第302回 てんかん発作で見たのは、神の世界か?


ロボマインド・プロジェクト、第302弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

今回のテーマはてんかんです。
てんかんは、全身が痙攣して、意識が無くなる発作が突然起こります。
発作は、内面にも大きく影響します。
その時の心情をザックはこう語ります。
「どん底に突き落とされるような悲しみが押し寄せてくる」って。

あまり語られることはないですけど、てんかんには、じつは、もう一つ、全く別の発作があります。
患者があまり語りたがらないのは、それほど深刻な発作じゃないというのもありますけど、奇妙な体験をするので、医者に「頭がおかしくなったんじゃないか」って思われたくないからです。

それがどんものかというと、ザックが言うには、舞い上がるほど楽しいものだそうです。
「この発作が起こると、世界がくっきりあざやかになる」とか、
「まるで、映画のスクリーンから、突然、3D映像が飛び出してくる感覚」とも言ってます。

それから、「時間の流れも遅くなる」とも言います。
その発作が起こると、「この瞬間を生きてる」って感じるそうです。
「1時間後、1年後に何が起こるかなんて心配はどこにもない」とも言ってます。

さらに、この世界が完璧に感じるそうです。
たとえば、目の前にある、テーブルや椅子が、完璧に配置されてるように感じるそうです。
背後に大きな力が働いて、その意図どおりに世界が創られてるのを感じるそうです。
ザックは無神論者ですけど、その発作が起こった時には、大いなる力の存在を疑うことなどできないといいます。
絶対的な確信を感じるそうです。

その他、強烈な自己肯定感を感じる患者もいます。
その人は、「自分自身が完全に統合され、体全体が世界と完全に調和するんです」と言います。

同じような言葉、どこかで聞いたことありますよね。
そう、このチャンネルで何度も取り上げたジル・ボルト・テイラーです。
ジルは、左脳が脳卒中で停止して、右脳で世界を見ました。
そのとき、体の境界が消えて、世界と一体となったって言います。

ジルの場合は、左脳としか分からなかったですけど、今回は、脳のどこで、何が起こったのか、かなり詳しく特定していきます。
そして、彼らが見たものとは、いったい何だったんでしょう?
これが今回のテーマです。

てんかん発作で見たのは、神の世界か?
それでは、始めましょう!

てんかんといって、最も有名なのはロシアの大作家、ドストエフスキーでしょう。
ドストエフスキーの作品には、てんかんをもった登場人物が多く登場します。
たとえば、『白痴』の主人公、ムイシュキン公爵は、発作が始まるとき、恍惚感を感じるといいます。
「心と頭が一瞬にして目覚め、力と光がみなぎってくる」とか、
「時間は存在しなくなる」とも言います。
ドストエフスキーも、恍惚感を伴う発作を体験していたことは間違いないようです。
この発作が、数々の傑作のエネルギーになっていたのかもしれません。

発作が起こると、脳表面の皮質に異常放電が起こります。
発作には、皮質全体に起こる全般発作と、皮質の一部で起る部分発作の二つがあります。
全般発作は、意識を失うほど激しいものですけど、部分発作では、意識は保たれています。
そして、恍惚感を伴う発作は、部分発作です。
その時の脳波を測定してみると、側頭葉で発生してることがわかりました。

さらに調べて見ると、側頭葉の島皮質が関係することがわかってきました。
島皮質というのは、側頭葉の奥にあって、外からは見えないところにあります。

側頭葉と頭頂葉を分ける溝があって、そこに道具を差し込んで開くと、その奥に見えるのが島皮質です。
あるてんかん患者で、島皮質の前部に電極を刺して電気刺激をすると、浮遊するようなぞくぞくする快感が起きたそうです。
その患者が言うには、恍惚発作が起こった時と同じ感覚だといいます。
どうやら、島皮質の前部に発作が起こった時、恍惚発作が起こるようです。

