ロボマインド・プロジェクト、第290弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。
スポーツとかで、ゾーンとかフローって言葉、聞いたことありますか?
完全に集中してて、最高のパフォーマンスを発揮できる状態のことです。
フィギュアスケートでノーミスで演技できたり、水泳選手や陸上選手が世界記録を出したとき、ゾーンに入ってたと言います。
感覚が研ぎ澄まされて、時間が止まったように感じたとか、相手の呼吸まで聞こえたとかって言われます。
ただし、そう滅多に起ることでもありません。
ところが、それを、いつでも発揮できる人がいるんですよ。
その人は、ある障害を持っています。
その障害は、トゥレット症候群と言います。
トゥレット症候群は、突然、体をよじったり、顔をしかめたりといった、チックと言われる動作が特徴です。
それから、突然、意味のない行動をしたり、中には、意味のない言葉や、汚い言葉を吐いたりする人もいます。
こういった行動をせずにおれないという強迫観念が強くて、無意識のうちにしてしまうそうです。
こんな症状があるので、仕事も限られてると思われがちですけど、俳優や、芸能人、スポーツ選手、音楽家、数学者とか、意外と多くの人が専門職に付いています。
じつは、トゥレット症候群は、天才肌の人が多いんです。
有名人だと、ビートたけしや、歌手のビリー・アイリッシュなどがいます。
たしかに、たけしさんは、お笑いから映画監督までマルチな才能を発揮してますよね。
今回紹介するカール・ベネット博士は、外科医です。
ネタ本は、この本、オリヴァー・サックスの『火星の人類学者』です。
ベネット博士は、かなり重度のトゥレット症候群で、普段から、突然おかしな動きをします。
じっとしていることができません。
そんなので、医者なんか務まるのかって思いますよね。
まして、外科手術なんか、とてもできそうにないですよね。
ところが、ちゃんとできるんですよ。
実際に手術を見学したサックス教授も驚いたそうです。
手術が始まると、ぴたりと症状が治まります。
手術は、血管を縛って神経を探したり、傷口を縫ったりとかなり繊細な作業が必要です。
2時間以上の手術中、一切、症状がでません。
かといって、集中して何も耳にはいらないとか、そういったわけでもありません。
リラックスしてて、看護師さんと普通に会話もします。
ただし、手元は一切の狂いなく、正確に動きます。
それは、見事な手術だったそうです。
まさに、ゾーンに入ってる状態です。
それも、自分でコントロールして、いつでもゾーンに入れるようなんです。
ここに、ゾーンの秘密があるんです。
秘密は、トゥレット症候群にありました。
これが、今回のテーマです。
究極の集中状態「ゾーン」に入るには。
それでは、始めましょう!
最近の精神疾患に対して、サックス教授は、脳に偏り過ぎてると批判しています。
脳のどこどこが損傷してるとか、機能してないってことで分類して、患者が、どんな風に感じてるかってとこは無視されてるっていいます。
つまり、心が置いてきぼりになってるってことです。
これは、僕も同感です。
僕は、コンピュータで心をつくろうとしてます。
僕の根本の考えは、脳がコンピュータというハードウェアなら、心は、コンピュータの上で動くソフトウェアです。
今のAIは、ニューラルネットワークとか、ハードウェアとしての脳を真似ようとしてばかりで、脳の上で動くソフトウェアとしての心をつくろうって観点が抜けています。
それじゃぁ、AIから心は生まれないって思ってます。
まぁ、僕の意見は置いといて、サックス教授は、精神疾患を、心からみた分類を提案しています。
それがどういう物かと言うと、たとえば喪失と過剰です。
喪失というのは、何かが失われた感覚です。
たとえば、第261回「左側に世界が存在しないってどういうこと!」は半側空間無視の患者の話です。
左側にあるものが目に入ってても、存在すると気付かないって症状です。
ご飯を食べるとき、テーブルの左側にあるおかずに気付かないとかです。
これなどは、喪失です。
それから、第285回では、忘れることができない記憶術師の話をしました。
これは、喪失の反対の過剰です。
多すぎて困るってことです。
