第307回 意識の進化のさせ方


ロボマインド・プロジェクト、第307弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

意識を科学で扱おうって機運が高まってきたのは20世紀も終わりごろです。
第一回の意識の国際会議が開かれたのが1997年です。
僕も、その頃から意識とは何かについて、ずっと考えていました。

最初の会議で提示された問題が、意識のハードプロブレムです。
提示したのは、オーストラリアの哲学者、デイヴィッド・チャーマーズです。

神経細胞の活動を順に追って分かる問題をイージープロブレムとします。
たとえば、目で捉えた視覚情報から縦じまを抽出するとかって処理は、神経細胞の観察でわかります。
それに対して、意識の主観的経験は、神経細胞の活動を追っても見えてきません。
主観的経験というのは、これは縦じまだって感じる側のことです。
つまり、縦じまって分類する処理まではわかります。
でも、分類した結果を感じてる側の存在、つまり意識の存在は、神経細胞をいくら探しても見えてきません。
このことを指して、意識のハードプロブレムといいます。

それから20年以上経つんですけど、意識のハードプロブレムは、未だに解明されていません。
どうやって意識が生れるのかすらもわかっていません。
意識は、量子力学的現象なので、量子コンピュータでないと意識は生まれないとかって意見もあります。
意識なんか存在しないって意見もあります。
未だに、意識の定義すら決まってないのが現状です。

一方、僕は、一人で意識の研究してきて、自分なりに分かってきたことがあります。
僕の考えでは、意識というのは、段階的に進化します。

たとえば、カエルとか魚とか、環境に反応するだけの生物がいます。
この段階の意識を意識レベル1とします。
そこから進化して、哺乳類になると考えて行動できるようになります。
それを意識レベル2とします。
さらに進化して、人間になると、複雑な言葉をしゃべるようになります。
これを意識レベル3とします。

こうやって整理すると、いろんなことが分かってきます。
たとえば、今のAIは、意識レベルは1といえます。
今のAIというのは、ディープラーニングとか機械学習のことです。
意識レベル1と意識レベル2は、根本的な仕組みが違います。
だから、今のAIの延長では、レベル2に進むことはできません。
そこに立ちはだかるのが意識のハードプロブレムです。
意識のハードプロブレムの根本問題は何か。
それも、意識の進化をみれば分かってきます。
このことを、今回はわっかりやすく解説しようと思います。
これが今回のテーマです。
意識の進化のさせ方。
それでは、始めましょう!

意識には、有名な思考実験がいくつかあります。
思考実験っていうのは、何かにたとえて、理解しやすくするものです。
ただ、たとえがまずいと、逆に本質が見えてきません。

たとえば、意識の随伴現象説というのがあります。
これは、意識を工場の煙にたとえるものです。
工場で何かを製造すると、煙がでますよね。
でも、煙を出したらからと言って、工場で何かが製造されるわけじゃないですよね。
人間の意識もこれと同じだってことです。
つまり、人が、何らかの活動をしたとき、おまけとして現れるのが意識だってことです。
意識の存在は認めるけど、現実の活動には影響を与えないってことが言いたいわけです。
もっと言えば、脳の活動の結果として意識が現れるけど、意識が脳の活動に影響を与えることはないってことです。
茂木健一郎さんなんかがこの立場を取っています。
このたとえ、どうなんでしょうねぇ。

考察は後にして、別の思考実験も紹介します。
哲学的ゾンビって有名な思考実験があります。
哲学的ゾンビっていうのは、意識を持ってないけど、人間と全く同じように振る舞うゾンビのことです。
意識がないっていうのは、主観的経験をしないってことです。
つまり、痛いとか、お腹が空いたって感覚や、嬉しいとか悲しいって感じないってことです。
ただ、僕らと同じようにしゃべったり、笑ったり、泣いたりします。
見た目じゃ、感情があるように見えても、内面では何も感じてません。
これが哲学的ゾンビです。

僕らは泣いたり、笑ったりしますよね。
そのとき、楽しみや悲しみを感じますよね。
この楽しみや悲しみは意識で感じるもので、物理的に観測できません。
でも、間違いなく感じますよね。

哲学的ゾンビの思考実験で何が言いたいかわかりましたか?
それは、物理的に観測できなくても、確実に存在するものがある。
それが意識だってことです。
つまり、物理的には観測できなくても、意識というものが確実に存在するってことをいいたいわけです。
この思考実験を考えたのは、意識のハードプロブレムを提唱したデイヴィッド・チャーマーズです。

