第303回 私はすでに死んでいる コタール症候群


ロボマインド・プロジェクト、第303弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

先日の、テスラの発表、見ましたか?
テスラがロボットを開発するって発表したのは1年前でした。
これが、その時の映像です。

はいはい、すごいロボットですよね。
イーロン・マスクも、だいぶ疲れてるんですかねぇ。

それから1年後の発表が、これです。

いや、ホンマに作ってたんですねぇ。
まず、そこに、びっくりしました。

自動運転で培った技術が生かされてるそうです。
たしかに、ロボットと自動運転は相性がよさそうです。
なんでも2~300万円で売り出す予定らしいです。
いよいよ、ロボットが家庭に入ってくる時代がきます。
「ビール持ってきて」って言うたら、冷蔵庫からビールを持ってきてくれるんでしょう。
たしかに、便利とは思いますけど、ただ、話し相手にはならないと思います。
まぁ、会話ができるとしても、「洗濯して」とか、「お皿洗って」ぐらいでしょう。
なんで話し相手にならないかっていうと、心がないからです。

たぶん、このロボットは、お皿を上手く洗えなくて悩んだり、落ち込んだりはしないでしょう。
ぴかぴかに洗えて、「よっしゃー!」って喜んだりしないでしょう。
ただ、淡々と、仕事をするだけです。

人間なら、落ち込んだり、喜んだりしますよね。
それは、落ち込んだり、喜んだりする主体があるからです。
自分とか自己とか意識と呼ばれるものです。
今のロボットは、自分とか自己を持っていません。
ただ単に、プログラムに従って動いてるだけです。

自分とは何かについて、様々な精神障害から考察してるのが、いつも紹介してる本『私はすでに死んでいる』です。
今回紹介するのは、本のタイトルにもなってる「自分が死んでいる」と思い込む精神障害です。

グレアムは、重いうつ病で、自殺を試みました。
幸い、助かったんですけど、数週間後、おかしなことを言い始めました。
「自分は死んでる」って言うんです。
「見たり、聞いたり、考えたり、話したりできるでしょ。
 だから、あなたは生きてますよ」ってお医者さんも説明しました。
そしたら、「精神は生きてます。でも、脳は、死んでるんです」って言い張るんです。
本気で、自分は死んでると思ってるようです。
医者は、グレアムに、コタール症候群の診断を下しました。

コタール症候群っていうのは、自分が死んでるとか、存在しないって思いこむ精神障害です。
いったい、自分が死んだって、どういう事なんでしょう。
グレアムが言うには、話したり考えたりする精神とはまた別のものがあるそうです。
それが、自分の本質です。
その自分の本質が死んで、残ってるのは、抜け殻だけだそうです。

じゃぁ、グレアムが感じてる自分の本質って、何でしょう?
たぶん、それが人間の核となる部分でしょう。
それを持ってると、心を持った人間になれるんです。
それを失ったら、死んだも同じなんです。

これは、今後、人間と共存するAIロボットを作ろうと思ったとき、絶対必要な部分です。
単に便利なだけのロボットは、心をもってるとは言えません。
そんなの、人間の抜け殻です。
家電の代わりにはなるかもしれないですけど、家族の代わりにはなれません。

このことは、イーロン・マスクも、まだ気付いてません。
ここに、日本が生き残れるチャンスがあるんです。
心を持ったロボットを作るチャンスです。
そのヒントが、コタール症候群から見えてきます。
これが、今回のテーマです。
私はすでに死んでいる
コタール症候群
それでは、始めましょう!

コタール症候群のグレアムは言います。
自分は死んでるから、飲んだり食べたりしたいと感じないし、眠たくもならないので眠る必要がないって。
でも、実際は、食事をするし、睡眠もとってます。
ただ、それをしたいという欲求はすっぽりと抜け落ちてるようなんです。

自分が死んでると思う妄想は、コタール症候群の一例です。
他には、内臓が無くなって、自分は骨と皮だけの存在だって妄想もあります。
それから、自分はエイズにかかってるって妄想もよくあるそうです。
注目したいのは、性感染症の妄想は、1970年代までは、梅毒でした。
つまり、妄想の中身は時代の影響を受けるってことです。

グレアムは、精神は生きているけど、脳は死んでるって言いました。
この妄想も、「脳死」って考えが生まれた社会的背景が影響してます。
いずれにしても、根本的な自分の存在が失われてるって感じるのがコタール症候群です。

