ロボマインド・プロジェクト、第300弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。
今回のテーマは、自閉症です。
最近は、自閉スペクトラム症といったり、症状が軽い場合はアスペルガー症候群といったりします。
ただ、僕が興味があるのは、細かい症状の違いより、なぜ起こるのかって根本的な仕組みです。
脳のどんな機能に不具合が起ると、自閉症になるのかってことです。
今回も、『私はすでに死んでいる』から取り上げます。
今まで、自分の体の一部が自分のものと感じられない身体完全同一性障害(297回)とか、頭の中で誰かの声が聞こえる統合失調症(298回)とか、自分が自分と感じられない離人症(299回)を取り上げてきました。
ただ、今回は、ちょっと違います。
何が違うかと言うと、原因が、今までより高次のレベルで起こってるってことです。
低次のレベルっていうのは、脳のこの部分って、はっきりと部位が特定できるってことです。
つまり、ハードウェア側に原因があるってことです。
高次のレベルっていうのは、ハードウェアでなくてソフトウェア側、つまり、プログラムの不具合ってことです。
これが今回のテーマです。
自閉症の脳内メカニズム。
それでは、始めましょう!
自閉症の子どもの特徴として、コミュニケーションが苦手とか、物へのこだわりが強いとか、変化や刺激を嫌うといったことがあります。
それから、絵を上手く描けないといったこともあります。
アレックスは、小学校に上がっても、棒切れみたいな人間しか描けませんでした。
自閉症児の治療法にパッキング療法というのがあります。
それは、水で濡らしたシーツを子供の首から下をくるむ療法です。
一回の治療で1時間、それを数日から数週間行います。
なんか、野蛮で残酷な療法ですよね。
電気ショック療法を思い出します。
ところが、このパッキング療法で症状が改善されたって報告があるんです。
まともに人の形が描けなかったのが、12回目で、人の手らしいものを描いて、16回目で棒人形を描いて、23回目ではさらに人間らしい形になったそうです。
何が起こったかと言うと、パッキング療法で自分の身体を意識できるようになったみたいなんです。
人は、自分の体というものをハッキリと感じますよね。
それが、自閉症の子は、自分の体の境界を、うまく感じることができないようなんです。
それが、パッキング療法で、自分の体を意識できて、はっきりとした身体イメージを持てるようになったようです。
これによって、人間らしい絵を描けるようになったようなんです。
どうやら、頭の中に自分の身体モデルを正確に作れるかどうかが重要なようです。
この身体モデルについて、また別の研究から考えてみます。
パソコンのモニターに図形を表示して、それを指先でタッチしてもらうってテストをします。
子供はぎこちないですけど、大人になると、スムーズに動かして正確にタッチできます。
これは、大人は、自分の手の動きを正確に予測しながら制御できてるからです。
この時使うのが、身体の動きの予測モデルです。
僕は、昔、制御関係の仕事に関わったことがあるので、予測モデルって考え方はよく分かるんですよ。
僕が扱ってたのは、コンテナの積み降ろしをするクレーンです。
このクレーン、吊り下げてるコンテナを全く揺らさずに、スーッと動かして、ピタって止めるんですよ。
その時使うのが、こんなフィードバック制御です。
制御対象がクレーンです。
「クレーンを10m移動せよ」って目標指令が与えられたとします。
その時、予測モデルを使って、制御入力を計算してクレーンを動かします。
そして、クレーンが動いた結果がフィードバック信号として戻されて、予測との誤差を計算します。
この誤差が0に近づくように、最適化器が予測モデルを修正します。
これを何度も行う事で、予測モデルの精度が高くなるわけです。
これを、さっきの手を動かす場合に当てはめると、予測モデルっていうのが、どれだけ腕に力を入れたらどれだけ手が動くかって身体のモデルになります。
そして、この手の動きを計測して、最高速度と、到達時間を測って統計処理すると、予測モデルの精度が分かります。
すると、子供より大人の方が正確な予測モデルを持ってるってことが分かりました。
つまり、経験によって、動きが正確になるってことです。
ここまでは分かりますよね。
ところが、自閉症の場合、大人になっても、予測モデルの精度が上がらないんです。
これ、どういうことか分かりますか?
