第280回 AIの自我は、こうやって作る


ロボマインド・プロジェクト、第280弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

最近では、レストランで料理を運ぶロボットとか、実際に働いてます。

既に、ロボットが、僕らの生活に入り込んできています。
でも、なんか、物足りないです。
いや、言われたことは、ちゃんとしてくれますよ。
でも、それだけなんですよ。
仲間とか、友達って感じがしないんですよ。
人間らしさがないんですよね。

じゃぁ、人間らしさって、何でしょう。
たぶん、「僕は、これがしたい」とか、「僕はこういう人間だ」ってのを持ってるってことだと思うんですよ。
一言で言えば、自我です。
もちろん、そんなのを持って、好き勝手にされたら、仕事にならないですけど。
でも、僕らが欲しいのは、一緒に語り合える友達みたいなロボットじゃないですか。
だから、ロボットにも自我を持たすべきなんですよ。

って、簡単に自我とかっていいますけど、自我って、いったい、何なんでしょう。
この自我を理論的に説明できないと、とても、自我をもったAIロボットなんてできません。
これが、今回のテーマです。
AIの自我は、こうやって作る。
それでは、始めましょう!

動物が、自分とか、自己を認識してるかを調べるテストとしてミラーテストというのがあります。
やり方は、おでこに白いペンキを付けて、鏡を見せます。
そして、鏡を見て、自分のおでこのペンキを取ろうとしたら、その動物は、鏡に映ってるのは自分だと認識してるといえます。

ミラーテストに合格した動物は、チンパンジーとか、イルカとか、知能が高い動物です。
人間だと、1歳半~2歳になるとミラーテストに合格するそうです。
こんなことが、ウィキペディアには書いてあります。

僕が思うに、どんな動物がミラーテストに合格するかとかって、そんな浅いとこしか見てないと、肝心のことが分からないと思うんですよ。
肝心のことっていうのは、「自分を認識する」って、それって、一体どういうことかってことです。
ウィキペディアのミラーテストには書いてない、自分を認識するとは、どういうことか。
それについて考えていきます。

まず、鏡に何か映ってます。
それが自分かどうかは別として、何かがあるって思えるには、まず、世界を認識できないといけません。
世界を認識するとは、世界とはこういう物だって世界観を持ってるってことです。
三次元空間があって、その中に物体があるって認識してるってことです。

逆に、そうじゃない認識の仕方ってあるんでしょうか?
それは、世界に反応するタイプの認識です。
たとえば、カエルです。
カエルは、黒っぽいものが動いてたら、虫と認識して捕まえて食べます。
鳥の影を認識したら、池に逃げます。
世界があるとか、世界には虫がいるとか、そんな世界観を持ってるわけじゃありません。
ただ、視覚入力から特定のパターンを検出したら、それに応じた決まった動きをしてるだけです。
考えたり、行動を変更したりできません。

世界が存在するって認識するには、まず、この世は三次元世界だって理解できなければいけません。
どうやって理解するかって言うと、目で見た世界を頭の中で三次元の仮想世界として構築します。
意識は、この仮想世界を介して世界を認識します。
つまり、今、見てる世界を眺めるってことができるんです。
世界に「反応」するんじゃなくて、世界を「見る」んです。
これって、すごい進歩なんですよ。

何がすごいかって言うと、ただ見るだけってことができるんですよ。
どういうことかって言うと、ただ見るっていうのは、見て、何かって考えることができるってことなんですよ。
見て、反応するタイプは、考えることができないんですよ。

今、みなさんは、目を開けて、世界を見てますよね。
世界を、ただ見るってことは、考えることができるってことなんです。
そう考えると、「ただ見るだけ」って、すごいことでしょ。

でも、世界を見てるだけじゃ、まだダメなんですよ。
そこには、自分がいないんです。
世界の中に、自分を発見しないといけないんです。
世界をただ見るだけって、言ってみれば、テレビを見てるようなもんです。
その中に、自分を発見しないといけないんですよ。

たとえば、テレビを付けたとするでしょ。
そしたら、ボクシングの試合をやってたとします。

おぉ、赤コーナー、強そうやなぁ。
すごいパンチ出しよるなぁ。
青コーナー、大丈夫かな。
ほら、来た、ストレートや。

って思った瞬間、バーンって、ものすごい衝撃を感じました。
えっ、どういうこと?
えっ、もしかして、俺が青コーナー?
ウソ!
そんなん、聞いてへんよ!

