ロボマインド・プロジェクト、第291弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。
今まで、この世界は、本当は存在しないって話を何度もしてきました。
それなのに、未だに、存在すると思ってる人がいるんですよ。
これだけ説明しても分らないんなら、今回は、もっと根本的な所から説明します。
まず、世界が存在すると思ってる人に聞きます。
どこで、世界を感じてるんるんでしょう?
それは、見たり、触ったりする自分の体ですよね。
つまり、体があるって思ってるんですよね。
まず、そこが間違ってるんですよ。
今回の話のネタ本は、この本、『脳の中の幽霊』
著者は、v.s.ラマチャンドラン。
僕が人生で最も影響を受けた本として、今まで、何度も紹介して来ました。
『脳の中の幽霊』といえば、幻肢の話が一番有名です。
でも、幻肢の話は、まだ、語ってなかったったんですよね。
幻肢というのは、幻の手や足って意味です。
事故などで手を切断した人が、いつまでも手があるって感じる現象のことです。
厄介なのは、その手が痛むことがあるんです。
これ、今まで、どうやって治療していいか誰も分らなかったんですよ。
それを治したのがラマチャンドラン博士です。
それも、注射も手術もせずに。
使ったのは、鏡一枚だけです。
この話を聞くと、一体、体って何?って思います。
体って、本当にあるの?って。
これが今回のテーマです。
あなたは、まだ、自分の体が存在すると思ってるの?
それでは、始めましょう!
トム・セレンソンは、17歳の時、交通事故で左腕を失いました。
トムは、左ひじから下に腕がないことが分かってるのに、ずっと、腕があるように感じていました。
それも、単に、だらりと垂れ下がるだけの腕じゃありません。
存在することを、ありありと感じるんです。
指を一本ずつ動かすこともできましたし、手を伸ばして、物をつかむこともできたそうです。
これが幻肢です。
それじゃぁ、どうやって、幻肢は生まれたんでしょう?
最もよく言われるのが、切断された腕の断面の神経が刺激されて、腕があるように感じるって説です。
ただ、この説は、簡単に覆されます。
ミラベルは、生まれつき両腕がありません。
それなのに、ずっと幻肢を感じてるそうです。
ただ、感じるってだけじゃなくて、手振りもするそうです。
たとえば、大きさを表現するとき、「このぐらい」って、無い腕を、つい、広げて説明してしまうそうです。
ミラベルは、生まれつき腕がないので、切断された神経の刺激で幻肢が生まれるって説は成り立ちませんよね。
別の説としては、フロイト心理学の説もあります。
それは、腕が欲しいという願望がつくり出した幻想って説です。
これも、ミラベルによって覆されます。
ミラベルは、義手を使ってるんですけど、幻肢の腕の長さが、普通より、15センチぐらい短いらしいんですよ。
だから、普通の義手を嵌めると、幻肢の手が、義手の手に届かなくて気持ちが悪いらしいです。
だから、いっつも、義手をもっと短くしてほしいっていうんですけど、それだとおかしいって言われて、ちょと短いぐらいで我慢してるそうです。
もし、腕が欲しいって願望が幻肢を生み出すのなら、普通の人と同じ長さの幻肢となりますよね。
そうならないってことは、心理的願望が幻肢を生み出してないってことです。
さて、ミラベルは、生まれてこの方、一度も腕を持ったことがありません。
そんな人が、腕を持ってるって感じるんですよ。
これって、何を意味するか分かりますか?
