ロボマインド・プロジェクト、第297弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。
今回の話は強烈です。
自分で自分の足を切断した男の話です。
第291回で、幻肢の話をしました。
事故などで手足を切断した人の中に、手や足の感覚が残ってる人がいます。
これを幻肢っていいます。
幻の手足のことです。
幻肢の話をしたら、これが参考になるんじゃないかって一冊の本を紹介してもらいました。
それが、この本です。
『私は既に死んでいる ゆがんだ〈自己〉を生み出す脳』です。
この本に、自分の足が自分のものでないって感じる男性、デヴィッドが出てきます。
彼は、片方の足が自分のものでない、偽物の足だって、物心がついたころから、ずっと感じてたそうです。
座ってても、つい、手でその足を押しのけようとしたり、立つときも、「良い」方の足だけに力を掛けたり、自宅では、片足跳びで移動してたそうです。
できることなら、偽物の足を切断したいと思ってたそうです。
でも、病気でもない限り、医者は切断してくれません。
彼は、今まで二度、自分で自分の足を切断しようとしました。
一度目は、自分の足を紐で縛って、止血して足を切り落とそうとしました。
でも、2時間後、凄まじい痛みと恐怖で紐をほどきました。
2回目は、ドライアイスを使うことにしました。
凍傷にして、切断するしかない状態にしてから医者に行くつもりでした。
ドライアイスと鎮痛剤を準備して、明日、決行することにしていました。
その晩、一通のメールが届きました。
これが、今回のテーマです。
自分で自分の足を切断した男。
それでは、始めましょう!
メールを送ってきたのは、デヴィッドと同じ症状を持つ元患者、パトリックでした。
パトリックによると、同じような症状の人は、他にもいるそうです。
身体完全同一性障害というそうです。
心で感じる体と、実際の体が一致しない障害です。
おそらく、性同一性障害と原因は同じだと思います。
性同一性障害も、最近になって、ようやく障害と認められるようになりましたけど、長い間、性癖の一種だと考えられてきました。
まずは、この障害の根本的な原因について考えてみます。
心の病は、精神科でカウンセリングを受けたりして治療します。
それでも治らない場合に、性転換手術とか外科手術するわけです。
これは、原因が脳とか神経にあって治療できない場合です。
コンピュータで説明すると、原因がハードウェアにあるのか、ソフトウェアにあるのかってことです。
ハードウェアが脳で、ソフトウェアが心です。
CPUが脳で、CPUの上で実行されるプログラムが心というわけです。
CPUの回路は変更できませんけど、その上で実行されるプログラムは、後から変更できます。
人間の場合なら、生まれ育った環境や経験で、考え方や性格が変わりますよね。
コンピュータならプログラムです。
プログラムの問題なら、プログラムを変更して治すことができます。
カウンセリングで治る可能性があるってことです。
でも、それでも治らないということは、原因がCPUの側にあるわけです。
脳に障害があるってことです。
その一つが、脳と、脳が制御する体が一致しない障害です。
それが、性同一性障害だったり、今回の身体完全同一性障害です。
脳と体が一致しない場合、治療の方法として、脳か体か、どちらかを手術で治す方法が考えられます。
ただ、脳の場合、神経細胞レベルの手術になるので、今の脳外科手術では不可能です。
そこで、体の側を手術することになるわけです。
つまり、性同一性障害なら性転換手術です。
身体完全同一性障害なら、身体を切断することになるわけです。
性同一性障害が障害と認められて、性転換手術も、ようやく認められるようになりました。
でも、身体完全同一性障害は、まだ、手術が認められてません。
デヴィッドに連絡してきたパトリックは、そう言った人の為に、アジアで闇で手術してくれる人を紹介する仲介役でした。
パトリック自身も同じ障害で、同じようにして足を切断して楽になったそうです。
そこで、同じ障害を持つ人を助けるために、仲介の仕事をしてるわけです。
さて、それでは、身体完全同一性障害の場合、脳のどこに問題があるんでしょう。
まずは、心が感じる体とはどういうものかから考えてみます。
第289回で紹介したクリスティーナは、全身の関節や筋肉からのフィードバックがなくなる障害でした。
つまり、どれだけ関節を曲げたかとか、どれだけ力を入れてるかって感覚を感じれなくなりました。
そうなると、自分の体って感覚が希薄になりました。
本当に、体があるのか、分からなくなるそうです。
クリスティーナは、よく、オープンカーに乗ってドライブするそうです。
皮膚感覚はあるので、風を全身に受けると、体があるって実感できて安心するそうです。
クリスティーナの場合、希薄になったとはいえ、自分の体が自分のものだって感覚はあります。
第291回では、幻肢の話を取り上げました。
幻肢は、腕を失っても、まだ、腕があるように感じる感覚です。
いや、感覚があるって、そんな生易しいもんじゃなくて、腕がないのに、つい、身振り手振りをしてしまったり、物をつかもうとしたりします。
時には、激しい痛みを感じます。
存在しなくても、ありありと、腕とか脚の存在を感じるんです。
意識が感じる体の感覚のことをボディイメージといいます。
脳のてっぺんには、左右に中心溝って大きな溝が走ってます。
中心溝の前を運動野、後ろを体性感覚野って言います。
そこには、こんな風に体がマッピングされてます。
運動野の手の部分を刺激すると、手が上がります。
逆に、手を刺激すると、体性感覚野の手の部分が活性化します。
意識が感じるボディイメージは、ここにあるわけです。
