ロボマインド・プロジェクト、第314弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。
世界には、おかしな法律がいっぱいあります。
2018年にスイスでロブスターを生きたまま茹でて調理することが法律で禁止されました。
ロブスターを熱湯でゆで殺しにするなんて、残酷!
動物愛護から考えると、わからないこともないです。
でも、ロブスターが苦痛を感じてるかどうか、本当のところは、まだわからないんですよ。
たとえ、ロブスターに痛みや熱さを感じる神経細胞があったとしても、それと、苦痛を感じる意識があるのとは別なんです。
これは、心の哲学でいわれる哲学的ゾンビの話と同じです。
哲学的ゾンビというのは、見た目は人間そっくりで、神経細胞もあって、痛がったり、泣いたり、笑ったりします。
ただ一つ違うのは、主観的経験を持たないことです。
痛がっても、痛いと感じてるわけじゃないんです。
泣いても、悲しいと感じてるないんです。
笑っても、楽しいと感じてないんです。
一方、僕らは痛いとか、悲しいとか、楽しいって感じますよね。
これらを感じるのが意識です。
哲学的ゾンビは、僕らのような意識を持ってないんです。
いや、でも、熱いって神経があるのに、熱いって感じないことってあるんでしょうか?
それはあります。
熱い鍋に触って、思わず、手を引っ込めることってありますよね。
これ、よく観察すると、手を引っ込めたときって、まだ、熱いと感じてないんです。
熱いと感じるのは、手を引っ込めた後なんです。
この熱いと感じたのが意識です。
思わず手を引っ込めたのは脊髄反射です。
膝の下をハンマーでたたいた時、勝手に足が上がるのと同じ現象です。
無意識の反応といってもいいです。
つまり、熱さを検知する神経があるからといって、熱いと感じる意識がある証拠にはならないんですよ。
だから、茹でたロブスターが鍋の中で暴れたからと言って、熱いと感じて暴れてるかどうかわからないんですよ。
無意識の反射運動で動いてるだけかもしれないんですよ。
それじゃぁ、ロブスターは、本当に熱いと感じてないんでしょうか?
哲学的ゾンビかどうか、見抜く方法はあるんでしょうか?
今回は、これらをまとめて調理します。
それが、今回のテーマです。
哲学的ゾンビのおいしいゆで方。
それでは、始めましょう!
さて、僕は、意識を三段階に分けています。
一番下が爬虫類レベルの意識です。
これは、脳でいうと小脳が担当してます。
体のバランスを取ったり、外部環境に応答して自動で動くとかです。
ハエの動きに反応してハエを捕まえるカエルの意識です。
脊髄反射も同じといえます。
その次が、犬とか哺乳類レベルの意識です。
脳でいえば大脳が担当します。
「オテ」とか「マテ」とかができるレベルの意識です。
その次が人レベルの意識です。
脳でいえば、担当するのは前頭葉です。
人間らしさをつかさどるのが、前頭葉です。
それでは、は虫類の意識から人の意識まで、段階的に考えていきます。
意識は、無意識から様々なデータや指示を受け取ります。
「お腹が空いた」とか、「食べろ」とかです。
意識が無意識からデータを受け取るというのは、一言でいえば、「感じる」ってことです。
「お腹が空いた」って感じるとか、「食べよう」って思うとかです。
これが主観的経験です。
この意識の中身の処理を考えるために、新しい思考実験を提案しました。
それは、計器だけを見て飛行機を操縦する計器飛行です。
計器というのは、感覚や感情です。
そして、計器を見て操縦するパイロットが意識プログラムとなります。
それでは、この思考実験を使って、意識プログラムを段階的に考えてみます。
まずは、飛行機の操縦です。
これを自動操縦に切り替えてみましょう。
計器が示すのは、外部環境データとか、それを基に計算した「上昇しろ」って指示です。
そして、自動操縦システムは、計器の指示通りに操縦するだけです。
外部環境に応答して、自動で行動するだけなので、これは、は虫類の意識です。
じゃぁ、は虫類の意識と哺乳類の意識は、何が違うのでしょう?
それは、哺乳類の意識は、計器からの指示に従うだけじゃなくて、拒否したり、変更したりできるんです。
エサを認識した無意識が、「食べろ」って指示しても、それを拒否することができます。
「ヨシ」と言われるまで待つことができます。
じゃぁ、これを実現するには、何が必要でしょう?
それは、行動の最終決定権をもつプログラムです。
無意識から指示されても、考えて、どう行動するか決めるプログラムです。
それが、意識プログラムです。
じゃぁ、哺乳類の意識プログラムは、さっきの爬虫類の自動操縦システムと何が違うのでしょう?
