ロボマインド・プロジェクト、第269弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。
このチャンネルでは、今まで、脳に関するいろんな実験や障害について語ってきました。
脳のどこが損傷すると、何がどう変わるのかって話です。
こう言った脳の歴史があるから、脳の機能が少しずつ分かってきました。
そんな脳の歴史を語るうえで、避けて通れない話があります。
それは、ロボトミー手術です。
ただ、この話、内容がヘビー過ぎます。
人間の心を壊す手術とか、悪魔の手術と言われています。
それが、全世界で、4万人以上が受けたと言われています。
日本でも行われました。
有名人だと、ケネディ大統領の妹、ローズマリー・ケネディも受けています。
ロボトミー手術の話を読むと、人間って、なんてことをするんやとか、もっと、他に方法はなかったのかって思ってしまいます。
そこで、ロボトミー手術の原因と、根本的な解決策について考えてみました。
これが、今回のテーマです。
史上最悪の脳手術、ロボトミー
それでは、始めましょう!
ロボトミー手術のきっかけはチンパンジーの実験でした。
チンパンジーの前頭葉を切り取ると、凶暴性が収まったという実験です。
それまで、すぐにイライラして暴れていたチンパンジーが、嘘みたいに大人しくなったそうです。
この実験を知ったポルトガルの医師、エガス・モニスは、人間の精神障害にも効くのではと考え、すぐに実行に移しました。
最初の患者は、地元の精神障害施設に収容されていた重度の不安発作と妄想に悩まされていた63歳の女性でした。
頭蓋骨にドリルで穴をあけて、ロボトミー手術が行われました。
30分ほどで手術は終わり、二日後には施設に戻ったそうです。
彼女は、手術前よりかなり落ち着いた状態で、不安障害と妄想は無くなっていたそうです。
世界で初めて、脳の外科手術で人の精神を治療することに成功したわけです。
これが、1935年です。
翌、1936年には、ロボトミー手術は、アメリカにも渡ってきました。
当時、アメリカの精神病棟は、人であふれかえっていました。
病院といっても、一度、入院すると退院することはほとんどありませんでした。
病院とは名ばかりで、保護して社会から隔離するのが目的でした。
精神病の入院患者の数は、全入院患者の半数も占めてたそうです。
当時の精神病の治療法といえば、ショック療法しかありません。
わざとマラリアに感染させて、高熱を出させて治療するマラリア療法とか。
インシュリンを投与して、低血糖による昏睡を起こさせるインシュリン・ショック療法とかです。
最も、広く行われたのが電気ショック療法です。
頭の両側に電極を取り付けて、頭に通電することで、わざと痙攣をおこさせる治療法です。
腕時計をハンマーで叩いて直すようなものだと揶揄されていました。
このような状況の元、アメリカでロボトミー手術を広げたのが、ウォルター・フリーマンです。
フリーマンの最初の患者は、63歳の主婦、アリス・ハマットでした。
彼女は、常に、イライラや、不安感を訴え、不眠症で、ヒステリックに笑い出したり、泣き出したりすることがよくあったそうです。
最初の手術は、頭の両側を切削し、前頭葉を6か所切り取りました。
術後、ハマットは、穏やかな表情で目を覚ましたそうです。
「不安を忘れてしまったみたい。今は、それがどんなだったかも思い出せない」と答えたそうです。
アリスの様子がおかしくなったのは、手術から6日後でした。
言葉がつっかえたり、読めない字を書いたりして、会話も成立しなくなりました。
それでも、穏やかでになって、睡眠薬なしで眠れるようになりました。
フリーマンは、ロボトミー手術をメディアを使って、大いに喧伝しました。
「精神病治療の革新となる新手術」
「獰猛な野生動物が数時間で穏やかな生き物に変わる」といった記事があちこちに取り上げられました。
その結果、その後、40年間で米国だけで2万件以上のロボトミー手術が行われました。
なぜ、これほど受け入れられたか、いくつか理由があります。
まず、今まで、効くか効かないかよくわからないショック療法しかなかった精神病の治療に、初めて、有効な治療法を提供したからです。
それまで、一生、精神病棟で暮らすしかなかった患者が、手術によって退院できるようにもなりました。