腕を切断しても、脳の体性感覚野の腕は残ります。
意識は、それを感じるんでしょう。
それが幻肢です。
腕が切断されても、いつまでも腕があると感じるわけです。
幻肢は、事故で腕を失った場合に起こるだけじゃありません。
生まれつき腕がない人でも幻肢を感じる人がいます。
これは、腕がなくて生まれてきた場合も、脳には腕のボディイメージがあるということです。
それがあるなら、その逆が起こっても、おかしくないですよね。
つまり、実際に腕はあるのに、ボディイメージの腕が無い場合です。
その場合、実際の腕が、自分の腕って感じがしなくなります。
それが足に起こったのがデヴィッドです。
デヴィッドは言います、片方の足には、太ももから先に魂が入ってないって。
そっから先は、自分の足じゃない、偽物の足だって。
幻肢のときに紹介したラマチャンドラン博士は、身体完全同一性障害の研究もしています。
ラマチャンドラン博士の研究によると、身体完全同一性障害の場合、体性感覚野のさらに後ろの上頭頂小葉が関係してるそうです。
正常な足と、偽物の足を刺激した場合、正常な足に比べて、偽物の足の方が、上頭頂小葉が活性化しないそうです。
体性感覚野には、体全体がマッピングされています。
足を触ると、体性感覚野の足の部分が活性化します。
つまり、体性感覚野の足は、足の表面に対応してるわけです。
体性感覚野のさらに後ろの上頭頂小葉は、表面的な足でなくて、足そのものとか、足の実体を表してるんでしょう。
抽象的というか、自分の足という概念を表しているんです。
クリスティーナは、関節からのフィードバックを感じなくなりました。
関節の制御をするのは小脳です。
おそらく、クリスティーナの場合、小脳に障害が起こっていたんでしょう。
クリスティーナの場合、体の感覚は薄くなりましたけど、自分の体という感覚が消えることはありませんでした。
デヴィッドの場合、足が自分の体と思えなくなりました。
どうやら、心が感じる体って、上頭頂小葉にあるようです。
ラマチャンドラン博士は、偽物の足の境界の上下をピンで刺激して、生体反応を測定しました。
すると、偽物の足の方が、敏感に反応したそうです。
これは、偽物の足の方が気になってるってことです。
おできができて、おできがずっと気になりますよね。
異物感とか、おできを取り除きたいって思いますよね。
それに近いのかもしれません。
でも、心で感じる体と、実際の体が異なることってあり得るんでしょうか?
じつは、これは、簡単に変更することが実験で確かめられてるんですよ。
用意するのは、ゴムでできた手です。
おもちゃ屋さんとか、マジックショップで売ってます。
こんな風に
自分の手とゴムの手を机に置いて、間に壁を置いて、被験者には、ゴムの手を見てもらいます。
そして、ゴムの手と自分の手の両方を同時に刺激します。
すると、被験者は、だんだん、ゴムの手が自分の手のように感じてきます。
これを、ラバーハンド錯覚といいます。
こんな風に、自分が思ってる体って、意外と簡単に変わることがあるんです。
でも、できるのはここまでです。
デヴィッドの場合、脳のボディイメージのなかの、足の太ももから先が存在しないわけです。
これを治すには、ボディイメージの太ももから先の脳細胞をつくり出さないといけません。
これは、今の脳科学では、とても無理です。
そうなると、心で思ってる体と、自分の体を一致させるには、体の方を変更するしかないわけです。
つまり、体を切断するってことです。
でも、まだ、気がかりな点があります。
切断しても、それを繰り返すことにならないかってことです。
たとえば、美容整形みたいにです。
目をいじったら、次は、口元もいじって、次は、胸も大きくしてってならないかってことです。
その点に関しては、仲介者のパトリックが言うには、今まで、そのようなことは1例もなかったそうです。
つまり、自分の体と、偽物の体の境い目は、変わることがないってことです。
自分の体というのは、脳の中に、しっかりと刻まれていて、決して変わらないんです。
それでも、自分の体を切断するとなると、精神的苦痛も大きいと思います。
どんな人でも、事故などで体の一部を失うと、しばらくは鬱になるそうです。
それほど、心の負担が大きいわけです。
パトリックによると、身体完全同一性障害者で、体を切断して後悔した人は一人もいないそうです。
誰もが、切断したことで、幸せなったと言います。
パトリックは、自分が手術する前に心理学者から質問されたそうです。
「もし、この障害が完全に消える薬があったら、それを飲みますか。それとも、飲まずに足を切断しますか」って。
そうしたら、こう答えたそうです。
「若い時だったら飲むかもしれません。でも、今は飲みません。今は、心で感じる体が正しいと確信してますから。間違ってるのは、足の方です」
そう言って、足を切断したそうです。
心で感じる体、そっちが本物の自分の体なんです。
肉体は、本物の自分に合わせるべきなんです。
デヴィッドも同じ決断をしました。
デヴィッドは、アジアに行って手術を受けました。
同行した作者は、手術の翌日、デヴィッドに面会しました。
デヴィッドは、ずっと笑顔で、何度も声をたてて笑ったそうです。
作者が初めて会ったときから、デヴィッドは、ずっと張り詰めた表情をしてました。
それが今ではすっかり消えてたそうです。
数か月後、デヴィッドからメールが来ました。
「人生で初めて、自分が完全にまとまった存在になれた」って書いていたそうです。
いやぁ、自分の体って、一体、何なんでしょうね。
はい、今回の動画が面白かったらチャンネル登録、高評価お願いしますね。
それから、よかったら、こちらの本も読んでください。
それでは、次回も、おっ楽しみに!