ロボマインド・プロジェクト、第310弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。
新しい概念を理解するときって、「たとえ」って大事ですよね。
今まで知ってるものでたとえたらイメージできるし、理解しやすいです。
これをさらに押し進めたのが思考実験です。
思考実験は、新しい理論を作る強力なツールになります。
意識を解明するのにも、いろんな思考実験がありました。
有名なのは、第307回で紹介したデイヴィッド・チャーマーズの哲学的ゾンビです。
哲学的ゾンビっていうのは、見た目は人間とそっくりですけど、内面的な経験を感じません。
これ、意識が存在するって証明のための思考実験です。
ただ、意識がどんな風に動くとかって、意識の解明には使えないんですよ。
そこで、僕が提案したのが、意識とは、コンピュータのプログラムだって思考実験です。
ハードウェアとしてのCPUが脳で、その上で動くソフトウェアとしてのプログラムが意識ってことです。
プログラムでたとえることで、意識とは、どんなプログラムかって問題に置き換えることができます。
これで、ようやく、意識の中身の議論ができるようになりました。
ただ、これだけじゃ、まだ大雑把すぎるんですよ。
どんなプログラムかのイメージが出てこないんですよ。
もう一段進めるには、次のたとえが必要です。
そこで、新しい思考実験を考えました。
それは、飛行機です。
まぁ、ちょっと、インパクトには欠けますけどね。
その点、哲学的ゾンビって、つかみとしてはうまいですよねぇ。
インパクトは薄いですけど、この思考実験、最後まで説明聞いたら、「おぉ、確かに、意識って飛行機や」って思います
これが、今回のテーマです。
意識をもった飛行機
それでは、はじめましょう!
意識を考えるとき、みんなが間違ってるのは視点なんですよ。
僕らは、これは意識か、これは意識じゃないとかって判断するでしょ。
じゃぁ、それを判断してるのは何ですか?
それは、自分の意識でしょ。
なんか、しっくりいかないですよねぇ。
意識って、自分の内側にあるもんです。
内側にあるもので、外から判断するってとこが、なんかしっくりいかないんですよ。
じゃぁ、どうしたらいいんでしょう?
たとえば、意識とはこういうものだってモデルを作ったとするでしょ。
次にやるべきことは、自分がそのモデルになるんです。
中に入り込んで、ちゃんと動くか確認するんです。
これが正しい意識の判断の仕方です。
この視点が重要なんですよ。
そこで、内側から意識を観察してみたって話を第308回でしました。
スキーを習ったとき、はじめ、頭で考えてたらうまく滑れなくて、慣れてくると、すいすい滑れるようになったって僕の体験談です。
すいすい滑ってる時使ってるのは、体のバランスを制御する小脳です。
小脳って、は虫類でももってます。
つまり、スキーするとき、は虫類の脳をつかってたわけです。
それから、僕は犬になりきって生活してた時もあります。
これは、犬には何ができて、何ができないかってことを調べるためでした。
つまり、哺乳類の脳は何ができるかを調べてたわけです。
こんな風にして、は虫類の脳、哺乳類の脳を内側から解明してきたんです。
トカゲや犬を外から観察しただけじゃ、脳の中で、どんな処理をしてるかなんかわからないですよね。
でも、自分の脳を使えば、内側から感じることができます。
これが、内側からの視点で解明するってことです。
脳と意識の関係は、コンピュータとプログラムと同じだっていいましたよね。
これも、同じように内側から考えようとしたんです。
ただ、今度はうまくいかなかったんですよ。
プログラムって、関数を組み合わせて作ります。
関数っていうのは、データが入力されると何らかの計算をして答えを出力する小さいプログラムです。
たとえば、足し算関数は、AとBが入力されると、A+Bを計算した答えを出力します。
画像認識とかも同じです。
画像データを入力すると、画像解析してリンゴとかって出力するわけです。
無意識にはこんな処理関数がいっぱいあるわけです。
そして、無意識の処理結果を受け取るのが意識関数です。
無意識からリンゴがあるって処理結果を受け取ったら、意識関数は、行動として出力します。
たとえば、今すぐ食べようとか、食後に食べようとかです。
そうやって考えれば、意識のプログラムを作れますよね。
って思ってたら、これじゃぁダメなんですよ。
だって、これって、プログラムを外から見てるでしょ。
意識の中身を感じ取れないんですよ。
意識の中身を理解するには、プログラムの中に入らないといけないんですよ。
犬に成りきって過ごすみたいに、自分がプログラムになるんですよ。
プログラムの気持ちになるんですよ。
でも、どうやったら、プログラムの気持ちがわかるんでしょう?
