第293回 心なんて存在しない これが科学の答えだ!


ロボマインド・プロジェクト、第293弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

今回は、珍しく新刊の紹介です。
『心はこうして創られる』
著者は、イギリスの認知科学者、ニック・チェイターです。
ぜひ、この本を取り上げて欲しいってリクエストをもらいました。

内容は、結構、衝撃的です。
ニック・チェイターは、深みのある心なんて幻想だって言います。
認知科学者というだけあって、いろんな実験とか錯視を例に挙げて、僕らが感じてる心は幻想だって解説します。

これ、普段、僕が言ってることと真逆です。
しかもですよ。
心が存在しない根拠となってる実験って、僕が、良く取り上げてるものと同じなんです。
つまりね、同じ実験で、同じ結果を見てるのに、全く逆の結論となっているんですよ。
これが、今回のテーマです。
心なんて存在しない。
これが科学の答えだ!
それでは、始めましょう!

まずは、視覚情報です。
じつは、一度に目が捉えれる範囲って、角度にして1度、腕を伸ばしたときの親指の爪ぐらいの範囲なんです。
それも、パッ、パッ、パッって動いてるんですよ。

この図でいうと、右の白丸が、眼球が見てる範囲です。
だから、網膜からの映像は、左の動画みたいになるんですよ。

でも、僕らは、そんな風に感じてないですよね。
視界の全体に連続的に広がってるって感じますよね。
このことを、著者は、「大いなる錯覚」とか「幻想」って言います。

眼球の動きを検出するアイトラッカーって装置があります。
アイトラッカーを使えば、眼球の動きが非連続だってことはすぐに分かります。

次は、心の重要な役目、思考について考えてみます。
ニック・チェイターは、意識が認識できるのは、知覚できることだけだっていいます。
人は、頭の中で、いろいろ考えますよね。
「今晩、何食べよかなぁ」とか。
「あの時、ああ言えばよかったなぁ」とか。
考えるとき、頭の中で言葉で考えますよね。
つまり、心が直接認識してるのは、頭の中の言葉だけなんです。
知識とか信念を心が直接認識してるわけじゃないんですよ。

たとえば、「日本の首都は東京だ」って思ったとします。
日本の首都は東京っていうのは事実です。
そう思ってる信念があるわけです。
でも、心は、事実や信念に直接アクセスしてるわけじゃないんです。
心が感じたのは、「日本の首都は東京だ」って頭の中の声です。
頭の中の声を指して、知識だとか、信念だとか言ってるだけなんです。
心っていうのは、深い知識や信念に支えられてるようなものじゃなくて、薄っぺらいものだ。
これが、ニック・チェイターの主張です。

最後に、錯視の例を挙げましょう。

ウニみたいなのが見えますよね。
白いボールに、黒いとげとげがいっぱい出てる図形です。
それじゃぁ、これはどうでしょう?

さっきの黒いトゲトゲの配置を変えただけです。
白いボールが消えてしまいましたよね。
というか、元々、白いボールなんかありませんでした。

ねぇ、ボールの輪郭の線なんかありませんよ。
ただ、黒いとげとげを配置しただけです。

何が言いたいかと言うと、心は、ただ、勝手に白いボールがあるって感じるだけなんです。
心が認識できるのは、直接知覚したことだけです。

じゃぁ、白いボールはどうやって作られたんでしょう?
黒のトゲトゲの配置から、それにぴったり合う三次元形状を推測する計算を、脳内でしてるはずです。
ただ、その計算過程は意識されません。
計算を行ってるのは脳内のニューラルネットワークです。
心がしてるのは、その計算結果を受け取るだけです。

心のシステムというのは、単純な処理のサイクルの連続です。
視覚情報の場合だと、眼球は動いて止まってを繰り返しています。
止まった時の視覚情報を心は認識します。
動いてるときは認識しません。
これが1サイクルです。
このサイクルを回して、心は目の前に広がる世界を感じるわけです。
眼球の動きは非連続でも、連続した世界を感じるわけです。

