第295回 心を動かしながら言葉を定義せよ!


ロボマインド・プロジェクト、第295弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

まずは、この動画を見てください。
何をしてるか分かりますか?

これ、脳の外科手術をしてるんです。

手術を受けてるのは、プロのバイオリニスト、ダグマー・ターナーさんです。
彼女は、脳腫瘍の摘出手術を受けることになりました。
でも、脳を手術をして、バイオリンが演奏できなくなったら困りますよね。
そこで、バイオリンを演奏しながら手術することになりました。
これで、バイオリン演奏に影響するところは傷つけずに手術できました。

この動画を見て、ようやくわかったんですよ。
何が分かったかって言うと、今、開発してるマインド・エンジンの開発方法です。
マインド・エンジンっていうのは、僕らがつくってる、会話システムです。

この数か月、言葉をどうやって定義したらいいかってことばかり考えていました。
でも、その考えがそもそも間違いだってわかったんです。
見るべきものは言葉じゃなかったんです。

会話システムって、世の中にいっぱいありますけど、どれも10分も会話が続きません。
今のAIじゃ、普通に会話ができないんです。
その理由が、ようやくわかりました。
それは、言葉しか見てなかったからです。
言葉は、表面に現れた結果です。
その根本にあるのは心です。
だから、言葉の定義は、心から定義すべきなんです。

脳腫瘍の手術は、脳の一番大事な所が機能してることを確認しながら手術しないといけないんです。

それと同じです。
言葉を定義するには、心が動くのを確認しながら定義しないといけないんです。

これが今回のテーマです。
心を動かしながら言葉を定義せよ!
それでは、始めましょう!

会話するAIを作るのに、言葉だけ見ても意味がありません。
システムの目的を理解しておかないといけません。
これ、一般的なシステムで考えたらすぐにわかります。
たとえば、エアコンです。
エアコンのリモコンが壊れたとするでしょ。
液晶パネルが真っ黒になりました。
修理したら液晶パネルがちゃんと見えるようになりました。
温度とかの数字も見えるようになりました。
でも、エアコンをオンオフできなかったり、温度調整ができなかったら意味ないですよね。
だって、リモコンの目的は、エアコンを制御することですから。
液晶パネルの数字を見ることが目的じゃないですよね。

今のAIは、それと同じ間違いを犯してるんですよ。
文法的に自然な文章は生成できるようにはなりました。
でも、意味が通じなかったり、会話が噛み合わなかったりします。
これは、言葉しか見てないからです。
システムの目的を見てないからです。

じゃぁ、人間ってシステムは、どんな目的で作られてるんでしょう?
まずは、動物から考えてみます。
動物は、生きたいと思ってますよね。
生きるために活動してます。
何か、問題が起こったとしましょ。
たとえば、ほかの動物が自分の縄張りに入って来たとか。
そうしたら、何らかの感情が発生します。
感情を発生するのは、脳の中の大脳辺縁系です。

これは、動物ももっています。
この感情を原動力として行動します。
戦うか、逃げるかです。

人間も、同じように感情が発生します。
ただ、人間の場合は、大脳辺縁系の上に大脳新皮質が覆いかぶさっています。
ここには、過去の様々な記憶が蓄えられています。
前頭葉は、記憶を参考にして、考えることができます。
つまり、何か起こった瞬間、感情に従って行動するんじゃなくて、いろいろ考えることができます。
さらに、考えを言葉で表現することができます。

これがシステムの全体像です。
もう少し、探ってみます。
人も動物も、生きたいっていう根本的なエネルギーを持ってます。
危険な状況になったら、戦ったり、逃げたりするのも、生きたいってエネルギーから生まれてくるわけです。
人の場合、生きたいってだけじゃなくて、人より評価されたいとか、もっとお金が欲しいとかってエネルギーもあります。
こういった根本的なエネルギーがあって、それを中心に感情が発生します。
給料が下がって悲しんだり、かけっこで一番になって喜んだりするわけです。

これを参考にして、心のシステムの構成を考えて行きましょう。
心のシステムの中心はエネルギーです。
生きたいとか評価されたいってエネルギーです。
このエネルギーを管理するエネルギー管理部があります。

エネルギーは、生命エネルギーと価値エネルギーの二種類あります。
生命エネルギーは、お腹が空いたり、ケガや病気をしたら減ります。
価値エネルギーは、お金とか、プレゼントとか、価値のある物をもらうと上がります。
それ以外に、コンテストで優勝するとか、会社で出世するとか社会的評価が上がっても上がります。
エネルギー管理部には、自分のエネルギーだけでなくて、相手のエネルギーも管理します。
そして、このエネルギー管理部を操作するエネルギー操作部というものがあります。

エネルギー操作部は、自分や相手のエネルギーを増減させる一種のプログラムです。
それから、自分や相手のエネルギーの変化を検知して、感情を発生する心理部もあります。
心理部は、たとえば自分の価値エネルギーが上がると嬉しいって感情を発生しますし、下がると悲しいって感情を発生します。

以上の三つが、心のシステムの中心部です。
表に現れないですが、ここが最も重要なコアとなります。

それでは、ここから、表に見える部分まで拡張していきます。
表に見える部分ってのは、言葉のことです。

ここで、前回、第294回のおさらいをしときます。
前回、マインド・エンジンのソフトウェア・アーキテクチャの話をしました。
マインド・エンジンの特徴は、文脈に応じて、必要なメソッドをロードすることにあります。

