第278回 宇宙人に乗っ取られた母親 恐怖!カプグラ星人


ロボマインド・プロジェクト、第278弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

最近、増えてきてるらしいんですよ。
宇宙人に乗っ取られたって人。
一番、多いのが金星人らしいですけどね。

これ、厄介なのは、見ただけじゃわからないんですよ。
見抜けるのは、家族とか、近しい人だけです。
ただ、見抜いたとしても、相手は絶対に認めません。
母親が宇宙人に乗っ取られてると気付いて、「お前、本当は宇宙人だろ!」って言っても、絶対白状しません。
「この子、急に何言いだすの」ってとぼけるんですよ。
ほんと、怖いですよね。

この話聞いて、ウチの母親も、もしかしたらって思った人いないですか?
もし、そう思ったとしても、お母さんが本当に宇宙人にのっとられてる可能性は低いです。
可能性として高いのは、カプグラ症候群です。

カプグラ症候群っていうのは、脳障害の一つで、近しい人が、本人でないように感じる障害です。
そっくりの偽物って感じるわけです。
これが、今回のテーマです。
宇宙人に乗っ取られた家族
それでは、始めましょう!

さて、カプグラ症候群で、相手が本物でないと感じるのは、かならず、対面で話してるときなんです。
電話で話してるときは、そう感じないそうなんです。
ちゃんと、自分の母親と話してるって感じるそうなんです。

ということは、カプグラ症候群は、視覚処理に問題があると言えそうです。
視覚処理には二種類あります。
そのことを盲視で説明します。
盲視というのは、脳の損傷で目が見えなくなる障害です。

リンゴを見せて、「何かわかりますか?」と聞いても、「見えないのでわかりません」って答えます。
次に、レーザーポインタで黒板を示して、「光の点がどこにあるか指で指してください」って言うと、「見えないので、できません」って答えます。
それでも、「あてずっぽうでもいいので、指で指してください」って言うと、ちゃんと、光の点を指差しできるんです。

盲視は、眼球が損傷してるわけじゃないので、目からの情報は脳に入ってきています。

目からの情報は、後頭部に送られて、そこから側頭葉の腹側視覚路と、頭頂葉の背側視覚路に分かれます。
腹側視覚路は、何の経路と呼ばれて、見たものが何かを処理する経路です。
背側視覚路は、どこの経路といわれて、見たものがどこにあるかを処理する経路です。
盲視の場合、腹側視覚路が損傷して背側視覚路が生きてるので、何が見えるのかは答えれないですけど、どこにあるかは答えれるわけです。

さて、カプグラ症候群の場合、どうやら背側視覚路が損傷すると起こるようです。
それから、カプグラ症候群で偽物と感じるのは、家族とか、いつも一緒にいる近しい人に対してだけです。
つまり、安心したり、親しみを感じている人に対してです。
ということは、背側視覚路で安心とか信頼を処理してるようです。
だから、背側視覚路が損傷すると、同じ人間でも、今まで感じてた安心とか、信頼を感じれなくなるわけです。
この妙な感覚を表現しようとすると、「偽物」とか、「宇宙人に乗っ取られた」みたいな表現になるわけです。

それから、背側視覚路は、進化的に古い処理経路で、無意識に関係します。
動物は、相手が近しい存在かどうかを無意識で識別する能力を持っているってことです。
たしかに、相手が仲間か、他人かを区別する機能がないと、社会を築けないですよね。

腹側視覚路は、進化的に新しくて、意識に関係します。
人は、目で見た世界を頭の中で仮想世界として構築します。
意識は、この仮想世界を介して、世界を認識します。
これを、意識の仮想世界仮説といいます。

腹側視覚路は、この仮想世界につながると考えられます。
視覚情報は、最初、単純な直線とか、丸とか四角って形を分析して、次に、それらを組み合わせた複雑な形とか、動きとかって分析していきます。
このような処理を行ってるのが腹側視覚路です。

仮想世界はオブジェクトでつくられます。
オブジェクトというのは、色や形ってプロパティと、動きといったメソッドをもった3Dオブジェクトのようなものです。
リンゴオブジェクトなら、色プロパティが赤で、形プロパティが丸いオブジェクトとなります。
人は、様々なオブジェクトを記憶しています。
リンゴを見たとします。
視覚情報は、腹側視覚路で赤とか丸いって情報に分解されて、記憶を検索します。
記憶の中から、対応するオブジェクトとしてリンゴオブジェクトが見つかると、それを取り出して、仮想世界に生成するわけです。
リンゴオブジェクトの表面には、今、見えてるリンゴの見た目が貼り付けられます。
「見る」っていうのは、そのリンゴオブジェクトを見てるわけです。
だから、目を閉じると、見えてたあざやかな見た目は消えますけど、リンゴが見えてたって感覚が残るわけです。
残った感覚が、記憶されてたリンゴオブジェクトです。

人の認識も同じです。
人間オブジェクトというのがあるわけです。
人間オブジェクトは、顔の形や、名前や関係性といったプロパティを持ってるわけです。
お母さんオブジェクトは、お母さんの顔や、お母さんって関係性のプロパティを持っているんでしょう。
おそらく、人間オブジェクトには、いつも一緒にいるとかってプロパティもあって、お母さんなら、そのプロパティがオンになってるんでしょう。