それは、腕とか体って、ここにあるわけじゃないってことです。
本当の体があるのは、ここです。
頭の中なんです。
まず、このことを覚えておいてください。
もう少し、幻肢の話を続けます。
ジョン・マグラスは、アマチュアのスポーツ選手で、3年前に、左腕の肘のすぐ下を、切断手術で失いました。
ジョンの幻肢は、縮小型の幻肢といって、普段は、断面に手が直接付いてるように感じられるそうです。
それが、たとえばテーブルの上のティーカップをつかもうとすると、元の腕の長さまでにゅ~っと伸びてつかむそうです。
ラマチャンドラン博士は、ここで、ちょっと面白い実験を思いつきました。
ジョンがカップをつかもうとしたとき、カップを引き寄せたらどうなるのか?って。
ワンピースのルフィみたいに、腕がもっと伸びるのか?って。
それを確かめるため、ジョンが「カップをつかんだ」といった瞬間、カップをぐっと引き寄せました。
そしたら、「うわ、痛い!指がちぎれるかと思いましたよ」と言ったそうです。
幻肢って、痛みも感じるんです。
さて、ここらで、幻肢が起こる仕組みについて解明していこうと思います。
体の運動制御をしてるのは小脳です。
第289回で、体の制御はフィードバック制御だって話をしました。
フィードバック制御っていうのは、ロボットなどのサーボモーター制御で使われます。
サーボモーターは、コントローラーからの回転指示を受けて回転し始めます。
モーターの回転角度はエンコーダーで検出してコントローラーに戻されます。
この信号のことをフィードバック信号っていいます。
コントローラーは、回転角度が指定した角度になるまでサーボモーターに回転指示を出します。
このようにして、指定した角度に正確に回転できる仕組みがフィードバック制御です。
これが人間の腕の場合だと、コントローラーが小脳、サーボモーターが腕の筋肉となります。
そして、腕の関節には、腕がどれだけ曲がったかを検出して小脳にフィードバックする仕組みもあります。
さて、たとえば事故などで、筋肉への指示を送る神経回路が破損すると、腕が動かなくなります。
これが麻痺です。
ただ、これだけだと、幻肢がなぜ起こるの説明できません。
だって、幻肢の場合、腕そのものがないんで、回転指示もフィードバックもありませんから。
それじゃぁ、幻肢を感じるのは、何でしょう?
それは、意識です。
それじゃぁ、意識から出発して、腕が動くまでの流れを考えてみます。
思考や判断などを行う意識は、前頭葉にあります。
前頭葉と頭頂葉の間には、大きな溝、中心溝が左右に走っています。
この中心溝の前を運動野、後ろを体性感覚野といいます。
ここには、人間の体がマッピングされてるんです。
そして、運動野は体の筋肉、体性感覚野は体の皮膚感覚につながってます。
たとえば、運動野の腕の部分を刺激すると、腕がピクンと動きます。
体性感覚野の腕の部分を刺激すると、腕を触られた感じがします。
じつは、意識が直接認識してる体って言うのは、これなんです。
この体のことをボディイメージって言います。
意識で腕を上げようって思ったら、その指示は小脳に伝えられるとともに、頭頂葉のボディイメージにも送られます。
そして、小脳が実際の腕を上げるとともに、ボディイメージの腕も上がるわけです。
ある日、事故で腕が切断されました。
腕を動かそうと小脳に指示を送っても、腕そのものがないので動かしようがありません。
でも、ボディイメージは残っているんで、ボディイメージの腕は動かせるんです。
どうやら、これが、幻肢が起こる原因のようです。
さて、次に分からないのは、幻肢の腕を動かせる人と、動かせない人がいることです。
ラマチャンドラン博士は、幻肢を動かせる人と動かせない人のカルテを比べて、ある違いに気づきました。
それは、腕を切断するまでの経緯です。
幻肢を動かせる人は、事故とかで、突然、腕が切断された人でした。
幻肢を動かせない人は、腕が麻痺するなどして、三角巾や装具で長い間固定してた人でした。
そして、腕が二度と回復しないとわかると、切断して、義手に変えるそうです。
こんな人の幻肢は、動かせないそうです。
そして、幻肢の腕が動かない人の中には、動かない腕が痛むことがよくあるそうです。
フィリップ・マルティネスは、バイクの事故で腕の神経が脊髄から引きちぎられました。
左腕が完全に麻痺してしまったんです。
1年間、三角巾でつるしていましたけど、回復する見込みがないので、10年前に腕を切断することにしました。
その日から、幻肢が現れたそうです。
幻肢の腕は、三角巾でつるされた位置に固定されたまま、今まで、一度も動いたことがなかったそうです。
さらに厄介なのは、肘や手首の幻の痛みに悩まされてるそうです。
こっからが本題です。
ラマチャンドラン博士は、どうやって幻の痛みを治療したかです。
博士は、まず、動かなくなった腕をどうやったら動かせるかを考えました。
ここで、さっきの第289回の話です。
クリスティーナは、関節からのフィードバック信号が消える障害となっていました。
そうなると、どうなると思います?