これが、世界の中に自分がいるってことに気づくってことです。
鏡を見て、そこに映ってるのが自分って分かるのって、そういうことなんですよ。

目で世界を見て、その世界に自分がいるって、当たり前に思ってますよね。
でも、見て世界を認識することと、自分が行動することって、別の処理です。
本来、別の処理であることが、実は、つながってたってことです。
これに気づけるって、ものすごく難しいんですよ。
この難しさ、わかりますかねぇ。

まだ、わかりにくいですか?
そしたら、実例を挙げて説明します。
ある失語症患者のおばあさん、Aさんの例です。

失語症といっても、Aさんは、しゃべることはできます。
ただ、耳が少し遠いです。
そこで、「この部屋に、何人いますか?」って大きな声で聞きます。
でも、何も反応しないので、ちゃんと聞き取れてるか確認するために、復唱してもらいます。
そしたら、「この部屋に、何人いますか」ってちゃんと復唱できます。
でも、一向に、数えようとしません。
言葉の意味を理解してないのかと思って、そこで、一人ひとり指差しながら、「いーち、にーい、さーん・・・」って数えると、「7人じゃろ」って平然と答えたりします。
「えー、わかってたんですか?」って言っても、
「そんなの、見たらすぐわかるじゃろ」って平然と言うだけだそうです。
ちゃんと、意味は分かってたんです。

どうも、Aさんは、「何人いますか?」って自分に聞かれた質問だってことを理解してないようなんです。

これ、もう少し突っ込んで考えてみます。
Aさんは、たぶん、世界を外から眺めてるだけなんですよ。
世界の中に、自分が参加してるって判断する処理回路がうまく機能していないんですよ。
でも、言葉の意味は分かります。
だから、「この部屋に何人いますか?」って質問の意味も分かります。
数えることもできます。
ただ、自分が質問されてて、答えるってことが分かってないんですよ。

いってみれば、テレビを見ていて、テレビの中の人が話してるのを聞いてるようなものです。
テレビの司会者が、「この問題分かりますか?」って言ってるのを聞いて、「わかる、わかる」って思ってるって感じです。
まさか、自分に話しかけてるとは、夢にも思ってないわけです。
だって、まさか、自分もテレビの中の世界にいるとは思ってませんから。

世界の認識と、自分が世界の中に含まれるって二つの処理があるわけです。
そのうち、自分が世界に含まれるって処理が機能してないってことです。
これが、Aさんに起こってたことです。

今後は、逆の例を紹介しましょう。
例として挙げるのは、ヘレン・ケラーです。
この話は、第63回~67回のヘレン・ケラーシリーズで語ってますが、簡単に説明します。
ヘレン・ケラーと言えば、waterって言葉の意味を知った、有名なエピソードがありますよね。
じつは、本当に重要な出来事は、その10分後に起こったんです。

目も見えず、耳も聞こえず、両親から甘やかされて育てられてたヘレンは、好き勝手に生きていました。
その日、サリバン先生は、カップに入った水をヘレンに持たせて、容器がカップ、中に入ってるのが水だと教えようとしてました。
サリバン先生は、ヘレンの左手でカップを触らせて、右手の手のひらにcupと書きます。
次は、左手で、カップの中の水を触らせて、右手にwaterって書きます。
ただ、いくら教えても、ヘレンには、カップと、その中に入ってる水の区別を理解できません。
そうこうしてると、癇癪を起して、サリバン先生にもらった人形を床にたたきつけました。
人形が壊れる音を聞いて、ヘレンは、せいせいしたそうです。
その後、サリバン先生が散歩に行く準備をする様子を感じて、ヘレンははしゃぎます。
すぐに怒ったり、喜んだりと、感情のままに生きていました。

