第29回 コネクショニズムと記号主義の関係がわかれば、AIの全体像がスッキリわかる 後編 〜AI 60年の対立 コネクショニズム派vs. 記号主義 後編


人間の脳と同じ処理は、コネクショニズムと記号主義で完成するわけです。
これが人工知能の究極の形と言えます。
これこそが、汎用人工知能です。
これにて一件落着。
めでたしめでたし。

ロボマインド・プロジェクト、第29弾
こんにちは、ロボマインドの田方です。

さて、前回の続きです。
コネクショニズム派と記号主義の対立で見てみると、60年のAI史がスッキリわかるって話でした。
第一次AIブーム以降、常に、後塵を拝してきたコネクショニズム派が、ついに、第三次AIブームで勝利したってお話でした。

今回は、コネクショニズム派と記号主義、ちょっと見方を変えてみます。
どちらが優れてるとか、対立で考えるんじゃなくて、そもそも、目指してるものが違うんじゃなかって。
大きな処理の流れの中で、違う部署を担当してるんじゃないかって視点で見てみます。
大きな処理の流れって、何なのかと言うと、それは、人間の脳の処理のことです。

そもそも、人工知能の目的は、コンピュータに人間と同じ知能を持たせるというものです。
そう考えると、脳内の処理で対比させるのが、一番、筋が通っています。

まずは、コネクショニズム。
これは、ニューロンを真似したシステムです。
大量のデータを扱います。
画像データなら、何万といった画素のデータです。
脳で言えば、目から送られてくる、生のデータです。

一方、記号主義。
こちらは、言葉やシンボルなどの記号を扱います。
迷路やパズルを解けるのが記号主義です。
推論や探索です。
会話などの言語を操るのも記号主義です。

どうです?
脳を中心に整理できそうですよね。
コネクショニズムが行うのは、外界からのデータといった低次の処理。
記号主義が行うのは、推論や探索、言語といった高次の処理。
そういえそうですよね。

もう少し考えてみましょう。
機械学習が得意なのはデータの分類です。
大量の写真から、似た者同士をより分けて分類することができます。
分類したものを見てみると、犬とかネコとか、きれいに分かれています。
これに、「犬」、「ネコ」といったラベル付けをします。
これは、一種の記号化です。
コネクショニズムは記号化ができます。

次は、記号主義です。
前回、ハノイの塔のパズルの話をしました。

円盤を一つずつ移動させて、左の塔から右の塔に移動させるというパズルです。
円盤を記号と見立てます。
その記号を操作して目的を達成するためにどうすればいいのかを推論するわけです。
これが記号主義です。

だいぶ、見えてきましたね。
外界のデータを分類して記号化するのがコネクショニズム。
記号を操作して推論するのが記号主義。
コネクショニズムと記号主義が見事に繋がりましたね。

人工知能の歴史の中で、60年の長きにわたって対立していたコネクショニズムと記号主義。
どちらが優れているのかと対立して考えるのでなく、
脳の処理の流れでみれば、お互い、役割が異なるわけです。
お互い協力し合って、知能を作り上げるという全体像が見えてきました。

人間の脳と同じ処理は、コネクショニズムと記号主義で完成するわけです。
これが人工知能の究極の形と言えます。
これこそが、汎用人工知能です。
これにて一件落着。
めでたしめでたし。

と言いたいところですが、そう簡単には行きません。
汎用人工知能を作るには、足りないものがあります。
それは、コネクショニズムと記号主義の間を橋渡しする物です。
それは、なんでしょう?