これが、心の側からみた病気の分類ってことです。
さて、今回のトゥレット症候群、これは過剰に分類されます。
何が過剰かというと、それは、言ってみればエネルギーです。
トゥレット症候群の人は、とにかく、エネルギーが溢れて、それを持て余してるって感じです。
突然動いたりするのも、溢れるエネルギーと考えたら、理解できます。
溢れでるエネルギーは、行動だけじゃありません。
ベネット博士は、ある日突然、数字に憑りつかれるそうです。
今は何でも3か5でないと気が済まないそうですけど、数か月前は、4と7だったそうです。
ある朝目覚めたら、4と7が消えて、3と5になってたそうです。
これも、内からあふれるエネルギーが数字になって現れてきたのかもしれません。
内から溢れるエネルギーは探求心にも向けられます。
ベネット博士は、外科医でありながら、地質学の研究もしています。
それから、飛行機の操縦もします。
エネルギーが、いろんな才能に向けられるわけです。
これが、トゥレット症候群なんです。
ここで、もう一人のトゥレット、24歳のレイを紹介します。
レイは、数秒感覚でチックの症状が出るぐらい重度のトゥレットでした。
激しくて、短気ですぐに興奮する性格だったそうです。
まさに、エネルギーが溢れてるって感じです。
頭もよくて、大学も卒業していました。
彼は、音楽の才能もあって、素晴らしいジャズドラマーだったそうです。
突然、荒々しい即興演奏するので有名でした。
チックゆえにドラムを衝動的にたたいて、それが素晴らしい即興演奏となるそうです。
それから卓球も得意だそうです。
反応と反射が異常に速いからです。
ショットがあまりにも早くて、相手は打ち返せないそうです。
さて、このトゥレット症候群、おおよその原因も分っていて、治療薬もあります。
原因は、神経伝達物質、ドーパミンです。
ドーパミンは、やる気とか快楽に関係する神経伝達物質と言われますけど、運動制御にも関係しています。
たとえば、ドーパミンが不足すると、体が固まったように動かなくなったり、震えが止まらなくなったりします。
また、歩こうと思ても、どういう順番に筋肉を動かしていいのか分からなくなって上手く歩けなくなります。
これがパーキンソン病です。
そして、逆に、ドーパミンが過剰に分泌されるのがトゥレット症候群です。
つまり、パーキンソン病の反対で、体を、動かさずにおれないって感じです。
普通なら、感じないか、理性で抑えれるのが、それを抑えきれずに、つい表に出てしまうんでしょう。
そして、ドーパミンを抑える薬もあります。
それが、ハルドールです。
サックス教授は、試しにレイにハルドールを注射してみました。
そしたら、2時間、チックがおこりませんでした。
そこで、ハルドールを継続的に投与することにしました。
そしたら、確かにチックは収まりましたが、動きが鈍くなったそうです。
レイは、回転ドアをギリギリですり抜けるのが好きで、いつもやってたのが、ハルドールのせいで、上手くすり抜けられなくて、鼻をぶつけてしまったそうです。
レイが言うには、トゥレットは、病気というより、自分の一部だそうです。
ハルドールで、チックは収まりましたけど、激しいドラム演奏や、素早い動きはできなくなりました。
闘争心や野生的な感覚が消えたそうです。
それは、もう自分じゃないといいます。
生きてる感じがしないそうです。
そりゃ、やる気や快楽に関係するドーパミンを抑制させたので、生きてる感じがしなくなるのもわかります。
でも、どちらかと言うと、それが普通の人の感覚なんですよね。
レイは、長年、トゥレットとして生きてきたので、普通の人の感覚を知らないんです。
サックス博士は、3ヶ月かけて、普通の人の感覚とはどういうものか、このままトゥレットとして生きていけば、どんな問題が起こるか、仕事はできるかといったことを二人で話し合ったそうです。
そうして、ようやく、レイはハルドールを受け入れる準備ができました。
ただし、ハルドールを使うのは、仕事のある平日だけです。
週末はハルドールなしで、音楽やスポーツを楽しむことにしたそうです。
さて、外科医のベネット博士もハルドールを使っていません。
やはり、自分らしく生きれないからです。
そのため、普段から、突然、おかしな動きをしたりするそうですが、それは周りの人が慣れて気にしなくなってるそうです。