信念や知識があるように思うのは、過去の経験や知識を引き出して、言葉に変換する処理が裏で動いてるからです。
「東京は日本の首都だ」と思うのは、その処理が知識にアクセスして、「東京は日本の首都だ」って言葉に変換してるわけです。
意識が感じるのは、頭の中で生まれた、その言葉です。
知識から言葉に変換する処理と、その言葉を受け取る処理のサイクルが回ったわけです。
心は、知識を探りだしたと感じてますけど、ただ単に、処理結果の言葉を聞いただけです。
深くて奥行きのある心ってのは、じつは幻想なんです。

同じような話は、前にも聞いたことあります。
第267回で紹介した慶応大学の前野隆司教授の受動意識仮説です。
前野教授は、意識は幻想だって言ってました。
今回の、ニック・チェイターの主張とよく似ています。
これは、偶然ではありません。
心や意識は幻想だってのは、科学から導き出される必然なんです。

さて、皆さん、どう思います?
なんか、しっくりこないなぁと思った人いませんか?

もし、そう思ったら、注意した方がいいですよ。
だって、科学的思考が出来てないわけですから。

まぁ、僕も、その一人ですけど。
さて、それじゃぁ、こっから反撃していきましょうかね。

まず、皆さんは、どこがおかしいと思いましたか?
「心は処理した結果を受け取るだけ」
ここはどうです?
ここは、僕も、ほぼ同意するんですよ。
この部分のことを、僕は、意識と呼んでます。
システム全体を「心」として、意識は、その一部の機能としています。

それじゃぁ、ニック・チェイターがいう、心の裏で動いてる処理はどうでしょう?
たとえば、この図です。

ここには、白いボールは、明示的には描かれていません。
でも、僕らの心は白いボールを感じますよね。
これは、裏で、三次元形状に当てはめる複雑な計算が実行されてるわけです。
それは、脳内のニューラルネットワークで行われてます。

そこまでは分かります。
ただ、ニック・チェイターは、これを、なぜか心に含めていないんですよ。
「えっ、何で?」って思いませんか?

この処理は無意識で行われてて、心は、その結果を受け取って感じてるだけだって。
心は複雑な処理はしてないって。
だから、心は薄っぺらだっていいます。

えーっと、なんか、ここ、おかしないですか?
つまり、薄っぺらな処理をするところだけ抜け出して、そこが心って定義してるだけじゃないの?
その裏の処理も含めたら、心は複雑な処理してるっていえるんじゃないの?

他も同じです。
ニック・チェイターは、心は、信念や知識といったものを持ってないっていいます。
処理結果を受け取って、それを言葉にしてるだけだって。
それも、信念や知識を取得する処理も心に含めたらいいだけですよね。

これ、わざとやってんじゃないの?
そう思いませんでした?
僕も、最初、そう思ったんですよ。

でも、それはちょっと違うと思うんですよ。
ニック・チェイターは、認知科学の大学教授です。
しかも、認知科学のノーベル賞と呼ばれるラメルハート賞を受賞してます。
そんな人が、そんな姑息なことするわけないです。
つまり、わざとじゃなくて、本気でこれが正しいと思ってやってるんですよ。
賞を贈るぐらいですから、みんな、こう思ってるんですよ。

じゃぁ、おかしいとしたら、どこがおかしいんでしょう?
そのヒントは、眼球の動きの実験にありました。
あの実験で、ニック・チェイターは、何て言ってたか覚えてますか?