それから、コタール症候群のもう一つの特徴として、ひどい罪悪感を感じるっていうのがあります。
例えば、エイズに感染した妄想を持った人の中には、自分がエイズを広げてるとか、エイズの元凶は自分だって思いこんでる人もいます。
また、「自分はヒトラー以下の人間だ」って言う人もいます。
その人は、「自分は人類の敵だから殺してもらいたい」っていいます。
医者が、記録するためにカメラで撮影しようとしたらこういったそうです。
「自分は悪い人間だ。見る人に邪悪なものが移ってしまう」
そういって、シーツを頭からかぶったそうです。
かなりの罪悪感を持っていますよね。

コタール症候群の原因として、重度の鬱が指摘されています。
ある精神科医は、コタール症候群をこう説明します。

一番左端が「正常」です。
その次に、「気持ちが晴れない」、「気分が落ち込んでる」、「気分が激しく落ち込んでる」となって、一番右が「うつ状態」です。
こっから先は、断続的に症状が悪化します。

そして、その最も極端なのがコタール症候群だそうです。

よく、うつになるのは真面目な人が多いっていいます。
だから、コタール症候群の人は、極端な罪悪感を感じたりするわけです。

ここから、コタール症候群の妄想が説明できそうです。
まず、罪悪感に苛まれて、自分は生きる価値はないとか、死んでしまいたいと思うわけです。
そうやって、気分が落ち込んで鬱になります。
それがひどくなると、「生きる価値がない」とか「死んでしまいたい」ってどんどん思うようになります。
そして、これが究極に達すると、「自分は死んでいる」って妄想が生まれるんです。

それらしい説明ができましたよね。
いかにも心理学って解釈です。
それはそれでいいと思います。
ただ、僕は心理学は理系というより文系だと思ってます。
文学作品の解釈としてはいいんですけど、僕にとっては、まだ物足りないんです。
僕が知りたいのは、プログラムに書けるほどの具体性なんです。

その点、この本は、脳のどこで起こってるかまで突っ込んで解説してます。
それでは、そこを見て行きます。

グレアムの脳をMRIとPETでスキャンしたところ、奇妙な特徴が見つかりました。
それは、前頭頭頂ネットワークの活動が極端に落ちていたんです。
ここは、デフォルト・モード・ネットワークとも呼ばれています。
デフォルト・モード・ネットワークっていうのは、何も考えてなかったり、ぼんやりしてる時に活動する脳の神経活動です。

これは、よく、自動車のアイドリングでたとえられます。
自動車って、信号待ちしてるときも、エンジンをかけてアイドリングしてますよね。
走ってなくても、エンジンが動いてる状態です。

脳も同じ状態があるんです。
何かを考えてるわけじゃないけど、活動してる状態です。
自動車の信号待ちと同じで、いつでもすぐに動ける状態です。
これが、デフォルト・モード・ネットワークです。

グレアムは、このデフォルト・モード・ネットワークが静まり返ってたそうです。
それも、尋常じゃないレベルです。
なんと、植物人間と同じぐらいだったそうです。

それじゃぁ、何で、デフォルト・モード・ネットワークが停止すると、自分が死んでるって妄想が生まれるんでしょう。
それは、意識の仮想世界仮説で考えると説明がつきます。
意識の仮想世界仮説というのは、僕が提唱してる心のモデルです。
人は、目で見た世界を頭の中で仮想世界として構築します。
意識は、この仮想世界を介して現実世界を認識します。
これが、意識の仮想世界仮説です。

ここでいう意識というのが、自分とか自己のことです。
そして、仮想世界を創ってるのは無意識です。

ここで重要なのは、意識は、無意識が創った仮想世界を現実と思ってるってことです。
思ってるというか、信じきっていて、疑う事すらできません。

たとえば、人間の目は、眼球の構造上、視界の中に一点だけ、どうしても見えない点があります。
これを盲点っていいます。
でも、そんな見えない点があるなんて、気付いたことないですよね。
それはなんでかって言うと、意識は仮想世界を見てるからです。

仮想世界を創ってるのが無意識です。
じつは、無意識には、絶対的な使命があるんです。
何かわかりますか?

