ロボマインド・プロジェクト、第309弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。
最近は、AIってディープラーニングとか機械学習しか知らない人がいますけど、AIって大きく分けて二種類あります。
そのうちの一つが、大量のデータをニューラルネットワークで学習させる今のAIです。
もう一つは、「AならばB」とかって人がルールを教えるタイプで、これをルールベースって言います。
じつは、AIって、この二種類のアルゴリズムしかないんですよ。
でも、AIって、人間のような知能を目指してますよね。
人間の心を作るのに、この二種類のアルゴリズムって、ちょっと少なすぎますよね。
でも、これにはAIの歴史が関係あるんです。
最初のAIの目標は、パズルを解いたり、チェスで人間に勝つってことでした。
そのために生み出されたのがニューラルネットワークとルールベースの二つです。
その後、人間のようなロボットを作りたいとか、人間と普通に会話もさせたいって、目標がだんだん高くなってきたんです。
それなのに、いつまでも、パズルを解くのと同じやり方で解決しようとしてるんですよ。
AIって、最先端の技術のようで、じつは、やってることは60年前とあまり変わってないんですよ。
コンピュータパワーが増えて、ニューラルネットワークの階層が増えただけなんです。
人間と同じ意識や心を作ろうとするなら、もっと違う視点が必要じゃないかって思いますよね。
たとえば、心とか、意識なら、哲学者とか心理学者が昔から考えてました。
そんな理論が使えるんじゃないでしょうか。
でも、そうはいかないんですよ。
哲学とか心理学って、抽象的な概念ばかりで、具体性に欠けるんですよ。
そう言うと、「そんなことはない」って反論がありそうです。
ただ、ここでいう具体性っていうのは、プログラムで実現できるぐらいの具体性です。
たとえば、人間は理性があるとかって哲学者は気軽にいいますけど、じゃぁ、理性をプログラムにできますかって話です。
仮にできたとして、じゃぁ、理性が心かって言うと、そうでもないですよね。
じゃぁ、今のAIに、根本的に欠けてるものって何でしょう?
それは、おそらく、システムの全体像です。
心のシステムの設計図です。
システムは、いくつかのプログラムモジュールを組み合わせて作ります。
プログラムモジュールって、何らかの機能や計算をするものです。
その計算の中身が、ニューラルネットワークとか、ルールベースとかってアルゴリズムです。
こうしてみると、今のAIって、システムの一部の議論しかしてないんですよ。
ディープラーニングで画像認識がうまくできたとかです。
誰も、心のシステム全体がどうなってるかなんて考えてないんですよ。
これって、おかしいでしょ。
先に考えるべきは、システムの設計です。
じゃぁ、システムを設計するのは、誰でしょう?
プログラマーでも哲学者でもないです。
それは、システムエンジニア、SEです。
そこで、SEの端くれとしての僕が、心のシステムを設計してみました。
そしたら、哲学者じゃ考えたことのないようなものが浮かび上がってきました。
これが、今回のテーマです。
SEが本気で心を設計したらこうなった
それでは、始めましょう!
いきなり、人間の心を設計するのは難しいので、心を簡単な部品に分解していきます。
前回、第308回では、爬虫類の脳と哺乳類の脳に分解しました。
これは、生物学の視点での分解です。
これを今回はSEの視点で分解していきます。
僕らは、目の前にある現実世界を見てますよね。
机があるとか、椅子があるとかって見てますよね。
でも、そう思うのは、哺乳類の脳を持ってるからです。
爬虫類の脳は、世界があるなんて、思わないんです。
つまり、生物は、二種類の認識の仕方があるんです。
これを盲視で解説します。
盲視というのは、眼球は問題ないけれど、脳の損傷で目が見えなくなった脳障害です。
盲視患者にリンゴを見せて、「何が見えますか?」って聞くと、「見えないのでわかりません」って答えます。
次に、レーザーポインターで黒板を指して、「光の点がどこかわかりますか?」って聞きます。
すると、当然、「見えないのでわかりません」って答えます。
そこで、「あてずっぽいうでもいいので指で指してください」っていうと、なんと、ちゃんと指差しできるんです。
