これが第三次AIブームの今の状況です。
記号主義をコネクショニズム派が抑え込んだところです。
えっ、何をいってるかわからない?
それじゃ、本編で詳しく説明します。
ロボマインド・プロジェクト、第28弾
ロボマインドの田方です。
AIの手法って、実は、二つしかないんですよ。
ほんで、AIの歴史って、二つの派閥争いの歴史でもあるんですよ。
これがわかってないと、AIで何でもできると勘違いしてしまうんです。
絶対無理なものにAIを適用しようとして、無駄なお金と時間を使ったりするんです。
そうならないために、AIの歴史と、AIが何を目指してるかについて、2回にわたってお話しますね。
これを見ると、AIの見方がガラッと変わりますので、ぜひ、最後までご覧ください。
二つの派閥っていいましたけど、一つは、コネクショニズム派、もう一つは、記号主義っていいます。
コネクショニズムってのは、ニューラルネットワークのことです。
ニューラルネットワークっていうのは、神経細胞のネットワークのことです。
脳の神経細胞の仕組みが分かってきて、それを真似してプログラムにしたのがニューラルネットワークです。
脳の神経細胞って、こんな感じです。
一つの神経細胞に、いっぱい仲間の神経細胞が繋がってますね。
みんなの意見を聞いて、多数決で出力を決めるって感じです。
これをモデル化したのが、ニューラルネットワークです。
これをコンピュータプログラムに落とし込んだわけです。
つぎは、記号主義です。
記号って、シンボルとか言葉です。
記号をルールに従って操作するタイプのAIが記号主義ってことです。
それでは、AIの歴史を見てみましょう。
AIは、今まで、3回、ブームがありました。
今は、第三次AIブームです。
タピオカも、第三次タピオカブームらしいんですけね。
たぶん、AIとは全然、関係ないんじゃないかな思います。
さて、第一次AIブームは、1960年代に起こりました。
この頃、コンピュータで迷路やパズルが解けるようになったんです。
たとえば、ハノイの塔っていうパズルがAIで解けました。
これは、輪っかを一個ずつ順に動かして左から右に移すパズルです。
この時、小さい輪っかの上に大きい輪っかを乗せてはいけないってルールがあります。
こんなパズルをコンピュータで解けるようになったわけです。
それまで、計算しかできなかったコンピュータが、こんなパズルを解けるようになったので、もっといろんな仕事がコンピュータにできるんじゃないかって、一気に、AIへの期待が高まったわけです。
でも、結局、できたのは迷路とかパズルといったものだけでした。
現実社会の複雑な問題は、解決できませんでした。
ただ、推論とか、人間しかできないと思われた知能が、コンピュータでも実現できることは分かりました。
これが、記号主義の始まりです。
その頃、脳神経科学の研究から、ニューロンの仕組みがわかってきて、パーセプトロンというモデルが生まれました。
これが、コネクショニズムの始まりです。
パーセプトロンは、複数の入力データを重み付けして、0か1を出力します。
たとえば、身長と体重のデータを入力すれば、太ってるとか、痩せてるとか分類できるわけです。
コネクショニズムでできることは、多数の入力データを分類することです。
それと、もう一つ、重要な特徴があります。
今までのプログラムでは、絶対に出来なかったことです。
何かわかります?
それは、学習です。
今までのプログラムは、一度、作ったら同じことしかできなかったんですが、パーセプトロンは、答えを間違えたら、入力データの重み付けを調整して正解に近づけることができるんです。
つまり、人間と同じように学習できるわけなんです。
これは期待できますよね。
パーセプトロンがAIの本命だと思われたのですが、1969年にパーセプトロンには限界があるって、AI界のドン、マーヴィン・ミンスキーに証明されてしまいました。
コネクショニズム派は、この後、長い間、このミンスキーの呪いに苛まれることとなったのです。
これが第一次AIブームです。
人間の代わりになると期待された人工知能。
でも、複雑な現実問題は解決できず、1970年代にはいると、急速にブームが終わってしまったんです。
第一次AIブームで、記号主義とコネクショニズムという二つの派閥が生まれました。
人間がルールを考えるタイプが記号主義。
脳を真似て、自分で学習するタイプのコネクショニズム。
記号主義が一歩リードして始まったAIレース。
本命と思われたコネクショニズムは、志半ばで、レースから降ろされた形となってしまいました。
約10年のAI冬の時代を経て、1980年代に入ると、第二次AIブームが起こりました。
第二次AIブームといえば、何と言っても、エキスパートシステムです。
エキスパートシステムというのは、AならばB、BならばCっていうルールを書き連ねて推論するシステムです。
たとえば、「熱が出て、咳が出れば風邪です」といった病気診断システムとかです。
当時は、こんなシステムが何千と作られたそうですが、今では、ほとんど残っていません。
なぜでしょう?