さらに、1949年には、ロボトミー手術の生みの親、エガス・モニスがノーベル医学賞を受賞したことも追い風になりました。
そして、ロボトミー手術が広がった最大の理由は、手術方法の大胆な改善です。
それは、ドライブスルー・ロボトミーとも言われる簡単な方法です。
なんと、アイスピック一本で出来る手術です。
アイスピックというのは比喩じゃなくて、本当に、キッチンにおいてあるアイスピックを使ってたそうです。
患者は、電気ショックで意識を失わせます。
そして、目の内側の骨の間からアイスピックを7・8センチほど差し込んで、小刻みに動かします。
これを両方の目で行います。
手術は10分もかかりません。
フリーマンは、全米を飛び回って、この手術を広げました。
フリーマンが言うには、ほとんどの手術が成功だったとのことでした。
ただ、彼の成功の基準はかなり低いものでした。
病棟で騒ぐことが少なくなり、以前に比べて扱いやすくなれば成功とされました。
実際は、どうなったかというと、患者は周囲に関して無関心になって、何もかもどうでもいいように思えるようになったそうです。
退院して自宅に戻っても、精気がなく、無気力になりました。
恥ずかしいと思う気持ちを失って、他人の前に裸のままで姿を現したり、夕食の席では、他人のお皿のものを平気で食べたりしてたそうです。
さて、そんなロボトミー手術が行われなくなったのは、向精神薬が発明されたからでした。
危険な手術などしなくても、薬で同じ効果が得られるとがわかって、一気に、ロボトミー手術は収束していきました。
さて、ここからは、ロボトミー手術の中身について考察していきます。
モニスが切除したのは前頭葉です。
より正確に言うと、前頭葉と視床のつながりを切ろうとしていました。
前頭葉は、動物の中で、人類が最も発達していて、理性とか、意識とか、人間らしさを司る部位と言われています。
視床は、感覚器の中枢で、視床下部は、不安や恐怖など、情動を生み出すと言われています。
ここを破壊すれば、不安や恐怖などの情動が収まると考えたのでしょう。
僕は、これをフィードバック制御で考えてみました。
たとえば、ロボットアームの位置制御で考えてみます。
ロボットアームの位置を、目標地点まで移動させるとします。
目標地点とロボットアームの位置の差を検出器で測り、制御器は、その差が0になるように制御します。
制御器は、目標地点までの差に応じた電流を流し、目標地点を行き過ぎると、アームを戻すように電流を流します。
こんな風に制御すると、どうなると思います。
上手く目標地点で止まればいいんですけど、たいていは、行き過ぎたら戻って、戻っては行き過ぎてを繰り返して、上手く目標地点に停止できないんですよ。
制御工学では、これを三つのパターンに分類します。
左が、上手く停止できる場合です。
これが理想的な安定した制御と言えます。
真ん中は、行ったり来たりを繰り返すパターンです。
右は、行ったり来たりを繰り返しながら、だんだん大きくなるパターンです。
これは、たとえばスピーカーにマイクを近づけた時、大きな音が出るハウリングと同じです。
これは、マイクで拾った音をアンプが増幅してスピーカから出て、その音を、またマイクが拾ってアンプで増幅してスピーカーから出るってのを繰り返すことで起こります。
このような現象は、入力と出力をセンサーでつないだループ構造になると起こります。
これを、フィードバック制御といいます。
フィードバック制御は、意外と、安定させるのが難しいんです。
これは、人間でも起こります。
目で見て、手を決められた位置に静止しようとするとき、上手く制御できないと腕が震えたりします。
手足の震えや、てんかんなどは、このようにして起こっているのかもしれません。
もう少し、人間の脳で考えてみましょう。
人は意識が行動を決定します。
それでは、行動の原動力はなんでしょう。
これは、感情とか情動です。
たとえば、突然、見知らぬ男が襲い掛かってきたら、怖いって感情を沸き起こりますよね。
意識は、「怖い」って感情を感じて、「逃げる」って行動をとります。
部屋の中とか、安全な場所に逃げ込めれば「安心」って感情になって、それ以上「逃げる」って行動はとらなくなります。