それじゃぁ、この島皮質、何をしてるところか分かりますか?
じつは、ここが、自分とか自己を作り出してる大元なんですよ。
丁寧に解説しますよ。

頭頂葉には中心溝っていう大きな溝が左右に走っていて、中心溝の前が運動野、後ろが体性感覚野です。

運動野と体性感覚野には、こんな風に体がマッピングされています。

そして、たとえば運動野の足の部分を刺激すると足が上がって、体性感覚野の足の部分を刺激すると、足を触られた感じがします。
第297回で身体完全同一性障害のデヴィッドの話をしました。
デヴィッドは、自分の足が自分の足と思えないっていいます。
でも、足を触ると感じますし、自由に動かすこともできます。
つまり、体性感覚野や運動野は問題ないってことです。
でも、自分の体と思えないんです。

逆に言えば、体性感覚野や運動野にある身体マップは、自分に直接結びついてないようです。
ここでいう自分っていうのは、自分のものというか、これが自分に属すると思えるもののことです。

どうやら、自分の体っていうのは、体の表面の感覚とか、動かせるかとは別に、本質的なものが別にあるようです。
デヴィッドの場合、脳の中で、体性感覚野の後ろの領域が、普通より少し薄いことが分かっています。
どうやら、そこに、本当の自分の体があるようです。

「これぞ自分の足」と思える足の本質は、そこにあるんでしょう。
そして、その足の本質が、肉体の足にマッピングされるわけです。
さらに、肉体の足の表面に体性感覚野の足、足の筋肉に運動野の足がマッピングされるんです。
これらが統合されて、自分の足って感じるんです。
ただ、デヴィッドの場合、脳の中で、足の本質が上手く形成されなかったんでしょう。
たとえとして適切かどうか分かりませんけど、生まれつき足のない奇形と同じようなことが、脳の中で起こったんだと思います。
脳の中の足の本質がなくて、肉体の足だけが付いてる感じです。
だから、自分の足と思えなかったんです。
デヴィッドは、最終的に肉体の足を切断しました。
それで、ようやく完全な体を手に入れたと言ってます。

足一つとっても、これだけの機能が統合されて、ようやく自分の足と思えるんですよ。
自分とか自己を作り出すのに、どれだけ複雑な機能があるのかって分かりますよね。
このことについて、もう少し考えてみます。

たとえば、第298回では、自分と他人を区別する機能の話をしました。
自分で自分の体を触った時と、他人が自分の体を触った時とを区別する機能があります。
統合失調症の人は、その機能が低下してるので、自分で自分をくすぐることができます。
それから、自分の頭で考えたことが、頭の中で、他人の声として聞こえます。
だから、統合失調症の人は幻聴が聞こえるんです。

第299回では、自分の感情を抑える機能が過剰に活動した障害を紹介しました。
悲しい出来事が起こると、悲しいって感じるはずだって脳が予測します。
でも、自分の感情が抑圧されてるので、悲しいって感じません。
すると、予測通りの感情が発生しないいことを無意識が検知します。
すると、意識はどう感じると思います?
これは、自分じゃないって感じるんですよ。
つまり、自分が他人のように感じるんですよ。
これが離人症です。

こんな風に、脳には、自分に関する情報を検出する機能がいっぱいあるんです。
そして、そんな情報が集まってくるのが、島皮質なんです。
正確に言うと、島皮質の後部です。
島皮質の後部に集められた自分に関する情報を統合して、自分って意識を生み出してるのが島皮質の前部です。

さて、ようやく準備が整いました。
こっからが本題です。
なぜ、島皮質の前部で発作が起こった時、恍惚感を感じるのかです。
まずは、時間です。
恍惚発作が起こった時、「時間を感じなくなった」とか、「今、現在って瞬間しか存在しない」って言ってましたよね。

島皮質の前部では、自分に関するあらゆる情報が統合されて自己が生み出されます。
それは、およそ1秒間に8回の割合で行われています。
これは映画やアニメーションと同じです。
1秒間に、何十枚もの静止画を連続して表示すると、動いてるように感じますよね。
それと同じです。
統合された自己が1秒間に8回作られるわけです。
意識は、それを連続した自己の流れとして感じるわけです。
これが時間です。
時間の流れの中に自分を感じるんです。
この時感じる時間は、主観的な時間です。
今、この瞬間が、一瞬後に過去になります。
一瞬先の未来を予測したら、次の瞬間、それが今、現在になります。
そして、予測した未来が、予測通りになったか判定します。
これを瞬間、瞬間に行ってるわけです。
これが、僕らが、感じてる世界です。