それは、意識に、矛盾のない完璧な世界を提供するってことです。
仮想世界ってバレたら終わりです。
これが無意識の使命です。

ただ、無意識も、目からの情報を受け取ってるので、盲点は見えません。
でも、見えないからといって、世界の一部に穴を開けるわけにはいかないんです。
そこで、無意識は、盲点を塞いで仮想世界を作るんです。
だから、その仮想世界を見る意識は、盲点があるなんて気づかないんです。
無意識さん、さすがでしょ。
でも、無意識のやってることって、こんなの、まだ、序の口です。

たとえば、第244回では分離脳の話をしました。
重度のてんかん患者の場合、左脳と右脳を分断する手術をすることがあります。
すると、左脳と右脳で情報のやり取りができなくなります。
その人の右脳に、「歩きなさい」ってカードを見せたとします。
すると、その人は席をたって歩きだそうとします。
そのとき、「なんで席を立ったんですか?」って質問します。
言葉の解釈は左脳がするので、左脳で答えようとします。
でも、左脳は右脳に見せられた「歩きなさい」ってカードのことは知りません。
そしたら、何て答えたと思います?
なんと、「喉が渇いたから、コーラでも飲みに行こうと思って」って答えたんですよ。

なんでこんなことになったか、わかりますか?
犯人は無意識です。
無意識の使命は、意識に完璧な世界を提供することです。
世界って、目に見える世界だけじゃなくて、自分も世界の一部です。
自分の行動って、自分で決めるもんですよね。
無意識は、そういう自分を作るんですよ。
もし、理由もなく行動するようになったら、自分ってものを維持できないじゃないですか。
そうならないように、完璧な自分を作り上げるのが無意識の役割です。
だから、「なんで席を立ったんですか?」って聞かれたら、無理やりでも理由を作り出さないといけないんですよ。
それが、「コーラでも飲みに行こうと思って」です。
わかってきましたか?
無意識と意識の関係。

完璧な自分を創り出すのが無意識の使命です。
どんなおかしな状況であっても、意識に、矛盾のない「自分」を提供するんです。

たとえば、第299回では、感情を過剰に抑制する精神障害を紹介しました。
脳には、状況から、発生する感情を予測する機能が備わっています。
悲しい出来事が起こったら、悲しいって感じるだろうって予測する機能です。

ところが、その人は、感情が抑制されているので、感情が発生しません。
つまり、悲しいって感じるはずって予測してるのに、自分は、悲しいって感情を感じないんです。
そんな場合でも、無意識は、矛盾のない自分を創らないといけません。
じゃぁ、無意識はどうしたと思います?

それは、この体は、自分じゃないって自分を作るんですよ。
そしたら、意識は、どう感じると思います?
自分の体が、他人のように感じるんです。
他人を見てるように感じるんです。
これが離人症です。

さて、コタール症候群です。
コタール症候群は、デフォルト・モード・ネットワークが停止しています。
デフォルト・モード・ネットワークって、生きてる限り、絶対に動いてる機能です。
無意識は、これを受けて矛盾のない自分を作らないといけません。
それじゃぁ、どんな自分を作ったでしょう?

そう、それが死んでる自分です。
死んでる自分を作り出したんです。

そして、意識は、それを感じます。
無意識が創り出したものは、意識にとっては真実です。
どんなにおかしくても、意識は疑うことなどできません。
だから、自分は死んでるって、本気で思ってるんです。
医者がいくら説明しても、納得しません。
無意識は、いくらでも、矛盾のない理屈を作り出します。
それが、グレアムの場合、脳が死んだってことです。
医者がいってる生きてるっていうのは、精神のことだ。
でも、自分の本質は脳です。
その脳が死んでるって。
脳死してるって。

脳死って言葉がない時代は、内臓がなくて、骨と皮だけの存在になったとかって思うわけです。
いずれにしても、自分の本質は死んでるって思ってるわけです。
これが、コタール症候群です。

どうでしょう?
コタール症候群が発生する仕組みが、かなり具体的に説明できましたよね。
このぐらい具体的になると、プログラムで書くことができます。
つまり、自我をもったAIロボットを作れそうです。

そして、世界で唯一、自我を持ったAIを作ろうとしてるのが、ロボマインドです。
ぜひ、ロボマインドを応援してください。
それから、今回紹介した意識の仮想世界仮説に関しては、この本で詳しく解説してるので、興味ある方は読んでください。
今回の動画が面白かったら、チャンネル登録、高評価お願いしますね。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!