それは、自動操縦システムは、無意識からの指示を直接、体の動きに変換してました。
でも、哺乳類の意識プログラムは、無意識の指示を、直接行動に変換しません。
いったん、考えます。
ここです。
は虫類の意識と哺乳類の意識の違いは。
無意識からの指示が、行動に直結されてないんです。
でも、直結されてないなら、どうやってデータを受け取るんでしょう?
それは、感覚です。
痛いとか、熱いとかって感じることです。
痛いと感じて我慢することができるっていうのは、無意識からの指示と行動が直結されてないからです。
「感じる」って仕組みがあるプログラム、これが哺乳類の意識プログラムの最大の特徴です。
は虫類の意識は、無意識の指示を実行するだけです。
だから「感じる」必要はないんです。
感じずに、行動するんです。
わかりましたか?
ロブスターは、熱さを感じる意識は必要ないんです。
熱さを感じたから逃げろって無意識から指示があったら、その通り行動するプログラムだけでいいんです。
わざわざ、「熱い」「苦しい」って感じる必要なんかないんです。
だって、感じたからと言って、行動は変えられないんですから。
「感じる」って機能が必要になってくるのは、感じた後、それを拒否したり、変更したりできる場合だけです。
犬は、それができます。
エサを目の前にして、「マテ」と言われたら、待つことができます。
食べたいって感情を感じながら、「ヨシ」と言われるまで、我慢して待つことができます。
じゃぁ、これができるプログラムを考えてみましょう。
食べ物を見つけると、無意識は「食べろ」って指示を出します。
意識は、これを受けて「食べたい」って感じるわけです。
食べたいって感じると、すぐに食べ物に飛びつきます。
それを、しつけられると、我慢することができます。
「マテ」と言われたら、「食べる」という行動を止めます。
「ヨシ」と言われるまで待ちます。
そして、「ヨシ」と言われたら、「食べる」という行動を実行します。
これをフローチャートに書くとこんな感じです。
「食べたい」って感じたら、「食べる」。
これだけです。
ところが、「マテ」と「ヨシ」を覚えるとこうなります。
「食べたい」って無意識からの指示を感じても、「マテ」と言われたかどうか確認します。
「マテ」と言われてなかったら、そのまま食べます。
もし、「マテ」と言われたら、食べないで我慢します。
次に、「ヨシ」と言われたか確認します。
「ヨシ」と言われたら食べます。
「ヨシ」と言われなかったら、「ヨシ」と言われるかもう一度確認します。
こうやって、「ヨシ」と言われるまで待ち続けて、「ヨシ」と言われてから食べます。
哺乳類の意識プログラムというのは、このフローチャートから、
このフローチャートへ
変更可能なプログラムといえますよね。
それじゃぁ、それを実現するには、どんな仕組みが必要でしょう?
二つのフローチャートで何が違うかというと、それは、ある行動があったとして、それを実行するか、実行しないかです。
つまり、実行するかしないかを、変更できる仕組みが必要なんです。
これを実現するには、行動ごとに、実行するか、実行しないかのオン/オフの切り替えスイッチが必要ですよね。
そして、意識プログラムは、そのオンオフを変更できるわけです。
さらに、それを記憶するわけです。
食べる以外の他の行動もあります。
たとえば、特定の音声を聞いたら、その人のところに駆け寄るとかって行動です。
特定の音声というのは、「ポチ」とか「ジョン」とかです。
これ、人間からみたら、その犬は、自分の名前を覚えたと思うわけです。
でも、犬は名前なんて概念を持ってるわけじゃありません。
犬が行ってるのは、特定の音声と行動を結び付けただけです。
今、ものすごく重要なことを言ったんですけど、わかりましたか?