さて、ここで島皮質前部で発作が起こりました。
そして、この処理が止まったらどうなるでしょう?
予測した未来が今に来ることもなく、今が過去に流れることもなくなるわけです。
そうしたら、意識は何を感じますか?
それは、今、この瞬間だけです。
永遠の今を感じるわけです。
ドストエフスキーの登場人物も言ってました。
「もう時間は存在しない」って。
ザックは言ってました。
「1時間後、1年後に何が起こるかなんて心配はどこにもない」って。
ジルも言ってました。
「時間を感じなかった」って。
まさに、これが起こったんです。

それじゃぁ、次は、世界です。
ザックは、完璧な世界を感じたって言ってました。
これは、おそらく、予測機能が関係すると思います。
予測機能は、自分の取った行動の後の状態や世界を予測するわけですよね。
行動って、何らかの目的があるから行動しますよね。
何らかの理想の状態、理想の世界があって、そうなるように行動するわけです。
たとえば、理想の体形があったとして、痩せるための行動をするとかです。

たぶん、あらゆる物に、理想の姿、完璧なものがあると思うんですよ。
僕は建築が好きなので、建物を見た時、「この直線は完璧やなぁ」とかって思って見ることがあります。
映画を見ても、「このオープニング、この伏線回収、全て完璧やなぁ」とかって思う作品があります。
音楽でも、「この曲は完璧やなぁ」って曲があります。
まぁ、そんなに滅多にないですけど。
でも、誰しもそういう物を持ってると思うんですよ。
完璧な作品を想定して、あぁ、ちょっと惜しいなぁとか、これは全然ダメやなぁとかって感じるんです。

さて、島皮質です。
島皮質の前部には、理想と現実を比較して、その差分を求める機能があるわけです。
それじゃぁ、発作が起こって、その機能が停止したらどうなるでしょう。
理想と現実の差が0になりますよね。
つまり、この世界、今見えてる世界が完璧になるんですよ。
ザップは言いました。
「テーブルや椅子が完璧に配置されてる」って。
「世界はこうあるべき、こうなって当然っていう妙な確信があった」とも言ってます。
これが起こってたんですよね。

恍惚発作が起こった時、脳内で何がおこったのか、かなり解明されてきました。
でも、まだ、一つ謎が残ってますよね。
それは、体の感覚が消えて、世界と一体となるって感覚です。
ジルも感じた感覚です。
これはどうでしょう?

まず、発作が起こって、理想と現実を比較する機能が停止したわけです。
そしたらら、自分の体と世界との境目が無くなりました。
世界と一体となったわけです。
これ、何を意味するかわかりますか?

発作が起こった時に感じた世界、それこそが、完璧な世界、理想の世界ってことなんですよ。
逆に言うと、理想の世界、完璧な世界ってものが、ここで明確になったんです。

それが、自分と他人、自分と世界との区別がない世界です。
自分と世界が一体となった世界です。

つまり、人は、心のどこかに理想の世界、完璧な世界を知ってるわけです。
だから、この現実世界は、完璧じゃないって思うんです。
どこかに、天国とか神がいると感じるんです。
ザックは言ってました。
自分は無神論者だけど、発作が起こった時、大いなる力の存在を疑うことなどできなかったって。

完璧な世界、理想の世界ってもの、これ、心の中に、誰もが持ってるってことです。
そして、そこでは、自分と世界が一体となってるんです。
もしかしたら、それが、ワンネスと言われるものかもしれません。

つまり、ワンネスって、いつか起こる出来事じゃなくて、誰もが既に心の中に持ってるんです。
外に求めるんじゃなくて、心の内に見出すものなんです。
それに気付くと、今見えてる世界が、違う世界に見えるんじゃないかって思います。

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そらから、よかったらこちらの本も読んでください。
それでは、次回も、おっ楽しみに!