文脈っていうのが、マインド・エンジンでいう世界になります。
三次元世界とか所有権世界です。
前回、例に挙げたのが勝負世界です。
世界は、基本世界と応用世界の二段階に分かれてて、勝負世界は基本世界の一つです。
勝負世界の応用世界として、野球とかサッカーのスポーツ、チェスや将棋、ジャンケンといったゲームがあります。
前回の話はここまでです。

さて、こっから、全部をつなげていきます。

エネルギー操作部は、エネルギー管理部の生命エネルギーを上げ下げしたり、価値エネルギーを上げ下げするメソッドを持っています。

そして、勝負世界は、このエネルギー操作部に合体します。
勝負世界は、勝ちまたは負け、攻撃または守備といった状態をもった基本世界です。
勝負世界の勝ちは、エネルギー操作部の自分の価値エネルギーのUPに接続されます。
つまり、勝負で勝つと、自分の価値が上がります。
そうすると、心理部から嬉しいという感情が発生します。
逆に負けると、自分の価値が下がって、悲しいという感情が発生します。

この勝負世界を継承するのが野球世界です。
野球世界も、攻撃、守備というメソッドを持っていて、勝負世界の攻撃、守備に接続されます。
野球世界の攻撃は、ピッチャーが投げたボールをバットで打つです。
守備はバッターが打ったボールを取るです。
こういった野球の具体的なルールが、ここに書かれるわけです。

なんとなく、全体が見えてきましたか。
一番低レベルの野球世界に、バットとかボールとかって名詞、打つとか投げるって動詞が出てきましたよね。
これが言葉です。
つまり、表に現れる部分はここです。
ここに出てきた単語を使って文が作られるわけです。

さて、今、何を説明してきたか分かりましたか?
これがバットの意味なんです。
「バットって何?」って、全く知らない人に説明するとき、「80cmぐらいの長さの木の棒」とかって説明しても意味ないでしょ。
そんなん、全然、バットの意味を説明したことにならないじゃないですか。

そうじゃなくて、バットってのは、野球で使うものですよって。
野球は、スポーツの一種ですよって。
攻撃と守備に分かれて、点を多くとった方が勝ちです。
そう言うことを説明したうえで、攻撃は、ボールを打ちます。
その時使うのがバットです。
これがバットの意味です。
ここまで理解して、初めてバットの意味が定義できるんですよ。

それじゃぁ、今の話で一番重要なのは何でしょう?
それは、言葉は心を中心に定義すべきってことです。

自然言語処理では、昔から、言葉の意味をオントロジーで定義してきました。

動物の一種が哺乳類で哺乳類の一種が犬だとか。
哺乳類は頭と脚を持ってるとか。
これも重要だと思います。
ぼくらも、こう言う定義をしてます。
でも、これは中心じゃないんです。
これは、言葉の枝葉の部分です。
これだけじゃ、言葉、本来の目的につながらないんです。

じゃぁ、言葉本来の目的って何?ってなりますよね。
それは、コミュニケーションです。
伝えたいことがあるわけです。
伝えたいことって言うのは、こうしたい、これを分かって欲しいって感情です。
その感情を生み出してるのは、人間のもつ欲望とか本能です。
それが、生命エネルギーと価値エネルギーです。
そこが中心なんです。
言葉は、そこにつながるべきなんです。
そこから定義すべきなんです。
バットの定義ならは、「野球で勝ったら嬉しいよね」につながらないといけないんです。
素材とか長さとか、それは、枝葉の部分です。

言葉を定義するとき、心や感情にどうつながるかを確認しながら定義するってことです。
これは、冒頭で見せた動画と同じです。
バイオリンを弾く機能が働くことを確認しながら手術しないといけないんです。

それと一緒です。
言葉を定義する時、心を中心に定義すべきなんです。
ちゃんと感情が発生することを確認しながら言葉を定義すべきなんです。
そうやって開発できる仕組みが、今回説明したシステムです。

具体的な言葉の定義は、応用世界で定義していきます。
今回なら野球世界です。
サッカーで使う言葉を定義するときは、サッカー世界を作って、それを勝負世界に合体させて定義していきます。
シュートが決まれば、嬉しいって感情が発生するのを確認しながら、シュートの意味を定義していくわけです。

こうやって言葉の意味が定義できれば、「シュートを打ったんだけど、ゴールポストに当たって入らなかったんだよ」って言われれば、「あぁ、惜しかったねぇ」って会話ができます。
ねぇ、自然な会話ができるでしょ。

心や感情を中心に言葉の意味を定義すべきって、考えてみたら当たり前のことです。
だって、言葉って、心で感じたことを表現するためのものですから。
僕らは、その当たり前のことをやろうとしてるだけです。
でも、これって、普通じゃないんですよ。
自然言語処理では、毎年、何万本って論文が発表されてます。
そのうち、99%以上は、ディープラーニング関連です。
つまり、大量の文書から単語の数を数えて、単語の出現確率とか、単語同士の繋がり具合を計算するものばかりです。
その文章は何が言いたいのかとか、心まで考えてる研究はほとんどないんですよ。
そんなの、おかしいでしょ。
でも、これが今のAIの現実です。
そんな中、世界で唯一、本気で心をつくろうとしてるのがロボマインド・プロジェクトです。
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それから、ロボマインド・プロジェクトの基本的な考えは、この本に詳しく書いてありますんで、良かったら読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!