ようやく、最初の話に戻ります。
そこで、新たな思考実験が必要になるんです。
それが飛行機です。
こっからが本題です。
飛行機にたとえるといっても、飛行機そのものじゃないです。
飛行機の操縦です。
飛行機の操縦には二種類あります。
一つは有視界飛行方式で、もう一つが計器飛行方式です。
有視界飛行方式っていうのは、目で見て操縦する方法です。
一番普通の操縦方法です。
でも、飛行機って、天気が悪いと、視界がほとんどゼロっていうこともあるんですよ。
そんなとき、計器だけ見て飛行するんですよ。
これが計器飛行方式です。
わかってきましたか?
つまりね、意識プログラムの中の処理って、計器飛行するときの操縦士と同じなんです。
この時の操縦士が何を考えてるかを想像するんです。
これが意識プログラムの中身、そのものになるんです。
ここで、意識の仮想世界仮説について説明しておきます。
人は、目で見た現実世界を、頭の中で仮想世界として構築します。
意識は、この仮想世界を介して現実世界を認識します。
これが、意識の仮想世界仮説です。
つまり、意識は現実世界を直接見てるわけじゃないんです。
見てるのは、無意識が創りだした仮想世界です。
仮想世界として、今までは3DCGを例に挙げていました。
現実世界そっくりの仮想世界を3DCGで作るわけです。
これは、イメージしやすいですよね。
でも、このたとえ、ちょっと誤解を招きやすいんです。
現実そっくりの3DCGを見るのも、現実世界そのものをみるのも、僕らの意識からしたら一緒じゃないですか。
そう勘違いしないように、意識は3Dオブジェクトを認識するんだって説明してきました。
オブジェクトは、形や色ってプロパティを持ってます。
リンゴオブジェクトなら、丸くて赤いとか。
目で見えるもの以外に、重さとか、甘いって味とか、果物って意味までデータとして持たすことができます。
意識は、そういったデータを認識するんだって。
これで少しは伝わったかもしれないですけど、まだ、ピンとこないと思うんですよ。
そこで、飛行機の操縦です。
窓から見える光景が現実世界です。
下には海が見えて、右手に山が見えるとかです。
それが、天気が悪くて視界がゼロになりました。
窓から何も見えません。
つまり、現実世界が見えないわけです。
見えるのは、計器だけです。
速度とか、高度とか、マップとか、そんな情報だけを頼りに飛行します。
計器が示すデータって、現実世界から取得して、パイロットにわかるように提示したものですよね。
つまり、現実世界から構築したオブジェクトです。
それを認識して、操縦するのがパイロットです。
ねぇ、計器飛行するパイロットって、意識プログラムそのものでしょう。
現実世界は直接見えないわけです。
パイロットが直接見るのは、オブジェクトとかプロパティだけです。
パイロットは現実世界から切り離された操縦室にいます。
このたとえ、中国語の部屋って、有名な思考実験を思い出します。
徹子の部屋に似てますけど、ちょっと違います。
提案したのは哲学者のジョン・サールです。
簡単に説明します。
中国語を理解できない人を小部屋に閉じ込めて、マニュアルに従って作業させるんです。
外から中国語で書いた質問の紙が入れられます。
中の人は、その文字を見て、マニュアルに書かれたとおり処理して中国語を書き出すんです。
すると、それが質問の答えとなります。
それを受け取った外の人は、中には、中国語を理解してる人がいるって思いますよね。
でも、中の人は、中国語なんか一切理解してないわけです。
さて、この思考実験、何が言いたいかわかりますか?
中の人というのはコンピュータのたとえです。
つまり、この思考実験、質問に答えられるコンピュータができたとしても、そのコンピュータは、意味を理解してるわけじゃないってことをいいたいわけです。
これ、どう思います?
こんなのに騙されたらだめですよ。
この思考実験、どこに問題があるかわかりましたか?
