第268回 意識は科学か?


ロボマインド・プロジェクト、第268弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

前回、「受動意識仮説 VS. 意識の仮想世界仮説」で、意識仮説の違いについて取り上げました。
前回は、リベットの実験を通して、二つの仮説の違いといったとこに焦点を当てていたので、重要な問題を取り上げていませんでした。
それは、意識の特殊性についてです。
意識は、心とか主観に関係しますよね。
でも、科学は主観というものを徹底的に排除してきました。
つまり、主観を科学的手法で解明しようとすると、どうしても排除されるんです。
受動意識仮説を提唱する前野先生は、意識は幻想だっていいます。
つまり、意識は存在しないと言ってるわけです。
科学という土俵の上で決着を付けようとすると、どうしてもそうなってしまいます。

でも、それはフェアじゃないですよね。
だって、そもそも、科学の土俵に、意識や主観は乗れないんですから。
リベットの実験結果を解釈するとき、みんな、その点を見過ごしてるんですよ。
そもそも、リベットの実験は、科学で解釈できるのかってことです。
これが今回のテーマです。
意識は科学で扱えるのか?
それでは、始めましょう!

まずは、リベットの実験のおさらいです。
リベットの実験というのは、自由意志は存在しないことを証明した実験です。

被験者に、好きなタイミングで指を動かしてもらって、その時、いろんなデータを取ります。
指の動きは、筋電位でモニタリングします。
脳からの指令は、運動準備電位という脳波をモニタリングします。
そして、「指を動かそ!」っていつ思ったかは、タイマーを使います。
被験者に、高速で回転するタイマーを見てもらって、「動かそ!」って思った瞬間のタイマーの位置を覚えておいてもらいます。

すると、思っても見なかった結果がでたんですよ。

それは、被験者の意識が「今、動かそ!」って思った瞬間より、350ミリ秒も前から脳波が出てるってのが分かったんです。
つまり、意識が決定するより前に、脳内の活動があったわけです。
これ、何を意味するか、分かりますか?
脳内の何らかの活動を受けて、意識は、「今動かそ!」って思ってるんですよ。
分かりやすく言えば、最初に、無意識が「今動かそって思え!」て指令を出してるんです。
意識は、それを受けて、「今、動かそ!」って思ったってわけです。
無意識が決めたことを、意識は、あたかも、自分が決めたと思ってるだけなんですよ。
これが、受動意識仮説です。

この実験、多くの人が追試して、実験が正しいことは証明されています。
でも、この実験、みんな、大事なものを見落としてるんです。
それが何かわかりますか?

それは、「指を動かそ!」って、思ったタイミングを計る方法です。
タイマーを見るってとこです。
タイマーを見るとの、脳波や、筋電位を測るのと、同じ土俵に載せていいんでしょうか?

どういうことかと言うと、今、実験しようとしてるのは、意識とか、自由意志ですよね。
それを、脳波とか筋電位で客観的に測定するのは分かります。
でも、タイマーを見るのは何ですか?
意識ですよね。
測定器じゃないですよね。
それを一緒にして、問題ないんですかってことです。

つまり、タイマーは、意識が見てるわけでしょ。
脳波は、直接測定してると言えますけど、タイマーは、意識のフィルタを通してるんですよ。
現実のタイマーを直接見てるとは言えないんですよ。

えぇ、何言ってるんですか?
見てるタイマーは現実じゃないですか。
意識が見ようと、現実のタイマーを見てることには変わりないじゃないですか。

はい、そう言うと思ってました。
でも、ここなんですよ。
ここが、リベットの実験の核心なんですよ。

今、こうして見える世界。
みんなは、これが、本当に、そのまま存在してると思ってるでしょ。
これが、みんなが勘違いしてるとこなんですよ。

目の前に机とか、椅子があって、それをそのまま見てるだけだって。
そう思ってるでしょ。
誰も疑ってないでしょ。

まず、これが不思議だって思わないといけないんですよ。
目の前に机があるって思えること。
これ、考えたら不思議なんですよ。
なんで、不思議か?
簡単なとこから始めますよ。