さて、さっきも言いましたけど、思考実験って、たとえを間違うと、正しい答えに辿り着かないんですよ。
余計に混乱を招くだけです。
それじゃぁ、意識のたとえとして、もっと適切なものはないんでしょうか?
僕なりに、それは見出しています。
それは、コンピュータです。

それじゃぁ、コンピュータでたとえてみますよ。
たとえば、PCで作った文書をプリンタで印刷するとするでしょ。
そのとき、PCからプリンタへ文書データや、プリントコマンドを送って印刷しますよね。この処理をしてるのはプログラムですよね。

これを人間と対比させてみます。
すると、実際に動くプリンタが体に該当します。
PCが頭です。
PCの中のCPUが脳です。
そして、CPUで動いてるプログラムが意識というわけです。

これと、意識の随伴現象説とを比べてみましょう。
随伴現象説だと、工場を稼働したとき、おまけとして生まれるのが煙でしたよね。
それじゃぁ、プログラムって、印刷するときのおまけでしょうか?
違いますよね。
逆です。
プログラムがプリンタを制御して、印刷してるんです。
「たとえ」を変えると、全然、違ったものが見えてきますよね。
意識というのは、体が動いた結果として現れる煙というより、体を制御してるプログラムって考えた方が、しっくりきますよね。
コンピュータに例えるのは悪くなさそうです。

それじゃぁ、次は、哲学的ゾンビを考えてみましょ。
今度は、プリンタでなくて、お掃除ロボットルンバで考えてみます。
ルンバは、壁にぶつかると、バックして向きを変えて掃除の続きをします。
さて、ここに意識レベル1のルンバと、意識レベル2のルンバがあるとします。
どちらもプログラムで制御されています。
意識レベル1のルンバは、環境に反応するだけの意識プログラムです。
つまり、壁にぶつかるとバックして向きを変えるってプログラムで動いています。
意識レベル2のルンバは、考えることができます。
壁にぶつかりました。
「おっと、壁にぶつかったぞ。
これじゃぁ、掃除を続けることはできないなぁ。
そうだ、ちょっとバックして向きを変えれば、掃除を続けれるぞ」
そう考えて、バックして向きをかえて掃除を続けます。

この二台のルンバ、外からみただけじゃ、見分けがつかないですよね。
でも、一方のルンバは考える意識を持っています。
哲学的ゾンビと同じですよね。

外から観察して違いがわからないということは、意識レベル1と意識レベル2の違いは、プログラムの中身となりますよね。
少なくとも、量子現象とか、そういったことじゃなさそうです。
それじゃぁ、意識レベル2のプログラムって、どういうものでしょう?

ここで、動物の例で考えてみます。
子どもの頃、シートンの動物記が好きでよく読んでたんですよ。
その中に、ハイイログマのワーブの物語がありました。
クマは、木の幹に爪痕をつけて、自分の縄張りを示すそうです。

縄張り争いは、体が大きい方が勝ちます。
だから、なるべく幹の上の方に爪痕を付けます。
後から大きなクマが来て、今の爪痕より上に爪痕を残せば、今までいたクマが、その縄張りから出なければいけません。

ワーブは、かなり体が大きくて、長い間い、その辺りの森を縄張りにしていました。
ところが、ある時、自分よりはるか上に爪痕を付けられたそうです。
とんでもなく大きなクマがやってきたみたいです。

ところが、じつは、そうじゃなかったんです。
爪痕を残したのは、それほど体が大きい熊じゃありませんでした。
そのクマは、倒木を運んできて、その上に乗って、ワーブの爪痕のさらに上に爪痕を刻んだのでした。
用が済んだ木は、バレないように、ちゃんと移動させます。
かなりずる賢いですよね。
考えて行動できるレベル2の意識を持っていると言えます。

さて、以上を踏まえて、意識レベルを整理してみます。
意識レベル1のルンバは、外部の環境に反応して行動するだけです。
とはいっても、環境にあわせた学習はできます。
最適な掃除ルートを学習するとかです。
これは、今のAIがやってることです。
機械学習やディープラーニングで出来ることです。

これに対して、クマは、考えて行動できる意識レベル2を持っています。
それでは、クマとルンバ、本質的な違いはどこにあるでしょう?
一番の違いは、直接、現実世界を経験してるかどうかってことです。