脳からの指示や、筋肉は正常でも、一切、腕を動かせなくなったんです。
なぜでしょう?
コントローラーはフィードバック信号を受け取ることで、サーボモーターへの指示を増やすか減らすかを調整するわけです。
だから、フィードバックが全く無くなると、サーボモーターへ、どんな指示をしていいのか分からないので、指示を出せなくなります。
だから、腕が全く動かなくなったんです。
逆に言えば、何らかのフィードバックが得られれば、腕も動くはずです。
クリスティーナの場合、目で腕を見続けることで、腕を動かせるようになりました。
これは、関節からのフィードバックの代わりに、視覚からのフィードバックを受けたからです。
これは、小脳の話です。
幻肢の場合は、頭頂葉のボディイメージです。
ボディイメージも、おそらく視覚からフィードバックを受けてると思われます。
長い間、麻痺した腕が三角巾で固定されると、それを見ることで、ボディイメージの腕も固定されたイメージを学習して、幻肢が動かなくなったんでしょう。
もしそうなら、失った腕が動いてるとこを見れば、幻肢の腕も動くんじゃないか。
ラマチャンドラン博士は、そう考えました。
ただ、失った腕を動かすにはどうすればいいんでしょう?
こっからが、ラマチャンドラン博士の本領発揮です。
博士は、いつも、突拍子もないアイデアを思いつくんですよ。
博士が用意したのは、箱と鏡です。
箱の手前は開いていて、真ん中に鏡が入っています。
そして、手前から正常な右腕を差し込んで、上から右手と鏡を覗き込みます。
すると、鏡に映った右腕が、左腕のように感じられます。
まるで、失った左腕が、実際に存在するように見えるんです。
博士は、「右腕を上下に動かしてみてください」って言いました。
そしたら、フィリップは驚いたように言いました。
「なんてことだ。左腕が生き返りました。
左腕を動かせます。肘も手首も動かせます」
10年間、一度も動いたことがなかった幻肢の腕が、これだけのことで、自由に動かせるようになったんです。
「それじゃぁ、今度は、目を閉じてください」って言いました。
そしたら「あれ、また固まってしまった。右腕を動かしてるのは感じますけど、左腕はピクリとも動きません」といいます。
「じゃぁ、目を開けてください」
「あっ、また動き始めました」
幻肢の腕を動かす実験は、成功しました。
ただ、それは鏡の箱を使ったときだけです。
これでは、まだ、完全に成功したとは言えません。
そこで、博士は、フィリップに箱を家に持って帰ってもらって、家でも、使ってもらうことにしました。
そしたら三週間後、突然、フィリップから電話がありました。
「先生、大変です。なくなったんです」
「えっ、何がなくなったんですか?」
「左腕です。幻肢の左腕が無くなったんです」
よく聞くと、完全に無くなったんじゃなくて、肩のあたりから指が出てる状態だそうです。
左腕のほとんどが消えたわけです。
そのおかげで、肘や手首の痛みも消えたそうです。
どうやら、ボディイメージが書き換わったようです。
視覚のフィードバックで、ボディイメージが動きましたけど、筋肉や関節からは、左腕は存在しないってフィードバックを受けて、脳が混乱したんでしょう。
それで、ボディイメージの左腕を削除したんでしょう。
ただ、頭頂葉にあるボディイメージは、こんな風に手がやたらと大きいので、完全に削除しきれなくて、指先が残ってしまったんでしょう。
とにかく、こうして、無事、幻肢の痛みを取り除くことができました。
さて、意識が直接認識してるのは、実際の体じゃなくて、頭頂葉にあるボディイメージです。
そして、実際の腕が無くなっても、ボディイメージは残ったり、動いたり、痛んだりします。
さらに、今まで動かなかったのが突然動き出したり、消えたりします。
自分の体って、疑ったことないと思いますけど、こんなに簡単に変化するんですよ。
なぜかというと、意識が感じてる体は、ボディイメージだからです。
つまり、データです。
さて、みなさんが感じてる、その体、本当に存在するんでしょうかねぇ。
もしかして、どこか外の世界から頭頂葉に送られてきたボディイメージのただのデータかもしれませんよ。
はい、今回の動画が面白かったら、チャンネル登録、高評価お願いしますね。
それから、今回話したような意識の仕組みに興味がある方は、こちらの本も読んでみてください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!