それは、やっぱり実社会で使うには、あまりにも使いずらかったからです。
エキスパートシステムは、言葉という記号を使って推論するわけですから記号主義です。
エキスパートシステムが発展した背景には、データベースや意味ネットワークのような知識表現が生まれたことです。
第11回「自然言語処理、50年の勘違い」でも説明しまいしたが、意味ネットワークというのは、
犬は動物の一種であるといったis-aの関係や、動物は脚を4本持つといったhas-aの関係で言葉を定義したものです。
こうやって、人間がもつ常識を教えることで、人間と同じように推論できるようになるはずだったんですが、そうは行かなかったんです。
常識として、「机からコップを落としたら割れる」とか、「コーヒーカップを傾けたらコーヒーがこぼれる」とか、そんなことを教えないといけないわけです。
そんなの、無限にありますし、たぶん、人間は、そんな風にして常識を覚えてるわけじゃないですよね。
そんなこと、やっても無駄だって、誰でもわかりますよね。
でも、それをやっちゃうのが研究者なんですよね。
その一つが、サイクプロジェクトです。
常識を100万個登録して、まだ足りないことがわかったから、1億目指しますって言ってるんです。
30年以上続いて、今でも続いているそうです。
こんな風に、人間と同じ常識を持ったエキスパートシステムを作ろうとしたら、きりがないことがわかって、誰も使わなくなったわけです。
それから、日本の第五世代コンピュータも、まさに、第二次AIブームです。
これに関しては、第18回「第五世代コンピュータは、なぜ、失敗したのか」で詳しく説明したので、興味がある方は、そちらもご覧ください。
この時期、コネクショニズムも大きく前進しました。
パーセプトロンを複数層の重ねることで、今までできなかった複雑なことができるようになってきたんです。
ついに、あの、ミンスキーの呪いから解放されたんですね。
さて、コネクショニズムが得意なのは、データを分類することです。
だから、文字認識なんてことができるようになってきたんです。
ただ、問題もあります。
それは、膨大な計算をする必要があることです。
入力データが数百だったとしても、その組み合わせを何度も繰り返し計算するので、とんでもない量の計算が必要になるんです。
何年かかっても計算が終わらなかったりするんです。
これじゃ、使い物になりません。
こうして、またしても、コネクショニズムが主流となることはなく、1990年代になると、第二次AIブームが収束していったわけです。
そして、第三次AIブームです。
ディープラーニングの時代です。
ディープラーニングが一気に有名になったのは、2012年に、グーグルが発表したネコ認識の研究です。
YouTubeの1000万枚のサムネイル画像を教師なしで学習した結果、ネコの認識できるようになったという研究です。
教師なしというのは、これがネコだとか犬だとか教えるんじゃなくて、ただただ、大量の画像を入力して、自分で似た画像を分類させたわけです。
すると、結果として、ネコを認識できるようになったわけです。
これが、そのネコです。
実際は、ネコ以外にも人間や犬も認識できますが、YouTubeの投稿が一番多かったのがネコなので、ネコを一番高精度に認識できるようになったことのようです。
この時使ったニューラルネットワークは、9層もあったそうです。
これだけ深い層で学習するので、深層学習、ディープラーニングと呼ばれるわけです。
9層ともなると、とんでもない計算量になりますよね。
グーグルは1000台のコンピュータ繋いで、3日間走らせたそうです。
マシンの性能が上がってきて、ニューラルネットワークが実用的になってきたわけです。
コネクショニズムの逆襲の始まりです。
その後、ディープラーニングは、画像認識だけでなく、自動運転とか、商品のおすすめシステムとか、あらゆる分野で使われるようになりました。
AIは、実社会では役に立たないと、ずっと言われてきましたが、その雪辱を、ディープラーニンが果たしたのです。
長年、記号主義の陰に追いやられていたコネクショニズムが、ついに、表舞台に現れたのです。
と、ここまでが前半の話です。
コネクショニズムと記号主義の争い。
人工知能の歴史は、一件、そう見えるかもしれません。
ここまでの話は、AIの歴史を勉強したことのある人なら、既に知っていると思います。
でも、見方を変えると、全然違う風景が見えてきます。
コネクショニズと記号主義、時間軸に沿ってみるんじゃなくて、脳の中の処理に当てはめてみると、ガラッと見え方が変わってきます。
後半は、その話をしたいと思います。
それでは、次回も、お楽しみに!