それが、何かというと、記号が動く世界です。
記号が、どのように動くか、どうやって操作されるかの仕組みです。

ハノイの塔のパズルで考えてみましょう。
ハノイの塔は、3本の棒と、穴の開いた複数の円盤から成ります。

円盤を記号として、それを操作するわけです。
操作というのは、棒から円盤を抜き出して、隣の棒に入れることです。
そうして、最終的に、右の棒に円盤で塔を作るわけです。
これが目的です。

ここで、世界というのは、3本の棒と円盤のことです。
世界には、操作が用意されていて、ここでは、円盤を棒から抜いたり、隣の棒に入れることです。
また、小さい円盤の上に大きい円盤を置いてはいけないってルールもあります。
これらが世界です。

めざすべき人工知能には、この世界が必要なんです。
今、説明したのは、ハノイの塔の世界です。
この世界は、ハノイの塔を解くことにしか使えません。
人間の心とは、程遠いです。

僕らが欲しいのは、人間のように、何でもできる汎用人工知能です。
そのためには、人間の頭の中で考えることを表現できる世界が必要です。
それができれば、それこそ、本当の汎用人工知能となります。
人と、普通に会話できるAIとなります。

そのために必要なのは、言葉という記号が動く世界です。
言葉が操作される世界を創らないといけないのです。

その世界として、僕が提案してるのが、「意識の仮想世界仮説」です。
「意識の仮想世界仮説」に関しては、第21回をご覧ください。

たとえば3次元世界は、世界の一つです。
3次元世界の操作は、物の移動だったりするわけです。
それ以外の世界として、たとえば、所有権世界というのがあります。
所有権世界については、第25回「言語を再定義」で説明しましたが、
簡単に説明すると、所有権という概念を定義して、あげるとか、もらうとか、貸すとか、盗むといった言葉の意味を定義していきます。

所有権といった概念は、目に見えないですが、所有権世界というものを作ることで、操作できるようになるわけです。

これが世界です。
人間が頭の中で、ああでもない、こうでもないと考えるのと同じ仕組みです。
記号を操作できる仕組み、それが世界です。

そして、人間のような汎用人工知能を作るのに、もう一つ必要なものがあります。
それは目的です。

目的というのは、お腹がすいたから何か食べたいっていう本能とか、お金を稼ぎたとか、地位名声を手に入れて、人から尊敬されたいとかです。
このことを、僕は心理パターンと呼んでいるわけです。
心理パターンについては、第13回「好かれるAI、嫌われるAI」を参考にしてください。

たとえば、幸せになりたいという目的があったとします。

ある人は、いい大学を出て、いい会社に就職するのが幸せだと思います。
またある人は、友達がたくさんいるのが幸せだと思います。
またある人は、世界中を旅行できるのが幸せだと思います。

だんだん、人間らしくなってきましたねぇ。

それぞれの目的に応じて、どうすれば幸せになれるかと、推論するわけです。
いい大学に入るためには、勉強しないといけないとか、勉強するために塾に通った方がいいとか。

これは、教育という世界にある、勉強とか塾といった記号を操作してるわけです。
目的達成のために記号を操作して推論してるわけです。

ハノイの塔より、よっぽど複雑ですが、大枠は同じです。
パズルを解くAIも、人間の心も同じなんです。
これだけそろって、汎用人工知能となるのです。

記号主義とコネクショニズム。
こうして見てみれば、それぞれの役割がはっきりわかってきましたよね。
どんな使い方が間違ってるかもわかりますよね。

たとえば、自然言語処理に機械学習を適用するのは意味がありません。
自然言語とは、ああして、こうして、こうなったといった文章です。
それは、一言で言えば、記号の操作内容を記述したものです。

一方、機械学習でできるのは、分類です。
整理されてない大量の生データを分類して記号化するまでが機械学習の役目です。

記号を操作する内容を書いた文章を大量に集めて分類したところで、何の意味もないですよね。
コネクショニズムと記号主義の役割の違いを理解してないと、こんな間違いを犯してしまうのです。

外界の生データを分類して記号化するのがコネクショニズム。
記号が動く仕組みが世界。
ゴールに向けて、記号を操作するところが記号主義。
これは、ハノイの塔から人間の心まで適用できます。
これが、汎用人工知能なのです。

AI史の中で、分断されていたコネクショニズム派と記号主義。
その関係がわかれば、次は何を目指すべきかはっきりわかってきます。

この動画で、AIが、すっきりと見通せるようになればと思っています。

それでは、次回もお楽しみに!