これ、自閉症の場合、毎回、初めて経験するような感覚になってるってことです。
原因の一つは、フィードバック信号の精度が低いことです。
さっき言いましたけど、自閉症の場合、自分の体の境界を正確に把握できてません。
だから、動いた後の位置の精度に、かなりの誤差があるんですよ。
これじゃぁ、予測モデルを正確に作れないんですよね。
この予測モデルって考え、自閉症の別の症状でも説明がつきます。
それは、相手の気持ちを理解できないってことです。
他人がどう考えてるか認識する心の仕組みのことを「心の理論」っていいます。
この「心の理論」を持ってるかをテストする「サリーとアン課題」というのがあります。
それでは、さっそくやってみましょう。
これはサリーです。
これはアンです。
サリーはカゴをもっています。
アンは箱を持っています。
サリーはビー玉を持っています。
サリーはビー玉を自分のカゴに入れました。
サリーは外に散歩に出かけました。
アンはサリーのビー玉をカゴから取り出すと、自分の箱に入れました。
サリーが帰ってきました。
サリーは、自分のビー玉で遊びたいと思いました。
さて、サリーがビー玉を探すのは、どこでしょう?
分かりましたか?
答えは、カゴです。
なぜかわかりますよね。
サリーは、アンがビー玉を箱に移したことを知らないからです。
この問題、正解するのは4~5歳ぐらいになってからだそうです。
2~3歳ぐらいだと、箱って答えます。
なぜかというと、実際のことと、サリーが思ってることを区別できないからです。
そして、自閉症の子どもも、同じように間違うそうです。
この問題に正解するには、サリーの立場に立って、考えれないといけません。
つまり、サリーが認識してる世界を理解するってことです。
そのためには、実際の世界と、サリーが認識してる世界の二つの世界を持てないといけません。
つまり、必要なのは、世界を二つ持てるシステムです。
これを、意識の仮想世界仮説で考えてみます。
意識の仮想世界仮説というのは、僕が提唱する心のシステムです。
人は、目で見た世界を頭の中で仮想世界として構築します。
意識は、この仮想世界を介して世界を認識します。
これが、意識の仮想世界仮説です。
そして、仮想世界というのは、目で見た現実だけでなくて、過去の出来事を思い出したり、目の前にないことを想像するときにも使います。
それを、想像仮想世界といいます。
つまり、仮想世界は、実際の現実世界を認識するときに使う現実仮想世界と、想像する時に使う想像仮想世界の二つがあるわけです。
つまり、心とは、世界を二つ持てるシステムと言えます。
そう考えると、2~3歳児や自閉症の心は、一つしか世界を持てないシステムといえます。
このことは、別の実験でも確かめられています。
3歳と5歳の子どもに、キャンディの箱を渡します。
子どもは、キャンデイが入ってると思っています。
ところが、蓋を開けてみると、鉛筆が入ってました。
ここで、「蓋を開ける前に、何が入ってると思いましたか?」って質問します。
すると、5歳の子どもは「キャンディ」って答えます。
ところが、3歳の子は、「鉛筆」って答えるんです。
これ、どういうことか分かりますか?
つまりね、3歳の子だと、自分が過去に思ってた世界と、今、現在の世界の区別がついてないんですよ。
これって、想像仮想世界を持ってないことで説明ができますよね。
さらに、脳の実験でも明らかになっています。
二つの質問をして、それについて考えてもらいます。
一つ目の質問は「あなたは、毎日日記をつけることが、どのくらい大切だと思いますか?」です。
もう一つは、「女王は、毎日日記をつけることが、どのくらい大切だと思っているでしょうか?」です。
普通の人は、自分について考えるとき、腹内側前頭前野が活発になるんですけど、自閉症の人は、そう言った差が見られなかったんです。
これ、どういうことか、わかりますか?