犬は名前って概念を持ってないって言いましたよね。
人間が勝手に、名前を理解してるって思ってるだけだって。
この見方、これを覚えといてください。
つい、僕らは、相手も、自分と同じ心を持ってると思ってしまうんですよ。
だから、茹でられて暴れてるロブスターを見ると、熱がってるって思ってしまうんですよ。
そして、これこそが、人間特有の意識プログラムです。
哺乳類と人の意識プログラムの違いです。
それが、相手に共感するって仕組みです。
共感するには、相手のことを想像する必要があります。
人の意識ができるのは、想像です。
そして、想像するときに使うのが想像仮想世界です。
人は、目で見た世界を頭の中で仮想世界として構築します。
意識は、仮想世界を介して現実世界を認識します。
この時使う仮想世界が現実仮想世界です。
犬などの哺乳類がもってるのはここまでです。
つまり、今、目の前の現実までしか認識できません。
人は、さらに想像するときに使う想像仮想世界を持っています。
想像仮想世界をもってるから、過去の状況を思い出したり、まだ起こってない未来のことも想像できます。
さらには、自分以外の他人のことも想像できます。
だから、ロブスターが熱くて苦しんでると思ったり、犬が名前の概念を理解してると、つい、思ってしまうんです。
ここに、人間らしい心の秘密があるんです。
人間らしさとして、この前から取り上げてるのがイソップ童話の「すっぱいブドウ」です。
お腹がすいたキツネがブドウを見つけました。
ブドウを取ろうとして、ジャンプしますけど、何度ジャンプしても届きません。
最後に、キツネはこう言いました。
「どうせ、あんなブドウ、すっぱくてまずいに決まってる。だれが食べてやるもんか」
そう吐き捨てるように言って立ち去っていきました。
これが「すっぱいブドウ」です。
何度ジャンプしてもブドウに届かないので、無意識からあきらめろと指示されます。
でも、あきらめたくないわけです。
なぜかというと、ブドウを取ってる自分を想像して、それを目指して今までがんばってきたからです。
ここであきらめると、自分に負けたことになるからです。
こんな風に思うのは、想像仮想世界をもって、理想の自分を思い描ける仕組みがあるからです。
ただ、あきらめたくないといっても、いつまでもジャンプし続けるわけにはいきません。
そこで思いついたのが、「あのブドウはすっぱいにちがいない」って考えです。
もし、そうなら、ブドウを手に入れたとしても、すっぱくて食べられません。
そんなブドウ、無理して手に入れる必要なんかありませんよね。
そんなブドウ、いらないから立ち去るんです。
決して、自分に負けて、あきらめて立ち去るわけじゃないんですよ。
これで、自分が傷つくことなく、立ち去ることができますよね。
ここまで、前回、説明しました。
ここで注目すべきは、「ブドウがすっぱい」って思いついたとこです。
このとき、キツネは「そうだ!」ってひらめいたんでしょう。
ギリシャ語だと、「ユリイカ」っていいます。
「わかった」とか、ひらめいたときに使う言葉です。
どうも、この「そうだ、わかった!」って思えること、これこそが、人間特有の機能のようです。
じゃあ、この「そうだ、わかった!」って、プログラムで実現できるんでしょうか?
結論から言いうと、これはプログラムでは実現できません。
なぜかというと、これを実現するには、プログラムを実行しながら、プログラムの中身を変更しないといけないからです。
でも、さっき、犬の意識プログラムは、後からプログラムを変更できましたよね。
後から、マテとかヨシとか覚えましたよね。
ただ、ここで変更できたのは、行動を実行するか、実行しないかのオンオフの制御です。
これを実現することは難しくありません。
あらかじめ、行動にオンオフのスイッチをつけておくんです。
無意識が意識に渡すとき、オンオフスイッチ付きの行動を渡すんです。
そうすれば、意識は、あとからそのスイッチを切り替えればいいだけです。
でも、「そうだ、わかった!」の場合、そうじゃないですよね。
つまり、ブドウがすっぱいかもしれないなんて、無意識はわからないわけです。
もし、これを実現しようとしたら、変更可能なあらゆる可能性を順義しとかないといけません。
味は甘いかすっぱいか、色は赤か緑か。
重さは、形は、って。
そんなの無限にありますしキリがありません。
それじゃぁ、前もって変更可能の準備をするんじゃなくて、あとからプログラムを変更するようにすればどうでしょう?
でも、それができないんです。
プログラムって、プログラムを書く段階なら、自由に変更できます。
でも、いったん、プログラムが実行されると、プログラムは変更できないんですよ。
変更できるのは、変更できるようになってるところだけです。
だから、想定外の変更はできないんですよ。
でも、ひらめきって、想定外のことですよね。
最初からわかってたら、「そうだ!」ってならないですよね。
ここがプログラムの限界なんですよ。
そして、人間の意識のすごいところは、ここにあるんですよ。
思ってもなかったことを思いつけること。
これこそが、人の意識の最大の特徴なんです。
人の意識の秘密はわかりました。
プログラムで実現できないこともわかりました。
つまり、人の意識はコンピュータで作ることはできません。
よって、ロボマインド・プロジェクトは終了します。
これじゃぁ、困りますよね。
できないからって、あきらめるわけにはいきません。
何か、方法があるはずです。
だって、ひらめきがあるのが人間ですから。
次回まで、なんとか打開策を考えときますので、それまで、待っていてください。
打開策を見逃さないためにも、チャンネル登録だけは忘れないでください。
それから、よかったら、高評価もお願いします。
それと、今回出てきた意識の仮想世界仮説については、この本に詳しく書いてありますので、よかったら読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!