そんなことより、周囲の人は、ベネット博士の腕に絶対の信頼を置いてるそうです。
そこで、冒頭の手術です。
数時間の手術でも、トゥレットの症状を抑えて、見事にやり遂げます。
手元が震えることもなく、複雑な手術をスムーズにこなします。
博士は言います。
「手術中は、自分がトゥレットだなんて意識すらしない」と。
ただ、全く症状が出ないというわけではなくて、手術の流れが中断されると、トゥレットの症状が出るそうです。
たとえば、「救急患者が3人います」とか、「○○さんが、予約を変更して欲しいそうです」とかって言われたりすると、スムーズでリズミカルな動きが中断されて、トゥレットの症状が出るそうです。
そこで、ベネット博士の手術中は、じゃまをしてはいけないってルールが決まったそうです。
ここにヒントがあります。
ゾーンに入るヒントです。
溢れ出るエネルギーを、集中することで、今やってる作業に注ぎ込むことができるんやと思います。
その時、重要なのが、エネルギーの流れを止めずに、流し続けることです。
普段は、意味のない動きに使われてたエネルギーが、全て、今、集中してる作業に使いきることができるんでしょう。
これが、ゾーンだと思います。
レイが、驚異的なドラムの即興演奏をできたのも、エネルギーをドラム演奏に流し込んだからでしょう。
そして、ゾーンで一番重要なのは、流れを止めないことです。
一旦、流れ出した作業が、中断されると、エネルギーが行き場を失って、トゥレットの症状が出てしまいます。
だから、手術のじゃまをしたらダメなんです。
これは、レイが水泳してるときも同じことが起こってたそうです。
レイは、クロールが得意で、プールできれいに泳ぐそうです。
泳いでるときは、チックの症状も出ません。
エネルギーを上手くクロールの動きに流し続けることができたんだと思います。
でも、それはターンするまでです。
ターンで、今までのリズムが崩れたとたん、急にチックの症状が出るそうです。
今までの流れが阻害されたからでしょう。
さて、僕らは、トゥレットのような溢れるエネルギーは持ってないです。
だからといって、ゾーンに入れないわけじゃないと思います。
リズミカルな動きを使えば、少ないエネルギーを今、集中してる作業に流し込むことはできそうです。
さらに、それによってエネルギーが増幅するんじゃないかと思うんですよ。
これは、勝手な想像で言ってるわけじゃないです。
これが、トゥレットの逆のパーキンソン病でも起こることは分かってるんですよ。
パーキンソン病のぎくしゃくした動きも、音楽に合わせて動くことで、リズミカルで滑らかな動きとなるようです。
たぶん、リズミカルに動くことで、エネルギーが流れるんだと思います。
最後に、僕の経験も話しておきます。
僕は、YouTubeの原稿を練り上げるとき、とにかく家の中を歩くんです。
リズミカルに歩いてると、どんどん、アイデアが湧いて来るんです。
だから、いかにその流れを阻害しないかが重要なんです。
廊下の行き止まりでUターンするとかってなったら最悪です。
湧いてきた来たアイデアが、そこで消えてしまうんですよ。
だから、そうならないように、緩やかにカーブを描いて歩き続けれるように、部屋にはほとんど何も置かないようにしてます。
そうやって、ぐるぐる歩き続けてると、どんどん意識がクリアになって、アイデアがどんどん湧いてきます。
そのアイデアが、次々に結びついて、頭がフル回転していくのが分かります。
歩く速度も、どんどん速足になっていきます。
僕の場合、頭がぐるぐる回って、何が何だか分からなくなるとソファに座って、ちょっと一息休つきます。
すると、たいてい、そのまま10分ほど眠ってしまいます。
レイは、卓球とか水泳とか、思いっきりスポーツした後は、しばらくチックが収まるそうです。
エネルギーを使い尽くしたんでしょう。
この気持ちは、よく分かります。
ゾーンに入るヒントは、リズミカルな動きの継続にあるようです。
皆さんも、よかったら試してみてください。
はい、今回の動画が面白かったら、チャンネル登録、高評価お願いしますね。
それから、よかったらこちらの本も読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!