そして、その後の散歩で、井戸に行きました。
そこで、左手に流れる井戸の水を感じてるとき、サリバン先生は、ヘレンの右の手のひらに、素早く、waterと書きます。
そのとき、ヘレンはハッと気づきます。
もしかして、今、手のひらに書いてるwaterというのは、この、冷たい水の名前じゃないかって。
物に名前があるって、その時、初めて気づいたんです。
今まで、サリバン先生が手のひらに書いてたのは、物の名前だったんだって。

頭の中で、何かが動き始めました。
この世にある物、全てに名前があるってことを、急速に理解し始めたんです。
興奮して、大はしゃぎで家に帰りました。
部屋に入ると、足に何かが当たりました。
それは、今朝、ヘレンが壊した人形でした。
そうだ。
その人形を取り上げて、抱きしめると、なぜか、涙が出てきました。

その人形は、大好きなサリバン先生がプレゼントしてくれた人形です。
それが、今は壊れて、もう、元には戻らない。
壊したのは、他でもない、自分です。
何てことしてしまったの。
生まれて初めて後悔という感情を感じました。
ヘレンの涙は、後悔の涙だったんです。

このことを、もう少し丁寧に見て行きます。
今朝までのヘレンは、気に入らないことがあると、すぐに癇癪を起すし、楽しいことが起こると、すぐにはしゃぎます。
その時の感情のまま、行動していました。
「まるで動物のようだった」と、後に本人は語ってます。

これは、世界に対して、反応してるだけと言えます。
言語を獲得する前のヘレンは、世界を客観的に認識してなかったんです。
世界を客観的に認識するとは、世界の外に自分がいるわけです。
そうじゃないってことは、ヘレンは、世界の内側にいたわけです。
世界に反応してるとは、自分が世界の一部となって動いていたといえます。
それじゃぁ、自分を客観的に認識できませんよね。

言語を獲得した後のヘレンは、生まれて初めて後悔を感じました。
後悔とは、自分の行為を省みることです。
つまり、自分を客観的に認識したわけです。
言語を獲得することで、初めて、ヘレンは世界の外に出たんです。
世界の外に出て、今まで行ってきた行動、それは自分だと悟ったわけです。

その時、ヘレンの脳裏の浮かんだのは、今朝の光景だったんでしょう。
サリバン先生がプレゼントしてくれた大切な人形があります。
それを、床にたたきつけてる人がいます。
それは、他でもない、この自分です。

今まで自分が行ってた行動を、初めて、外から眺めたんです。
世界というものがあって、その世界の中で生きている自分。
それを生まれて初めて認識したんです。

これが、自我の発見です。
自分という存在に気付いた瞬間です。

世界というものがあって、自分は、その世界の中で生きてるんだ。
自分の行いは、その世界に影響を与えてるんだ。
自分の行動は、いろんな人に迷惑をかけていたんだ。
大事な人形を壊したり、大好きなサリバン先生を悲しませたり。
それをやったのは、すべて自分なんだ。

それは、ものすごいショックだったと思います。
世界の中に自分がいると気付くこと。
自我を確立するとは、こう言うことです。

これが自我の本質です。
鏡に映った自分に気付けるって、これだけのことを理解してるってことなんです。

そして、自我が確立できて、初めて、相手を思いやったり、自分の行動に責任を持てるようになるんです。
人間社会で共に生きていくには、自我が必要ってわかりますよね。
AIロボットが、本当の意味で仲間となるには、自我を持たす必要があるんです。

今回の動画で紹介した意識の仮想世界仮説に関しては、この本で紹介してますんで、良かったら読んでください。
今回の動画がおもしろかったらチャンネル登録、高評価お願いしますね。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!