逃げ場がない場合は、逃げるのでなく、「戦う」って行動をとるかもしれません。
男を倒して、これ以上、男が襲ってこなくなると「安心」ってなりますよね。
これを図で表すとこうなります。
男が襲い掛かって来るというのが外部の状況です。
状況を理解し、「恐怖」って感情が発生して、意識は、それを感じます。
感情を受けて、意識は、「逃げる」か「戦う」って行動をとります。
行動によって状況を変えるわけです。
状況が変わって、「恐怖」が小さくなること、これが安心です。
安心すると、意識は、それ以上の行動を止めます。
見て分かるとおり、これも一種のフィードバックループになってますよね。
制御してるのは意識です。
意識は、安心の感情となるように行動を制御するわけです。
意識は、状況を変化するように行動します。
それで、発生する感情が小さくなればいいのですが、逆に大きくなると、意識は、さらに行動を大きくします。
行動を大きくすることで、さらに状況が悪くなると、さらに大きな感情が発生します。
これ、フィードバック制御で言えば、どんどん大きくなるパターンです。
マイクをスピーカに近づけてハウリングするのと同じです。
これは、人間の心で言えば、ヒステリックになってる状況と言えるかもしれません。
この原因はいくつか考えられます。
一つは、行動が状況をさらに悪くしてるパターンです。
襲ってくる男に歯向かって、男が怒って、さらに状況が悪くなったってことです。
もう一つ考えられるのは、状況の判断の間違いです。
見知らぬ男というのは、もしかしたら、自分の父親かもしれません。
襲ってくるというのは、暴れてる自分を抑え込もうとしてるのかもしれません。
襲ってきてると勘違いして、さらに暴れます。
暴れれば暴れるほど、お父さんは、余計に強く抑え込まないといけません。
こういう状況になっていたのかもしれません。
さて、この状況を改善するには、どうすればいいでしょう?
モニスが考えたのは、意識に入力される感情を断ち切ることでした。
つまり、情動を生み出す視床と、意識を司る前頭葉の間を断ち切ることです。
これが、ロボトミー手術です。
完全に断ち切れなくても、意識に入力される感情が小さくなれば、大人しくなります。
モニスがやったのは、そういうことです。
ただ、感情は、人間を豊かにするものです。
感情を感じれなくなると、喜びや悲しみを感じれなくなります。
失敗して悔しいとか、今度こそ、がんばろうとかって思えなくなります。
ロボトミー手術を受けた人、全員に起ったこと、それは、何に対しても意欲がなくなったことでした。
何をしても長続きがせず、すぐにあきらめてしまうようになったそうです。
ずっと、霧がかかったような感じがするそうです。
激しく暴れることは無くなりましたけど、喜んだり、ワクワクすることもなくなったそうです。
それじゃぁ、どうすればよかったんでしょう。
感情と意識の間を断ち切る以外に方法はないのでしょうか?
さっきの問題の原因は何でした?
それは、暴れる自分を抑えようとするお父さんを、見知らぬ男が襲ってくると間違って判断したことですよね。
つまり、状況の判断ミスです。
ならば、それを直すのが一番の正解じゃないでしょうか?
見て、何が起こってるか状況を判断するところ、ここを正しく判断できるように直すわけです。
ただ、ここを直すのはかなり難しいです。
なぜなら、それは、視覚入力からのデータを情報処理するとき、その処理の中身を修正することになるからです。
つまり、ソフトウェアのバグを修正するということです。
意識とは何かすら分かってない今の科学で、心のソフトウェアのバグを修理するなんて、とてもできません。
今の科学で出来ることと言えば、ソフトウェアでなく、ハードウェアの修理です。
つまり、外科的に情報経路を断ち切ることです。
それがロボトミー手術です。
今では、ロボトミー手術の代わりに、向精神薬による治療が行われています。
ただこれは、外科手術から薬に変わっただけで、感情や情動を抑えるという方針は同じです。
激しい感情は収まりますが、霧がかかった中で生きている感覚になるのは同じなんです。
心というプログラムの解明、今後は、こういう視点も必要だと思います。
はい、今回の動画が面白かったらチャンネル登録、高評価お願いしますね。
それでは、次回も、おっ楽しみに!