どういうことかと言うと、ルンバは、壁にぶつかるって経験をします。
これは、現実世界を直接経験してると言えます。
クマの場合、相手と直接戦ってたわけじゃないですよね。
強さを決めてたのは爪痕の高さです。
これ、何かわかりますか?
これ、一種の記号です。
強さって意味を持った記号です。

これなんですよ。
意識レベル1と意識レベル2の最大の違いは。

記号って、それ自体には価値はありません。
同じ記号に対して、社会が同じ価値を共有することで、意味のある記号となるわけです。

人間社会なら、お金です。
紙切れに、1万円の価値があるって、社会全体で共有してるからお金が成立するんです。

意識レベル2は、記号を使ってコミュニケーションが取れる意識です。
そして、その次の段階が人間の意識レベル3です。
複雑な言語を操れる意識です。

今回は、レベル3は置いといて、レベル1とレベル2について、もう少し深掘りしていきます。
まず、レベル2の意識は、現実世界に存在するものを記号化しますよね。
記号化するということは、物理世界と切り離されてるってことです。
そして、記号に価値とルールを持たせて、それを社会で共有してるわけです。
つまり、物理世界と切り離された世界を創ったわけです。
そして、意識は、その世界を認識するんです。

さて、外から観察できるのは物理世界だけですよね。
AIロボットの最近の流行りは、世界モデルを作ることです。
センサーから取得したデータで、机や椅子のある物理世界のモデルを作ります。
その時に使う理論として注目されているが自由エネルギー原理です。
自由エネルギー原理というのは、変分自由エネルギーとよばれるコスト関数を最小化するように確率統計的な推論をしてモデルを作るものです。

これで、物理世界のモデルは作れます。
そして、そのモデルを認識するのは、レベル1の意識です。
レベル1の意識は、記号を扱えません。
なぜなら、記号の意味は、現実世界から切り離されているからです。

これが、レベル2の難しい所なんです。
現実世界と切り離されているので、現実世界をいくら学習しても記号の意味はわからないんです。
これが、今のAIの限界なんです。
これは、僕が言ってるだけじゃありません。

先日、ヤン・ルカン氏のインタビューが話題となりました。
ヤン・ルカン氏は、畳み込みニューラルネットワークの発明者の一人で、現在のAIを牽引してきた第一人者です。

インタビューで、ルカン氏は、確率統計学的アプローチだけで世界モデルを作るのには無理があると断言しています。
機械学習の確率論だけで全てが解決すると信じてる人のことを宗教的確率論者とまで言ってます。
全く新しいアプローチが必要ですけど、それが何かまではルカン氏も分らないようです。

さて、今回の話で、なぜ、今のAIだと、レベル2に進むのが難しいのかが見えてきましたよね。
一番の壁は記号です。
現実世界にある物を記号化することによって、意識が認識する世界が、現実世界から切り離されたわけです。

じつは、これ、意識のハードプロブレムと同じことなんです。
意識が認識するのは、記号化された世界です。
それは、物理世界の観察からは、決して辿り着けない世界です。
まさに、意識のハードプロブレム、その物ですよね。
それじゃぁ、レベル2の意識は、作れないのでしょうか?

そうではありません。
今までのアプローチでは無理ですが、全く別のアプローチなら可能です。

クマの社会を思い出してください。
木の爪痕の意味を理解してるのは誰でした。
それは同じ社会で生きてるクマでしたよね。
お金の価値を理解してるのは誰ですか。
それは、同じ社会で生きてる人間ですよね。
もっと言えば、人間の意識です。
レベル2の世界は、物理世界からは到達できないですけど、同じ意識をもってる者なら到達できます。
つまり、我々人間の意識です。
レベル2の意識を作るには、人の意識からアプローチする必要があるんです。
レベル1は、物理世界のデータを統計処理して世界モデルを作りました。
つまり、レベル1では、人を排除してました。
レベル2は、その逆のアプローチとなるんです。
人が主観的に感じることを体系化して世界モデルを作るってやり方です。

そして、そのやり方で、レベル2以降の意識を作ろうとしてるのがロボマインドです。
このアプローチは、世界では、まだ誰もやっていません。
具体的な中身に関しては、次回、詳しく説明しようと思います。

はい、今回の動画がおもしろかったら、チャンネル登録、高評価お願いしますね。
それから、ロボマインドの意識理論の中身は、こちらの本で詳しく解説してるので、良かったら読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!