たとえば、ライントレーサーってあります。
白い紙に黒い線でラインが引いてあって、それに沿って走るマイコンロボットです。
ライントレーサーは、車体の底に四つのセンサーがあって、センサーは、その下が白か黒かを判定します。
つまり、四つの目で、ラインからどれだけずれてるかを判断するわけです。
そして、右にずれてたら左に、左にずれてたら右にハンドルをコントロールして、常に、ラインが中央に来るように走行するわけです。

さて、ここで問題です。
このライントレーサーは、世界を、どんな風に感じてるでしょう?
大きくて白い紙があって、その上に黒い線が描いてあるように感じてるでしょうか?
そんなことはないですよね。
だって、ライントレーサーは、4つの目があるだけですから。
ライントレーサーに分かるのは、四つの目のどれが白で、どれが黒かってことだけです。
ライントレーサーのマイコンが認識してるのは、白か黒かの四つの点だけです。

これ、センサーが4つやから、そう感じるんでしょうか?
じゃぁ、センサーを1000万個に増やしたらどうでしょう。
そうなったら、もう、人間の目と同じですよね。
それなら、ライントレーサーは、目の前に机があるとかって思いますか?
思わないですよね。
センサーが増えたからって、机って分かるわけじゃないですよね。

そう考えたら、目の前に机があるって思えること。
これ、不思議って思えてくるでしょ。

じゃぁ、どうやったら、目の前に机があるって思えるんでしょう?
少なくとも、センサーの数は関係がないようです。
今度は、目が見えない人で考えてみます。

目が見えない人は、手を伸ばして、机に触れたら、そこに机があるって分かりますよね。
机に手が触れた瞬間、手触りとか、形とかから、それが机の一部と判断したんでしょう。
そして、それを頭の中に思い浮かべたんでしょう。
思い浮かべたのは机だけじゃないです。
自分との相対的な位置関係とかもです。
これができるって、どういうことかわかりますか?
それには、まず、空間ってものを理解しておかないといけません。
何もない三次元空間を用意するわけです。
そして、その中心に自分を配置します。
そして、手を伸ばしたら触れることができる位置に机を配置します。
一瞬で、そんな状況を思い浮かべたわけです。

つまり、頭の中に、目の前に机がある世界がつくられたわけです。
目の前に物があるって思えるのは、頭の中に世界をつくったからです。
これ、やってることは、目が見える人も同じなんですよ。
手が触れるのも、目で見るのも、どちらも頭の中で机をつくってるんですよ。

分かってきましたか?
意識が見てるのは、目の前にある現実世界そのものじゃないんですよ。
そうじゃなくて、頭の中につくった世界なんですよ。
頭の中に世界をつくって、初めて、目の前に世界があるって思えるんですよ。
そして、世界があると思うのが意識です。
これが主観です。

人は、頭の中に仮想世界を構築して、それを見てるんです。
これが、僕が提唱する意識の仮想世界仮説です。

この仮想世界のことを、僕は、よく3DCGで説明します。
そう説明すると、意識は、3DCGの映像を見てると勘違いする人がいるんですけど、そうじゃないんですよ。
重要なのは、3DCGの映像じゃなくて、データです。
3DCGを構成する点々は、全て三次元の位置データを持ってますよね。
重要なのは、それなんです。
目の前に机があるって、だいたいの距離を理解できるのは位置データを感じてるからです。

位置だけじゃありません。
時間を感じれるのは、仮想世界が時間のデータも持ってるからです。
空間がある、時間が流れるって感じれるのは、そういう世界を頭の中につくってるからです。
意識は、そのデータを読み取れるから、空間や時間を感じれるんです。
重要なのは、これらは頭の中で作り上げたものだってことです。
そして、頭の中の世界は、現実の物理世界とは独立してるんです。
頭の内側の世界と、外側の現実世界、これらは切り離されてるんです。

