を決定するのは、あくまでも、無意識なんです。

なるほど、それなら分かります。
でも、悩むことってありますよね。
「あのラーメンも美味しいけど、あっちのカレーも美味しいよなぁ。どっちにしよかなぁ」って。
これ、間違いなく、意識が悩んでますよね。
これ、何かおかしい気がするんですよ。
つまりね、意識が、無意識が決めたことを、後から自分が決めたと感じるだけなら、悩むことなんか、ないじゃないですか。
悩んで悩んで、最終的に「今日は、久しぶりに、あのカレー食べよ」って決めたのって、やっぱり意識ちゃうんですか?

いや、違うんですよ。
悩んでるのも無意識です。
意識は、無意識が悩んでるのを、そのまま自分が悩んでると感じてるだけです。
意識は、無意識の決定だけじゃなくて、無意識の悩みも、自分のことのように感じるんです。

えっ、でも、ちょっと待ってください。
無意識が悩んでるのを、意識が感じたとしたら、それ、もう、無意識とは言えないじゃないですか。
だって、意識がありありと感じてるんですよ。
無意識って、意識が感じれないから無意識ですよね。
無意識って言葉に矛盾してますよね。

わかりました。
それじゃぁ、意識の処理範囲をもうちょっと広げましょ。
今まで無意識の処理とされていた、悩んで決定するとこ。
ここまで意識の処理範囲を広げるんですよ。
そうしたら矛盾はなくなりますよね。
意識が、悩んで決定することができますよね。

えぇ、そうなったら、やっぱり、意識が行動を決定してますやん。
受動意識仮説は、やっぱり成り立たないようです。

さて、最後に、前野先生について触れておきます。
受動意識仮説の元となった本、『脳は、なぜ「心」を作ったのか』が出版されたのが2004年で、もう、20年近くも前になります。
前野先生は、機械工学科の出身で、ロボット工学を専攻していました。
人間のようなロボットを作る過程で、ロボットの心や意識について考えて、受動意識仮説が生まれたようです。
今は何をしてるかというと、意識からさらに進んで、人間の幸せとかに関心があるようで、幸福学といったものを追及されてます。

そう言えば、僕も機械工学科を出てまして、意識の仮想世界仮説は、ロボットに搭載することを想定しています。
意識の仮想世界仮説は、まだ幸せとかの段階には行ってませんけど、エピソード記憶は持てます。
意識の仮想世界仮説に興味がある人は、この本に詳しく書いてありますので、良かったら読んでください。
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それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!