これ、自閉症の人は、他人も自分も、同じように考えてるってことなんです。
普通なら、他人は、自分とは違う考えを持ってるってわかりますよね。
これは、二つの世界を持つ仕組みがあるからできるんです。
たとえば、第一の世界と第二の世界というふうに別の世界を持つ仕組みです。
第一の世界が、アンからみた世界で、第二の世界がサリーからみた世界とかです。
それを、パッパッパッって自由に切り替えることができるんです。
自閉症の人は、この仕組みを持ってないんですよ。
さらに、自閉症の人は、感情もあまり感じません。
アレックスは、楽しい、悲しい、怒ってるって口にすることもなかったそうです。
それから、アスペルガー症候群のジェイムズは、こう言いました。
「私は人間に何にも感じない」って。
そわそわとか、ドキドキって感じないそうです。
妹への愛を頭で考えることはあっても、感じることはないそうです。
他人が感情を持ってると理解できないから、こう言ったら、相手は怒るだろうってことも想像できません。
事実を言っただけなのに、何で怒ってるんだろうってなります。
でも、アスペルガー症候群の中には、上手く社会生活を営んでる人もいます。
そんな人は、どうやってるんでしょう。
それは、想定されるあらゆる出来事を記憶してるそうです。
自閉症の人の場合、記憶力が高い人が多いんです。
そこで、こんな状況だと相手は怒るとかって、あらゆるパターンを想定して、それら全て記憶するんです。
たとえば、こんな感じです。
これなら、世界を一つしか持てなくても、その世界に、いろんなパターンを当てはめて、結果を予測することができます。
ただ、想定されるパターンは、いろんな組み合わせなので無限に考えられます。
でも、事前に全て記憶するなんて不可能です。
限界があります。
だから、想定してないことが起こると、どうしていいか分からなくなります。
だから、自閉症の人は、変化を嫌うんです。
嫌うというか、変化は恐怖でしかありません。
同じ本を何回も読むし、同じ映画を繰り返し見ます。
外食する店も決まっていて、毎回、頼む料理も一緒です。
旅行に行くときは綿密なスケジュールを立てて、スケジュール通りに行動します。
もし、スケジュール通りにならないと不安になってイライラします。
自閉症の人は、変化の代わりに、同じ物に執着します。
でも、これは、普通の人からみた一方的な偏見かもしれません。
だって、心のシステムが違うだけですから。
どっちが正しいってないわけです。
今でも、「自閉症になるのは、母親の愛情不足だ」とかって言う人がいます。
それは、完全に間違ってますし、そう思う根底には、異物を排除しようって思想が見え隠れします。
そうでなくて、心のシステムが違う人も受け入れる社会、それが多様性社会と言えます。
そうは言っても、どう受け入れたらいいのかわからないと思います。
たとえば、自閉症の人は、同じ物に執着するっていいます。
これが、僕らには、よく理解できません。
でも、よく観察してみると、執着というより、わずかな違いを楽しんでるようなんです。
たとえば、これは、滋賀県にある福祉施設「やまなみ工房」の吉川さんの作品です。
四角の中に点と線が描かれてます。
これは、目、目、鼻、口とつぶやきながら描いてたそうです。
つまり、顔を書いてたんです。
それも、何百、何千って。
彼なりのこだわりがあるんでしょう。
これは、そうやって生まれた作品です。
この作品、「eye eye nose mouse」という作品名で、ハーバード大学で展示されて話題となりました。
「やまなみ工房」には、他にも、こんな素晴らしい作品を作る人たちがいます。
これが、彼らが感じてる世界なんでしょう。
皆、素晴らしいアーティストです。
そして、彼らは、今、世界中から注目を集めています。
でも、これだけの才能のある人を集めるのは大変だと思いますよね。
それが、違うんですよ。
彼らは、たまたま、近くにあった福祉施設に通ってるだけなんですよ。
つまりね、元々、才能があったわけじゃなくて、誰もが、これだけの才能を持ってたってことです。
彼らもすごいですけど、じつは、彼らを見出した職員もすごいんです。
当然、最初から、こんな絵、誰も描けないですよ。
最初は、落書き以下です。
ここまで描けるようになるのに、何年、何十年と掛かってるんです。
それを根気よく付き合って、彼らの中にあるものを引き出したんです。
ここに、多様性を受け入れる社会のヒントがあるんじゃないかって思います。
作業所とかの福祉施設では、知的障害者がクッキーやパンを焼いて、社会と関わろうとしています。
孤立するんじゃなくて、社会に関わるって意味では、素晴らしいことだと思います。
でも、それは僕らの経済システムに、彼らを組み込もうとしてると言えなくもないです。
そうじゃなくて、彼らの心のシステムを発展させたら、全く別の世界が生まれるんじゃないかなって思うんですよ。
僕らじゃ想像もつかない世界を生み出す力、そこに目を向けるべきじゃないかなって思います。
多様性社会って、そう言うことじゃないかなって思います。
そのヒントを見せてくれたのが「やまなみ工房」なんです。
はい、今回の動画がおもしろかったら、チャンネル登録、それから高評価お願いしますね。
それから、今回紹介した意識の仮想世界仮説に関しては、こちらの本で詳しく語ってますので、興味ある方はご覧ください。
それでは、次回も、おっ楽しみに!