「アイトラッカーを使えば、視覚情報を拾い上げて非連続な処理をしてるのは明白な事実とわかる」って言ってるんですよ。

注目して欲しいのは、事実は、アイトラッカーの測定結果だってことです。
つまり、科学では、実験結果が全てなんです。
誰が検証しても同じ結果がでる実験結果が真実なんです。
理論は、事実を積み上げて構築します。
そういう訓練をするところが大学です。

この動画で言えば、右のような世界を感じますよね。
でも、感じてるのは心です。
主観です。
心が実際にどう感じてるかなんか、実験も証明もできません。
つまり、科学で考えたら、右の世界は、幻想なんですよ。
左が事実です。
こうなるんですよ。

え~、そんなん、おかしない?
って思いますよね。
そう思うのは、あなたが、ちゃんとした科学の教育を受けて来てないからです。
ニック・チェイターは、大学教授にまでなった人です。
科学的思考が骨の髄まで染みわたっています。
自分が感じたことと、実験結果が食い違った場合、実験結果を受け入れることに躊躇しません。
だから、平然と、心は薄っぺらだって言えるんです。
事実だけ積み上げて心を作れば、薄っぺらになってしまうんですよ。

これが科学の結論です。
逆に言えば、科学の限界とも言えます。

たぶん、扱うのが心じゃなければ、これで問題ないと思うんですよ。
物理なら、このやり方で真実に辿り着けると思います。

でも、心はそうじゃないです。
なぜなら、心は、検証できないとこに、重要な理論が隠れてるからです。

それじゃぁ、本当の心の理論なんか、絶対に見つからないですよねぇ。
実際、500年の科学の歴史で、心の中身はほとんど何も解明されてません。
これでおわりなんですかねぇ。

そこで、僕ら、ロボマインドの登場です。

もちろん、僕らにも、脳内でやってる処理の中身はわかりません。
ただ、理論を考えることはできます。
そして、実際にコンピュータで開発することもできます。
そして、もし、それが上手く動けば、その理論が正しいと言えるかもしれません。

ただ、本当に正しいかどうかは、検証できないので、今の科学では認めることはできないでしょう。
でも、僕らの目的は科学的に正しい理論を作ることじゃなくて、心を作って、一緒にお話ができたら楽しいだろうなってことなので、これで十分なんです。

さて、それじゃぁ、最後に、僕らの考える心の理論はどんなものか、それを紹介しましょう。
人は、目で見た世界を頭の中で仮想世界として構築します。
意識は、仮想世界を介して現実世界を認識します。
これが、意識の仮想世界仮説です。
そして、それをプログラムで実現したのがマインド・エンジンです。

ニック・チェイターがいう薄っぺらな心というのは、マインド・エンジンだと意識プログラムになります。
脳内のニューラルネットワークが行っていて、意識できない処理というのが、仮想世界を作る部分です。
これは、入力映像から3Dオブジェクトに変換する処理になります。

意識が知覚するのは、3Dオブジェクトのデータそのものです。
つまり、奥行きとか高さとかがある3Dデータを感じるわけです。
だから、

こんな図形を見たら、三次元の立体に見えるわけです。

それから、

この場合だと、カメラからの映像を取り込むのが無意識です。
そして、無意識が仮想世界を作ります。
それが、右の世界です。
意識プログラムはこれを認識するんです。
だから、たとえ、左のようにカメラの映像が小刻みに動いてたとしても、心は、連続した広がりのある世界を感じるんです。

ここで注目して欲しいのは、カメラの映像から仮想世界を作る処理はプログラムで行われてるってことです。
何が言いたいかって言うと、その処理内容は、外からは検証できないってことです。
外から検証できるのは、カメラの動きだけです。

つまり、科学で解明できる事実は、小刻みに不連続に動くカメラだけとなります。
もし、連続的な広がりと感じたとしたら、それは幻想だってなるんです。
これが今の科学です。
世界中の科学者が、未だに心を解明できない理由が分かっていただけたでしょうか。

そして、日本の片隅で、それに必死に対抗してるのがロボマインドです。
よかったら応援、それからチャンネル登録、高評価、お願いしますね。
それから、今回紹介した意識の仮想世界仮説に関しては、この本に詳しく書いてますので、よかったら読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!