本人に、「なんでわかったんですか?」って聞いても、わからないって答えます。
本当に、あてずっぽうで答えてたようなんです。
目からの情報は、まず、後頭部の一次視覚野に送られます。
そのあと、側頭葉の腹側視覚路と、頭頂葉の背側視覚路の二つの経路に分かれます。
腹側視覚路は、物の色や形を分析する経路で何の経路とも呼ばれます。
背側視覚路は、位置や動きを分析する経路でどこの経路とも呼ばれます。
盲視患者は、このうち、何の経路を損傷して、どこの経路が生きています。
だから、空間的な位置には反応することができるんです。
どこの経路は、進化的に古い経路で、何の経路は新しい経路ということもわかっています。
つまり、どこの経路は、爬虫類も持っていて、何の経路は、哺乳類から持っていると言えます。
さて、こっからSEの視点でシステムを設計していきます。
目からの視覚情報は、カメラからの画像データとなりますよね。
指差しをするっていうのは、視覚情報を基に外界に反応するシステムといえますよね。
これが爬虫類のシステムです。
人は、目の前にリンゴがあるって認識します。
リンゴって認識できるのは、リンゴっていうものを知ってるわけですよね。
赤くて丸くて甘い果物だってことです。
でも、カメラからの画像データには、そんな情報は含まれてないですよね。
カメラからの画像データって、赤青緑の3色の点々の集まりです。
でも、僕らはリンゴだって認識してます。
こらができるのは、画像データを見てるんじゃなくて、リンゴってものを作り上げて、それを認識してるからです。
これをコンピュータで実現するとすれば、まず、何もない三次元空間を作ります。
そして、そこに赤くて丸い3Dのリンゴオブジェクトを配置します。
味は甘いとか、果物の一種とかってデータも持たせます。
3Dオブジェクトの表面に、目からの視覚情報を貼り付けるわけです。
これが、僕らが認識してる世界です。
つまり、僕らが認識してるのは、自分で作った仮想世界というわけです。
これが哺乳類の心のシステムです。
世界があると思うタイプのシステムです。
それじゃぁ、爬虫類の心のシステムは、どうなんでしょう。
レーザーポインタの光の点を指差ししてましたよね。
それには、まず、画像データから光の点を抽出します。
そして、その点に自分の指を向けるわけです。
つまり、爬虫類は、視覚情報に反応して体が動くシステムとなっています。
それじゃぁ、この爬虫類は、世界をどう感じてるでしょう?
というか、世界があるとか、そんな風には感じてないはずです。
世界があるって思うには、世界を作りだして、それを認識しないとできません。
つまり、爬虫類は、世界があると思わないタイプのシステムです。
それじゃぁ、現実を見てるのはどっちでしょうか?
それは、爬虫類です。
だって、爬虫類は、目からの情報を直接見てますから。
哺乳類が見てるのは、視覚情報を基に作り上げた仮想世界です。
現実世界を見てないんですよ。
じゃぁ、どっちが正しく世界を把握してるでしょうか?
それは、哺乳類です。
この世界は三次元とか、リンゴは甘いとかって、正しい認識ですしね。
そして、そう認識できるのは、自分で仮想世界を作り出してるからです。
逆に言えば、現実を直接見ながら、なおかつ、世界を正しく認識することなんてできないんです。
哺乳類は、現実を直接見ることを諦めたとも言えます。
その代わりに得るものがあったわけです。
それは、世界をより正しく認識することです。
それと、もう一つ、重要なものを獲得しました。
世界を認識するために、仮想世界を作りましたよね。
仮想世界って、作っただけでは意味がなくて、それを認識するものがないといけません。
それが意識です。
もっと言えば、この自分です。
自我です。
自我を手に入れたんです。
じゃぁ、自我を得て、何か、嬉しいことがあるんでしょうか?
大ありです。
それは、認識してから行動できるようになったんです。
つまり、認識した後、どう行動するか、自分で決めることができるようになったんです。
これ、何を意味するか分かりますか?
それは、自由意志です。
リンゴを見て、すぐに食べるか、後から食べるか自由に決めることができるようになったんです。
これは大きいですよね。
現実を直接見ることをあきらめて、その代わりに自由意志を手に入れたわけです。
じゃぁ、現実を直接見ないことで、失ったものはないんでしょうか?