これ、コンピュータにたとえるべきは、中の人じゃなくて、マニュアルのほうなんです。
中の人は、コンピュータの指示にしたがって文字を出力してるだけです。
つまり、プリンタです。
プリンタは言葉の意味を理解してないって、当たり前のことをいってるだけです。
これが、思考実験の間違った使い方です。
ジョン・サールは、コンピュータは意味を理解できないってことを言いたいために、それにあうたとえ話を作ったんです。
結論を先に決めて、それに合うたとえ話を作るって、そんなの思考実験じゃないですよ。
思考実験っていうのは、正しい理論を作り出すためのツールですから。
計器飛行の思考実験は、そうじゃないです。
非常に強力な思考ツールになってるんです。
それじゃぁ、説明しますよ。
まず、なんで、飛行機か、わかりますか?
自動車でもいいんじゃないかって思いますよね。
でも、自動車じゃ、ダメなんですよ。
重要なのは、空を飛ぶことです。
正確には、飛び続けることです。
この思考実験、空を飛ぶってのも何かのたとえなんです。
それが何かわかりますか?
それは、自分です。
自分を維持するってことです。
今回、一番やりたいのは、社会性を持った自分です。
今まで検討してきたは虫類とか哺乳類の意識って、環境にいかに適応するかってとこに焦点を合わせていました。
今からやろうとしてるのは、その次の段階です。
それは人間の意識です。
じゃぁ、人間の意識で、一番重要なものはなんでしょう。
それは、自分です。
社会の中の自分です。
第297回から第304回の8回にわたって、『私はすでに死んでいる』っていう一冊の本を紹介しました。
この本のテーマは、自分です。
何が自分を作り上げていて、何が失われたら自分でなくなるのか。
それを解明するために、さまざまな精神障害を取り上げて、脳のどういった機能が損傷したら、その人はどんな世界を感じるのか。
または、周りから見たら、どんなふうに壊れていくのか。
そんなことを丁寧に解説していました。
僕がやろうとしてるのは、これをコンピュータでシミュレーションすることです。
そのために、人間の意識がどんな風に動くのかを解明したいんです。
何を感じて、どのように考えて行動するのか。
余計なものを省いて、それだけをシンプルに追及できる思考実験が必要だったんです。
それが、飛行機の計器飛行です。
たとえば、赤ちゃんを考えてください。
赤ちゃんって、嫌なことがあったら、すぐに泣きますよね。
それが、成長すると、だんだん泣かなくなります。
泣かずに我慢します。
泣かないで済むように考えたり行動したりするわけです。
泣くのは、自分の思い通りにならなかった場合です。
自分の思いが実現しなかったとか、現実世界にうまく対応できなかったわけです。
社会って世界があるわけです。
その中で、こうなりたいって思いとか、周りからの期待とかがあるわけです。
そんな関係性の中で、社会の中にがっつりと組み込まれてるものがあるわけです。
これが自分です。
思った通りにならなかったり、怒られたり、馬鹿にされたりすると、居心地が悪くなります。
自分の居場所がどんどんなくなっていきます。
そして、あるレベルを超えると、世界との関係を切るんです。
何も聞きたくない、誰もそばに来るな、誰も話しかけてくるなって。
これが泣くです。
飛行機の場合、これが墜落です。
見えてきましたか?
僕らは、自分という飛行機を操縦してるんです。
その飛行機は、社会の中を飛んでます。
自分の理想である目的地に向けて計器飛行で操縦して飛んでいるんです。
計器だけをみて、墜落しないように操縦しないといけません。
自分は操縦室にいます。
操縦室には、いっぱいメーターがあります。
じゃぁ、メーターには、何が表示されてるでしょう?
たぶん、感情とか、他人の評価とかでしょう。
嬉しいとか、悲しいとか。
「すごいわね!」とか「かっこわる~」とかって他者の評価。
そんなメーターを見ながら、墜落しないように操縦するわけです。
操縦っていうのは、どう行動するかとか、相手になんて言うかです。
これが人間の意識です。
ねぇ、この思考実験、なかなか面白そうでしょ。
いい思考実験って、理論を作り上げるツールになるっていいましたよね。
この思考実験、かなり強力なツールになりそうです。
次回は、この飛行機を、実際の社会の中で飛ばしていこうと思います。
具体的な理論が作るところを語りますので、楽しみにしていてください。
見逃したくなかったら、チャンネル登録しといてくださいね。
それから、面白かったら高評価もお願いしますね。
今回紹介した意識の仮想世界仮説は、こちらの本で詳しく紹介してるので、よかったら読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!