目の前に女の人がいます。
顔形から検索するとお母さんオブジェクトにヒットしました。
お母さんオブジェクトを取り出して、仮想世界に生成します。
目からの視覚情報を目の前のお母さんに貼り付けて、意識は、それを見ます。
つまり、目の前にいる女の人がお母さんだと認識するわけです。
人間オブジェクトには、いつも一緒にいるプロパティがあって、お母さんオブジェクトはオンになってますよね。
だから、お母さんを見ると、いつも一緒にいるお母さんだって思うわけですよね。
ここまではいいですよね。

ところが、カプグラ症候群の場合、これがオンになってないんでしょう。
だから、姿形はお母さんそっくりなのに、いつも一緒にいるお母さんと違うって感じるんでしょう。

ここ、もう少し正確に説明しますよ。
オブジェクトは、腹側視覚路で分析した視覚情報を基に生成します。
記憶の中のお母さんは、いつも一緒にいるプロパティがオンになってるわけです。
でも、目の前の女の人は、いつも一緒にいるって感じないわけです。

カプグラ症候群は、背側視覚路が損傷したとき起こるって言いましたよね。
つまり、いつも一緒にいるって感じは、背側視覚路で検出されるようです。

背側視覚路は、空間的な位置とか、動きを検出するもので、意識にはつながっていません。
物を指差したり、飛んできたボールを避けたりするときに使うのが背側視覚路です。
背側視覚路は、進化的には意識より古い経路なので、こちらの方が、生物にとってより本質的な処理をするんでしょう。

物を認識するのに0.5秒かかると言われています。
これは、腹側視覚路経由で意識が認識する場合のことです。
プロ野球のボールは、ピッチャーが投げてからキャッチャーが受けるまでは0.5秒もかかりません。
だから、ボールを目で見て打ってたら、とても間に合いません。
この時に使うのが、背側視覚路です。
背側視覚路は、0.5秒もかからないので、ちゃんとボールを打てるわけです。
野球だけでなくて、ボクシングも同じです。
背側視覚路を使った無意識の処理でパンチを避けてるわけです。

背側視覚路の方が、動物が生きるのに必要な処理をしてるようですね。
相手が敵か味方かって、一瞬で判断できないと、命取りになることもありますから。

僕は、よく、野良猫にエサをあげてます。
数年前だったか、いつも来てる猫が子猫を生んだんですよ。
子猫を何匹も連れて、エサをもらいに来るんですよ。
ちゃんと、全員に避妊手術もしてもらいました。

半年もすると、子ネコもかなり大きくなってきました。
ある日、全員でエサを食べてるとき、お母さんネコが急に怒り始めたんですよ。
今まで仲良く食べてた子ネコを威嚇するんですよ。
子ネコは、きょとんとしてびっくりしてました。
そんなのが何日も続いて、ある時から、母ネコは来なくなりました。

たぶん、子ネコを見た時、いつも一緒にいる仲間って判断されず、ただの普通のネコって判断して、威嚇したんでしょう。
背側視覚路にあるいつも一緒の仲間って判断が働かなくなったのかもしれません。
子ネコがある程度成長すると、それぞれで生きれるように、遺伝的に組み込まれてる仕組みかもしれません。

人間にも、反抗期ってありますよね。
中学生ぐらいになると、急に、母親がうっとうしくなるとか。
ただ、それとカプグラ症候群とは違いますよね。
カプグラ症候群の場合、中身が誰かに乗っ取られたって感じるわけです。
反抗期の場合は、母親が偽物に入れ替わったとは思わないわけです。

たぶん、人間は特殊なんやと思います。
何が特殊かと言うと、人間の意識です。
意識は、世界にあるものを仮想世界のオブジェクトとして認識します。
オブジェクトは、記憶として持ちます。
つまり、一人一人を認識します。
これを、個体識別といいます。
個体識別ができるから、一人一人に名前を付けて区別できるんです。
そんなの、当たり前って思うでしょ。
でも、名前を付けるのは、人間だけですよね。
つまり、個体識別するのは、人間だけなんですよ。

動物は、相手が仲間とか、子供とかって判断はしますけど、個体識別はしません。
子供が大きくなったら、他の大人と一緒です。
社会を保つには、それで十分なんです。

人間は、意識をもって、オブジェクトで認識するようになって、個体識別できるようになりました。
自分の子どもは、一生自分の子どもですし、親は一生自分の親です。
そんなの当たり前と思ってるかもしれないですけど、動物的に考えると、それは不自然なんです。
オブジェクトで認識できるようになると、あの時、あんなことがあったとか、こんなことがあったとかってエピソード記憶を持てるようになりました。
あんなことがあったってエピソード記憶を持てるようになったから、個体識別できるようになったんです。

生物的には、赤ちゃんが独り立ちするまで育てるのが親です。
必要な機能は、それだけです。
そのために、母性本能というのがあって、赤ちゃんを見たら、かわいくて守らないといけないと思うわけです。

よく、育ててもらったんだから、親の老後の面倒を見るのは当たり前だっていう言いますけど、生物的には、ちょっと違います。
赤ちゃんを見ると、母性本能からかわいい、愛おしいって思えるホルモンが分泌されて、喜んで育てたくなります。
でも、親の場合、喜んで介護したくなるってホルモンが出ませんからねぇ。
お金をかけて育ててもらったからって義務感だけなんですよねぇ。
おっと、この話は、このぐらいにしときましょ。

はい、今回の動画で紹介した意識の仮想世界仮説については、この本で詳しく解説してますので、良かったら読んでください。
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それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!