これ、何を意味するかわかりますか?
それは、内側の仮想世界は、物理世界に存在しないものでも作れれるってことです。
たとえば、感情とか意志とかです。
「指を動かそ」って思いつく自由意志。
これは、外側の現実世界に存在しなくて、内側の仮想世界にのみ存在するものです。

机や椅子、目で見える物も内側の仮想世界にあります。

それと独立した外側の世界にも、机や椅子があります。
でも、それらは内側の世界と切り離された別の世界です。

さて、それじゃぁ、被験者が見たタイマーは、どっちでしょう?
意識が見た世界なので、内側の世界ですよね。
「指を動かそ!」って自由意志、これも、内側の世界ですよね。

それじゃぁ、脳波や筋電位はどっちでしょう。
これは、意識が感じてることじゃないので、外側の世界ですよね。
分かってきましたか?

目で見たタイマーの位置と、脳波とを同じ土俵にのせたらアカンのですよ。
だって、それは、切り離された、全く別の世界で起ってることなんですから。
同じグラフに載せて、どっちが速いとかって議論すること自体、無意味だってわかりますよね。

その点を理解して、リベットの実験を正しく解釈すれば、何も問題ないことがわかるんですよ。
ちゃんと自由意志があって、「指を動かそ!」って思ったのは、意識なんです。
ただ、内側の世界と外側の世界の整合性を合わせないといけません。
切り離されてるとは言え、内側の世界は、外側の世界を、そっくりそのまま写し取って作るわけですから。
それをやってるのが無意識です。

内側の世界をつくるには、どうしても時間がかかります。
それは、およそ0.3~0.5秒といわれています。
つまり、内側の世界と外側の世界は、0.3~0.5秒のずれがあるんです。
その差が、リベットの実験に現れたんです。
このことのについては、前回、第267回で詳細に説明したので、興味があるかたは、そちらをご覧ください。

さて、外側の世界というのが、現実の物理世界です。
客観の世界です。
内側の世界というが、意識や主観の世界です。

自然科学が対象としてきたのは、外側の世界だけです。
客観的で観測可能な世界です。
リベットの実験のそもそもの間違いは、科学が入り込んじゃいけない領域に足を踏み入れたことです。
それが、内側の世界です。

僕らは、そろそろ、大事な決断をしないといけない段階にきてるんですよ。
それは、科学はどこまでを対象とするかってことです。
自然科学が対象とするのが、客観的に観察可能なことだけってことを維持する限り、意識や主観については目を背けるしかないんです。
前野先生は、意識は幻想だっていいます。
これは、科学の当然の帰結です。
前野先生だけじゃありません。
多くの科学者は、人間には自由意志は存在しないって断言しています。
いくら、自分には自由意志があると叫んだとしても、それは客観的に観察できません。
客観的に観察できない限り、科学だと、ただの幻想扱いになるんです。

僕は、そろそろ、観察できない内側の世界も、科学で扱う段階に来てるんじゃないかと思うんですよ。
直接観察できないので、方法としては、モデルを作ります。
心のモデルをコンピュータで作るんです。
そのモデルが正しいかどうかは、コンピュータで作った心と会話すればわかります。
会話して、心があるって思えれば、その心のモデルは、正しいといっていいんじゃないでしょうか。

このやり方の一番の特徴は、中身を見れることです。
プログラムは開発環境と呼ばれるもので作られます。
開発環境では、プログラムを1行ずつ実行しながら、どうやって動くか確認できます。
これをデバッグ実行と言います。
デバッグ実行すれば、心がどうやって動いてるのか、手に取るように分かります。
まさに、これが、新しい科学です。
今まで、絶対に観察できなかった、意識や心を直接観察できる科学です。

そして、それをやってるのがロボマインド・プロジェクトです。
心のプログラム、それが、今、僕らがつくってるマインド・エンジンです。

はい、今回の動画がおもしろかったら、チャンネル登録、高評価お願いしますね。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!