ないことはないです。
それは、何かというと、「今」、という瞬間です。
どういうことかというと、僕らが認識してるのは、無意識が創り出した仮想世界でしたよね。
仮想世界を作るのに、ちょっと時間がかかるんです。
0.1秒~0.5秒ぐらいといわれています。
つまり、僕らが感じてる今っていうのは、0.数秒前の今なんです。
まぁ、0.数秒ぐらいなんで、そんなに問題はないです。
ただ、そのことを理解してない人が多くて、たまに、とんでもない間違いをします。
有名なのが、リベットの実験です。
リベットの実験って、自由意志がない根拠として、必ず取り上げられる有名な実験です。
リベットの実験の間違いについては、この間出版した『ドラえもんの心の作り方』第二巻で詳しく解説してるので、よかったらそちらを読んでください。
それより、重要なのは、僕らの意識は、常に、0.数秒遅れてるってことです。
これは、0.数秒ごとに、世界を認識してるってことです。
もっと言えば、0.数秒周期で世界を作ってるってことです。
このことを、SEの視点で読み解いていきます。
組み込み系システムってあります。
携帯電話とか自動車とかに組み込まれるシステムのことです。
組み込み系のプログラムって、僕らが普段使うPCのプログラムと決定的に違うとこがあるんです。
それが何かって言うと、それは、リアルタイム性です。
自動車で、ブレーキが踏まれたらすぐに反応しないといけませんよね。
ほかの処理してるから、その処理が終わってからブレーキ処理しますなんてやってたら危なくて仕方ないです。
つまり、リアルタイムに反応しないといけないんです。
この組み込み系システムに搭載されるOSのことをリアルタイムOSっていいます。
人間も、現実世界で動作するシステムと考えたら、人間の心もリアルタイムOSとなります。
じゃぁ、リアルタイムOSって、どういう仕組みなんでしょう?
それは、一種の監視プログラムです。
ブレーキが踏まれたか、アクセルが踏まれたか、ずっと監視してるわけです。
それを、1秒間に何回も監視してるわけです。
プログラムだと、これは、無限ループで実現します。
1秒間に何回転もするループ処理です。
このループが、1分に一回じゃ、役に立たないです。
ブレーキを踏んで、一分後にブレーキが利き始めても困りますし。
0.1秒ぐらいにならないと、実用的じゃないです。
そのぐらいなら、違和感なく、瞬時に反応してるって感じます。
瞬時に反応してるって感じるってことは、僕らも、0.1秒ぐらいを「今」と感じてるってことです。
僕らの感じてる「今」は、0.1秒ぐらいってことです。
どうです?
これが、SEの視点から見た心のシステムです。
心のシステムの基本は、0.数秒周期で世界を作るってことです。
世界だけじゃありません。
自分もです。
世界も、自分も、0.数秒周期で生成するんです。
このことは、脳科学でも明らかとなっています。
第302回で、脳の島皮質の話をしました。
島皮質というのは、側頭葉の奥に隠れた部位です。
島皮質の後部に、体の感覚とか、感情とか自分に関するあらゆる情報が集められます。
そして、それが島皮質の前部でまとめられて統合した自分って感覚が作り上げられるんです。
それは、1秒間に約8回、作り上げられるそうです。
つまり、0.125秒周期で統合した自己が作り上げられるんです。
これが自我の正体です。
SEが心を設計すると、こうなるんです。
世界や自分を感じる心をつくるには、何が必要かってわかってきましたよね。
それは、リアルタイムOSです。
心のリアルタイムOSです。
そして、OSの上で動くのがプログラムです。
そのプログラムの一つに、物を認識するプログラムがあるわけです。
物の認識プログラムとして、ディープラーニングがうまく機能するってことがわかってきました。
AIが対象としてるのは、この部分です。
哲学者が語る理性とかも、OSの上で動くプログラムの一種です。
理性のプログラムは、たぶんルールベースでつくることになるでしょう。
システム全体がわかると、いろんなことが整理されてきます。
システムの基盤となるのは、0.数秒周期の無限ループで仮想世界を作るリアルタイムOSです。
朝、目が覚めた時、このシステムが起動するわけです。
仮想世界と自分を作り出すんです。
そうやって、世界と自分を認識します。
自分が、世界とリアルタイムで同期するわけです。
「あぁ、今日も学校へ行かなきゃ」って。
「しまった、今日は数学のテストがあるんやった」って。
ようやく人間らしい心の基盤ができましたね。
次回からは、いよいよ、このOSの上に、人間の心のプログラムを実装していきますよ。
見逃したくない方は、チャンネル登録、お願いしますね。
それから、今回の動画が面白いと思ったら高評価もお願いします。
あと、動画で紹介した「ドラえもんの心の作り方」の本は、こちらになります。
よかったら、こちらも読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!